サキュバスアイドルマイスター 〜演技力カンスト役者、アイドル育成ゲームの世界に転生する〜   作:エビノース志月

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原作キャラと会ってテンション上がらないわけないやん

 加賀美監督の撮影に行ったら莉央姉ぇが居た。思わず莉央姉ぇ呼びが口から出たし『かわいがりモード』に入った莉央姉ぇにめちゃくちゃにかわいがられた。天国だった。

 

 いやー……まさか莉央姉ぇが居るとは。って言ったら実は嘘になる。加賀美監督の過去作には当然ながら目を通しているからな。そのどっちにも登場していた彼女のことを見逃す俺じゃあない。

 もちろん、俺が知っている姿――十年後のそれとは異なる姿だが、当時から面影はある。見誤るわけがなかった。

 加賀美監督の映画ということで今回も参加する可能性は考慮していた。サキュスタの作中――莉央姉ぇのシナリオで加賀美監督と絡むことなんざなかったから、予想外ではある。が、原作では描かれなかったってだけだろう。

 莉央姉ぇはアイドルとしては演技の仕事を中心にしていたわけじゃないし……シナリオでフォーカスされる『過去』としてはグラビアアイドルの仕事のことばっかりだったからな。

『演技のお仕事もしていた』なんて発言もあったような気はするが……そんな『ついで』扱いするものだから、てっきり端役を何度かこなした程度だと思っていた。蓋を開けたら中学生で助演女優賞にノミネートされるくらいの仕事とか言うね。叙述トリックだな。

 

『莉央姉ぇ』こと宮坂莉央はサキュスタに登場するアイドル、サキュドルである。

 かなりサキュバスの面が強いキャラクターであり、その年齢のこともあってかなり『際どい』描写まであったえっちなお姉さんだ。プレイヤーのことを『契約者(コントラクター)くん』と呼ぶ彼女は俺たちコントラクターから『莉央姉ぇ』と呼び親しまれていた。(莉央コン――莉央姉ぇのことがいちばん好きだって感じのコントラクターは単に『莉央』って呼ぶことのが多かったが)。

 莉央姉ぇはめちゃくちゃにコントラクターに対してアピールしてくるサキュドルだった。アイドルだってのにコントラクターのこと明らかに恋愛的な意味で好きだろってサキュドルは少なくなかったが、莉央姉ぇはその中でも筆頭。『狐の中の狐』とまで謳われたサキュドルである。

 

 ……え? 狐ってなんだよって? あー……確かにサキュスタをやってるヤツじゃないとわからない表現だったか。

 まず、サキュスタにおいて最も好きだったり応援していたりするサキュドルが星見カレンだって言うコントラクターのことを考えてくれ。我こそは星見カレンのコントラクターだーって自称しているヤツな。

 こいつのことを俺たちは『カレンコン』って呼んでる。莉央姉ぇだったら『莉央コン』な。『〇〇担当契約者(コントラクター)』略して『〇〇コン』ってなふうにそのコントラクターがいちばん好きなキャラの名前を冠詞にいただくのが通例になってるってことだ。ロリコンやらブラコンやらの『〇〇コン』からも来ているんだろうが……。

 転じて、コントラクターの間で『〇〇好き』は『〇〇コン』なんて呼ぶようになったわけだが……そこで、コントラクターのこと明らかに好きだろってサキュドルは『コンコン』じゃないかって話になった。なったんだよ。で、インターネットってのは少しでも文字数を短くしたいって世界でもある。コンコンと言えば狐。ってことで、コントラクターのこと明らかに好きだろってサキュドルのことを『狐』なんて呼ぶ風潮ができたわけだ。

 

