「ハスターさん……僕の体、いったいどうなっているんですか?」
『ふむ……』
寮、個室。
僕はハスターさんを喚び出し、今回の騒動に関する説明を求めようとしていた。
特に、僕の身体がハスターさんが憑依してもなんの後遺症も起きなかったことが不思議なのだ。
僕の体は邪神たちに弄られているけど、ほとんど普通の人間と変わりないはず。だから、今回の無傷を理解できない。
ハスターさんは僕のベッドに座り、優雅に紅茶を飲んでいる。紅茶自体は安物のティーバッグだけど、ハスターさんにかかれば超高級茶葉に見えるから不思議だ。
『コルトの身体は、我々が手を加えている』
「うん」
『お前の身体は全ての邪神を受け入れ、憑依させ、現界させることができる
「……はぁ!?」
つつつつつつまり、僕の身体には他の邪神も入れて、好き勝手操れるってこと!?
それってアリなの!? 僕、絶対人間の限界を超えた何かになっちゃってるじゃないか!
邪神に好かれてるけどただの人間でいたかった……人外だと知られたら駆除だのなんだので絶対面倒なことになるよ……。
「ええと……つまり、クトゥルフおじさんやニャル様も僕の中に入れるってこと?」
『お前は何故ナイアルラのやつだけを様付けするのだ。我もそう呼べ』
「ハスター様が憑依を解いても僕になんの影響もなかったのは?」
『器に瑕疵が残るわけあるまい? 器は器だぞ』
ええ……それじゃあ僕は、邪神がいつでもinできるどこでも邪神降臨機なわけ……?
ちょっとショックがデカすぎるよ……。こんなのもう世界の敵じゃんか。僕に背負わせるには重すぎるって。
「それじゃあ、ハスターさん達が今まで僕に優しかったのも、器だから……?」
『それは違う』
「!」
『お前は我々にとって器であり、愛し子であり、孫や子どものような存在なのだ。そこに優劣は無い。人の価値観を我々に押し付けるなよ』
「……そう……ですか……」
それを聞いて安心してしまう自分がいる。
ただ器としての“道具”ではなく、“コルト”という一個人を神々はちゃんと見てくれている。それが嬉しい。
たとえ邪神でも、僕をここまで育ててくれて、フォークロアの入学を自分ごとのように嬉しがってくれた彼らが、ただ道具に向ける愛だなんて信じたくなかった。
だから、その言葉は僕に確かな安堵を与えてくれた。
「でも、それならなんで今まで憑依してなかったんですか?」
『憑依するのも条件がある。お前の意識が途切れること、我々の誰が憑依するかの
「くじ引きで憑依元決めてたんですか……!?」
祝福武装がダイスロールの僕がいうのもなんだけど、かなりの運ゲーだぞこれ。
『お前に憑依してみたいという神は大量にいるのでな。競争が激しいのだ』
「そんなアトラクションみたいな……」
僕は遊園地の人気ジェットコースターか何か?
そういえばハルナが感じていたけど、流石に僕の体では邪神の邪気を抑えられないみたいだね。ハルナは間近でも耐えてたけど、どうやら周囲の人に0/1d2くらいのSANチェックを与えるみたいだ。
使う場所に重々気をつけないと、簡単に気絶者とか出てきちゃうぞ……この世界の人間は探索者じゃないから精神が脆いんだ。
僕が気絶しなければ憑依できないみたいだし、気を確かに持って生活しなきゃな……。というか明日からの学校どうなるんだろう。ハルナは明確に敵対していたし、ホムルも悪化してるかも……クラスメイトの反応が面倒だよー! ニグラスママなんとかしてー!
『我の支配下においてやろうか』
あ、それは遠慮しておきます。
ええと……あ、ウルタールのみんなとホルタースさんちのライオンくんを労わらなきゃ。決勝戦ではみんな頑張ってくれたもんね。
ウルタールの猫たちの傷も心配だけど、あの猫たちは普通の猫で普通の猫じゃないからもう治ってそうだ。それでも様子を見て、お礼を言わないと。
かなり貢献してくれたからね……。
部屋に飾られた優勝トロフィーを見る。
ピカピカと金メッキが輝いて、僕の地味な部屋で変に目立っている。決勝戦、ほとんど記憶がないままに降参勝ちした結果だった。
正直、ハスターさんが憑依しなければそのまま負けていた。そのほうがもしかしたら、良かったのかもしれない。
ツヴァイは僕の固有魔法を詳しく知らないまま、僕を撃つべき対象か悩まずに済んだし、ハルナに敵対視されずに済んだ。
でも、あのまま負けるというのも悔しくて、嫌だった。
相反する感情が整理できないまま、色々と一度に処理できない情報量を喰らったわけだけど。
僕って、本当に幸運で……不運なんだろうな。
発狂せず、邪神に目をつけられ、良い友人を手に入れたけどその友人に邪神が見つかって……。
人によっては、邪神の器にされた僕を哀れに思う人もいるかもしれない。というか、そっちが大半だろうな。
でも、僕自身はあまりそれを気にしていなかったりもする。
僕が邪神と関わることを物心ついて理解してから、なんとなく覚悟していたのだ。
僕は普通の人生を送れないし、まともな死に方もできないってね。
こればっかりは、クトゥルフ神話の定めだからなぁ。
KPの能力を持っているけど、結局は僕も探索者なのだ。
「……長生きしたいなぁ」
ギラギラと豪華すぎる輝きを放つトロフィーに布をかけて、僕は猫たちの相手をする為に服を着替える。
これからの人生については、ひとまず考えないことにした。
*
翌日。
気まずい雰囲気のクラスを後にして、僕は第二校舎の第二錬金準備室に向かう。リリリ先輩に呼び出されたのだ。
いつも通り酒臭い室内に鼻呼吸を止めると、ツヴァイ、モリオンさんもやって来る。
遮音魔法や結界を確認したリリリ先輩は、開口一番に大きく口を開いた。
「千里鏡の逆探知に成功しました」
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誠にありがとうございます。
完結まで、お付き合い頂けると幸いです。
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