「おや、島学習はまだ言われてないのかい」
「なんですか? それ」
「一年の始めにある行事でね、まぁ遠足みたいなものさ」
フォークロアが所持している無人島で行われる自由学習で、ちょっとした校外学習らしい。
無人島の生態を調べるなり、改めて自分の魔法を鍛えるなり、森の中を探検するなり、まぁ自由に活動するらしい。
学年の行事なので、クラスを問わない交友関係を築くのが目的の一つだそうだ。なんというかその為に無人島が出てくるのがこの学校のよくわからない感性だな。
でもクラスが違う人も来るなら、そこで友達ができるかも! 流石に長い学園生活でぼっちは寂しい。僕も人間の友達欲しい。
「そういえば、今日はお前さんの“友人”はいないのかい」
「喚べば来ると思いますよ」
「なんだい、喚ばないと私に挨拶も無しかい」
モリオンさんのヤバいところは、邪神の一部を見てもSAN値チェックが起こらないところだ。
一度ひょっこりクトゥルフおじさんが触腕の一つを出していたところを見られてしまって、すわ発狂かと思ったのだけれど、何ともなかった。
なんなら知能があるならとチェスに誘っていたし、ハイレベルな読み合いを繰り広げていた。僕より戦い甲斐があったのか、あれからたまに勝負を挑んでいる。
なんで精神に異常をきたさないのか、聞くに聞けない。本来は発狂し廃人になってもおかしく無いことを告げたら、通報されたり投獄されたりしそうだし。モリオンさんはしないかもしれないけど、一応念のため隠している。
普通に触腕でチェスしてるんだもんなぁ、どうなってるんだ。
「なるべく学校では出てこないよう言ってあるんです。固有魔法に関係することなので」
「そうかい。まぁでもたまの息抜きにチェスでも付き合っておくれよ。別のゲームでもいいがね」
その日も、僕は一度たりともモリオンさんに勝てなかった。
*
「皆さーん! 危険なことはくれぐれもしないように! 先生はベースキャンプで待機してますからね!」
島学習の日だ。モリオンさんに言われた次の日に島学習の概要が説明され、あれよあれよと当日になった。
100人乗っても大丈夫な魔法陣で転送されて、一瞬で無人島に来たときは驚いた。あんな大規模な魔法具があるんだ。
無人島はザ・無人島って感じ。常夏ってわけじゃないけど、砂浜に奥には森と山が見える。海は透き通っていてとても綺麗だ。魚だってここからでも見える。
先生の注意事項や本日のお言葉が終わると、人によってはトラウマになっているだろう魔の言葉が発せられた。
「それじゃあ、二人組作ってください」
同じクラスじゃなくてもいいですよー。
という言葉を皮切りに、生徒たちは次々にペアを作っていく。最低でも二人で行動すること、四人や六人組を作っても構わないという付け足しによって、クラスで既にグループを構成していた人たちはあっという間に班を作ってしまった。
友達がいない僕はいまだにウロウロと人を探すだけである。
この世界でもぼっち炙り出し呪文は存在するのか。こんなことならもっと積極的に人と関わるべきだったなと脳内で反省する。
固有魔法の都合上、人との交流に消極的になっていたのも悪い。友達が欲しいのに軽々と人に話しかけれないという矛盾が生じていた。
「お前、この前の……」
「あ、どうも」
同じく一人でいた人にダメ元で近づいてみると、先日絡まれた時に心配してくれた狼寮の子だった。同級生だったのか。
褐色の肌に銀髪が眩しい、赤い眼をした男の子。それが彼だ。背が高くて、よく目立つのに一人でいたから話しかけようとしたのだけれど。
「あー、よかったらペアにならない? 僕クラスに友達いなくて」
「ああ、俺としても助かる。……俺はツヴァイ、よろしく」
「僕はコルト! よろしくねツヴァイ君」
「呼び捨てでいいぞ」
ツヴァイもクラスでは浮いてる方で、親しい友人はいなかったらしい。あぶれ者同士だったわけだ。
班が出来た人たちから、活動に移っていいらしい。僕もツヴァイも他に人を組み込むつもりは無かったので、何をしようか話し合うことにした。
