固有魔法はSANチェック!【改訂版】   作:月日は花客

33 / 35
33.魔導列車はSANチェック!④

 

「また犠牲者が!?」

「えーと、どこから聞こえた?」

「たぶんバーカウンターの方だ!」

 

 現場に走る僕ら。

 錬金の泥についての情報は、なるべく欲しい。

 レストランの隣にあるバーカウンターは、ダークオークを基調としたシックな空間だ。しかしそのカウンターは、割れた酒瓶から匂うアルコールと、血が混ざった酷い有様になっていた。

 思わず鼻で息をするのをやめる。

 

「ま、また黒い影だ……!」

「この列車は呪われているんだ! 降ろせ! 降ろしてくれぇ!」

 

 目撃者だろう人たちが泣き叫んだ。発狂したように叫び出す人もいる。

 皆、この列車で起きる奇妙な殺人に混乱し、絶望しているようだ。

 しかし、その事は重要ではない。問題は犯人が近くにいる可能性があるという事。

 錬金の泥を使役している、魔法師が。

 

「取り敢えず、聞き込みかな」

「気をつけろよお前ら。なんかあったらすぐ私を呼べ」

「はい」

「私はツヴァイと一緒にいるよ」

 

 戦闘力的に乏しいリリリ先輩はツヴァイと共に行動するようだ。

 僕のほうはまぁ、一人の方が身軽だからそれで良いと思う。イルカさんはオルカさんだし。

 

 ではでは、僕はカウンター近くにいた紳士たちに聞き込みをしようかな。

 某少年探偵よろしく、純粋なイメージで行った方がいいだろうか?

 

「こんにちは、大変なことになっちゃいましたね」

「ああ……お嬢ちゃん、こんな所にいない方がいいよ。子どもが見るものじゃない」

 

 茶色いコートを着たちょび髭の紳士は、僕のことを女の子と思っているようだ。

 結構男の子に思われることが多いんだけど、こういう時に自分が中性……というか無性なのを思い出すんだよね。

 かわいい感じの演技した方がいいかな? 一人称を「ワタシ」にしておこう。

 

「ワタシもちょっと不安で……おじ様は、なにか怪しいものとか見なかった? 近づかないようにしたいの」

「そうだね……天井から、なにかタールのような黒いものが垂れてきたのは覚えているよ。君も黒いものには近づかないようにね」

「うん! ありがとうおじ様!」

 

 さて、茶色の紳士からは特に情報得られなかったな。やっぱ錬金の泥だよな〜。

 

 次はグレーのシルクハットを被った紳士だ。

 

「こんにちは、まさかスリーピングムーン号で殺人が起こるなんてね」

「ああ。……そのピンバッジ、君はフォークロアの生徒さんか」

「そうです、この事件、なんらかの魔法師が関わっている可能性がありますよね。なにか怪しい人など見ませんでしたか?」

「いや……恥ずかしいが僕も直前まで酒に酔っていてね、周りが見えてなかったんだ」

「そうですか……ありがとうございます」

「君もまだ子どもなんだから、危ないことに首を突っ込まないようにね」

「はい」

 

 そして最後は黒のドレスを着た婦人。

 

「ハロー、レディ。落ち着いてますね」

「あら、かわいい娘だこと。貴女、こんな所に長居するような大人になっちゃだめよ」

「レディはどうしてここに?」

「私、スリルが好きなの。それに貴方がさっき話してた髭の男は私の旦那よ」

「あら、見られてたんですね」

「貴女みたいなかわいい娘、そういないもの」

 

 かわいい娘って言われちゃった! お世辞だろうけど。

 

「レディは、何か怪しい人やものを見てませんか?」

「人間観察は得意だけど、あそこにいる人が一番怪しいわよね」

 

 そう言って婦人が視線を向けた先には……イルカさんがいた。うん、慧眼ですね。

 まぁイルカさんは置いておいて……。

 

「私、フォークロアの学生なんです。魔法師が関わってそうなこの列車での事件を追ってまして。なにか情報などありませんか?」

「そうねぇ……なんだか、煤の匂いがしたわ。あのバーテンダーが死んだ時に」

「煤……ですか」

「変よね、この列車は魔法機関で動いているのに」

「……ありがとうございます。レディ」

「かわいい娘には口が軽くなっちゃうわね、バイバイ」

 

 煤……かぁ。

 この魔導列車は魔力をエネルギーに変換している。魔力を貯めた魔石を使っているので、石炭ではない。本来は煤の匂いなんてしないはず。

 錬金の泥は煤の匂いがするんだろうか? あんまりそんな印象はないけども……。

 

「一度みんなのところに戻ろう」

 

 それにしても、今日の僕ってそんなに女の子に見えるだろうか?

 確かに髪が伸びてきて、面倒で切ってないんだけど……。黒髪が肩口までかかってきているので、ちょっと邪魔だ。落ち着いたらバーバー・ハイドラに来てもらおうかな。

 

 現場も眺めてみたけど、やはり暴れた痕跡は無く服と血だけが落ちてきていた。

 先に待ってくれていたツヴァイたちと合流した頃には、職員によってバーカウンターが閉鎖される時だった。

 

「怪しいやつ、見つけた人〜」

「はーい」

 

 僕とツヴァイの部屋に戻ってきて早々、イルカさんが聞いてきたので僕は手を挙げる。

 さっきの三人に、おかしな人がいたの気づいてた?

 そう、二人目のシルクハットを被った人だ。

 

 フォークロアのピンバッジというのは存在しない。

 寮を表すのは腕章だし、制服があるからわざわざピンバッジなんて作らない。

 じゃあフォークロアの生徒だと何故わかったのか?

 これは僕が制服のアレンジに付けていたオリジナルのピンである。ニャル様にプレゼントしてもらった一点もの、僕しか持っていないわけだ。

 つまり……

 

「あのシルクハットの男、僕を知ってるよ。それも学校にいる僕を。それか、このピンバッジを付けている人はフォークロアの生徒だっていう情報をどこかから仕入れてきてる」

「なるほど……そいつは今?」

「探知魔法を掛けておいたよ。今は……ファーストクラスの部屋、56号室!」

「よし、コルトはそのまま探知魔法を維持しろ。私とリリリちゃんはファーストへの扉を見張る。ツヴァイとコルトは錬金の泥を探しつつ、逐次私に報告」

「はい」

 

 イルカさんは、僕とツヴァイになにやらイヤリングのようなものを投げ渡す。

 っとと、小さくて落としちゃいそう!

 ポーンの駒がデザインされたそれは、シルバーの輝きを放つ。魔力も感じる。

 

「通話装置だよ。それに魔力を流せば私のピアスに繋がる。それで何かあれば私に報告すること」

「ええっ! それ錬金アイテムですよね、気になる……! 気になる……!」

 

 リリリ先輩がちょっと興奮してるけど、放っておこう。たぶんリリリ先輩なら簡単に作れるし……。

 煤の匂いについても共有して、僕とツヴァイは部屋を飛び出した。

 錬金の泥は、一体どこに隠れてる?

 ファーストルームか、それ以外か。

 ファーストにいるなら、リクト達も心配だなぁ……。錬金の泥はハルナにも対処できるかわからないし。

 

「ツヴァイ、リクトたちを探してファーストルームに入れてもらわない?」

「……あの女は気に食わないが、それが良さそうだ」

 

 ビジネスクラスの僕らは、それだけじゃファーストルームには入れないのだ。

 よし、まずはリクトたちを探そう。部屋に閉じ篭もるタイプじゃないだろうし、リクト達もこの謎を解くために動き回ってるはず。

 

 僕とツヴァイは、廊下を走り出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。