29.悪教アジトはSANチェック!
「逆探知……できたんですか!? こんな短期間で」
「リリリ先輩を舐めるんじゃないよ。この程度、ちょっとウィスキー呑んだらすぐなんだから」
「それは信用していいのだろうか……」
第二錬金準備室。
リリリ先輩は酒瓶を抱きしめながら、元となった千里鏡を丸テーブルに置いた。
バラバラに割れていた鏡は綺麗に修復され、その白い泡に瞳が描かれたカメオもしっかり元通りになっている。
白亜の心眼のマークだ。
「ここで問題だ。第三魔法師時代に興された白亜の心眼が起こした大事件について説明せよ。なお、必ず『白亜錬金秘技書』について触れること」
「はい、通称『人造兵団事件』。白亜の心眼が『新しい時代を作る』という主張の元、白亜錬金秘技書に書かれたホムンクルス製造技術を使用して、大量のホムンクルスを製造した事件です。信者家族の失踪や、錬金材料の不法な輸入により事件が発覚しました」
「その後、模倣犯による『アルカ宝石店襲撃事件』や『インヴェルー無差別テロ』に繋がったため、重要な錬金事件として記録が残されています」
僕とツヴァイが答えると、モリオンさんは煙管を回して「100点」と答えた。
リリリ先輩も感心といった表情でウィスキーを煽っている。
人造兵団事件は、錬金術師最大の事件とされている。大量のホムンクルスの製造は言わずもがな、その材料に成功率を上げるため「信者の親族の肉」が使われていたとか、裏で多額の違法薬物や錬金材料を輸入していたとか……。
錬金の泥の存在を知ると、このホムンクルスたちの製造でできた錬金の泥の方が問題だったのだろう。
100年前の事件だからもう寿命になっているはずだが、暴れる錬金の泥を抑え込むのは至難の業だったろう。犠牲も多く出たはずだ。
「リリリ、一級錬金術師として補足してやりな」
「え〜? ホムンクルス大量製造の際に出た錬金の泥は
「つまり、大人しく瓶に入ったまま寿命を過ごしたんですか? 錬金の泥が」
「そうなるね」
暴れ回る筈の錬金の泥がねぇ……と、リリリ先輩はポリポリとナッツを食べながら答えた。
錬金の泥は“現象”だ。そこに意識も感情も何もない筈。……これは通説なのでわからないが、そこまでの知能は無いはずなのだ。
しかし、普通は暴れ回り全てを飲み込もうとする錬金の泥が大人しく瓶に収まっていた。
これは白亜の心眼が錬金の泥を使役できたのではないかと重要な情報になっている。
「まぁとにかく、その白亜の心眼が此度の事件に関わっていることはわかった。そして、あの図書館地下での監視はどこから観ていたのか……リリリ」
「は〜い。何度か妨害用の術式が組まれダミーの地点に当たりましたが、最後にとある漁村に辿り着きました。これ以上の妨害は見受けられなかったので、これが本拠の可能性が高いで〜す」
「……漁村?」
なんだか、敵教団のアジトと言うには違和感のある単語が聞こえてきたぞ。
なんだか、「窓に! 窓に!」と聞こえてきそうな……?
「ダノン村。ここ、マギアズ国の最南端に位置する小さな漁村……。漁港や市場がそこそこ栄えてる村で、名産品は海鮮物とガラス工芸。そのすぐ近く、村内の漁に使用する範囲の“海”から発信されていました」
「海……!?」
ツヴァイが驚く。
この世界は海中に何かを作れるほど技術は発達していない。海中テラスや脆い砂地に丈夫な建物を隠すなんて、まず不可能だ。
だから驚いているのだろう。この世界に海中施設は存在しない、その筈なのに。
「今の技術で海の中に施設が建てられるなら、それこそお城が建てられるほどの金と失敗覚悟で挑む一流の建築士と魔法師が必要。そしてそれらを揃えることは実質的に不可能……。しかし、ならば海に作るアジトは格好の隠れ蓑」
「錬金の泥を従えられる力を持っているなら、不可能を可能にする技術を持っていてもおかしくないですね〜」
モリオンさんとリリリ先輩は軽〜く言うけど、それってかなりヤバいことだ。
相手はこちらより魔法や技術レベルが数段上ということになる。いくらこのチームが優秀だからって、対応できる事態には限りがあるぞ。
僕なんて気絶したら邪神ランダムルーレット始まっちゃうんだからな。無茶は避けたい。
「と言うことで、お前さんたちにはこの漁村に探索に行ってもらう」
「えっえっ……はぁー!?」
「流石に危険じゃないですか!?」
「リリリも付けるよ?」
「えっそれは聞いてないです師匠」
いきなり敵のアジトなんて、数段飛ばしでラスボスだよ!
海中のアジトって、もうなんかルルイエじゃん! 星辰揃って呪文唱えたらクトゥルフ出てきそうな気配するじゃん!
いや僕が顕現させればいつでも出てこれるんだけどさ。
「まぁいいじゃないか。期末テストを乗り越えたらすぐ夏季休暇だろう。海だよ海。ついでに楽しんできたらいいじゃないか」
「か、軽い……」
「師匠? 私一度も行くって言ってませんよ師匠? 聞いてないですよ??」
「ええい五月蝿い」
モリオンさんがそう言うと、リリリ先輩はピタッと口をつぐんだ。教育が行き届いている。
それでも不満げにモリオンさんを睨むんだから、リリリ先輩は大物だと思う。
ダノン村はフォークロアから魔導列車で三日、馬車で二日の長旅だ。夏季休暇は長いから時間的には問題ない。
でも普通一年生を敵組織のアジトに送り込もうとするか? 普通。
「えっと、それはモリオンさんが引率になってくれるとか……」
「私は最高司書だからね、夏季にも仕事があるから無理だよ」
「つ、つまり僕らだけってことですか〜!?」
「喧しい、そんなに不安なら引率を見繕ってやるよ。兎に角ダノン村には行ってきな、調査ついでにバカンスしてくると良い」
「敵アジト近くでバカンスできるのはモリオンさんだけですよ……」
すごいよなこの人。どんな倫理観してるのは。僕が言えたことではないけど。
列車のチケットや向こうでの宿泊代はモリオンさんが出してくれるらしい。学生身分にわざわざ大人の事件による費用は出させないと。
倫理観は崩れてるけど、そう言うところは太っ腹だしイケメンだ。倫理観は崩れてるけど。
まぁここまできたら腹を括るしかない。僕とツヴァイは覚悟を決めた瞳で向き合った。
リリリ先輩はまだ不満げだけど。
「まぁ長期で寮を出るのは夏季休暇とはいえ申請が必要だから、それが受理されるためにも期末テストを頑張りな。まぁお前さんたちは大丈夫だと思ってるがねぇ」
もうすぐにテスト週間になる。
今回も僕は一位を守るべく、勉強に精を出さなければ。
イス先生に頼るのもありかもしれない。なんとなくズルな気はするけど。
リリリ先輩のジトッとした目線を横目に、僕は次のテストのことを考えるのだった。
SAN値チェック
-
成功
-
失敗
-
発狂