サキュバスアイドルマイスター 〜演技力カンスト役者、アイドル育成ゲームの世界に転生する〜 作:エビノース志月
どうも、超絶美少女天才ハリウッド女優、望月陽依ちゃんです。
ハリウッド女優ですよ、ハリウッド女優! すごくない? すごいよな。俺、すごい。『子役』だからってのは大きいだろうけどな。『夢を叶えた』とは言えないだろう。まあ今の俺の夢はハリウッドに出演することじゃないんだが。優先順位はあくまでもアイドルがいちばんだ。……とは言え、前世では結局出演できなかったわけだから、感慨深くはあった。正直作品としては『それなり』の出来だったが、俺の演技は良かった。でも、さすがにそれだけで『話題』にはなれなかったな。日本では話題になったが、それはハリウッド映画に出演したってだけでもそうだろう。……英語圏での演技なんて、いつ次の機会があるかはわからないが――次があれば、もっとうまくやる。王サマには負けないようにしたいところだ。
余談だが、王サマこと王賀誠司は現在海外を中心に活動している。どこが透明人間なんだよって感じの透明人間を演じていたあの人だ。日本に戻ってくることもあるが、基本的には海外生活だ。原作通りだな。『プロフェッショナル・キラー・イン・ガール』の影響もあって原作から離れて日本での活動を続けるかもと思っていたが、そんなことはなかった。まあ、王サマはあっちでもうまくやっていけると思うよ。メイドの理世も居るし。何より原作がそれを証明している。国近くんは少し心配している様子だったが……。
そんな国近くんとは少し前に連続ドラマで共演した。国近くんの妹役として。ちょっと歳は離れているが現実的なラインだろう。
ドラマのタイトルは『越境』。いわゆる刑事モノだな。文乃先生が脚本に参加する回があったりして、俺としてはかなり楽しい現場だった。良いドラマだったよ。でも終わり方がな〜。好きだけど好きじゃない。フクザツなオトメゴコロを抱いてしまう。加賀美監督の『プロフェッショナル・キラー・イン・ガール』もそうだけどさ〜、なんでクリエイターって『考えさせるラスト』とか『救いのないラスト』とか好きなんだろうな。いや俺も好きだけど。
でも連ドラでやられるとな〜。個人的には『ここまで付き合ってきたのに!?』ってなっちゃう。長編でバッドエンドって苦手なんだよな。長い付き合いなんだから。バッドエンドっぽくても何かしらの『救い』は欲しい。それだけの時間を『コスト』として支払っているわけだから『ハッピーエンド』って報酬が欲しくなるのは当たり前だろう。まあそれはそれで良いってのもわかるけどな。勧善懲悪モノではない、ダークヒーローのような主人公が活躍するような作品で主人公が『報い』を受けるのはむしろ望まれやすいことだろう。人類は因果応報大好きだからな。社会は公正であってほしい。罪には報いが必要だ。そうなったほうがスッキリする。それはわかる。でも俺はハッピーエンドになってほしい。報いを受けた後でもいいから。ハッピーエンドに……なってほしい……! 切実な祈りである。
で、妹役を演じた経緯から最近の俺は国近くんのことを『兄さん』と呼ぶことが多い。これが打算的な言動であることは誰もがわかることだろうが、では『何』を計算しているのか。端的に言えば『今後の望月陽依』のことを考えて、だが……まず、俺はアイドルになる。アイドルになった後――それより前の中学生くらいから異性との接触はできるだけ避けたい。ただ『それ以前からの付き合い』であればアイドルでも異性との付き合いがあっても批判は抑えられると見込んでいる。俺と国近くんの年齢差ならそもそもそんなこと考えなくても……なんて言えたらいいんだが、二十歳前後の女性芸能人と四十越えた男性芸能人の熱愛報道とか『ざら』だからな。『そういう目』で見られる可能性はある。『子役から活動する』ことで得られるメリットは『その目』を潰すこともある。……『子役から活動する』こと自体は同時に大きなデメリットもあるが、それも潰すために今がある。頑張っていこう。
さて、話はいったんこれくらいにして……今、俺が何をしているのかと言うと、国近くんとデートしていたわけだが。
