異世界転生ってだけでもお腹いっぱいなのにチェンソーマンみたいな力ってマジ? 作:丸鋸
──死んだと思った次の瞬間よく分からない光景が広がっていた。
何言ってるか分からないって?俺も分からん。
世の中よく分からないことほど唐突に起きるってものなのさ。知らんけど。
前世の死因は……あれだ。チェンソーで木を伐採してたらぬかるみに足を取られて胸元に刃がざっくり。
やだ…!私の死因グロすぎ…!?
まあ冗談はさておき、あれは痛かったなあ。しゅごい痛かった。
痛かったですまるで済ませていいものかあれだけどとりあえず痛かった。
そんなこんなな経緯でよくわからん世界で赤ん坊になった訳だが……平和な暮らしとは程遠く、いわゆる捨て子だったわけで。とある老人に拾われ貧民街で暮らしたこの数年。
苦難苦労は多かったが別に不幸と感じたことは無いし慣れれば楽しいものだ。慣れってすごいね。
そんな俺には悩みの種はある。
確かに境遇とかも悩みの種ではあるけどもう開き直ってるし気にしてない。そんなのより別だ。
「"ロム爺"さんや。やっぱこの"ヒモ"については分からないかね?」
「さっぱりじゃなあ。ワシも長いこと生きてるがそんなもの見た事ないし聞いたこともない。多少調べて見たが……なんも分からずじまいじゃ」
目の前の巨大な老人の言葉に頭をポリポリとかく。
ロム爺。俺を拾ってくれた恩人。
雨風しのげる場所を提供してくれた心優しき強面の巨人さんだ。
そんな老人の前で上裸の俺は胸元からチョロっと生えてる紐を指で弾いた。
なんなのか分からない"これ"。ぶっちゃけると心当たりはある。でも"ソレ"が正解だと思いたくない。死因のせいなのか?つくづく嫌な死に方したもんだよほんと。
「そういえばそろそろ"フェルト"が帰ってくる頃じゃな」
「もうそんな時間か。今度は何を盗んでくるんだろうねえほんと」
「お前さんも何か"スって"来ればいいんじゃないか?」
「手先器用じゃないのって。失敗して捕まるのはゴメンだよ」
そんなことをボヤきながらボロボロのTシャツを着る。
この生活に慣れてきたは良いが、そろそろ新しい服が欲しいな。さすがにボロっちい。
「……そろそろ服の替え時じゃな。なにか見繕っておくか」
「お、マジ?サンキュー」
やったぜ。
ガッツポーズをしながら暗くなってきた外に目を移す。
窓ガラスに反射する我が身。黒髪のギザ歯。目は死んでいて体は少し痩せ気味の不健康そうな見た目。
……なんて言うか似てるなあ。金髪が黒髪になっただけでほぼ"あのキャラ"だろこれ。
「おっす!帰ったぜー!」
ドアがバンと開きそこから入ってきた一人の少女。
元気よく声を出してを手を上げている彼女は"フェルト"。俺を拾ったロム爺と一緒に過ごしていた少女。そして現在は俺の家族でもある。
「今日は何を盗んできたんだ」
「フッフーン。今日は貴族の家に忍び込んでちょいと宝石をいくつかね」
「ヒュー度胸あるぅ〜」
小柄な体躯、そして俺より年下のくせにこういう度胸はすごいものだ。
俺は手先は器用じゃないしすばしっこい訳でもないからこういうことは出来ない。
ネズミ泥棒的なあれでちょっと憧れるんだよなあ。
にしても腹減った。
「……宝石って食えるんかなあ」
「「っ!?」」
「無理だろ…」
「さすがにやめておいた方がいいと思うんじゃが…」
「そこはほら。食ったヤツがいないだけで食おうと思えば意外と…」
「食えたとしても腹壊すだろ」
「腹壊して出すもん出したら余計に腹が減るぞ」
「……んじゃやめとくか」
食えると思ったんだけどなあ。いやまあ消化に悪いか。
……この生活を送ってたせいで見境がなくなっちまってる。人間の適応能力ってすげーなー。
「まあ時間も時間じゃ。飯を食うぞ」
「よっしゃ!」
「また腐りかけのパン?」
「まあそういうのしかないからのお」
「腐ってもパンはパン。今更腐りかけ食っても腹は壊さねえだろ?」
「たまには肉とか野菜が食いたいねえ」
「贅沢もんじゃな…」
「おい、フェルト。明日は食いもん盗ってこいよ」
「やだよ。金になんねえ。そんなん言うなら"デンジ"がとって来いよ」
「…………」
デンジ……デンジかあ。
これは俺が親に捨てられた時に傍らに紙が置かれていたらしくそこに書かれていた名前らしい(ロム爺談)
いや、まさかね。そんなはずはないよね。俺の胸の紐は違うよね。やだよぉ俺。
「まあ明日農作業の手伝いの仕事行ってくるし、その時貰えるもんあったら貰ってくるわ」
「デンジは男のくせにそういうことばっかするよな」
「全くじゃ。貧民街の住人なら、貧民街の住人らしく盗みでも働いてこい」
「すげえ怒られ方するじゃん俺」
倫理観とか無いの?人の心はどっかいった?
