サキュバスアイドルマイスター 〜演技力カンスト役者、アイドル育成ゲームの世界に転生する〜   作:エビノース志月

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布石

 さて、このたび加賀美監督が撮る映画がどんな作品か。今日はその説明をしよう。

 

 俺こと望月陽依ちゃんが演じるのは『少女の姿になってしまった殺し屋』だってことは前にも言った通りだ。見た目は少女、頭脳は大人ってわけだな。

 そういう設定の話なわけだが……さて、この設定から考えられるストーリーはどんなものだろうか? 成人男性が少女の身体になってるんだ。少女は少女でもこれが中高生くらいの身体ならまた色々と変わっていただろうが……六歳の身体だ。性転換モノによくあるような展開――ちょっとしたお色気展開やら同級生の男子に恋されちゃったりする展開――は望めない。

 なら、どんなストーリーになるか? どんなストーリーを期待するのか。

 

 この設定のキモは『ギャップ』だ。成人男性が少女の身体になるという『ギャップ』が生むものこそが期待されるものだろう。

 コメディもいいだろうな。なんたってハードボイルドなイメージもある殺し屋がこんなかわいい女の子になっているんだから。それだけで面白いよな。『子ども』の振る舞いをするにあたってあたふたする。困惑する。それは間違いなく『見たい』シーンだろう。

 そしてもう一つは――『ぎゃふん』とさせるシーンだ。少女の姿のまま殺し屋としての技術を見せる。子どもだと舐めていたヤツに目に物見せる。そんな『カッコいい』シーンも間違いなく『見たい』シーンだ。

 

 本作にはもちろんどちらも含まれている。どちらに偏重するというわけでもないが……ストーリーとしては『真面目』な類の作品になるだろう。

 

 タイトルは『プロフェッショナル・キラー・イン・ガール 透明人間の殺人』だ。

 プロフェッショナル・キラー・イン・ガールはまんまだな。少女の中の殺し屋。それはどうでもいいだろう。

 気になるのが何かはわかる。『透明人間の殺人』だろ? どっから来たんだよってな。じゃあそれについて説明するために本作のあらすじを話すとしよう。

 

 とある熟練の殺し屋が少女の身体になってしまった――その理由については作中で明かされていない。

 物語の始まりはいきなり少女が殺し屋としての仕事をこなすシーンからだ。俺がエチュードでやったシーンにも近いが――というか、たぶん加賀美監督は意図してそれをエチュードに選んだ――可憐な少女がいきなり殺し屋として仕事をこなすところから始まる展開。

 少女の正体が『殺し屋が少女の身体になってしまったもの』だと説明するのはその後だ。付き合いが長いらしい仲介人とのやりとりでそれは説明される。

 そしてそのまま『次の依頼』の話――それこそが『透明人間の殺人』の依頼だった。

 で、そっからは『透明人間の殺人』のために話が進んでいって、勝って終わる。元の身体――成人男性の身体に戻る、なんて展開はない。

 

 本筋のストーリー自体はギャグ調のものではなく、むしろシリアスな話ではある。が、合間合間にギャグ的な描写も挟まれている。端的に言えば『娯楽映画』。映画は面白くなければ価値がないなんて謳う加賀美監督らしい映画だな。

 

 配役はメインどころだと俺こと望月陽依ちゃんが主演の『殺し屋』。莉央姉ぇこと宮坂莉央は依頼人であり『催眠術師』。そして『透明人間』は王サマこと王賀誠司が演じることになっている。他にも色々居るが、メインってなるとこの三人になる。

 え? 催眠術師ってなんだよどこから出てきたんだよって? いや知らんがな。そういう話なんだよ。加賀美監督か文乃先生に聞いてほしい。

 ちなみに現実にある催眠術じゃなくてファンタジーなトンデモ催眠術に近い意味での『催眠術師』であり、なんなら作中でそう呼ばれているだけで職業としては催眠術師でもなんでもない。なんなんだよ。

 でもまあ『少女の身体になった殺し屋』なんてもんが居るわけだからな。その時点で作中のリアリティラインは『それくらい』だって提示していることになる。フシギ能力があってもおかしくない世界ってことだ。

 もちろん俺が演じる殺し屋さんも「事実は小説よりも奇なりってか?」なんて悪態はつくが、お前が言うなって反応されるからな。実際そう。お前が少女の身体になってるのが何よりも非現実的だろ……。

 

 

 とにかく、今回撮る映画『プロフェッショナル・キラー・イン・ガール 透明人間の殺人』はエンタメ性を重視した映画……『面白い』を重視した映画ってわけだ。その認識はオーケー?