……うん。いや、待って。待ってくれ。わかる、わかるよ。何デートしとんねんって。そうだよな。わかる。でも『デート』って明言したほうがいいんだよ。そう言ったほうが『冗談』感が出るからな。あと、相手が国近くんってことは大きい。国近くんは国民的な人気を誇るトップアイドルだ。そもそも国近くんが所属するSTorY'Sは男性人気が非常に高いことでも知られている。その中でも特に男性人気が高いのが国近くんだ。スペックだけを見れば完璧超人っぽく見えるが『秀才』タイプでクソ真面目なストイック、そして若干ながらどことなく『不憫』なことが知られている。グループの中では一際『泥臭く』努力するタイプであり、それでいてパフォーマンスの総合力としてはグループで一番だという声も多い。ライブバトルシステムなんてものが存在するこの世界では元々『アイドル』をアスリートのように見る向きがある。そうだな、近いものだと……フィギュアスケートの選手に対するものがそうかもしれない。実際、アイドルの――特にライブバトルに関することで言うとフィギュアスケートの競技会のような見られ方をしているように感じる。まあ中身は全然違うんだけどな。フィギュアスケートがかなり『数字』に支配されていることとは違ってライブバトルはライブバトルシステムなんていう謎システムで評価が決まる。実際、世間の疑念はフィギュアスケートの審査に対するそれよりもよっぽど大きい。が、それはそれとして受け入れられてはいる。盛り上がるからね。そんなんでいいのキミたち……。
また話が逸れたな。デートの話だった。そう、国近くんとデートしていたって話だ。何の目的もなくデートしていたわけじゃなく、『今の俺』がどう見られているかを改めて確認する必要があった。これくらいの変装でも通用するかどうか……冬城お姉さんにも証明しなくちゃいけなかったからな。ちゃんと『デート』をした証拠写真も撮った。これで説得材料は揃えられた。国近くんなんてトップアイドルといっしょに行動して騒ぎにならなかったんだから、きっと納得してくれるだろう。あとはSNSに何か投稿があるかどうかだが……たぶんない、と思う。『疑う』ような目は――特に国近くんに対して『もしかして』と思うような目は、俺の見立てでは三人。それに追随して『じゃあ近くの女の子は』と俺の正体についても察された可能性は低くない。が、そもそも国近くんにだって確信はなさそうだ。問題ないだろう。……いや、さすがに接客してくれた店員さんにはバレてるっぽいこともあったけどな。そこはもう守秘義務に期待するしかない。友達くらいには言うだろうが、SNSに投稿するまではしない……と思う。たぶん。きっと。メイビー。そこらへんはわからん。人の心なんて読めないからな。
そういうわけで俺の目的は達成されたわけだが……そもそも、こうして国近くんが俺の
枢木監督――枢木巌監督は国近くんと共演した連ドラ『越境』の監督だ。普段は映画を撮ることが多く、連続ドラマを撮影するのはずいぶんと久しぶりのことだとか。
「枢木監督は……そうだな、私もかなり世話になった。世間では色々と言われているが、良いところも悪いところも言われているよりもひどい人だよ。映画監督としての姿も批評家としての姿も陽依ちゃんは知っているだろうが、連続ドラマを撮ったこともあって……うん、そうだ、知っていたか。……私が出演していなくても、陽依ちゃんは調べてそうだが」
銀さん――俺が好きな役者はそう言っていた。どうやらプライベートでも親交があるらしい。枢木監督の作品に銀さんが出演することは多かったが、撮影外でも付き合いがあるのは知らなかった。推しキャラの新情報……陽依ちゃんメモを更新せねば。めもめも。
そんな枢木監督からの呼び出しだが、詳細は不明だ。冬城お姉さんは同行したがっていたが、それは厳しかったらしい。曰く、「あの人、私の予定を聞いてきたくせに『選んだ』のよ。……相手があの人じゃなければ提案すらせずに断ったところだけれど、陽依ちゃんは聞きたがるだろうから」俺のことをよくわかっている。ちなみに国近くんとの待ち合わせに俺をひとりで行かせてくれたわけではなく、待ち合わせ場所の近くまでは冬城お姉さんも付いてきてくれていた。(『デート』の時間をとったのは冬城お姉さんが同行できる時間をつくるためでもある)。国近くんは気付かなかったみたいだが……いや、実は連絡を取っていたのだろうか。その可能性はある。大人は子どもの知らない内に子どものために動くものだから。
「来たね」
そして枢木監督から呼び出された場所に来た。監督はめちゃくちゃ『待ち構えていた』感を出している。
「ひとを呼び出すときはちゃんと用件を伝えないとだめですよ! 冬城さんが困ってたんですから」
開口一番に俺は言った。ご立腹である。実際何も思っていないわけではないが『ポーズ』の色は濃い。国近くんは言いにくいだろうしな。子どもって……得!
