サキュバスアイドルマイスター 〜演技力カンスト役者、アイドル育成ゲームの世界に転生する〜   作:エビノース志月

17 / 32
さくさくぺんぎん

 どうも、超絶美少女にして鋼の意志を持つ天才子役、望月陽依ちゃんです。

 

 俺、すごい。偉い。偉すぎてこれはもう『era』と言っても過言ではないだろう。俺という時代(era)がここに生まれた――

 さて、この時代の名が陽依ちゃんになったわけだが……いや、ほんと〜〜〜〜〜〜に偉いよな、俺。自分で自分を褒めてあげたい。

 え? 何をって? そりゃ決まってるだろ。莉央姉ぇからの共同生活のお誘いを断ったことだよ……!

 

 言うまでもなく俺は莉央姉ぇのことが好きだ。前世からな。そしてそれは今生だけに限ったとしても同じことだ。初対面からそれほど時間が経っていないとは言え、莉央姉ぇがめちゃくちゃ良い子だってことはわかる。俺こと望月陽依ちゃんのこともめちゃくちゃかわいがってくれるし……なんとなく、気遣ってくれているのも察せられる。

 冬城お姉さんが居るからそこんところは心配ないのだが、冬城お姉さんが加賀美監督と話してたりなんかしらの調整をしていたりするときは俺のことを構ってくれる。陽依ちゃん、六歳の女の子だからな。莉央姉ぇ以外の人も気遣ってくれているのは気遣ってくれているんだが――そこで莉央姉ぇが構ってくれる割合が多いのは『それ以外の人』が俺たちを気遣ってくれている結果だろう。陽依ちゃんとしてもできる限り年齢が近い女の子のほうがいいだろうってことが一つ。もう一つは莉央姉ぇにとってもそれが『息抜き』の時間になるだろうという配慮が見える。俺と莉央姉ぇ以外はみんな『おとな』だからな。陽依ちゃんだけでなく莉央姉ぇもこの現場では『子ども』だ。たったふたりの子ども――王サマのとこのメイドさんである理世も含めればその限りではないが、あの子は役者でもスタッフでもないから微妙なところだ――『おとな』抜きの時間をつくってくれている、というところもあるのだろう。

 

 ちなみに王サマも王サマで気遣ってくれているのか、理世がぴょーいと俺と莉央姉ぇのきゃっきゃしてるところに放り込まれることもある。理世が中学生だか高校生だかって年齢だから、莉央姉ぇ、理世、俺の三姉妹ってことになる。冬城お姉さん……どうしよう……! 俺、冬城お姉さん以外にふたりもお姉さんができちゃったよ……! え? ふたり? 文乃先生は、って? いや文乃先生は妹だから。そこんとこヨロシク。

 

 閑話休題。とにかく俺は莉央姉ぇのことがめちゃくちゃ好きなので莉央姉ぇといちゃいちゃ和気藹々としたいという欲求はある。あるのだが……今回の『共同生活』のお誘いは断った。血が滲むような決断だったが……なぜ断ったのか、と言えば『メリットがないから』だ。端的に言って意味がない。だから断った。

 莉央姉ぇは『役作りの一環』と言った。確かに俺こと望月陽依ちゃんが演じる殺し屋と莉央姉ぇが演じる催眠術師は劇中で共同生活を送ることになる。それだから『役作りの一環』で自分たちも共同生活を――というのは、理解できないことじゃない。サキュスタにもそういうエピソードあったからな。役作りの一環で何かイベントを〜ってのはありがちな展開だ。そして『効果』がないわけではない手段ではある。

 

 が、それは『役作り』をしなくちゃいけない場合の話だ。そうでもしなければ『役作り』ができない場合にのみ適用される手段であり――今回の場合においては適用してもさほど意味がない手段である。

