サキュバスアイドルマイスター 〜演技力カンスト役者、アイドル育成ゲームの世界に転生する〜   作:エビノース志月

5 / 32
子役としての初仕事

 どうも、超絶美少女天才子役こと望月陽依ちゃんです。

 

 いや〜、成功してよかった〜! マジマジ。『まあ……いけるやろ!』とは思ってたけど、不安がなかったわけじゃないんだよな。本性は常に隠してるし嘘つきまくってばっかだし母さんも父さんも騙してるけど、それはそれ、これはこれだからな。……いや、思えば俺って転生してから常に演技してると言っても過言ではない? 愛され美少女ムーブ続けてるからな。アイドルになるために。

 

 アイドルになるために俺は一切の瑕疵も許すつもりはない。俺は理想の偶像になるつもりだ。が、もちろん俺はそんなのにふさわしい人間じゃあない。そりゃあ根は善良な聖人みたいな人間だが、世の中に擦れて捻くれてしまったところもある。つまりすべて世間が悪い。だがそうはなかなか受け取ってもらえないのが現実だ。悲しいよな。俺はほんとうはこんなにも心優しい人間だと言うのにクズのように扱われることもある。あった。もちろん今生ではない。今は生まれてこの方素直で良い子として通っている。それはもうめちゃくちゃチヤホヤされる。たまらんよな。

 

 閑話休題。子役の体験レッスンに来た俺は加賀美監督を煽ってブチかましてやったわけだが……もちろん、すべて計算してのことである。

 

 この加賀美勇監督は原作キャラだ。原作のシナリオでは演技関係のオーディションイベントなんかで登場する。凄腕だがこだわりの強い映画監督として知られており、オーディションの難易度はなかなかに高い。というかアホみたいに高い。演技方面のステータスがかなり高くなくっちゃなかなか勝ち上がれはしないだろう。俺も何回敗退したことか……。

 そんな加賀美監督だが、元子役サキュドルのシナリオに登場したときにはこんな固有テキストが表示される。

 

 

『子役時代の君とは結局仕事できなかったからな。オファーはしていたんだが……スケジュールを抑えられなかった。君以外の子では実力不足でね、撮ることができない作品だったから……結局、その企画は頓挫した。苦い思い出だったが――これから、それを上書きしよう』

 

 

 これは元子役サキュドルが『子役時代もすごかった』ということを表すイベントだが……今の俺にとっては異なる意味を持つ。

 

 加賀美勇。十年もすれば名映画監督として名を馳せる彼が、ちょうど元子役サキュドルが子役として活動している頃に『映画を撮ろうとしていた』ということだ。

 天才子役級の子役を探している。それは俺にとってあまりにも都合が良い話だった。  ……まあ、それで出てきたのが『殺し屋が少女になった』ってのは正直驚いたが。もっと『わかる人にだけわかる』みたいな作風だと思ってたもんなぁ……。原作知識も万能ではないということである。

 もちろん、原作知識だけじゃなくてこっちに来てからも色々と調べたけどな。インタビュー記事とか読み漁った。『次回作は?』って質問とかな。それに対して『企画はあるが、役者が見つかるかどうかだけが心配だ』なんて語っていたから原作知識が合っていると確信できた。

 そっからはどうやって加賀美監督と接触できるかだ。会おうとして会えるものじゃあない。だから加賀美監督の動向を調べた。割とすぐ見つかった。都合の良いことに加賀美監督はとある芸能事務所が主催する子役の体験レッスンに参加しているとのことだったので向かうことにした。あからさまに客寄せパンダ扱いされてたからな……。今でも既に『実力派若手監督』として名を馳せている彼とコネを作りたいって思うような親は少なくないだろう。事務所の人はよくやったものだ。加賀美監督には『子役を探してるなら自分の目で探してみるしかない』みたいなことを言ったんじゃないだろうか。加賀美監督は完全に乗せられているということになる。まあ、彼もそれくらいは承知の上で、ではあるんだろうが……。

 ちなみに加賀美監督が体験レッスンに、って話は体験レッスンの紹介、宣伝で知った――のではなく体験レッスンに参加した親御さんがSNSで愚痴を言ってることで知った。めちゃくちゃ評判悪いんだよなぁ……。厳しすぎるらしい。子役に求めることじゃないだろそれってとこまで残酷に求めて子役(志望)の子を泣かせまくっているとのこと。なんならそれを庇う親御さんや他のスタッフまで泣かせているらしい。鬼かな? ただ実力はあるらしく感想を見る限りは賛否両論。……3:7、いや2:8くらいか? それでもまあ賛否両論なのは賛否両論だ。言葉のマジックである。

