サキュバスアイドルマイスター 〜演技力カンスト役者、アイドル育成ゲームの世界に転生する〜 作:エビノース志月
どうも。あの天才子役、星見カレンに並ぶ超新星かと業界で話題の超絶美少女子役、望月陽依ちゃんです。
と言っても、演技力って面ではそんなに話題にはなってないだろうな。長尺でもない撮影だ。演技力はそこまで発揮できるようなものではない。だから注目されたとするならば、それは俺の『可愛さ』に他ならないだろう。
俺は美少女である。容姿だけでもそうだが『可愛く』見せるって意味では誰にも負けるつもりはない。種族サキュバスのカレンは素でとんでもないくらいの可愛さだったが、イマドキは養殖モノだって天然には決して負けはしないのだ。全力で可愛さ武装してやっと並べるくらいって事実には種族の壁を感じるが……いや、種族とか関係なくカレンが可愛すぎるだけか。サキュバス差別よくない。俺、良くなかったぞ。
サキュバスアイドルマイスターに登場するアイドルはサキュバスである。つまりカレンもサキュバスなわけだが……そもそもサキュバスって何だよ。そう思う者も居るだろう。俺も思った。今更だが、今日はそれについてちょっとだけ説明するとしよう。
サキュバスと言われて何を想像するだろうか? 淫魔? うん、そうだね。男の精力とかを糧にしてそう。淫夢とか見せてね。夢魔なんて呼ばれ方もするよな。作品によって描かれ方は様々だが……サキュバスアイドルマイスターにおけるサキュバスは『精力を糧にする種族』だ。それは性行為に限らず、どちらかと言うと『元気を分けてもらう』に近い。要するに元気玉みたいな種族がサキュバスアイドルマイスターにおけるサキュバスだ。
作中に登場するサキュバス医学(サキュバス専門の医学)アイドルは「他人の精力を得るのに最も効率的で古典的な方法は性行為だからね。昔はそれによって私たちは生きながらえてきた。だから私たちは『サキュバス』なんて呼ばれ、また自称しているんだろうね」と語った。
「今は違う。こうしてアイドルとして活動することで尋常ではない数の人々から精力を分けてもらうことができるようになった。魂の代謝で発散される精力は好意を抱いている対象に指向性を持つ。性行為などの直接的な接触による搾精行為から得られる魂の代謝は一個人から得られる量としては莫大だが悪影響がないとは言えない。しかし現在のアイドル活動などによって回収できる精力量は自然な魂の代謝によって発散される精力だけで十分過ぎる量を賄えることが可能であり、これがどれだけ画期的なことかと言うと……」
以下略。まあ、そういうことであるらしい。サキュバスって言ってもそう呼ばれているだけで創作でよく見るアレとまるきり同じってわけじゃないですよ〜、ってことだな。
これには『逃げ』なんて批判もあったが、俺はエロいことには変わりないからいいかと思っていた。紛い物でもなんでもエロけりゃいいんだよ……!
サキュバスの性質なのか明らかにコントラクター(俺のことな)に性欲向けてきてたサキュドルも居たからな。アイドルとしては問題だがソシャゲのヒロインなら主人公クンである俺のことを好きでいてほしい。すべて人類が共通して抱く欲望だろう。知り合いのコントラクターの女は「アイドルなんだから恋愛にはもっと慎重でいてほしい」なんて語っていたが……アレは頭がおかしいだけだ。俺が正しい。
サキュバス要素はそんなもんだ。あとはご都合主義パワーとして扱われることもあった。なんかあったらだいたいサキュバスパワーでなんとかできたりした。幻覚とか瞬間移動とかそういうのね。もっとも、あまり使われることはなかったので半分死に設定ではあったが……。
いや、一応髪色が豊富なのはそうか。カレンとかサクラとかピンクなのに馴染んでるからな。単にこの世界ではサキュバス関係なく『そういうもの』になっているって話でもあるが、それは現人類の祖先にだいたいサキュバスの血が絡んでいるかららしい。冬城お姉さんだって種族人間なのに銀髪だし。
で、何の話だったか。サキュバスの話じゃないよな。そう、俺こと望月陽依ちゃんの人気が爆発しそうって話だ。
もっとも、撮影したCMが放送されるまではそこそこの時間がかかる。まちまちではあるが……経験上、一ヶ月〜三ヶ月くらいか。編集にかかる時間もそうだが、テレビCMだと公共の電波に乗せていいかって考査の期間を要するからな。どうしてもかかるときはかかる。
「勇くん――加賀美の撮影が始まるまでには放送されそうね」
冬城お姉さんが言った。そうらしい。ってことは、共演者には俺の実力が事前に知られてるってことか。初見の反応を楽しみたかったところではあるが、仕方ない。