「いいじゃないか。実際、君たちは来た。十分だろう?」
「銀さんの奥さんに告げ口しますよ」
「ははっ。それは遠慮したいな。彼女には頭が上がらないんだ」
銀さんの奥さんとは面識がある。俺は銀さんからレッスンを受けている。身体の動かし方……呼吸法などの技術を教えてもらうためのレッスンだ。そのために銀さんの家――『道場』と言ってもいいような箱を持つ家に不定期で通っている。銀さんと俺、両方の予定が空いてる日が重なることはそう多くないが、ないこともない。ちなみに銀さんレッスンのときは冬城お姉さんではなく母さんが連れて行ってくれる。……習い事とか、経験なかったけどこんな感じなのかな。レッスン自体はすごく楽しいんだけど、帰るときの雰囲気が、どうしてか、たまらなく心地良い。
銀さんとレッスンしている間、母さんは銀さんの奥さんとおしゃべりしている。俺と銀さんのレッスンを眺めていることもあれば、部屋でお茶していることもある。銀さんの奥さんは料理が趣味らしく、母さんと話が合うらしい。ある日のレッスン後にリビングに行ったら出来上がっていた創作料理が衝撃的で……この話すると長くなりそうだな。またの機会にしよう。
とにかく、そんなこんなで俺は枢木監督が銀さんの奥さんと面識があることを知っている。そして彼女の語り口からある程度のパワーバランスも読めた。銀さんの奥さんは非常に『わかりやすい』かわいい人だ。老獪という言葉からは遠く離れている。実際めちゃくちゃ若く見えるし。幼くさえある。でも銀さんより歳は上らしい。まさか……サキュバス……? いやサキュバスにそんな設定ないけど。俺が知る限りでは。
「では、遅くなったが何のために君たちを呼び出したか説明しよう。端的に言えば『紹介』になるが……彼は『越境』を見てくれたみたいでね。陽依くんと国近の『兄妹』の組み合わせがすごく『来た』らしい。作品とのコラボという意味ではなく使いたい、と。そういった要望があったんだ。べつに、ぼくに許可を得る必要なんてないが……律儀だね。あるいは計算高いと言える。君たちに話を通す前にぼくに話を通すなんて、ね。そう思わないか?」
「結局、俺たちは監督の紹介でその人と会うことになるんでしょう? なら、とても計算高いんでしょうね」
「ああ、そうだ、そうだとも。彼は商人だ。筋金入りのね。そして親バカでもある」
「親バカ?」気になった単語が出た。筋金入りの商人。親バカ。『望月陽依』が選ばれた意味。それらが繋がり、言葉として漏れる。「――夢咲郁」
その名前を口にした瞬間、枢木監督の目蓋がぴくりと跳ねた。そして唇が弧を描く。
「これだけの情報でわかるか」
「……正直、思いついた名前を口にしただけなので、わかったとは言えません。監督の反応で答え合わせにはなりましたけど」
さらに言えば、俺にとっても印象深い子だったから。端的に言えば原作キャラだ。サキュスタに登場するアイドルであり、カレンをライバル視していた子でもある。いわゆる『お嬢様』であり、敬愛すべきわがままプリンセス。
「――奇遇ね!」
ミニシアターのスクリーン、上映室の扉が勢いよく開かれて、間を置かずにそんな声が響いた。
「休日に映画でも観ようと思って立ち寄ってみれば、あなたたちのような有名人が居るなんて! こんなことがあるのね!」
ちなみにこのミニシアター、今日は休館日である。奇遇も何もない。ああ、でも……そういう子だったな、と思い出す。こういう子だった。調略が下手なわけではなく、単にどうでもいいだけだ。ここまで場を整えた時点で策は成っている。抜け目は『ある』し、それで足をすくわれることもあったが……小学生のときからそうだったのか。そんなことも思ってしまう。
「ああ――自己紹介がまだだったわね。私の名前は」
