固有魔法はSANチェック!【改訂版】   作:月日は花客

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3.バトロワ展開はSANチェック!

 

「ついに来たね、実技試験」

「ンナァ〜」

 

 本日の担当猫こと黒猫のクロさんを撫でながら、僕は実技試験事前準備会場へ来ていた。

 クロさんは僕の首元に巻き付いて眠そうに欠伸をしている。まだ春になったばかりで首元が寒いので、マフラーの代わりになってくれるのはありがたい。猫体温あったけぇ。

 しかし一部通行人からの羨望の目線がちょっと気まずい。そんな朝。

 

 事前準備会場は当たり前だが人で賑わっていた。封書に同封されていた実技試験ブロックナンバーが書かれた紙を頼りに、指定の場所へ向かう。

 

「おはようございます! こちら試験に使うバンドになります。失くしたら失格になるので注意してくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「B3ブロックの方はあちらの部屋でお待ちください」

 

 渡されたのは蛍光イエローの布製バンドだ。金具を絞れば腕や足なんかに簡単につけることができる。その分簡単に外れるけども。これを使って実技試験をやるらしい、どういうルール?

 案内された簡易控室──簡単な仕切り板で区切られた仮設小屋みたいなものだ──に入れば、同じ受験者だろう少年たちが一斉にコチラを見た。

 その視線の圧は、クロさんが欠伸をやめて耳を立てるほど。ピリリとした空気は痛いほど伝わってくる。

 試験直前で気が立っているとはいえ、とても穏やかに談笑などできそうにない。

 

「やべぇよこのブロック……“氷青のクラリネ”に“鉄鬼グルデッロ”がいるじゃねぇか……」

「なんで天才氷魔法使いに剛腕自慢の鬼が……」

「だめだ……合格できる未来が見えねぇ……」

 

 なんて、ヒソヒソとモブっぽい人たちから悲鳴が聞こえてくる。まぁ僕もモブに紛れてるんだけど。

 既に二つ名が付いてる人がいるみたいだ。それだけ名前が売れてて実力があるってことだろうね。僕? 強いていうなら「忌み子」だけどこれは小料理店の人たちが力づくで辞めさせたのでノーカンかな。

 

「そこの君」

 

 ふと、“氷青のクラリネ”と呼ばれていた人が声を上げる。声の高さ的に女性だ。よく見れば青いロングヘアが綺麗なお嬢さんでした。服装がモコモコで重ね着しまくっててよく見えなかった。

 

「そこの猫を連れた君だよ」

 

 あ、僕??

 何かしてしまっただろうか。特に目立つことなく入ってこれたつもりだったのだけれど。

 鋭い氷のような声で、クラリネは続ける。

 

「試験会場にペットを持ち込むとは何事だ? 場合によっては試験官に通達し対処をしてもらうが」

 

 その言葉にクロさんが明らかに不機嫌になった。鳴いたりはしないけど明らかに毛が逆立っている。

 クロさんたちウルタールの猫は誇りある軍猫であり同胞を護る立派な精神を持っている。「ペット」なんて言われたのが気に障ったんだろう。彼らは逆に人間を飼っているようなものだしね。

 クロさんを宥めつつ、僕は弁明する。

 

「すみません、この子は僕の固有魔法で召喚した猫なんです。召喚魔法による生物の持ち込みは禁止されていないはずですよ」

「ふむ……なら良い。突っかかって悪かったな」

 

 クラリネとのやり取りで、僕の固有魔法=猫の召喚だと印象付けれたはず! GJクラリネ! これで僕の固有魔法を下手に探られずに済む!

