「祝! フォークロア合格〜!!」
『めでたや、めでたや』
『コルトちゃんならきっとやり遂げると信じてたわ』
無事にフォークロアの入学許可証が届きました! 受験合格です!
クトゥルフおじさんのたこ焼きでお祝いしながら、皆んなに祝われる。
特にイス先生とニグラスママにはお世話になったので、拝んでおく。魔法解析が出来なさすぎてママの膝でしょっちゅう泣いてたあの頃は限界だったな、色々と。
フォークロアは完全寮制だ。小料理店の人たちにはフォークロアに合格したこと、それによって家を出ることを伝えた。みなさん快く送り出してくれて、祝いに提供している料理のレシピ帳だとか、寮生活で何かと必要になるだろう日用品を渡してくれた。
向こうでも頑張れよ、という激励も添えて。
殆ど孤児のようなものだった僕を拾ってくれたこのお店は大恩がある。卒業したら恩返しをしたいな。
フォークロアは優秀であればどんな階級の人間にも門戸を開いている。それこそ平民や貧困層からでもね。
しかしここで問題になってくるのは、学費だ。
貧困層なんて明日のご飯ですら怪しいのだから、名門校の学費なんて到底払えない。
なので、日本の奨学金に似たシステムがある。
在学中の支払いを免除する代わりに、卒業後今までの学費や諸経費を色をつけて返させるというもの。
都市の他制度を利用すれば何%かは国が払ってくれるので、割引は確約されているようなもの。
まぁ卒業して立派になったら返してね、という事だ。僕も今回それを利用している。
実質借金みたいなものだけど、僕の個人的な貯金は受験時の参考書とノート代でほぼ消し飛んでしまったのでしょうがない。本は高いのだ……。
ちなみに両親の貯蓄もあるのだけれど、それは両親のいる病棟の費用に充てている。支援制度もあるからあと数十年出てこれなくても今のところ追加で入金する必要はない。
ほぼ確実にSAN値ゼロの永久発狂状態だからもう一生出てこれないだろうけどね。
あと、実は僕飛び級なのだ。
フォークロアにも飛び級的なシステムはあって、魔力の定着度や本人の秘めたる才能が大きい場合は早めに入試許可証が届くんだそう。僕は二年ほど早く入学することになった、現在14歳。
フォークロアで飛び級はそこそこ良くあるそうなので、そこまで目立ちはしないのだけれど。
『コルト、お前の努力の結果よ』
『しかし慢心するでないぞ。主はもっと上にいけるであろ』
「ありがとう。……でも、みんなはどうしてこんなに俺によくしてくれるの?」
これは気になっていたことだ。
そもそもどうして僕の固有魔法は《クトゥルフ神話TRPG》なのだろう。この世界にクトゥルフの概念は無いのに。
それに、勢力を超えて僕に力を貸してくれる神々は、一体何を考えているのか。
『なぁに、簡単なこと』
『コルトは我らが神話の愛し子』
『まぁいわば
ニャル様はそうまとめた。孫て。だからこんなに猫可愛がりというか……過保護というか……なんですか。
クトゥルフおじさんを見なよ、僕がたこ焼きで火傷しないように丁寧に冷ましてくれるし、僕のやつだけたこ焼きのタコが大きいんだぜ。
ニグラスママはなんか……子山羊たちの末っ子みたいな扱いだし、子山羊たちも兄姉面だし。
ハスターさんは来たら必ず蜂蜜酒くれるし、お膝に乗せてくれるんだよ。
皆さんのそれぞれの信者が見たら卒倒するよ、これ。
「僕、なにも対価とか渡せて無いよ?」
『君は孫にいちいち金銭や対価を要求するのかい? そこにいるだけでかわいい、世話をするのが楽しい、成長を見守るのが嬉しい。それが孫ってものなのさ』
「ニャル様も僕を孫だと思ってるの?」
『いや? 甥っ子』
「たいして変わらないよ」
兎に角そういうものらしい。
でも会えないのは寂しいから定期的に遊んでほしいし、おいたが過ぎれば叱るよ。ちゃんと躾は大事だからね、だそうです。
確かにテーブルマナーとか授業態度はよく注意された。食べてる時に肘をつくなとかそういうことね。
両親がいなくても僕がそこそこ品行方正に育ったのは一重に神話生物たちの教育の賜物といえよう。倫理観は育ってない気がするけど。
*
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます!」
入学式。厳かに行われた式典だったけど、それが終わると空気は一気に緩やかなものになった。
寮分けが行われ、僕は「探究のクジラ寮」の寮生になった。別に組み分けのために特別な儀式とかは無くって、淡々と分けられていた。
寮はなんと完全個室! 結構防音やプライベートスペースの区切りはしっかりしていて、これなら中で邪神を喚んでも大丈夫そう。
荷物を置いたら速やかに学園に戻り、オリエンテーションとなった。
「えー、魔法科目担当シャーベットです。これからあなた達1Aの担任を務めます。よろしくお願いしますね。まずは皆さん自己紹介から始めましょう」
明るい栗毛の髪色をした優しそうな女の先生が僕のクラスの担任だそう。
僕の席は一番後ろの廊下側で、角の席だ。そこそこラッキーかも?