教えはどうなってんだ!教えは!
「いいから早く食うぞ」
「そうだぞ早く座れ。お前の分まで私が食うぞ」
「……ういうい」
まあでもやっぱりこんな生活も悪くは無いな。うん。
▽▼▽▼▽
やっばい。油断してた。
走る足が痛み出してきて、さらに肺が苦しく息も上がってくる。
後ろを振り返れば犬のようで犬じゃない化け物が2桁弱追いかけてきていた。
この異世界には"魔獣"がいる。
農作業の手伝いという名目でやってきた場所。依頼主はいい人だった。それなりにお金も貰えたし、少しばかり食料も貰えた。
ただその帰り道。
日も落ち辺りが暗くなってきた時間帯。
思ったよりも遅くなってしまったから少しばかり近道をと思い森の中に入ったのがいけなかった。
最近街で耳にしてた魔獣の異常発生。
まあなんて言うか、魔獣の群れに鉢合わせてしまったわけで。
全くとんだ厄日だ。
幸い、この世界に来てあんな生活していたおかげで自分の命に対する執着的なあーだこーだは薄れてきていたからよかった。
昔の俺だったら慌てふためいて、なんなら泣いてたね。
「……っと、行き止まりかい」
道を間違えたか。なんてこった。
目の前には壁のような絶壁。
後ろを振り返れば睨む魔獣がたーくさん。
あらヤダ怖いお目目に噛まれたら痛そうな牙。
「グルルルルルゥ……!」
「あーもう!分かったよ!使えばいいんでしょ使えば!」
使いたくはなかった。だってあれ使うだけで痛そうだったし。
まあ、命に無頓着とはいえ死にたいわけじゃない。やるしかないか。
胸元に手を入れ、紐に指をひっかけ、そのまま思いっきり──
──その瞬間、体の内側からエンジンを吹かす音が聞こえた。
「デンジのやつ遅いのお」
「……死んでんじゃね?」
「縁起でもないこと言うな」
貧民街の盗品蔵。
そこにロム爺とフェルトはいた。
外は暗く、2人が待つのは"デンジ"。
「魔獣が異常発生してんだろ?しかもこんな時間。有り得なくもねえって」
「むう……!」
冷たいような発言をするフェルトだが、その体はソワソワと小刻みに揺れている。
そんな彼女の様子にロム爺は傍に立て掛けられていた棍棒を手にし立ち上がった。
「ワシが迎えに行ってくる」
「……私も行く」
「いやフェルトは待っておれ。すぐ帰る」
そんな会話をしていると、扉がギギッとゆっくり開く音が聞こえた。
そこからゆらりと入ってきた一人の人物。
「デンジ…!?」
「な、なんじゃその格好…!」
そこに居たのは全身血まみれの顔を真っ青にしたデンジだった。
「血が足りねえ、頭がクラクラする。飯食いてえ…」
続くかな、続けたいなあ。