期末テストなんて一発ですよ。一発。
僕らにかかれば、多少捻った問題なんて壁になんないし、ちゃんと日頃からの実力を出せたと言える。
うんうん、100点の赤が誇らしいね。
ツヴァイも中間より点数が上がったらしいし、上々上々。
ということで、期末過ぎ去って夏季休暇!
フォークロアは八月から九月半ばまで休みがあるので、一ヶ月半の長期休暇だ。その分課題は大量だけどね……。
僕らはダノン村に行かないといけないし、うっかりしてると課題がギリギリになりそう。休み中も気を抜けないぞ。
「魔導列車、スリーピングムーン号……本当に行くんだね、僕ら」
「高級寝台列車だぞ。すごいな……」
モリオンさんに渡された深い紫のチケット。そこには「SLEEPING MOON」と箔押しされ、月のモチーフが配置されている。
寝台列車、スリーピングムーン号のビジネスクラスチケットだ。僕のバイト何ヶ月分だろう……?
それを僕、ツヴァイ、リリリ、そして引率の人に用意したモリオンさん。マジで財力もすごい。
僕らは事前に通達された待ち合わせの場所……ケルベロスの石像前で待っていた。トランクケースには着替えや課題、旅道具を詰め込み、腰にはリリリ先輩にもらった杖を差している。
ツヴァイも、上着の胸ポケットにモノクルが見える。
僕は夏らしく白いTシャツと薄いグレーのスキニー。靴はあんまり持ってないので普通のローファーだ。薄手のロングカーディガンを羽織っている。
肩には本日の担当猫、ブチ猫のブチさんが退屈そうに尻尾を揺らしている。
ツヴァイは同じく白いTシャツに黒いシャツをジャケット代わりにしている。下は黒のチノパンに皮のシューズだ。
首元にある翼のネックレスがキラキラ光っている。
改めて見るとやっぱツヴァイって顔が良いよなぁ……。リリリ先輩もだけど。
「寝台列車ってお酒どんなのが売ってるのかなぁ〜」
朝なのにすでに頬が赤らんでるのは何故? なリリリ先輩も到着。
オレンジの髪をサイドにまとめて、白に緑のマーブルが綺麗なワンピースを着ている。足元はサンダル。額にはいつもの魔力真鍮の髪留めが鈍く太陽を反射していた。
しかし傍にはアルコールの瓶を持っているのだから、かわいい姿が台無しな気もする。
「そういえば……引率って誰なんだ?」
「確かに、誰だろうね」
モリオンさんは行けないから、引率の人を(仕方なく)付けるって言ってたけど……今のところ姿が見えない。
そもそも僕らが知っている人なのだろうか。
まだ集合時間には早いので、待てるけど……。と、銅像の下で待っていると何やら黒い影が見えた。
「久しぶりだなー、コルト!」
「っその声は……!?」
やって来たのは、僕のサポーターことオルカさんだ。オルカさんか……オルカさん!?
マフィアのボスが何でここに!?
「ちょちょちょちょちょ、なんでオルカさんがこんな所に?」
「ん? モリオンから聞いていないのか? 君たちの保護者を頼まれたんだよ」
マフィアのボスに保護者を頼むな!!!!
ステイルメイトは大丈夫なんですか? と聞けば、僕が尋問で吐かせた情報が処理し終わり、いい感じに余裕ができているそうだ。
ボスとして判断を下す必要がある仕事はあらかた終わり、暇していた所にモリオンさんの依頼が来たそう。
僕には世話になったし、暗躍する白亜の心眼についても気になるからついてくることにしたんだそう。
つまり僕の責任でもある。
「えっと……本当にいいんですか?」
「ああ、ただここではオルカではなく“イルカ”で頼むよ。一応お忍びなんでね」
「ああ、はい……」
オルカ……ではなくイルカさんは、海洋運送業をしているとある組織のオーナーとして身分を偽装しているようだ。
黒い革ジャンにヘソだしルック、ダメージジーンズが厳つい。堅気には見えないけど、まぁ辛めファッションで誤魔化せるか……?
サングラスを頭にかけて、イルカさんは後ろの二人に笑いかけた。
「やぁ、私はイルカ・マリン! 海洋運送業社のオーナーをしている。コルトくんのサポーターとして、師匠をしていたときもあったよ」
「コルトのサポーターだったのか。自分はツヴァイと言います」
「……深く突っ込まない方が良さそ〜。アタシはリリリで〜す、よろしくお願いしま〜す」
「うん、君たちも優秀なフォークロア生だと聞いているよ。実は私も卒業生でね、モリオンとは旧友のよしみで今回の頼みを受けさせてもらった」
ツヴァイもリリリも、僕の様子がおかしいことから深く追及しないようにしたらしい。本当に彼らの危機察知能力は頭が下がる。
イルカさんはよろしく! とにっこり笑い、早速寝台列車に向かおうと僕らを引き連れ歩き出した。
「今回、スリーピングムーン号には三日間滞在する。部屋割りは私とリリリ、ツヴァイとコルトだ。まぁ隣同士だからそこまで不便は無いはず。運行中は……」
「あ、課題持って来てます」
「真面目だなぁ……! あとでアイスを買ってあげよう」
勤勉な姿に、イルカさんは満足そうに頷いた。
イルカさんも、フォークロア生だった時は真面目な文学少女と言われていたそう。それが何故今こんな風に……!? と思ったが、まぁ色々あったらしい。
「あの時は厚底メガネに三つ編み、そばかすもあったし……とにかく地味な生徒と言われていたよ」
「モリオンさんとはどこで知り合ったんですか?」
リリリが聞く。
確かに、モリオンさんとどう出会ったのかは気になる。モリオンさんって謎が多いし……。
「ああ、私がフォークロアにいた時は既に最高司書だったのさ!」
「……さらに師匠の謎が増えた気がします」
「僕も……」
「本当に何者なんだ、あの人は……」
僕はそろそろ人外なんじゃないかと疑っているぞ。
スリーピングムーン号は紫の車体に金の装飾が美しい高級寝台列車だ。
ファースト、ビジネス、エコノミークラスがあり、それぞれ切符の色が違う。
僕らはビジネスなので紫だが、他のクラスだと違うらしい。ビジネスクラスでもしっかり高いんだから、ファーストなんて僕が料理店で三年働いても買えなさそうだ。
でも、高い分乗り心地やサービスは良いらしい。車内も広いんだとか。
「早めに乗ってしまおう。荷解きや昼食もあるしな」
「車内にレストランがあるんですよね?」
「ああ、アレは中々美味しいぞ。特にガーリックシュリンプが美味いんだ……」
ペロリと舌舐めずりする姿は、やはりとてもじゃ無いが一般人に見えない。もうなんか、雰囲気がボスだ。
少し怖がっているリリリ先輩を気の毒に思いつつ、イルカさんに「もう少し穏やかに」とアイコンタクトを送る。
イルカさんも気づいてそうだけど、治せるかは……どうかな……。
「楽しい旅行の始まりだ。皆、忘れ物はないな?」
はい! と僕らの声が駅内に響いた。
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