周りを見れば実技で同じだったティティナやその隣にいた男の子、クラリネやハルナもいる。かなりレベルの高いクラスになっていそうだ。
ハルナは実技でトップの成績だったらしく、入学式の時点で他の生徒に畏怖されていた。ちなみに僕は筆記でトップでした。ピースピース。
前の席から順番に自己紹介がされていく。名前と出身なんかを言うのがスタンダードかな。こういうのではっちゃけない主義なので適当に終わらせよう。
「コルト・プセヴドニモです。この子は僕の固有魔法で召喚した猫のミケさん。これからよろしくお願いします」
実技試験で頑張ってもらったのでクロさんは今日お休み。本日の担当は三毛猫のミケさんです。
固有魔法の部分を地味〜に強調すれば、このクラスでの僕の認識は「猫の固有魔法を持った奴」くらいで止まるだろう。わざわざ固有魔法をひけらかした馬鹿と思われてるかもだけど、変に探られるよりはマシ。
ティティナはやっぱり自信満々に天才魔法少女だと胸を張っていて、男の子……リクトはそれにツッコミながら無難に終わらせていた。全属性使える天才なのに力を振り翳そうとしないところは好印象だ。僕の偽の固有魔法をすごく羨ましそうな目で見てきてたけど。
クラリネは淡々と名前と得意な魔法を言って終わらせたし、なんとハルナは名前だけ言って切ってしまった。
自己紹介にもそれぞれ個性が見える。
平和なクラスになるといいなぁと、ミケさんを撫でながらガイダンスに耳を傾けるのであった。
*
「なんでお前みたいな奴が
「不正入学だろ不正入学!」
「ははは……」
さて、現在僕がどこにいるのかと言うと、学校の敷地にある森近くの校舎裏だ。
先に言われていたセリフの通り、絡まれている。
彼らは僕が実技試験でバンドを奪った人たちだ。なんとかして合格していたらしい。
でも名門校でも絡まれることがあるなんて、治安が悪いなぁ。王道っちゃ王道だけども。
「この際入学式はまぁいい、ここで平穏な学校生活を送りたいなら、オレたちが“お友達”になってやるよ」
「猫の召喚なんてザコ魔法が固有なんて不安だろ? 『友達料金』さえ払ってくれりゃ授業なんかを手伝ってやるぜ」
下卑た笑いを浮かべる同級生。クラスは別だけど。
僕は飛び級だから、見た目も中身も完全に年下を脅すクソ野郎だ。授業を手伝うのだって、どうせノートを写す為の口実だろう。
僕は周りを見渡す。
まだ学校の地図に慣れてない一年生が迷い込んできた……なんて事も起きなさそうな、僕らだけの空間。事故が起きる確率が低いことを確認した僕は、そっとある神話生物を喚び出した。
僕の影が、ゆらりと色をもって変わっていく。
やがてそれは、質量となって同級生の前に立ち塞がった。
SAN値チェック
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発狂