 

 さておき、そんな加賀美監督に俺は一発かました。もちろん体験レッスンはめちゃくちゃになった。が、体験レッスンに同席してくれた子どもたちのフォローは俺がした。男児も女児も居たけど俺は超絶美少女だからな。もうイチコロよ。親御さんにも媚びた。が、それは監督の隣に座っていたお姉さん――たぶん事務所の人――も手伝ってくれた。あとは一応するつもりだった体験レッスンを俺もいっしょにやって解散。俺と母さんだけ残された。

 

 

「どこまで狙った?」

 

 

 監督から尋ねられたので俺は正直に答えた。過去のインタビューから役者を探してるっぽい話と最近は子役の体験レッスンに顔を出してるって話から子役を探してると予想されたからそこに顔を出してアピールすればワンチャンあるかな〜みたいな話だ。加賀美監督とお姉さんは顔をひくつかせていた。うん。確かにやべー子どもな気がする。六歳だからな。六歳のすることじゃないだろ。ただそれを隠しても仕方ない。俺が隠したいのは俺がちょっと捻くれた性格をしてるってことであって、行動力があり過ぎるだのなんだのって点はアイドルとして不利に働くとは思わない。むしろネタになるだろ。当事者としてはちょっとホラー感あるかもしれないが我慢してくれ。

 

 

「陽依ちゃんは我がプロダクションに所属してもらう、ということでよろしいでしょうか? 今すぐ契約というわけにはいきませんが……」

 

 

 お姉さんが母さんと話していた。俺も参加しようとしたのだが母さんに「陽依ちゃんにはまだ難しい話だから」と止められた。まあ母さんには俺がどうしたいかはぜんぶ伝えてるからな……。ちなみに監督とお姉さんは「いやその子に難しいとかないと思いますけど……」みたいな顔をしていた。俺もそう思う。むしろ母さんはどうして未だに俺を子ども扱いできるんだろうか。大物過ぎる。

 

 

「陽依ちゃんはどうしたい?」

 

 

 話の途中、母さんは必ずそう聞いてくれた。お姉さんの説明を母さんが噛み砕いて説明してから俺の意見を聞いてくれるのだ。正直お姉さんの説明の時点で俺はだいたい理解していたが、俺のためにわざわざ噛み砕いて説明してくれるというのがなんだか妙に嬉しくて毎回その手順を踏んでもらった。

 まあ俺が何を言っても母さんは頑なにその手順を踏んでくれようとしただろうが……。

 

 普段からそうなのだ。いつだって母さんに「わたしはひとりでできるから大丈夫だよ」なんてことを言うと「だーめ」と言われてしまう。

 無用な手間をかけてしまっているようで申し訳なかったのだが、母さんも母さんで好きでやっているらしいということに気付いてからはされるがままになっている。俺もされて悪い気持ちではなかったし――むしろ嬉しくさえあった。「……ごめんね。お母さん、わがまま言って。陽依ちゃんは、自分でなんでもできるのに」なんて言われたときにはつい「ううん。……その、お母さんが構ってくれるの、実は、かなり嬉しい」って明かしたときには泣いて喜んでくれた。めちゃくちゃに抱きしめられて撫で回された。それはちょっと苦しかったけど、どうしてかすごくあたたかかった。思わずにやけてしまったくらいだ。演技抜きのにやけ顔だったのであのときの顔を誰かに見られてしまっていたならマズかったかもしれない。

 

 さておき、俺はお姉さんの事務所と契約することになった。一応父さんとも相談してからって話にはなったが父さんなら快諾してくれるだろう。快諾された。父さんは「えっ……もう?」と驚いていたが「ウチの陽依が天才過ぎてこわい……! 陽依ー! 僕たちを置いていかないでくれー!」と抱きしめられた。どうどう。母さんもいっしょになって抱きしめられてないでさー。……まあ、いいけど。男に抱きしめられても嬉しくなんかないと思っていたが、父さんに抱きしめられるのは悪くない。母さんに抱きしめられるくらいは。

 