 まず、俺は役作りを必要としない。演じる役に自分を投影するような過程を必要としない。俺は役に自分を重ねない。自分に役を重ねない。例えばメソッド演技の体現者でもある天才子役、星見カレンであれば『非常に有効』な手段なのかもしれないが……俺の演技はその対極にある。だから『意味がない』。

 

 そして、もう一つ。……莉央姉ぇにとっても、きっと意味がないことだろうと思えるからだ。莉央姉ぇは俺とは演技のスタイルが違う。アプローチが違う。いやまあ実際は内心なんてわからないから、そんなことはないのかもしれないが……少なくとも俺の見立てではそうだ。そういう演技をしているように見える。だから、彼女にとっては本来であれば『有効』な手段なのかもしれない。『役作り』の過程を不要とする俺なんかとは違って、莉央姉ぇは『役作り』を必要とする役者だろう。そう見える。

 なら、共同生活をする意味はあるんじゃないか? 俺に意味がなくても莉央姉ぇにとって意味があるなら――そう、本当に『そう』であるならば、俺はししおどしのようにコクコクと莉央姉ぇのお誘いを受けていただろう。つまり今回は『そうではなかった』という話なのだが……それはなぜか? 

 

 って、言うまでもないかもしれないが――その理由を端的に言うならば『宮坂莉央がプロだから』になる。

 撮影は既に始まっている。そんな状態で『役作りが終わっていない』なんて――それはあまりにも『遅い』だろう。まあ、確かにそういう役者も居る。実際の撮影のときに初めて『完成』させるように持っていくような役者も居る。だが、『撮影』以外に新たな過程を必要とするのであれば『あまりにも遅すぎる』としか言えないだろう。スケジュールは決まっている。『共同生活』なんて過程を必要とするのであれば、せめて撮影が始まる前までに、だ。

 

 そして、他の何よりも――莉央姉ぇ自身が証明している。宮坂莉央は証明している。今回の撮影。彼女の演技こそが他の何よりも雄弁に語っている。

 宮坂莉央は『催眠術師』になっていた。あれだけの演技をしておいて、さらに『共同生活が必要』なんて……誰が聞いても嘘だろ。もしかしたらちょっとは意味があるかもしれないが、どう大きく見積もっても雀の涙にしかならない。なら『意味がない』。そんな判断になったのは仕方ないことだろう。

 

 断腸の思いではあったが……俺にもやりたいことがあるからな。まあ、莉央姉ぇと共同生活するならするで『やりたいこと』がなくはないが……ちょっと効率が悪い。

 

 ……いや、でも、莉央姉ぇと共同生活するとかこの機会を逃すと体験できなかったよな。そう考えると……あー、どうだったんだろ。もしかしたら最善の一手ではなかったかもしれない。

 

 ……あと、もう一つだけ、付け加えることがあるとすれば。これは、ちょっと、自分としてはどうかと思うことでもあるのだが……俺が莉央姉ぇのお誘いを断った理由は、実益上の問題以外にもう一つある。

 それは……莉央姉ぇと共同生活するなら、その間、家族と過ごせる時間が減るから、なんだけど。

 

 ………………これ、ちょっと恥ずいな。自覚すると、なんか、あまりにも自分が『子ども』過ぎて。

 あー……俺、どうしたんだ? 自己分析するに、この感情が先の判断に与えた影響は小さくない。それが『自覚できていなかった』ってのは、放置しておいていい問題じゃないな。

 ただ、まあ……今の俺にとっての最優先事項はまだ『家族』だ。うん。それは、認められることだから。

 だから、今回のところは良しとしておこう。”All's well that end well.”ってシェイクスピアも言っている。終わり良ければすべて良し! まだなんも終わってないけど。

 

 

 しかし、莉央姉ぇの演技は良かったなぁ。おそらく俺があの域に到達したのは十代の後半……。ってまあ演技の方向性が違うから一概に比べられるようなものでもないけどな。

 さすがにどっかの天才子役ちゃんほどではないにせよ、莉央姉ぇの演技はその年齢から考えると驚くほどに優れていた。これで演技が本職ってわけでもないんだから正直自信なくすわ。真剣じゃないってわけじゃあないんだろうが……ま、ただの才能だろうな。容姿も、声も、人格も。すべてが演技に影響を与えている。特筆するべきは……俺が思うに『声』だな。

