ダノン村は辺鄙な所にある。
馬車って、お尻痛くなるんだよねー。猫もいい気分で寝てられないから、基本は召喚せずに僕一人。
いつもいた毛玉が近くにいないって、けっこう寂しい。
「ダノン村はほとんど廃村みたいなモンらしい。昔は漁村で栄えてたけど、ある年を境に急激に衰退していったとか」
「うわー、明らかに悪い人の根城になりそう」
イルカさんの言葉に僕は口に手を当てた。
モリオンさんは栄えてると言っていたけど、イルカさんの事前調査で、もうほとんど人がいないことが確認されたらしい。
すっごく変な位置にあるし、向こうは盗賊やなにかと物騒なものが道中に多いから、確認はかなり最近にされたそう。イルカさんも、腕の良い情報屋を雇ったみたいだね。
「廃村……海にある教団のアジト……。なんというか、ホラーな大衆小説の登場人物になった気分」
「1番のホラーは、夏期課題が終わらなかったことだろうけどな……」
そう、僕とツヴァイは夏休み中の宿題が終わらなかった。
理由はある。
あれから、休憩で向かう先でリクト達に会い、ハルナとツヴァイでいがみ合いが発生したり……。
ホムルちゃんとばったり通りすがって、半泣きで逃げられたり……。
単純に、事件があったから頻繁に汽車が止まったりして、課題を中断せざるを得なかったりしたのだ。
「君ね、ハルナとギスギスするのいい加減やめなよ」
「あっちが喧嘩を売ってきてるだけだ。そもそもお前を殺そうとしたやつに優しくできるか」
「もう、こういう時は意固地なんだから……」
僕は気にしてないのになぁ。むしろ、ハスターさんがハルナの剣を折ったって聞いて、ちょっと申し訳なくなったもんね。
邪神ガチャでは、SSRを引いた方なんだけどさ……。
「廃村なら、海も手入れされてなさそー。折角水着持ってきたのに」
「リリリ先輩、泳ぐつもりで来たんですか??」
「師匠が折角なら泳いでこいって言ってたし。クラゲの心配は無さそうだったし」
「先輩も、大概図太いですよね」
あれだけ文句を言っておきながら、アジトが近くにあるかもしれない海で泳ぐだなんて。何が起きてもわからない。
リリリは、馬車では酔うからか酒瓶は抱えるだけだった。
明らかに汽車に乗る前と便のラベルが違うけど、見なかったことにした方が良さそうだ。
馬車も、遠い田舎の村に行くこともあって、割高らしい。
イルカさんが馬車代を払ってくれたけど、普通の馬車の倍はしたらしいとか。モリオンさんは記者だけ手配してくれてたみたいだ。十分ありがたいけどね。
「んー、取り敢えず、村に着いたら調査だな。村人から聞き込みと、リリリの機材で海に建造物や魔力反応があるか確認する」
「リリリ先輩の機材、ですか」
ツヴァイがそう言うと、リリリが自分の髪留めを外した。魔導真鍮の、前髪を留めているやつだ。
「私の傑作にして愛用品〜。『魔力をどこでも調べる君』でーす」
「リリリのコレは海底でも100メートルくらいの深さなら魔力を探知してくれるってよ。いやぁ天才一級錬金術師サマは持ってるものも違うね」
髪留めはカチャカチャと変形し、なにやら蜘蛛のような形になった。
蜘蛛は前の二本脚を使って魔力の網を張ると、なにやら触覚をピコピコ動かし始める。
やがて、網の端がチカチカと赤く輝いた。
「うん、やっぱダノン村に魔力反応あり〜。現地では私の愛用品で、私の特許第一号くんでより精度を上げて調べるね」
「すご……そんなの前髪に留めてたんですね」
「錬金術の先生が、見るだけで頭を痛めそうだ」
「実際、頭は抱えてたかなぁ」
リリリの錬金力がとどまることを知らない。
イルカさんが使える有力な存在を見つけた目でリリリを見つめているけど、ステイルメイトに取り込むにはモリオンさんが黙ってないんじゃないかな……。
「で、聞き込みは僕ら担当ですか」
「そうだな。ただ、リリリや私が尻尾を掴み次第すぐ集まってもらうことになるから、原則二人で行動してくれ。通信機にも距離の限りはあるしな」
「私が改良するって言いましたのに〜」
「あまり得意な道具を使うものではないのさ。こういう潜入はね」
そう話しているうちに、ダノン村が見えてくる。
村全体にどんよりした雲がかかっていた。
「うわ、陰気……」
思わずそう呟くくらいには、どっしりとした重たい空気が流れている。
確かに、建物のあちこちはボロボロだし、中には表から板が打ち付けてあるのもあった。
数える程度の家を除いて、ほとんどみんな引っ越したのか死んだのか。
不穏な空気が漂っている。
「聞き込み……俺らがするんでしたね」
「うん、なるべく頑張って〜」
「リリリ先輩、ここで泳ぐんです?」
「やめとく……クラゲ以前の問題かも」
海も、ほとんど真っ黒だった。
なんせ、大量の海藻が浅瀬にも生えているのか浮いていて、バタ足するだけで足を取られて溺れそうなほどだったから。
海藻のせいで底も見えないし、魚の気配はするけどここの魚を食べたいとも思わないかな……。
雨が降ってきそうなほどの曇天を、僕らはザクザクと進む。
「アジト、あるかなぁ」
「ここまで怪しいとありそうだが……どちらかというと、あると思う方が精神的に良さそうだ」
正直、長居したくない……そんな空気。
でも、僕の影からとぷりと、ダゴンとハイドラが浮き足立っている気配がした。