「狩に行くやつなんかもいるらしい。俺としては人が多い海より陸の方に行きたいんだが」
「僕も水着とか持ってきてないし、森方面がいいな、森林散策しながら気になった植物を調べてみたいかも。先生がここの植生は独特って言ってたから」
「わかった。それでいこう」
サクッと決まったので森林へGO。
散策しつつツヴァイとお話しだ、是非お友達になりたい。今後の人間関係を増やしたい。
ハスターさんに『コルトよ、学校で仲の良い友はおらぬのか……?』って心配されてるんだよこっちは。気まずいよ。親戚のおじさんに気を遣われた気分だよ。ちくしょう。
ツヴァイは身長が既に170は超えていて、かつあまり感情が表に出ないタイプだったからなにかと怖がられているらしい。確かに体つきもしっかり目だし、切れ長の目もクールで取っ付きづらい雰囲気かも。
そして実技試験で同じブロックの受験者八割を一人でのしてしまったそう。それで怖がられているのもあるそうだ。
そのブロックは戦闘が得意な奴があまりいなかったからだと言っているけど、それでも八割を相手にしたのはかなりエグいというか、そりゃ怖がられるわというか。
クラスでは遠巻きにされているから、今回の班分けも困っていたそうだ。
「そういえば、どうして絡まれてた日に声をかけてくれたの?」
「……最初は先生を呼ぶつもりだったんだが、入学早々問題を起こしたとお前が認識されるのは不憫だと思って、……手助けに行こうと思ったら既に解決してた結果だ」
「それは……なんかごめん」
先生を呼びに行かれてたらちょっと困ったな……あんまり印象良くなさそうだし。あと土星猫さんを召喚してた時に来られたらそれこそ地獄ができる可能性があったし。
心の中で彼の判断に感謝した。ツヴァイ的には気まずかったかもしれないけど、そのルートで大正解だったのだ。
教師が発狂は流石に大事件だろうし……。
改めてお礼を言っても、ツヴァイはちょっと遠慮していた。結果的に何も出来なかったとしても、何もしないことで助かった僕がいるから気にせず受け取って欲しい。
「僕、座学しかできないからクラスでは友達ができなくって……固有魔法以外は魔法具すら使えないんだ」
「もしかして入試で筆記満点だったのって」
「うん、それ僕だね」
「すごいな。俺は4位だった」
「いや十分すごいと思うよ?」
一桁とは思わなんだ。満点は僕一人だったけど、二位の人も1点しか失点してないとかのレベルだったはず。その中でベスト4に入ってるのはかなりの上澄みだ。
魔力も多そうだし、天は二物を与えるってやつですか。僕は逆に
「日照草にコズマリリー、トキシラズ……確かに不思議な植生だ」
「どういうところがだ?」
「日照草は日がよく当たる砂漠の方に生えるはずなんだけど、トキシラズは湿度の高い湿原の方でよく見られるんだ。この二つが野生であるのは本来おかしいんだよ」
「ふむ……誰かが持ち込んだとか?」
「トキシラズは植え替え……育った地から離れるとすぐ枯れちゃうんだ。日照草はそもそも根が深すぎて一度植えたらそこから動けなくなるし」
「なるほど、珍しい。というかよく知ってるな」
「座学だけは優秀だからね……」
はしゃぐわけじゃないけど、ポンポンと会話のキャッチボールを続けながら奥へ進む。
植生は確かに興味深いし、貴重な植物なんかも生えていて錬金術師は垂涎ものだろうな〜なんて考える。
ツヴァイも頭がいいから僕の説明ですぐ理解してくれるし。
そうして話しながら、僕らはどんどん森の奥へと進んでいった。
SAN値チェック
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成功
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失敗
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発狂