 顔はかわいい。スタイルも良い。表情管理も下手なわけじゃないが……それだけなら他の役者でもいい。やはり『声』だ。声が良い。声の演技だけなら……俺でも、勝っているとは断言できない。はっきり言って『声帯』の質が別格だ。俺こと陽依ちゃんの声もめちゃくちゃかわいいが、年齢が年齢だからな。まだ発達していない。……もっとも、十分に発達したとしても上回るって断言できないくらい莉央姉ぇの『声』は良いんだが。そう考えると『催眠術師』はマジでハマり役だ。文乃先生は莉央姉ぇのことも知っているだろうから……ひょっとすると『当て書き』かもな。最初から『宮坂莉央』が演じる前提で生まれたキャラクターが『催眠術師』なのかもしれない。

 

 

 そんなこんなで撮影は進む。莉央姉ぇが言った通り、こっからは俺が演じる殺し屋と莉央姉ぇが演じる催眠術師の共同生活が始まる。日常シーンだな。コミカルなシーンも多い。基本的には催眠術師に翻弄される殺し屋の姿が描かれる。観客は微笑ましくそれを見つめるだろう。ここだけ切り取るとサスペンスなんて欠片もない温かな映画のようにも思えるかもしれない。

 まず、殺し屋の日常は催眠術師に侵食される。殺風景だった殺し屋の部屋が催眠術師の色に染められることが象徴的だろうか。

 服も買われる。着せ替え人形にさせられる。俺はペンギン風の衣装を着せられる殺し屋のおじさんがお気に入りだな。あのときの俺、たぶんヤバいくらいかわいかったと思う。莉央姉ぇが演技を忘れることはなかったが――莉央姉ぇ以外の目がヤバかった。冬城お姉さんと、それから文乃先生もけっこう反応してた。ふたりともその場でフンフンと興奮しながら加賀美監督に耳打ちしてペンギンモードのままちょっと撮影が進んだからな。加賀美監督はビミョーにイヤそうな顔をしていたが、最後には冬城お姉さんや文乃先生だけでなく他の女性スタッフにも詰め寄られて負けていた。衣装担当、美術担当の人までそうだったからな……。加賀美監督としても彼の中で納得できたからこそ折れたんだろうが、他の人たちは多分に私情が含まれていたと思う。冬城お姉さんは片目がハートに、逆の目はドルマークになっていた。ちゃんと守銭奴なところも残ってるんだ……。

 あ、撮影外ではもちろん莉央姉ぇにはめちゃくちゃにかわいがられました。それはもうとんでもなくかわいがられた。なんなら陽依ちゃん争奪戦が起きていたので冬城お姉さん主導で『握手会』が開催されたほどだ。女性陣は全員が参加しており、後日それを聞いた(このときの撮影には参加していなかった)理世が『がーん』という描き文字を背負うくらいショックを受けていたほどに好評だった。ちょっと理世がかわいそうだったので俺は『がーん』の文字をよいしょと退かして理世に精いっぱいのファンサをした。理世は俺を抱っこして王サマに持ち帰っていいか尋ねた。理世は怒られた。当たり前である。

 

 

 で、撮影の話に戻るが……そんなふうに微笑ましいシーンがあるということはもちろんその後にある『微笑ましくない』シーンのフリだ。ショッピングを楽しむふたり、そこでいきなり殺し屋が催眠術師の腕を掴んで立ち止まらせる。催眠術師は「んー? なになに? 手を繋ぎたいとか〜?」なんてからかうように笑ってみせるが――その背後を車が突っ込む。

 

 

「……お?」

 

「ボサッとしてんな。襲撃だ。……透明人間だけじゃなかったのかよ」

 