「夢咲郁さん」
振り返って、笑いかける。そこに少女が立っている。望月陽依とも星見カレンとも同い年。現在十歳である彼女は既に将来の美貌を備え始めている。赤みがかった髪に同じ色の瞳、自信に満ちた立ち振る舞い。少女特有の全能感と言うには少し『過剰』とも言えるそれをまとい、一切隠そうともしていない。その我の強さはギラギラと輝く太陽のようで、それは眩しくさえあるかもしれない。だが、彼女はそういう子だった。眩しいほどに他者を照らし、見る者の魂を焼く女。
夢咲郁が、そこに居る。存在には気づいていただろうが、(と言うか今回の件を企てた張本人だろうから『知っていた』か)、彼女の位置からは俺の顔はまだ見えていなかったのだろう。そうして初めて、郁も俺の顔を見ることになる。
「――……知っているのね、私のこと」
微かに目蓋が跳ねて、すぐに表情が余裕を湛えたものに戻る。驚きの微表情。やっぱり『下手』だな。驚いたことを隠そうとしていた。驚いてもおかしくない場面だったんだから微表情で留める意味がない。『隠した』ことに何らかの意味がある。
「はい、もちろん。CMはよく見ていましたから」
隠したことに意味があるとすれば何だ? 驚いたことを察されたくなかった……つまり、『弱み』を見せたくなかった? 優位を保っていたい。夢咲郁という『キャラクター』を思い出す。アイドルは基本的にほとんどそうだが、郁はその中でも負けず嫌いという描写が多かった。なら、答えは――俺をライバル視しているのか。
思えば、カレンをライバル視していたのもそうだ。同い年で自分よりも有名な存在を意識していた。子役、という言葉が適切かどうかはわからない。一応は子役と言えるだろうか。郁は有名な少女だ。仕事としてはたった一つの仕事しかしていないにも関わらず、同世代では望月陽依や星見カレンに次いで有名な少女だろう。幼い頃からCMに出演しているとは言え、それだけで得られる知名度ではない。相応の資質を備えているからこそのものだ。
「私も――陽依、あなたのことは知っているわ。よぉ〜〜〜くね」
「ありがとうございます。でも、わたしのことを知っているのは驚くことではないような……?」
「ぅぐ……言うわねぇ」
「言いますよ。さすがに、まだ葦原さんほどではないでしょうが」
ちらと国近くんに視線を向けると『俺に振らないでくれ』という顔をされた。いやいや、振りますよ? そうじゃなきゃ郁の意図を読み切れない。
周辺視野で郁の表情を見る。ちょうど国近くんに視線を向けたタイミング――『望月陽依の視線が逸れた』ことを明示するタイミングで、どんな表情をしているか。
「葦原国近……そう、そうね。陽依、あなたとはもっと話していたいけれど、本題に入りましょう。――父さん!」
郁が扉の外を見て父を呼ぶ。『ユメサキフーズ』の社長である郁の父が、その言葉に姿を…………現さない。なかなか現さない。うん? 俺と国近くんは首を傾げる。枢木監督はくつくつと笑っている。郁の下唇が少しずつ上向いていく。
「っ――父さん! なんでゆっくり歩いてるのよ!」
「いや、そんな急ぐことないでしょう。郁お嬢さまはせっかちなんですから」
そうしてようやく、その男が姿を現す。恰幅のいい男性だ。……郁のお父さん、こんな顔だったんだな。ゲームの中では描写されなかったし、こっちに来てからもわざわざ調べようともしてなかったが……典型的な『狸』だ。あるいは、それさえもイメージをつくっているのか。
「ちゅうことで、はじめまして、おふたりさん。夢咲です。本日はようお越しくださいました。枢木サンに相談したときはまさかこんな場を設けてくれるとは思いませんでしたが……人気絶頂のアイドルと役者と会えるなんて、どっかで恨みを買いそうですわ」
