「こーんにーちはー」
「下がれ!」
僕がそうドアをノックすると、ドアを貫いて槍が突かれた。
僕の腹にちょうど刺さるくらいの高さで、明確に殺意がありそうだ。いやぁ、物騒だね。
咄嗟にツヴァイが引いてくれなかったら、完全に刺さってたよ。いや、別の誰かが助けという名の村全壊をやってかもだけど。
この身体が損壊した時どうなるかは、気絶の時点でハスター憑依と思うと規模が大きそうだ。
うーん、この村の聞き込みは、慎重にやらないといけなさそう。
「危なかったー。ありがとツヴァイ」
「まったく、穏やかじゃない村だな……」
「うーん、聞き込みしたいんですけどー、開けて良いですかー?」
そう聞いても、答えは返ってこなかった。
開けようにも、内側から閂でもされているのか、開かない。
ツヴァイが蹴り開けるか聞いてきたけど、そこまでやる必要、あるかなぁ?
「蹴り開けた瞬間不意打ちされたら不味いよ。別の家行こう」
「先が思いやられるな」
この村は、どうやらタダで廃れたわけじゃなさそう。
白亜の心眼が入ってきてから、何があったんだろうね。村はもう、漁村としての役割は果たしてないみたい。船は、全部壊されていた。
どうやら、他の家も戸締りはしっかりされてるみたいだ。
「これじゃ、聞き込みは無理だよ」
「何をそんなに警戒してるんだ……?」
「荒事は嫌なんだけどなぁ」
石を投げて遠くからノックしても、返ってくるのは槍ばかり。窓も板が打ち付けられていて、外界を完全に閉ざしてる。
中からは人の声が確かに聞こえたから、罠だけってわけじゃなさそうだけど。
「何か、事件があったのか。教団が関わっているのか否か……」
「漁村で、外に出れないっていうか、人と会えないってなると心当たりはあるけど……。あれは、うーん僕の管轄かなぁ」
なんだか、コズミックホラー的になってきた。
ツヴァイとは二人で行動しないとだから、安易に神話生物の召喚はできない。となると、話し合いでなんとかするしかないけど……。どうしようね?
僕は、ツヴァイに安全を警戒してもらいながら、最初の家に戻ってきた。
槍で穴が空いたけれど、手早く板で補修されていた。覗けないようにか、覗かないようにか。
僕は、再び家をノックする。体をずらして、ドアと真向かいにならないよう気をつけて。
「すいませーん、聞きたいことがあるんですよ」
ドスっ。やっぱり返事は槍だ。
槍と形容しているけど、漁村にはあるだろう魚用の銛を、人型用に改造したようなものだ。長さはある。
この中の人が恐れているのは、人型の何かってことだよね。
僕は、そのまま話しかけるのを続けた。
「ここに調査で来たものなんですー。傷つけるつもりはありません。どうか、槍を納めてくれませんかー?」
槍が飛んでくる。
「すいませーん、槍は、やめてくれませんかー? ここの安全を確保したいんです。味方ですよー」
槍が飛んでくる。
「あの、あんまり危険と判断したら、こっちもやることやんないとなんですー。すいません、せめて話してくれませんかー?」
槍が飛んできた。うーん、ダメそうだ。
僕はそっと、指先で影に指示を出した。
槍で扉はボロボロだけど、入るわけにはいかない。何かしらの境界になってるかもしれないし。
ほぼ廃村だからといって、魔法が使えない相手とは限らない。むしろ、白亜の心眼と繋がっているなら、使える可能性が高そうだ。
僕は引き続き、話しかけ続ける。
引っかかってくれると良いんだけどなぁ。
「すいませーん、すいませーん、ここで何があったんですかー?」
「ヒィッ!! 話しかけるな!! 放っておいてくれ!!」
「あの、何があったんですか? 僕らはフォークロアから来たものです。事情によっては、力になれるかも」
「学生如き何ができるっていうんだ! 地獄から来た金の亡者め!! どうせ魔法をチラつかせてオレたちを騙すつもりだろ!!」
「人聞きが悪いなぁ。ちゃんと調査に来て、悪を祓いに来たんですよ。こっちにはちゃんと信用できる腕のある人がいますよ」
「騙されない……騙されない……ヒィッ! な、なんの音だ!?」
ギシギシ、床が軋む音がした。
何かに怯えてるのか、迷っているのか、部屋を歩き回ってるみたい。狭い家だから、こっちにも聞こえてきてるみたいだ。
僕は、ツヴァイの警戒を合図にもらいつつ、そっと家から離れ始める。
ただ、声をかけるのは忘れない。
「あの、不安なら僕らと話してください。あんまり一人で抱え込むものじゃないでしょう。情報をもらえないと、僕らも困ります」
「黙れ悪鬼め! ああ、恐ろしい恐ろしい……全てが狂った。どこへ行く皆、オレを何と見間違えている? なぁエリー、カティア、ベンバー……」
男は、虚ろに独り言を喋り始めた。
家の中を歩き回る音も、またひどくなっている。かと思えば、槍があちこちに刺さる音がしたりもした。
「オレ……は……ああ、あの悪魔どもがここに来さえしなければ! 誰も彼も、たった一人善良な私を陥れようとする悪心なのです。神よ……」
ボリボリと、皮膚を掻きむしる音がする。それは、ただ掻くというには鋭く、血なのか水音が混じっていた。
様子の変わった男の声に、ツヴァイが怪訝な顔をする。でも、何か嫌な予感がするのか、目線は不安げに僕の方へ向けられていた。
僕は、そっと首を横に振る。
あれはもうダメだ。
「ヒイイッ! さっきから音がするんだ……オレを騙そうとする悪逆とは違う、何か……何か……何がいる!? おい、こっちへ来るな!! オレに何をするつもりだ!? こっちには、槍が……そう、槍が」
僕はツヴァイに、僕だけ見てるように伝えた。
どうにも、あの人は今日がちょうど終わりだったようで、僕がしたことはただ事を早めるだけだったみたいだ。
男は、家の中で酷く大きく鈍い音を立てた。
それは、恐怖と錯乱から来る肉体的痙攣が引き起こした卒倒だった。
「ああ、……窓に! 窓に!」