「みたいだねー。まあ、当然と言えば当然かも?」

 

「別料金は?」

 

「モチのロン。もってけどろぼー!」

 

「了解。依頼を遂行する」

 

 

 そんなやりとりから始まるアクションシーン。と言ってもそんな長くはない。派手なシーンでもあるが、テンポ良く進む。命は軽い。そもそも『催眠術師』が居る。声が届く範囲に居れば――

 

 

「『動くな』」

 

 

 襲撃者たちの動きが止まる。殺し屋は呆れる。「最初からそうしろや……」

 

 

「いやー、イマのおじさんの身体だし? どんだけ動けるのかなーって思ってさー……『質問に答えて。あなたの依頼主は?』」

 

 

 話しながら催眠術師が襲撃者に近寄って尋ねる。しかし襲撃者は何も知らない様子。「空振りかー。でも、誰かしら知っててもおかしくないんだけど……あ、『今すぐ自首してこれからはマジメに生きましょう』っと。あと『連絡先教えて。わたしから連絡あったら何よりも優先すること』かな。これであんしん!」

 

 

「油断するな」

 

 

 催眠術師が殺し屋に飛びつくようにして押し倒される。先程まで催眠術師が居た場所に銃弾。

 催眠術師の『催眠』で襲撃者は無力化できたはず。だと言うのに、どこから――殺し屋は先程突っ込んできた車のガラスに銃を撃つ。いつの間にかドアも窓も閉まっていたそこに、車内に身を潜めていたのだろう。ひとりの男が居る。催眠術師の声も聞こえないようにして『対策』していた。催眠術師は嬉しそうに微笑む。「『ねぇ、そこの人――』」

 

 

 男は舌打ちとともに「くそっ」と悪態をつく。そして催眠術師の声が届く前に銃をこめかみに当て――銃声。

 

 

「あー……間に合わなかったかー。べつに死ななくてもいいのにねぇ? わたしもべつに殺さないし」

 

「一生奴隷になるなら死んでるようなもんだろ。こいつにとっては死ぬより悪いことだったってだけだ」

 

「忠誠心の厚い鉄砲玉くんってわけじゃなくて?」

 

「その可能性はあるが――朝三暮四だ。いくら恩があっても命を捧げるほどのもんじゃないだろ」

 

「それはおじさんがハクジョーなだけじゃないかなー? ……って、何してるの?」

 

「死体漁り」殺し屋が車内に侵入して自害した男の服をまさぐる。「直接聞けないならスマホでもなんでも、手がかりを探す」

 

「あー……その手があったか」

 

「普通はその手しかねぇんだよクソガキ」

 

 

 そんなところで場面転換。タイトルシークエンスからわかっていたことだが、やっぱりバイオレンスシーンはかなり容赦がないよな、この映画。『痛そう』な描写とかはないが……それ以外で『ごまかし』はない。

 ……これカレンがオファー断ったの『スケジュールの問題』じゃなくない? 星見カレンはメソッド演技の体現者とも言える少女だ。メソッド演技――つまり、『心からその役になりきる』演技法。リアリズム演技の極致とも言える演技法だが……この演技法、持て囃されるには致命的なまでの問題がある。それは言うまでもなく『役者の心身の健康』上の問題だ。

 メソッド演技によって身体的、精神的な問題を抱えることになった役者の例は枚挙に暇がないだろう。いや、わかる。わかるよ? 確かにメソッド演技を『ものにしている』役者ってのはすごい演技をする。彼らの『役作り』のエピソードも一度は聞いたことがあるだろう。『役作りのためにそんなことまでするなんて!』ってな。そうやって美談として語られることも多いメソッド演技法だが――演じる役によっては悪影響をもたらさないはずがない。

 