「今回の制作スタッフから陽依ちゃんはとても評価されていたわ。仕事の情報も回してくれた。未だ無名ながら間違いなく『来る』子役。今のうちに使っておきたいんでしょうね。カレンちゃんと違ってまだスケジュールにも余裕がある。加賀美の撮影が始まればそちらにかかりきりになるでしょうけれど……だからこそ、それまでに使いたいんでしょう」
加賀美監督の撮影……その話も伝えているということか。意図的だな。あの加賀美勇に見出された天才、とでも演出したいのだろうか。願ってもない。
これがもうちょっと年齢を重ねてるとアイドルとしては不利に働く可能性もあるが――六歳だからな。さすがに問題ない。異性との接触に勘繰りを受けるなら早くても中学生になってからだろう。
もっとも、俺が中学生になる頃にはそういった勘繰りなんざ『必要ない』と蹴飛ばせるくらいの実力を証明しているつもりではあるが。
そういうわけで冬城お姉さんと仕事したり、たまに加賀美監督に呼び出されて話をしたり、今回撮影する映画の脚本家である白鷺文乃先生やその他スタッフさんとも話をしたり、あとは母さんや父さんに家族サービスでめちゃくちゃに甘やかされたりしていると目まぐるしく時間は過ぎ去っていった。光陰矢の如しはガチ。月日に関守なしだよな。
そして、加賀美監督の新作の撮影――に先駆け、俺とカレンが出演したCMの放送開始日である。そんな記念すべき日に俺がどうしているかと言えば、自宅で母さんと父さんといっしょにテレビの前に座っていた。娘の晴れ舞台なのだ。親バカ気味のあるこの両親であれば不思議なことではあるまい。
「そ、そろそろじゃない? そろそろよね。ど、ドキドキしてきた……」
「これから日本全国に陽依の可愛さが知れ渡ってしまうのか……くっ! 誇らしい気持ちもあるが、やはり心配だ……」
母さんも父さんもめちゃくちゃそわそわしている。挟まれる俺だけが冷静らしい。どんな出来かは試写で見てるし。なんならそれは母さんと父さんも同じだと思うが……それはそれ、これはこれらしい。なんかこそばゆい感じだ。愛され過ぎて。前世を含めても経験したことがないことだから。
そして放送。めっちゃかわいい。さすが俺とカレンだな。完璧なCMだ。きっと話題性抜群だろう。SNSなんかで反応を調べてみるのもいいかもしれない。善は急げだ。母さんか父さんにスマホを借りて――
「陽依ちゃん! 見た? 陽依ちゃん、テレビに映ってたわ!」
「陽依がかわいすぎる……いつも見る陽依もかわいいが、お仕事陽依のかわいさもまた格別だ。だがっ……! 陽依は! 僕たちの娘だ!」
むぎゅーっ、と両側から抱きしめられる。一回見たのにこんな新鮮な反応する? 陽依ちゃんびっくりだよ。悪い気持ちじゃないけどさぁ……。
結局その日はずっともみくちゃにされて寝るまで離してくれなかった。撮影でもらったインスタントラーメンをいっしょに食べて、何度もCMを見返して、お風呂に入って、歯磨きして、お布団に入って……ぜんぶ付きっきりである。こういうのは世間の反応を見るのがいちばんの楽しみだと言うのに。まあ最近は冬城お姉さんといっしょに仕事することが多かったりしてここまで両親と触れ合えることもなかったので許してあげることにしよう。家族サービスだな。陽依ちゃん優しい。
「反応は上々。問い合わせも多数来てるわ。スケジュールの都合が良ければ是非とも受けたいような案件もいくつか。……カレンちゃんとの共演も求められているわね」
結局、冬城お姉さんからそこんところは聞くことになった。へへ。気持ちいいぜ。SNSなんかで寄せられた感想を眺めるとそれだけで気分が良くなってくる。六歳の子どもにSNSの反応をそのまま見せるわけにはいかないと冬城お姉さんの検閲が入ってはいるが、俺が見たかったのは俺を称える文言だけなので何の問題もない。気持ち良くなりたかっただけだからな。もちろん冬城お姉さんには参考にしたいとかなんとか言った。それも六歳の子どもがすることじゃないだろって? 俺もそう思う。
それはそれとして冬城お姉さんの発言だ。仕事が来るのは大歓迎。カレンとの仕事もこちらからお願いしたいくらいだ。また会いたい。
ただ、今はそれよりも優先することがある。
「もっとも、加賀美の撮影が始まるから――新しく入れられる仕事は限られてくるでしょうけれど」
映画監督、加賀美勇。
彼の映画の撮影が始まる。
サキュスタ本編では撮影されることがなかった映画。
俺の名前を、望月陽依という名前を広く知らしめるための映画……その撮影が始まるまで、あと少し。
え? べつに俺の名前を知らしめるための映画じゃないって?
け、結果的にそうなるから……映画としても成功させるってことだし。
そう考えるとむしろ善良極まりない考えと言えるだろう。俺偉い。陽依ちゃんマジ聖女!
そういうことでよろしくお願いします。