 オーケー、じゃあ現実に戻ろう。

 

 

 加賀美監督主導の擦り合わせが終わった後は読み合わせだ。『本読み』とも言うな。

 何をするかと言えば文字通り台本を読んで合わせる。実際に演技しながら台本を読み合っていくことだ。

 ……『実際に演技しながら』は嘘かも。どういうふうに読み合わせをするのかは監督次第だしそもそも読み合わせなんてしねぇって監督も居るからな……。(もちろん『しない』のではなくスケジュール等の問題から『できない』なんてこともあるが)。

 

 この読み合わせで俺の実力を示す――ことは最初からするつもりもなかったし、実際できなかった。

 驚かれはしたが、『天才』だなんだとまでは思われていないだろう。もちろん手を抜いたつもりはないが、読み合わせは『読み合わせ』だからな。共演者の度肝を抜くことが目的じゃないんだ。やろうと思えばできなくはなかっただろうが、優先するべきはあくまで『撮影を成功させること』だ。

 いや、正直なところを言えば俺だってとんでもない実力を見せつけたりしたかったよ? 気持ちいいもん。めちゃくちゃ気持ちいい。神童扱いたまんねえもんな。

 ただ、そもそも読み合わせは『声』がキモみたいなところもあるからな……。さすがにそれだけじゃ二兎を得ることは難しい。俺が『今後の撮影』って兎だけを追った理由はそういったことも関係している。

 演技において『声』は重要なものだ。特に演劇畑出身の役者に顕著だが、そうでなくとも良い役者というものは『声』の演技が優れていることが多い。声優という声専門の役者に限らず、役者というものにとって『声』は蔑ろにできるものではない。

 言うまでもなく俺も大事だと思っているし、蔑ろにしているつもりなんてない。ないが……今回演じる役だとそれだけで度肝を抜くような演技をすることは難しい。

 ま、度肝を抜くのは本格的に撮影が始まってからだな。へへへ、そのときのことが今から楽しみだぜ。

 

 

 ってことで、俺についてはそんなところだ。俺以外がどうだったかをちょっと話そう。

 まだ声だけだが、それでもわかることはある。共演者については事前に可能な限り調べてはいるものの、それでも出来上がった作品を見るのと実際に対面するのとはやはり印象が異なる。

(俺視点で)目立つのは莉央姉ぇや王賀誠司だが、この世界に来てから『この人、良いなぁ』って思った役者も実は居た。いぶし銀って感じでカッコいいんだよなぁ、みたいな。

 いや『カッコいい』ってよりは『情けない』感じの役をすることも多いんだけど、静かな、それでいて確かな演技をするこのおじさんが良くてさぁ……作品に奉仕してるって感じだよな。うん。フツーに見てると作品に馴染んで目立たないが、見る者が見たら『仕事人』だと気付くような役者で……有り体に言ってしまうとこの世界に来てからファンになっちゃったような役者さんも居たが、まあ、彼についてわざわざ話すこともないだろう。原作キャラでもないし。単純に俺が好きってだけだ。あとでサインとかもらおっかな……いや、でも一人にだけサインをねだるのは印象的に……いやいや、むしろそれが……う〜ん。打算を抜きになんてできないが、打算コミでも『得』って結論が出た。出した。あとでサインもらったりお話聞いたりしちゃお〜。あ、ちなみに読み合わせでの演技も最高でした。目立つ演技じゃないけどカッケェ〜。役者の理想の一つですよ、あれは。

 

 話が逸れたから戻す。ってことで原作キャラについて話すが……王サマ、王賀誠司。

 天上天下唯我独尊、いつ湖に映る自分の元へと身を投げてもおかしくないほど自己中心的な振る舞いを見せる彼の演技がどういうものか説明するには彼に対する世間の評価を紹介するのが早いだろう。