 カレンはしっかりしている女の子だ。まだ六歳だが――信じられないことに『自分』を持っている。それだからあまりにも自分と大きく離れたキャラクターでもない限り、それを演じるにあたって問題が生じることは少ない……はずだ。カレンも自分の演技が『メソッド演技』だと理解できているわけではないだろうし……俺もゲームの知識がなかったら骨の髄から『そう』だとは気付かなかったかもしれない。人の心なんて読めないからな。どんなアプローチで演技してるか。傍目から見てそれがわかるなんてことは……まあ、どうしても予想の範囲は超えないだろう。特に、カレンのように六歳の子どものものであれば一入に。

 だが、それでも。身近な人間はメソッド演技的なアプローチだということは察知しているはずだ。そう考えたときに、六歳の、未だ精神的に成熟しているわけがない『メソッド演技の体現者』に『殺し屋』の演技をさせられるか、と言えば――いや、絶対ダメだろ。精神的にどんな悪影響があるのか読めたもんじゃない。たとえ確率が低くとも、ゼロでなければ絶対に許すことはできない。許してはいけない。そういうものだ。

 ……こんな話をすると、そもそも俺こと望月陽依ちゃんが『通った』ことが間違いだ、なんて受け止め方をされる可能性もあるか。しかし俺の視点では違う。これはカレンが特殊な例なだけであって、そうでもない子役なら……いや、どうだろ。うーん……さすがに子役のことにはそこまで詳しくないんだよなぁ。ホラー映画とかにも出てるんだからいんじゃね? と思ったりもするが……俺以外の子役の例が、わからない……! 

 まあ言うまでもなく俺は大丈夫なんですけどね。それさえ押さえておけばいいのかもしれない。少なくとも俺にとってはそうだ。沼にハマる前にこの思考は切り上げることにしよう。

 

 撮影は進む。タイトルシークエンスから殺し屋の日常、依頼。催眠術師との出会いから彼女の依頼を遂行するために共同生活を送ることになった展開。そのシーンで緊張をゆるめた後に起こったのが襲撃シーン。いまここ。

 そして、映画的には次に『透明人間』のシーンが入る。王サマ――王賀誠司のシーンだ。

 

 王サマはいつか説明したように異常なまでの存在感を放つ役者だ。筋金入りの『スター役者』。何をやっても王賀誠司と揶揄されるほどに主張の強い彼は『主役』以外できないのではないかと思えるほどの魅力をまとう。誰もが目を離せない。たとえ『演技』をしていなくとも。

 

 そんな彼が『透明人間』役って聞いて、どう思った? 対極だろって?

 

 その通り。『だから』王サマには『透明人間』がふさわしい。

 

 

 パーティーの会場だろうか。会場に居る人々の装いからそれは決して大衆の集会ではなく上流階級の交流会であることがわかる。交わされている言葉に耳を傾ければ「――先生」などと相手を『先生』と呼ぶ壮年の男性が居る。相手である高齢の男性は教師ではない。おそらくは政治家か何かだろう。彼の周囲には警察組織に所属するSPにも決して劣らないだろう要人警護のスペシャリストたちが立っている。わかりやすいビジュアルだ。鍛え上げられた身体を持ち、常に周囲を警戒している男たち――

 その光景を映した後、カメラが切り替わって靴が映る。大勢の人々が立ち止まって談笑する中を何の躊躇いもなく悠然と歩いていく一人の男。

 

 彼の動きは周囲に左右されなかった。彼の動きが周囲に影響を与えることも、またなかった。誰も彼に視線すら向けることなく――まるで『見えていない』ように不自然な動き。

 

 彼の顔が映る。少女漫画のヒーローのような甘い顔。身長は高く、一つ一つの動きも大きい。ただそこに立つだけで人の目を惹きつけてやまないスター役者、王賀誠司の姿がある。

 

 彼は画面の中で明らかに『浮いて』いた。彼の存在によって、周囲の人々が背景にしか見えなくなる。圧倒的な存在感――だというのに、劇中の誰も彼に気付いた様子はない。そう、だから『彼』なんだ。だから王サマなんだ。誰よりも目立つ彼は『透明人間』なんて役とは正反対なように思えるかもしれない。だが――『透明人間』だからって、観客にも見えないなんて必要はない。加賀美監督は『誰よりも目立つ役者』を採用することによって『作中の誰にも認識できない』透明人間というキャラクターを表現した。