「仕事の話なら事務所を通してもらわないと」俺は夢咲社長に微笑みかけた。「騙し討ちのようなマネをした意図はなんですか?」
「もちろん、事務所を通すと『不都合』があるからよ」父親が口を開く前に郁が答える。「でしょう? 父さん」
だろうな。それ以外にないだろう。にしても、あまりにもリスクが大きいとは思うが……。
「いや、違いますよ。私も事務所を通すつもりでしたわ。でも、枢木サンが『ぼくに任せてくれ』っちゅうから頼ったらコレですわ。仕事の話はきっちり事務所を通させていただくつもりです」
「えっ」
郁が驚いたように口を開いた。俺も驚いてぽかーんとした。自然と枢木監督に視線が移る。彼は鷹揚に肩をすくめた。
「ぼくのせいにしないでくれよ。善意なんだ。むしろ、ぼくが事務所に話を通すのもおかしいだろう? 仕事の話でもないんだ。だから『個人的な友人』として陽依ちゃんと国近を紹介した。それじゃあいけないかね?」
ダメだろ。俺は思った。「ダメでしょ……」国近くんが言った。郁と社長も同じことを思っていそうな顔をしていた。四対一である。
「おや? おかしいな。夢咲、きみはぼくについてくれるものと思っていたが」
「感謝はしてますよ。ありがたいことです。枢木サンのおかげで陽依ちゃんと国近サンに会えとるんですから。でも、もっと穏便なやり方ってもんがあったでしょう」
……うーん、どっちだ? これ。社長が演技しているかどうか。正確には、どこまでが演技なのか。
事務所を通すと不都合がある。そう郁が言った通りのことを社長も考えてはいると思う。しかし、彼ならもっと『穏便なやり方』ができたことも確かだろう。こんなふうに禍根を残しかねないものではなく。
まあいいか。考えても仕方ない。答えが出たところで何か変わるわけでもないからな。少なくとも俺がやることは変わらない。どんな意図であろうと、俺はやることを決めている。さっき非難したのも舐められないように『非難』のポーズをとっただけだからな。社交辞令とも言える。意図的であろうとなかろうと失礼を働かれたならば遺憾の意を示すのは礼儀だろう。もちろん好奇心もあったが。
「だから、まあ――仕事の話は仕事の場でするとして、今回は親交を温める場にさせてもらおうかな、と」
「郁ちゃんのCMですよね」社長の言葉を俺は否定した。「わたしと葦原さんが『兄妹』役で出演することができないか。……郁ちゃんのCMシリーズは『ユメサキ』を象徴するものですからね。個人的には是非とも出演したいところです」
その言葉に誰よりも国近くんが驚いた顔をする。「ちょっ、陽依ちゃん? そういうことはあんまり言うべきじゃないと思うよ。出演したいかどうかも大事だけど、スケジュールもあるんだから」
「葦原さんも」国近くんのほうに振り返り、見上げるようにして返す。「わかっているでしょう? どうせ『受ける』ことになる。冬城さんならそうする。じゃなきゃ、ここに来ることも許しませんよ」
冬城お姉さんは今日何が行われるか知らないと言った。枢木監督がどういう意図で俺たちを呼び出したか知らないと。しかし、ビジネスの話である可能性はもちろん考えていただろう。明確な『利』のあることだと。
冬城お姉さんのことは俺も理解してきた。彼女は意外と感情豊かな女性だが、その判断は『情』に揺れない。そしてそれを対外的にも示している。『自分はこういう人間である』ということをビジネスの相手には常に示すようにしている。だから、枢木監督に対してもそうだろう。冬城お姉さんは枢木監督にやりにくそうにしていたが……枢木監督も、きっと同じことを思っている。冬城お姉さんは枢木監督が『利』のないことを――自分の商品に『害』をなすと判断したならば冷徹に彼を切り捨てる。二度とこのようなことを許さないだろう。彼女にはその実績がある。