 閑話休題……いや、マジで閑話だったな。どうでもいいわ。

 とにかく莉央姉ぇはコントラクターにガンガンに恋してますよアピールしてくるサキュドルであり、つまりはめちゃくちゃに人気なサキュドルでもあった。

 ソシャゲだからな。プレイヤーに対してガンガンに恋してますよアピールしてくるキャラクターは人気になる。ソシャゲの基本だ。まあソシャゲのキャラクターなんてだいたいプレイヤーに対して恋してる……と言うか恋すべきとさえ言えるが。みんな俺のこと好きでいてほしい。いやマジで。頼むぜ。

 

 とにかく、莉央姉ぇという原作キャラが共演者に居た。カレンと共演するときも驚きはしたものの、今回は正直それ以上だ。

 当然だけどこの頃からデカいしかわいい。原作――十年後の容姿でもどちらかと言うと『かわいい』系統の童顔だったが、今の顔はさらに幼さの残る『かわいい』容姿だ。十年後はこれに『きれい』がドンと上乗せされるんだから最強だよな。

 少しだけ癖のある茶髪に、髪より黄色がかった琥珀色の瞳。スタイル抜群で、お胸もお尻もクッションが詰まっているんじゃないかって思えるくらいのサイズを誇る。

 すべてがふわっふわでやわらかい癒やし系お姉さんになることが確定している――俺視点ではふわふわ癒やし系お姉さんの学生時代の姿だってことになる。もうたまらん。

 サキュスタで莉央姉ぇの学生バージョンの姿とか見れなかったからな〜。見れたサキュドルも居るのかというと居る。サキュバスの謎パワーでロリバージョンがある大人組サキュドルとかも居たくらいだからな。ちなみに莉央姉ぇはそのロリバージョン持ちのサキュドルの一人である。癒やし系ロリお姉さんを甘やかしたり甘やかされたりしたい……人の業よな。

 

 そしてそんなお姉さんの学生時代の姿とは言っても今の俺にとっては『お姉さん』である。俺が幼女だからな。当然そうなる。

 莉央姉ぇはコントラクターが大人であっても『かわいがりモード』に入るとずぶずぶに甘やかしたり抱きしめ撫で回したりするようなサキュドルだったが、それを実体験できた形だ。人の夢が叶った瞬間だな。

 まあその逆である『かわいがられモード』はコントラクターくん専用なんですが……機会があれば俺も莉央姉ぇのことを甘やかしたい。甘えたいモードの莉央姉ぇに甘えられてぇ〜。もっともその場合将来現れるだろうコントラクターくんにとっては寝盗られということになるかもしれない。許せんよな。しかしこれがゲーム内転生の醍醐味とも言える。あきらめてほしい。俺が逆の立場だったら血涙を流すだろうが、相手が美少女アイドルだったら……? それはそれで燃える。でもあくまでも俺ことコントラクターくんのことがいちばんであってほしい。複雑なオトメゴコロである。

 

 というわけで俺は莉央姉ぇとの初対面を堪能した。が、今回は莉央姉ぇとお見合いしに来たわけじゃない。加賀美監督の撮影、その顔合わせに来たのだ。

 

 となれば、当然――莉央姉ぇ以外の共演者も居る。

 

 

「ハハハハハ! 噂通り可憐な少女だ! オレと共演するにふさわしい! 莉央、そこのお姫さまを独占するのはやめてもらおうか! 次はこのオレの番だろう?」

 

 

 舞台演劇のごとくそう声を上げる青年が居た。

 それを見て莉央姉ぇはめちゃくちゃ嫌そうに顔を歪めてから俺を守るように抱きしめ、「え〜……陽依ちゃん。こんなうるさいお兄ちゃんの紹介なんかいらんよねぇ? 無視してもええからね〜」なんて言ったが、そういうわけにはいかない。というか、この頃から王サマと莉央姉ぇって付き合い自体はあったんだな……。

 

 そんなことを思いながら俺は青年を見上げた。

 見覚えがなく、同時に見覚えのある姿。俺が『十年後』を知っている彼はサキュスタでは莉央姉ぇのシナリオにも登場した男だ。

 異質なまでに整った容姿。外見だけを見れば少女漫画に登場するような『理想の王子様』。

 蜂蜜のような甘い顔に甘い声。モデルのような身長の高さだけではなく誰もが目を離せない引力を持つ彼の名は。

 