 

 透明人間は先程『先生』と呼ばれた男に悠然と近寄って、懐から取り出したナイフで彼の首を撫でつけた。それだけを終えた彼はまったく慌てる様子がないまま振り返り、その背後で『先生』と呼ばれた男が首を抑えてその場に倒れる。場に動揺と混乱がもたらされる――そんな最中であっても、透明人間は揺るがない。パーティー会場に並べられていた食事に舌鼓を打ち、ワインを飲んで騒ぎの中心に目を向ける。そして『対象』が動かなくなったことを確認すると、興味がなくなったとばかりにその場を去る。

 

 ――場面転換。その動画が定位置から撮影されたものとなって、かわいらしい装飾が施されたスマホの画面で再生されている。それを催眠術師の腕の間で抱えられるようにして見る殺し屋と、殺し屋をぬいぐるみのように抱えて動画を見る催眠術師。このふたりが映るシーンに変わる。

 

 

 目の前で見てもわからない。だとしても認識しておく必要がある。そういうわけで今回の上映会があったらしい。そう観客にほのめかしてから、透明人間について話す。しかし映像を見るに目の前に居ても認識できないとなると……。

『映像』でなら認識できるということなのか、という疑問は作中でもある。しかし答えはNoだ。ほんとうに不可視というわけでもないから『居る』とわかっていればわかるが――リアルタイムで見ていてもどうしてか気付けないらしい。すべては事が終わってから。そうして『居る』と思って見なければ発見は叶わないと言う。

 改めてどうしようもないと話し合うふたり。やっぱり催眠術師を殺しに来たところをなんとか返り討ちにするしかないのか。そんな話をして――ふと、気付く。

 

 

「……『透明人間』は、俺と同業だったな」

 

「? うん。おじさんと同じ殺し屋のはずだよ?」

 

「なら、誰かに雇われて仕事をしている。今日、俺たちを襲ってきたヤツらと同じように」

 

「まあ、そうだろうね。……それで?」

 

「攻められているだけってのは癪だ。――次は、こっちから攻めるぞ」

 

 

 ぽい、と殺し屋は催眠術師にバキバキに割れたスマホ――先程、車中の死体から漁っただろうもの――を投げ渡す。その画面を見て、催眠術師は「あー」と苦笑を浮かべる。

 

 

「心当たり、ありそうだな」

 

「まーねー。……『お願い』しとけばよかったかな?」

 

「そうだな。詰めが甘い。素人同然だ」

 

「はーい。反省してまーす。……じゃあ、今度はちゃんとするね。お・ね・が・い♡」

 

「勝手にしとけ」

 

 

 さあ、攻める時間だ。一転攻勢。テンションが上がるシーンだよな。

 

 ということで、次のシーンはと言うと。

 

 

「ごはんだー!」

 

 

 ごはんのシーンである。

 

 

「なんでだよ」

 

 

 殺し屋は突っ込んだ。しかし理由は単純。『もう遅いから』。夜でも行動できなくはないが、難しくなるところもある。加えて、体力的な問題もある。腹が減っては戦ができぬ。そんなところが作中の理由で、作品の構造としての理由なら『緊張感あるシーンが続いたから一度息抜きさせたい』って感じだろうな。

 

 さてさて、それではごはんのシーン――料理のシーンだ。シェフ陽依ちゃんの出番である。

 

 次回、『超絶美少女天才子役にして凄腕の料理人、望月陽依ちゃん』乞うご期待!

 

 え? 料理の経験?

 

 今生で母さんの手伝いをしたくらいだけど?

 

 それが何か?

 

 




副題を変えました! こっちはそんな影響ないかな〜って
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。