「関数……ベクトル……複素数平面……??」
『ねぇコルトー! 遊んでよー!』
『イタカ弱くてつまんなーい!』
『はー!? 弱くないですけど!? ちょっと調子悪いだけですけど!?』
寮の自室。数学の自習をしていた僕は、ノートに羅列された数字に酔いかけていた。
部屋中央に配置されたテーブルでは、ロイガーとツァール、イタカが三にんでジェンガをしている。現在イタカさんがひとり負け続けているようだ。
学校ではなるべく出てこないでと言っている分、僕一人の寮個室では自由にしてもらっている。ロイガーとツァールは特によく来ていて、簡単なパーティーゲームをしたり部屋を飛び回って満足したら帰っていく。
今回はハスターさんの眷属仲間? でもあるイタカさんを連れてきていた。イタカさんはふたりの兄的なメンタルなのだが、大抵遊ばれている。
「うう〜勉強疲れた……僕もジェンガやろうかな」
『やったー! イタカ早く組み直して!』
『勉強大変なの? 塵にしようか?』
「ありがとう、でも遠慮しとくよ……。サインコサインタンジェント……因数分解……」
『うっうっオレ風の神なのに……神なのに……』
『なんだこの
ブツブツと数学を胡乱に呟く僕。無邪気にジェンガを楽しむロイガーとツァール。半泣きでジェンガを組み立てるイタカ。
ツッコミ不在の部屋に入ってきたのは、保護者ことハスターさんだった。
「あ、ハスターさん。こんばんは」
『うむ……
『えー! まだコルトとジェンガやってないよ!』
『やっぱりその本が悪いの? 塵にする?』
『ハスター様あああぁぁ……ジェンガの神のお知り合いっていらっしゃらないんですかぁ……?』
『多少の夜ふかしは許容するが、勉強に根をつめ過ぎるのも良くないぞ』
「わぁ全スルー。心配ありがとうございます、もう寝ますね」
ハスターさんはなぜだか僕の保護者としての意識が強くて、よく父親のような関わり方をしてくる。真面目な性格なせいか、適当なところがあるクトゥルフおじさんとはよく教育理念で対立しているようだ。
僕にいつ赤ちゃんはシャンタク鳥が運んでこないことを教えるか懇々と議論していた時はどうしようかと思った。僕が転生者だってこと忘れてない? あとシャンタク鳥が運んでくるって何。
去っていくハスターさんたちに手を振りつつ、明日は学校だ。島学習の振替休日で今日は一日中休みだったけど、明日はツヴァイのクラスに行ってみようかな。
僕は魔法灯を消した。
*
「ツヴァイ、食堂行かない?」
「ああ」
登校して、昼。
僕とツヴァイはどちらもお弁当ではなく購買、食堂派だ。朝晩は寮の食堂、昼は校舎の食堂で食べる。
フォークロアの食堂はめちゃくちゃデカい。マジでデカい。学校にいる大体の生徒がここで食事するからだ。本当にデカい。
でもデカいから席の争奪戦にならないのは有難い。
僕は一番安いAメニュー。ツヴァイは日替わりメニューにしたようだ。
僕はお金がね、無いのでね。休日に小料理店に戻って一日働いたりして小金をね……。店長の厚意で正規雇用の給金が貰えるのだ。まぁ数年間そこで働いてたから勝手は知ってるし。
それでも無駄遣いできないので、基本Aメニューしか頼まない。ちなみに自炊はできないです。
Aメニューはマッシュポテトにソーセージ、あとサラダ。そしてその日によって適当にパンがついてくる。今日はマフィン。
安い割に豪華な方なんじゃないかな? 味は良いので飽きずに食べられる。味変したい時は備え付けのケチャップとかマスタード使えば良いし。
ツヴァイの日替わりメニューは、今日はミートパイ、野菜のスープ、ジャケットポテトにリンゴ半切れだった。
ジャケットポテトはなんか……芋を焼いたやつ。だいたいベイクドポテト。フィリングはチーズ。
ツヴァイは結構ガッツリしたものが好きらしくて、ミートパイとジャケットポテトは二切れずつ持ってきていた。食べ盛り〜。なんなら横にバゲット切ったやつも見えるんだけど、食べ切れるの……?