 

「お初にお目にかかる、プリンセス。オレの名は無論知っているだろうが――心配せずとも初対面だと言うのにこのオレの自己紹介を耳にする機会を奪うような真似はしない。……理世!」

 

 

 パチンッ、と指を鳴らして彼が合図を出した。

 そうすると「はい、ご主人さま」とメイド服にジャージを合わせた中高生くらいの無表情少女が現れ、どこからともなく取り出した紙吹雪を宙に舞わせる。

 

 

「遠からん者は音に聞けー、近くば寄って目にも見よー」

 

「そう! 我こそは王賀誠司! この世界の頂点に立つべき男である!」

 

 

 ぱちぱちぱちー、と理世と呼ばれた少女が気の抜けた拍手をして、サッサッと自分で撒いた紙吹雪を掃除する。その間、青年は機嫌良く胸を張って笑っていた。

 

 これがリアル王サマ劇場……なんかもう感動しちゃうわ。『王サマ』こと王賀誠司。彼がどんな人間なのかはこの自己紹介でなんとなくわかってくれることだろう。

 うん。ネタキャラだね。いや、めちゃくちゃにイケメンでもあるんだが……明らかに『残念』なイケメンなのだ。

 一挙手一投足のすべてが舞台俳優のように大仰で大袈裟。声も動きもすべてが『うるさい』くせに圧倒的な容姿と声の良さでそれが不快にならず、けれどもやっぱりうるさい男。

 自信満々なんて言葉ではあまりにも不足している唯我独尊ナルシスト。高慢傲慢傍若無人、放歌高吟厚顔無恥。だけどもどこか憎めない。

 そんな彼はサキュスタにおいてそこそこ人気のあるキャラクターだった。アイドルソシャゲで男キャラなのにな。まあネタ的な意味で、だが。

 

 そしてもう一人、理世と呼ばれたジャージメイドさんだが。

 

 

「そして彼女は理世だ! オレが最も信頼する女性であり、オレの身の回りの世話をしてくれている。理世! 挨拶!」

 

「はい。……理世です。メイドです。どうぞよろしく」

 

 

 ぺっこりん、と言葉少なに挨拶をした彼女はメイドである。青みがかった黒髪はウルフカット、瞳はとろんとどこか眠たげな彼女はクールを通り越して少しダウナーなところがある女の子だ。

 彼女も原作キャラだがアイドルではない。……アイドルではない。大事なことなので二回言った。原作から十年前なので今は中学……いや、高校かな? まあそれくらいの年齢のはずだが、彼女は十年後でもアイドルになんてなっておらず、あくまで王賀誠司のメイドである。正直惜しすぎる。

 なんでも代々王賀家に仕えてきたとのことだが……それにしたって、ねぇ?

 ちなみに王賀誠司の生家である『王賀家』は由緒正しい家柄だったとのことだが現在は既に没落している。生粋のお坊っちゃまである誠司が中学生の頃のことだ。

 それからのストーリーは波乱万丈――だったのかは知らねぇ。べつに語られてもないからな。サキュドルでもないんだからそこまで掘り下げられることはなかった。ただ『出てきているセリフから考えるとそうなんだろう』ってだけだ。

 ただ、もう仕えるなんてことはしなくてもいいだろうに甲斐甲斐しく(?)誠司の世話をしている理世と王サマは――俺が知る十年後の時点だと絶対にデキてた。

 公式にそう言われていたわけじゃないがアレはデキてたと思う。女性コントラクターの間では理世と誠司のCP(カップル)は割と人気だったからな……。腐れ縁のコントラクターの女もたまに語っていた。

 正直俺は理世にも俺(コントラクター)のことを好きでいてほしかったが……思えば、王賀誠司というキャラクターが人気だったのも理世という『明確な相手』が居たからだったのかもしれない。