つまり、俺たちの背後に冬城お姉さんが居る時点で――枢木監督はそれを裏切ることができない。むしろ逆だ。冬城お姉さんを『通した』時点で示しているものもあったのだろう。
……とは言え、今回の枢木監督が『厄介』だったことには変わりないのだが。冬城お姉さんも同じことを思っているだろう。感情としてはめちゃくちゃイヤだけど、大きな利益も見込めるからあまり強く非難できない。そんなラインだ。いやらしい。やっぱり普通に性格悪いんじゃないかな……。
「まあ……そうだろうけどさ。形式ってものは必要なことだから」
「いまさらです。相手が思いっきり形式を破ってきているんですから。どうせ今から『お食事でも』って流れですよね? しゃ・ちょ・う?」
「陽依ちゃんの仰る通りです」と社長。「……陽依ちゃん、将来はウチで働かんか? 商談相手としてかなり『コワい』ですわ」
「『望月陽依』だからですよ」おべっかを切り捨てる。「今の年齢で、今の権力があるからです。力があるから許される振る舞いでしょう?」
「ひゃひゃ! その通りですけど、違うな、その『力』を振るえてるのがスゴいんよ。……さすが冬城玲奈のお気に入り。何を育ててるんや、あの子は」
「冬城さんがわたしみたいないたいけな女の子にビジネスを教え込んでるみたいな解釈になってる……?」
風評被害だ。いや、まったくの見当違いってわけでもないのかもしれないが。冬城お姉さんからの影響もないわけじゃないと思う。前世と冬城お姉さん、どちらのほうが強いかは微妙だ。
「でも、ここは『形式』に則らせてください。陽依ちゃん、葦原くん。せっかくやから、お食事でもどうですか?」
「はい、ぜひ」
「俺も、ぜひともご一緒させていただきたいです。……俺、自分より一回り下の女の子に守られてる?」
国近くんが何やら考え込んでる。いや、仕方ないでしょ。国近くんの立場だと。俺は『子ども』だから適当に発言できるんだ。
もっとも、俺のような『子ども』は少ないだろうけどな。少なくとも俺がほんとうに『子ども』だった頃なら間違いなく無理だ。
ここに居るもう一人の『子ども』は『できる側』だが。
「――結局、『形式』に則るなら父さんの狙い通りじゃ……いや、順番の問題? 先に仕事の話をすることで……パワーバランス……交渉を優位に進めるために? 主導権を握ったのか……」
郁がぶつぶつとつぶやいている。思考が漏れている。あるいは整理するためにわざと言葉にしているのだろうか。
夢咲郁は負けず嫌いの少女である。才気煥発とも言える資質を持つ彼女は基本的にどんなことでも『勝って』きた。負けることが許されない。自分自身に負けることを許さない。つまり彼女の『負けず嫌い』は傲慢とも言えるほどの強いプライドに裏打ちされている。
彼女は自分を高めるための努力を厭わない。『勝つ』ための犠牲を厭わない。手段は選ぶが、それは『卑怯』を選ばないという以上の意味ではない。それ以外のことであればなんだってする。なんだって払う。
だから。
「ねぇ、葦原国近。あなたにお願いがあるのだけれど」
食事を終えて、改めて仕事の話もして――その後になって、待っていたとばかりに郁は言った。
「私は、トップアイドルを目指している。だから」
――私に、アイドルを教えてほしいの。
interludeの前書きか後書きかに書こうと思って忘れてたんですが、望月依子さんは168/96/63/84という設定があります。でもよく考えるとinterludeの内容でこんな設定書かれても困る気がします。できれば眼鏡かけててほしい。
ちょっと忙しくて更新不定期になっちゃってます! すみません! 次もちょっと遅れそうかもです。休めれば……