 彼の演技は世間から『何をやっても王賀誠司』と呼ばれる類の演技である。要するに――まさしく『スター』と呼ばれるタイプの役者である。

 

 どの役を演じても王賀誠司は王賀誠司だ。異質的でさえある甘い声に甘い顔。理想の王子様のような容貌を持つ彼はギラギラと輝く太陽のように存在感を放っている。

 その振る舞いはどうしようもなく人の目を奪い、声を出せば誰しも耳をすませてしまう。それはこの読み合わせの場でも変わらない。

 ディスイズ王賀誠司。原作でも知ってたしこの世界に来てからも見てたけど……実物は違うね、やっぱ。前世でこのタイプの役者と仕事をしたときのことを思い出すぜ……まあ王サマみたいな振る舞いはしてなかったからそこんところは全然違うが。

 王サマも自分好き過ぎなだけで横暴な振る舞いなんかは一切しないけど……まあ……現実でコレなのヤバいからな……。誰に対してもナチュラルに上から目線だし。フツーに失礼過ぎる。でも上から目線だけど悪口とかまったく言わないし明らかに『善属性』なんだよな〜。良いヤツなんだよ。失礼過ぎるだけで。それが大きいという説もありますが……。

 

 で、最も大事な残った一人、莉央姉ぇこと宮坂莉央だが――彼女の演技に対する印象を一言でまとめるなら『狐』になる。

 あまりにも我が強い王サマとは対照的に、莉央姉ぇの演技は『別人』になる演技だ。カメレオン俳優とも呼ばれるようなタイプの役者がする演技だが『カメレオン』というよりは『妖狐』なんて言葉を連想してしまう演技だった。

 役に入った瞬間、まとう雰囲気が変わる。まだ読み合わせだというのに、顔つきさえ変わっているように見える演技。妖狐変化、化生の演技だ。

 カレン――『天才子役』でありメソッド演技の化身でもある星見カレンのそれとは似て非なるその演技は、しかし、まだまだ氷山の一角。実際に『撮る』状態になってこそ本領を発揮するだろう。そのときが今から楽しみだ。

 

 

 そんなこんなで読み合わせも終わって解散だ。王サマがほむほむとお茶菓子をつまむジャージメイドの理世を猫のようにつまみあげて「では諸君! また会おっ――んぐ……理世、菓子を口に突っ込むな」と颯爽に帰ることができず、理世がそんな王サマに無表情のまま「おいしかったので。……残ったものを持ち帰っていいか聞きましょう」なんて言っていたりしたが、それは気にするべきことじゃない。

 ……いや気になるわ。面白いやりとりしないでくれる? 王賀家(没落済)と言うか王サマと理世の二人暮らしはちょっと金欠気味らしい。

 王サマも(振る舞いが振る舞いだからか)売れっ子役者ってわけでもないっぽいからな。未来を知ってる俺としては将来的に確固たる地位を築くことはわかっているものの、未来は未来、今は今だ。こういう時期もあるんだろう。

 

 ――じゃなくて! くそっ、王サマが面白過ぎてついそっちに意識が向かってしまう。俺はいぶし銀の銀さんに彼の最新出演作の感想を伝えてサインをもらいながらそう思った。俺にはやらなければならないことがあるのだ。王サマに気を取られているわけにはいかない。銀さんに握手をしてもらったときにどことなく不慣れな感じにキュンとして『こういう対応もアリだな』なんて思っていた俺は冬城お姉さんと話す加賀美監督の元へと向かった。

 欲望だけを優先するなら莉央姉ぇといちゃつきたいところだが、たぶんそれをすると時間を忘れる。俺は自分が欲望に弱いことを自覚しているからな。なんやかんや理由をつけて莉央姉ぇにとろんとろんに甘やかされてしまうだろうし、その結果として布石を打つ前に帰らなければいけない時間になってしまうだろう。それは避けなければならない。

 

 

「冬城さん、加賀美監督。ちょっとお時間いいですか?」

 

「もちろん。陽依ちゃんのためならいくらでも」

 

「いくらでも、なんてわけにはいかないが……どうした?」

 