 莉央姉ぇという狐の中の狐と因縁があったふうな描写もあったのに特にNTRを恐れるような声も出なかったのは理世が居たからってのはあるだろうからな。そう考えると仕方ないのかもしれない。

 でも理世といちゃつきてぇ〜。ソシャゲに出てくるすべての女キャラといちゃつきたい。すべてのソシャゲプレイヤーの本能である。

 

 莉央姉ぇや王サマ、理世以外にも挨拶をした人は居るが割愛。俺は初対面の人が多すぎるからな。強いて特筆すべき人を挙げるなら今回の映画の脚本を担当している白鷺文乃先生とかだが……この人はまったく社交的な人ではないので一言二言で終わった。加賀美監督の紹介で前に話す機会もあったし全力で落としに行ったから好感を持たれているとは思うが反応は薄い。自信なくすぜ。

 

 そして挨拶だけが今回の目的ではない。俺たちが何のために集まったか。何のために集められたのか。

 

 その集めた人間が前に立つ。

 

 

「揃ってるな。じゃあ、各自自己紹介――の前に、俺からしようか。加賀美勇、映画監督だ。今日は顔合わせと読み合わせを行う予定となる。よろしく頼む」

 

 

 加賀美監督。初めて会ったときと同じく外見に気を遣っているとは思えないが――その目はどこかギラついている。映画監督としての顔だろうか。「次、文乃」と彼が隣に座る女性に声をかける。女性はぼそぼそと何かを喋った。「声が小さい。……『お前ら、この私の書いたホンを台無しにしたらタダじゃおかねえからな。覚えとけ』だそうだ」加賀美監督の言葉に文乃先生はガタッと席を立った後ぽかぽかと監督を叩いていた。監督は無視して「次、主演」と声をかける。

 

 つまり俺だ。

 

 

「はい」

 

 

 立ち上がると注目される。この場にいる全員がこちらを見ている。見定めるような目だ。

 オイオイ、こんないたいけな超絶美少女になんて目だよ。『あの星見カレンに匹敵するほどの役者なのか』と疑っている目――カレンと共演したCMは見ているだろうが、アレで『演技力』が判断できるかってなると微妙だからな。その疑念は無理もないだろう。

 しかし、いくら加賀美監督に選ばれたとは言え、こんなかわいい女の子なんだからそんな目を向けなくてもいいだろうに。まったく、やれやれだな。……こんな鬼どもを集めるとは、加賀美監督はいい趣味をしている。

 

 

「望月陽依です! 今回、この映画では主演を務めさせていただきます! どうぞよろしくお願いします!」

 

 

 さすがに自己紹介で一発かますことはできないし、その必要もない。全力でかわいく素直な少女の挨拶をする。

 ほっこりと場が和む……とまではいかないが、緊張は解ける。最低限注目に怯まずにいたことへの評価だろうか。安堵のようなものが見えなくもない。

 この程度で安堵するって、さすがにそれは舐め過ぎじゃね? もっと加賀美監督の目を信頼してあげてほしい。

 

 それから各自自己紹介が続く。意気込みみたいなのを語るような役者も少ないながら居た。

 まあ顔合わせをするなら自己紹介と撮影への意気込みはセットですることも多いもんな。この場では求められてないっぽいからしなかったが、求められたら俺もやる。無意味だとは思わないからな。決して馬鹿にできるものじゃない。ないが――加賀美監督は士気を高める方法として『それ』を選んでいないって話だ。

 

 

「終わったな。それじゃあ今回の作品について簡単に擦り合わせを行った後、読み合わせを行う」

 

 

 さて、ここからだ。

 

 たいていのことは準備段階で結果というものは決まっている。なら、本番直前の『ここ』こそが土壇場だ。

 

 うーん……できることなら、いくつか布石を打っておきたいところだが、いったいどこまでできることやら。

 

 乞うご期待!

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