 でもこれによって「猫の召喚とかザッコ」「とりあえず脱落者は一人確定したな」というヒソヒソ話も聞こえ、さらにクロさんの機嫌が急降下してしまった。今回は試験だし殺しはしてほしくないのだけれど、そこら辺の理性は残しておいてほしい。

 流石に入学試験から血を見たくはない。

 

「皆の者ー! 天才魔法少女、ティティナ・ティーカチェア様のお通りだぞー!!」

「馬鹿っ! 声がデカいって……あはは、すいません」

 

 勢いよく入ってきたのは、ドラゴン的なツノが生えたピンクカラーの女の子と、彼女を諌めながらヘラリと笑った黒髪の男の子だ。

 元気いっぱい! という印象の女の子は龍人なのだろうか? ツノ、羽や尻尾などドラゴン的パーツが見える。自信たっぷりなのか、早速宣戦布告しているようだ。

 黒髪の方は僕よりも髪が短くて、背が高いけれどどこか日本人的な苦労気質を感じる。ちょっと冴えなさそうな顔が親しみやすそうだ。

 二人は入ってくるや否や騒ぎ出す。主にティティナちゃんがだが。男の子の方はそれをなんとか落ち着かせようと、かつ周囲から目立たないよう必死になっている。

 既に十分目立っちゃってるんだよな。

 でもこれによって僕から意識が逸らされ、周囲の話題が彼女たち一色になった。クロさんの機嫌もこれ以上は下がらないだろう。

 

「え? 猫ちゃんいる、羨ま……猫ちゃんフワフワ……」

 

 ……なんだか男の子から欲望の視線を感じるけど無視する。

 さて、彼女たちを最後に控室には全員集まったようだ。手には全員蛍光イエローのバンドを持っている。

 その謎も、試験スタッフさんの説明によって解けることになる。

 

「実技試験はバトルロワイヤル。皆さんにはそのバンドを巡って戦っていただきます」

 

 このバンドはいわば「トロフィー」。

 受験者全員に配られたそれを、コロシアムという限られた空間の中で奪い合う。

 

 1:試験終了までにバンドを最低一本所持していること。

 2:他受験者のバンドを多く持っていた者ほど評価が高いこと。

 3:奪い方はなんでもあり。ただし殺し合いではなく奪い合いであることを考えること。

 4:本人が場外に出る、棄権する、最後にバンドを持っていなかった場合失格となる。

 5:試合は試験官及び教員に観戦されている。不正行為は見逃されない。

 6:バンドは必ず外から見える位置に身につけなければならない。

 

 以上が今回のルールだ。

 まぁバンドをいっぱい集めた人が勝つ。

 一度バンドを取られても時間内なら取り返すなり他の人のを奪うなりすればセーフ。

 バンド取り合い合戦が実技試験の内容らしい。

 

「まもなくコロシアムへの入場を開始します。皆さん、バンドはきちんとつけましたか?」

 

 僕も左手首にバンドを巻きつけた。でも金具が緩いからちょっと引っ張っただけでも取れそうだ。

 クロさんがいよいよ出番かと尻尾を揺らす。クロさんにはガッツリ働いてもらう予定なので、前日夜に前払いの猫まっしぐらなアレに似たオヤツをちゃんと渡してある。

 なかなかにお高いあれである。猫様みんな大好きスティック状のあれ。ちゃんとせっせこ働いたお金で買ったよ。

 

「猫のやつはいつでも狩れそうだな」

「真っ先に狙おう」

 

 なんだか結託してる人たちが作戦会議をしているけれど、生憎耳が良いので全部聞こえている。

 猫だからって侮ると痛い目見ること、わからせてやろうね、クロさん。

 クロさんも伸びをして準備万端なようだ。

 

 コロシアムは想像以上に広くてデカい。観客席あれ何席あるんだろ?

 B2ブロックは総勢200名。つまり敵は199名。

 様々な障害物や廃墟みたいな建造物が設置されたコロシアムに、円状に並ぶ。

 両隣とはなかなか距離があって、このコロシアムのデカさと学校の規模を改めて理解する。流石全国一の魔法師養成学校。

 僕は控室の時点で舐められてるから、よく狙われるだろう。だけど僕のスタート地点は森のように木々や草が配置されたエリア。隠れるにはもってこいだ。

 これわざわざコロシアムに移植するなりしたんだろうか、手間が違うね。

 

 スタートの合図とともに、僕はクロさんに指示を飛ばす。

 大丈夫、SAN値チェックは減少値2くらいで済ませてあげる!

SAN値チェック

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