 

 冬城お姉さんはいつも通りの様子、加賀美監督もいつも通り、だが――この人の『いつも通り』、他の人とは明らかに毛色が違うんだよなぁ。いや、俺がそう仕向けたってのはあるんだが……加賀美監督、ガチのマジで俺のことを『侮っていない』んだよな。舐めていない。

 

 まともな大人なら相手を侮ったり舐めていないなんて当たり前――かと言うとそうではない。相手が同じ大人だったらまだしも、それが小さな子どもであったならばそれを『舐めない』なんてありえるはずがないんだ。

『侮る』とか『舐める』とかって俺の言葉選びがアレだから悪い印象を受けるかもしれないが……子どもを子どもとして扱う上で、ほんとうの意味で『対等』になんて扱えるわけがない。むしろ扱っていいわけがない。

 大人にとって子どもは保護するべき対象だ。庇護されるべきなんだ。それを指して『侮る』やら『舐める』やらなんて言葉を選んだ俺の性格に関してはスルーしてもらいたい。それもこれも世間が悪い。俺こと望月陽依ちゃんはまだ六歳だからな。そんな子どもである俺の言葉選びが悪いのとか絶対俺のせいじゃないだろ。……え? つまり親のせいなのかって――ごめんなさいぜんぶ俺が悪いです。

 

 話を戻す。加賀美監督が俺を舐めてないって話だったな。

 その通り、彼は俺のことを対等な存在として扱っている。大人であれば当然あるはずの『子どもに対する気遣い』が俺にはない、ように見える。

『対等に扱う』って聞くといいことのようにも思えるかもしれないが、先述の通り必ずしも良いとは言えない。俺こと望月陽依ちゃん、まだ六歳だぜ? こんな子をまったくかわいがらないで大人と同じように扱うとか……ねぇ? ちょっとおかしいんじゃないかと思う。

 

 とまあ長々と話したけどべつに不利益があるわけでもない。話も早いし。じゃあ長々と話すなやって? はい……ごめんなさい……。

 

 

 ってなわけでホントに話を戻そう。冬城お姉さんと加賀美監督に話をしに来た俺だが、もちろん用があるのは加賀美監督のほうだ。

 冬城お姉さんとはいつでも話せるし……『加賀美監督といっしょにいる冬城お姉さん』になら特別に話したいことがないわけじゃないが、最優先事項じゃない。やっぱり加賀美監督だな。

 

 

「そう長くなる話ではありません。少し、お願いが……いえ、違いますね」

 

 

『お願い』じゃダメだ。たぶん断られるか、あるいは話が長くなる。『交渉』が本題になってしまう。

 それは本意ではない。その中身こそが話したいことなのだから――そこからフォーカスをずらしたいとは思わない。

 

 

「あなたと『賭け』がしたいんです。わたしが勝てば、ひとつ、お願いを聞いてほしくて。……厳密に言えば『提案を検討してほしい』なんですけど」

 

「『賭け』か。主演の要望だ、聞いてやってもいいが、内容による」

 

「今、あなたが考えている撮影プランを『大きく変える』ことになるかどうか。……それで賭けるのはどうでしょう?」

 

「……説明してみろ」

 

「わたしはあなたが今考えているよりも、間違いなく、良い演技をします。あなたが想像し得る最高の演技――それをも超えた演技をしてみせます。どれだけわたしに高望みをしてくれてもかまいません。加賀美監督、わたしはあなたの理想を形にできる。……それが叶えば、わたしの提案を検討してほしいんです。どうでしょう?」

 

 

 冬城お姉さんが目を剥いた。周囲とは若干距離がある。話の内容が聞こえている人は……居ないか。

 今のはさすがに『かわいくない』からな。好んで聞かれたい話じゃない。大言壮語を憚らない、調子に乗った子役なんてイメージは……今はまだ要らない。それは『これが大言壮語でもなんでもない』と証明してからだ。

 まあ、実はそんな力があったなんてー、って展開も気持ちいいとは思うけどな。そう考えるとアリだったかもしれない……いや、円滑な撮影を進めるためには足枷になる可能性がある。

