固有魔法はSANチェック!【改訂版】   作:月日は花客

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32.魔導列車はSANチェック!③

 

ツヴァイとハルナのボウリング対決が佳境に差し掛かった頃……。

 

「キャ━━!!!!」

 

 甲高い女性の叫び声が、遊戯場内に響き渡った。

 

「どうしたんだろう」

「なんだなんだ?」

 

 周りの人たちも叫びを聞いて、その発生源に集まっていく。

 悲鳴が起きたのは、カジノの方面。ルーレットやダーツ、トランプゲーム用の台が並ぶ、ギラギラとした明るさを讃えた場所だ。

 レッドカーペットが眼に眩しい。

 

 悲鳴を上げたのはそこのカジノバニーだったようだ。金髪の巻き髪が美しいのに、表情は驚愕と恐怖で塗れている。

 その目の前には、溶かされたようなスーツと血溜まりが出来上がっていた。

 確実な死人の跡に、集まってきた客人は騒然としている。

 

「まさか、血……!?」

「こんな量、絶対助からないぞ」

「どうなっているんだ!!」

 

 怯える婦人、戦慄く紳士、叫ぶディーラー。

 楽しい場所のはずの遊戯場が、恐怖の感染源へと変わってしまう。

 僕もどうしようかと考えていた時、リクトが人混みの中央に躍り出た。

 

「みなさん、動かないで!」

「なんだ……!? 子ども?」

「どういうことだ?」

「そこの貴女、何が合ったのか教えてくれませんか」

 

 リクトは、そっと悲鳴を上げたバニーに尋ねる。

 バニーは、その歪められた唇をなんとか動かして、説明を始めた。

 

 この血溜まりは、客である紳士のものである事。

 紳士は、唐突に天井から降ってきた「黒い何か」に連れ去られ、数秒遅れてこの血と服が落ちてきた事。

 自分は何もわからないが、恐怖のままに叫んでしまった事。

 それが、バニーの語った全てだった。

 

「殺人事件じゃないか!?」

「私が乗っている時にそんな事が起こるなんて……!」

「早く責任者を呼べ!!」

 

 嘆き、怒鳴る客人達。速やかに職員による緊急事態の連絡がなされ、一度遊戯場が閉鎖されることになった。

 しかしまだ道中。駅は遠く、魔導列車は止まらない。

 客人達は、殺人犯がいるかもしれない列車に閉じ込められることになってしまった。

 

「ツヴァイ、これってもしかして……」

「ああ、……『泥』かもしれない」

 

 溶かされた服と肉体、黒い影。そして天井に張り付ける身体……。

 錬金の泥が、この車内にいる……?

 それは何故、そして誰が?

 

 謎に満ちた寝台特急。

 正直なところ、僕は驚きつつもワクワクしていた。

 なんだか、とってもクトゥルフ的じゃないか!?

 こんなこと言ってる場合じゃないんだろうけど、シナリオみたいな出来事にちょっとKP魂が呻いてしまう。

 犯人が人じゃなくて人外の化け物な所も、とってもそれっぽい!

 

「あ、どうしようツヴァイ。もう一時間とっくに過ぎてるよ」

「先輩たちを待たせてるな。レストランに急ごう」

 

 遊戯場が閉鎖されたけど、別に行動を制限されたわけではない。

 制限したらしたで、「こんな列車にいられるか! 俺は降りさせてもらう!」って人が出てくるからだろうなぁ。

 列車が止まらない限りは犯人も降りれないから、自由行動させられるんだろうけど……これだと、次の犠牲者がいつ出るか分かったものじゃないな。

 なんとなく天井に気をつけながら、レストランへ向かう。

 黄色と白で装飾された明るい雰囲気のレストランは、緊急連絡で少し張り詰めていた。

 そんな中、呑気に酒を飲んでいるのがリリリ先輩で、ガーリックシュリンプを食べているのがイルカさんだ。

 

「あ、コルトくんたち〜おっそいよぉ〜」

「遅かったからお先に食べてるぞ!」

「なんというか……緊張感が無いな……」

「人が死んでるのにね……」

 

 女性陣の胆力には恐れ入る。

 リリリ先輩の周りには様々なグラスやボトルが置かれ、イルカさんは大きな皿にガーリックシュリンプを山盛り乗せて、パスタを箸休めの様にして食べている。

 緊張感と困惑が入り混じるレストラン内の空気とは、相容れないマイペースさだ。

 

「すいません、遊戯場で殺人事件が起きたんです」

「丁度俺たちも遊戯場にいてな、聴取されていた」

 

 この列車に探偵は居ないらしい。職員の人に軽くアリバイを求められたけど、僕とツヴァイは人の多いボウリング場にいたし、リクト一行と競い合っていたから目立っていた。主にツヴァイが。

 だから特に疑われることなく、遊戯場を後にできたのだ。

 ハルナはすごい睨んできてたけど……。

 

「大変だよねぇ〜、どこのミステリだっつ〜の〜」

「それで、リリリ先輩たちに相談が……」

「なんだ?」

「──『泥』の可能性があります」

 

 イルカさんは錬金術師ではないから、錬金の泥を知る方法は無い筈。でも、イルカさんなら知っているだろうと言う確信があった。だから、端的に伝える。

 すると、リリリ先輩とイルカさんの雰囲気が変わった。

 酔いが覚めたかの様に真剣な顔つきになったリリリ先輩は、「部屋に戻ろう」と小さく言う。

 どちらも、事態をわかってくれた様だ。

 イルカさんは、モリオンさんの旧友だ。ステイルメイトのボスだ。どこかで知っていてもおかしくないと思ったけれど、その通りだったらしい。

 

 部屋に戻ってきた僕たちは、早速会議を始める。イルカさんが遮音魔法を張ってくれたので、コソコソする必要はない。

 

「黒い影……溶かされた人……か」

「闇魔法《ブラックホール》の可能性は?」

「周囲に魔力反応はありませんでしたし、スリーピングムーン号の中でそんな大規模魔法の行使はできないかと」

「天井から落ちてきたってのも、錬金の泥の粘体なら簡単だろうしな」

 

 強行に及んだ存在については、「錬金の泥」だろうと言うことで満場一致になった。

 では、どうして錬金の泥は一人しか殺さなかったのか?と言う話になる。

 錬金の泥は本来、その場を全て溶かし切るまで暴れ回る筈。

 

「『白亜の心眼』は錬金の泥を使役してる可能性があるんだろ? なら、その線の可能性が高いと思うぜ」

「イルカさん、何故それを──!? あ、いや、言わなくていいです。師匠の旧友ですもんね、はい」

「……使役しているということは、また千里鏡が?」

「見られてる気配は感じなかったけどなぁ」

 

 体質なのか、僕は視線に敏感だ。ハルナやホムルの視線、ツヴァイの視線なんかは遠くからでもはっきりわかるくらい、しっかりと感じる。

 前の地下でも、この場にいないはずの人物からの視線が気になった結果、錬金の泥を見つけたのだから。

 しかし、あのカジノで不審な視線は感じられなかった。

 

「それに、千里鏡を持ってる錬金の泥は襲いかかるなんて派手なことしませんでしたよ。あの時は状況が違ったからかもしれませんが」

「ふむ……まだ情報が少ないな。推察の域を出ない。一度調査したいんだが……」

「遊戯場は封鎖されちゃってますしねぇ……」

 

 うーん。と、全員の言葉が一度止まった時。

 

 また、叫び声が響いた。

SAN値チェック

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