 ということで正式に契約を結んで俺は無事子役になった。いえーい、拍手、ぱちぱちー。初仕事は加賀美監督の映画に出演すること――になるはずだったが、さすがにすぐ撮影とはならなかった。企画段階だったわけだし他の役者やらスタッフやらのスケジュールの都合もあるみたいだし当たり前と言えば当たり前だな。と思ったら撮影開始は三ヶ月後とのこと。早くない? そんなに関係者のスケジュールガバガバだったの? 心配になっちゃう。が、そこは『加賀美監督の企画なら』と以前から空けていただけだったらしい。オイオイ俺がもし来なかったらどうしたんだよ。と言うか正史では俺なんて居なかったんだが? スケジュールを空けてくれていた方々に監督は応えられなかったということになる。俺が来てよかったね……。もっと感謝してほしい。俺は思った。

 

 しかし、三ヶ月後は三ヶ月後だ。その間俺は暇――ってわけじゃないが、スケジュール的には空くことになる。出演者との顔合わせやらなんやらも予定されてはいるものの、そんなにすぐってわけじゃあない。

 

 ということで、それまでは別の仕事をすることになった。事務所のお姉さん……冬城さんのススメだ。冬城さんはまだまだ若いお姉さんだがそこそこ偉いっぽい……のだが、俺のマネジメントをしてくれることになった。綺麗なお姉さんが面倒を見てくれるということで俺のテンションは上がった。まあ明らかに金目当てだったけど。よく目にドルマークが浮かんでいる。黙っていれば仕事できそうな綺麗なお姉さんなのにめちゃくちゃに守銭奴キャラである。それを隠せていると思っているあたりはかわいい。あとなんか加賀美監督への当たりが強い。……原作で冬城さんって出てきたっけ? やけにキャラ強いけど……まあ、そういう人くらい居るか。そもそも本編開始から十年前だし。

 

 そうそう、俺が六歳になったということは本編から十年前になったということである。それは原作におけるレジェンドキャラ『サクラ』がアイドルを引退する時期ということだ。

 サクラ……一度は会ってみたかったものだが、それは結局叶うことがなかった。子役になれば、芸能界に入っていれば、会う機会もあったかもしれないが……。

 

 ――と思っていたのだが、寝たきりだった頃に俺は一度サクラと会っていたらしい。マジで? ぜんぜん覚えてない……。

 俺が起きたとき母さんは『サクラちゃんのおかげ』と言っていたが、ちょうどその少し前にサクラが俺の病室に来ていたとのことだ。なんで? テレビの企画かなんかか? そう思ったが撮影なんかではなかったらしく……うーん。意図が読めない。

 ただ、サクラは割と突拍子もないこともするキャラだったからなぁ。サクラの歌を聞いているときだけ微笑む少女って噂をどこかで聞きつけて興味を抱かれたのかもしれない。

 どこから知ったんだよとも思うが――そう言えば、とあるサキュドルのイベントで出てきた病院のビジュアルと俺が入ってた病院のビジュアルが似たような感じだった気も……ってことは、サキュバス関連のツテか? というか俺が入ってた病院、サキュバス関連の病院かよ。ぜんぜん気付かなかったわ。次の定期健診のときなんかに原作キャラが居るかどうか見てみるのもいいかもしれない。

 

 まあ、サクラのことはいいか。完全に手がかりがないわけじゃない。原作では結局再登場なんてことはなかったが――ここは現実だ。絶対に会えないってことはないだろう。少なくとも娘には会える。

 

 

 その娘との邂逅がこんなに早くなるものとは思わなかったが。

 

 

「はじめまして。私は星見カレン。今日はよろしく」

 

 

 星見カレン。

 桜色の髪に、瑠璃色の瞳。猫を思わせる吊り目がちな目元に、すらりと通った鼻梁。未成熟ながら既に傾国を予期させるほどに整った容姿。

 サキュバスアイドルマイスターにおいて最も有名なキャラクターの一人であり『天才子役』としての過去を持つ、まっすぐな少女。

 

 サキュバスアイドルマイスターという作品を象徴する、嘘と虚構を否定する『本物』のアイドル。

 

 初仕事の共演者がかの『天才子役』になるとは……可能であれば原作キャラに目に物見せるイベントをこなしたいものだが、相手は本物の天才だ。俺と同い年ということはまだ六歳の少女だが、そうであっても油断ならない存在だ。

 

 でも、さすがに六歳に負けるわけないよな! いけるいける。原作最強キャラが六歳の頃に圧倒的な実力差を見せつけて『特別な存在』になってやるぜ!

 

 え? フラグ?

 

 俺もそう思う。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。