 欲望に飲まれるのはほどほどに、他人に迷惑をかけない範囲で、だ。抑えろ〜。抑えろ〜、俺。

 

 俺の言葉に加賀美監督は一瞬だけ目を大きく開いたが、すぐに細めた。

 

 

「賭けにならんな。監督の理想を形にする。それは役者にとって当たり前のことだろう。当たり前の仕事をして契約以上の報酬を得ようなどと、笑わせてくれる」

 

 

 おっと、そう来るか。予想していた反応と違うな。だが。

 

 

「賭けの内容はあくまでも『現在考えている撮影プランを変えることになるかどうか』です。あなたは『当たり前』なんて口にしましたが――わたしは必ず『変えることになる』と考えています」

 

「アドリブや脚本に書いていない『想定以上の演技』をするって? それは持て囃されることも多いが、俺の好みじゃあないな。星見カレンにでも影響されたか?」

 

「わたしはカレンちゃんとは正反対ですよ。メソッド演技とはかけ離れています。アドリブもできないことはないですが――わたしの領分じゃない」

 

「なら、どうして撮影プランを変えることになる」

 

「わたしの技術が脚本(あなた)の想定を超えているから」

 

 

 役者が『脚本とは異なる最高の演技』をした、という事例はある。監督や脚本家が想定していなかった演技、台詞……それが想定していたものよりもずっと良いものだった、ということは確かにある。

 その例としてカレンの名前を挙げたのは、彼女が俺こと望月陽依ちゃんと同い年で、俺が最も気にしているだろう子役であり――何よりも、カレンが『メソッド演技』の体現者であるからだろう。

 メソッド演技とは何か。以前にも説明したが、もう一度簡単に説明するなら『演じる役柄の感情を擬似的に追体験することによって自然な演技をする演技法』だな。心から自分が演じる役になりきることで『自然な演技』をする。カレンの演技はまさしくそれだ。

 そして『心から自分が演じる役になりきる』が故に、脚本に書かれた状況に実際に自分が立ったときに脚本で指示されたものから乖離した演技をすることがある。そういったものは往々にして高評価を受けることも多く――確かカレンも経験があったはずだ。それを言っているんだろうな。

 

 だが、俺はそうじゃない。観客として、鑑賞者としてならそういう演技も好きだが、役者としてなら俺も好みじゃないし……そもそもできない。 

 

 俺は脚本通りに演技をする。アドリブも苦手ってほどじゃないが、(どこまでを『アドリブ』と定義するかによっても違うが)、指示されない限りはしない。

 だから『撮影プランを変える』ことになるのは俺がアドリブをするからじゃない。脚本にない演技をするからじゃない。

 

 単純に、技術が優れているからだ。

 

 加賀美監督はこだわりが強い監督として知られている。初めから妥協するつもりなんてないだろう。リテイクを繰り返すことになったとしても作品の完成度を高めるためならなんでもする。そういうタイプの監督だろう。

 

 ただ、俺はその想定さえ凌駕する演技ができる。加賀美監督が今考えている『理想』をさらに超えたものを提供することができるだけの技術を持っている。だから『変えることになる』。

 

 

「……面白い」

 

 

 加賀美監督が笑う。口角を上げ、俺のことをじっと見つめる。獰猛な笑み。好戦的な笑みだ。

 

 

「それが叶うなら、確かに、俺ができることならなんだって叶えてやろう。……だが、フェアじゃないな。俺が勝ったときの条件がない」

 

「なんでもいいですよ。わたしが勝つので」

 

「そうか。なら、考えておく」

 

「はい。今から撮影プランを変更することになった場合のことを文乃先生や他のスタッフさんとも話し合っていたほうがいいと思います」

 

「ハッ! それはそれはありがたい助言だな。感謝してやろう」

 

「どういたしまして」

 

 

 にこやかに返答する。加賀美監督もにやにやと上機嫌だ。

 冬城お姉さんだけ動揺している様子だったが……心配しなくても、絶対勝つから大丈夫ですよ。カレンと共演したCMもカメラの前での撮影ではあったんだが――アレじゃあさすがに伝わらなかったらしい。

 

 なら、もう一度証明しよう。

 

 俺たち役者は、カメラの前で生くる者だということを。

 

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