「それで足りるのか?」
「えっ十分満腹なんだけど……ツヴァイはよく食べるね」
「動くからだろうか」
ツヴァイは練磨の狼寮所属らしく、鍛えることが好きらしい。筋肉とか体力だけじゃなくて、座学や魔法も込みで、だ。
鍛え、練習し、修めることで自分がレベルアップしていくのが楽しい。だから鍛えるし頑張れるってことだ。健全でよろしい。
僕の探究のクジラ寮は、座学が優秀。一つのことをひたすら調べて、考えて、学ぶのが好きな人が多いらしい。僕の場合はかなり深淵を見つめるタイプの探究だけども。
パリパリのソーセージに、ホクホクでコショウが効いたマッシュポテトを頬張る。マフィンは備え付けの木苺のジャムを付けてきたので、ちょっとしたデザート気分だ。
マッシュポテトはマスタードかけても美味しいんだよね! あの辛さは僕結構好き。
サラダは日本みたいな感じじゃなくて、シーザーサラダ? ってやつなのかな? クルトンが美味しい。
ちゃんと美味しくてちゃんと安いんだから、貧乏学生の味方だよ本当。
でもツヴァイの日替わりメニューも美味しそうなんだよね……。ミートパイはアツアツだし、ジャケットポテトはチーズたっぷりだし……。
ああ待ってツヴァイ食べるの早い! 爆速で消えていくんだけど。食べ盛り〜って笑って眺めれないほどの速度で消えてくんだけど。
でも咀嚼音とか食べ方とか全然汚くないんだよね。ちゃんとフォークとナイフ使ってるし、残さず食べてるし。ツヴァイは結構育ちがいいんだろうか。
でも平然とちゃんとデカいミートパイを二切れも食べてるのなんか……感覚がバグるな……。
「美味しかった〜」
「午後からも頑張れそうだ」
「あ、ツヴァイ、放課後に図書館行かない? 僕いつもそこで勉強してるんだ」
「図書館で? コルトは真面目だな……俺も行く」
ツヴァイがブラス族だって明かしてくれたから、そのブラス族について調べたいんだよね。神話レベルの話だから真偽は錯綜してそうだし、本人に質問しつつ知ってみたい。
あと数学も聞きたいこと多いし……中間テストが近いのだ。今のままでも高得点は取れるだろうけど、どうせなら満点!
80〜90で妥協してると魔法が使えない僕の評価がよろしくない気がする! ちゃんと満点キープしないと「フォークロアに入学できたのはまぐれ」って言われちゃう!
錬金術はまだ実技が無くて座学のみだから、実技が始まるまでに点数取っとかないとヤバいし、魔法は言わずもがな。でもそこはまだ良い。数学と魔力解析、生物学あたりの理系科目が不安。
ツヴァイは逆に理系が得意で、歴史や言語、錬金術なんかの暗記科目が苦手。だからお互いに教え合って、お互いでも難しい問題は一緒に考えたり大人しく先生に聞きに行く。
これがテストを乗り切る友達との協力よ!
ツヴァイのいるB組はA組よりも落ち着いていて、騒がしくない。でも密やか〜に怖がられてたりといった空気は感じる……僕がツヴァイを呼びに行った時すごい周りが驚いてたし。
A組は相変わらずティティナがリクトにダイブしてるし、クラリネとハルナが喧嘩している。喧嘩というかクラリネが一方的に突っかかってるだけみたいだけど。
ラノベ的なノリになってるのは僕のクラスの方かなぁ。B組も仲悪いってわけじゃ無いんだろうけど。ノリが陽キャなんだよね全体的に、うちのクラス。
C組はどうなんだろ、わかんないや。
いつかC組にも知り合いができるのかな。友達100人は無理でも、2人くらいは作りたいなぁ。
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