これを機に原作小説を追っていこうかと思っている者です。
その日、鬼族の村にとって重大な事件が同時に2つ起きた。
一つは、不吉の象徴とされる一本角の双子が生まれたこと。
そしてもう一つ、それは双子ではないのに、何故かある筈の角を片方失った赤子が生まれ落ちたことだった。
◆◇◆◇◆
里にとって容認できぬ忌み子、一本角の双子。
更には同時期に生まれた未知の一本角の赤子。
本来ならばそれらは里の害になる前にすぐさま処分されるもの。事実、掟によりその命はすぐに絶たれる筈だった。
しかし、それらはその存命を許された。その
赤子にも関わらず恐らく妹のためにその力を示したラム。そして、自らの命の危機にその有り余る力で抵抗してみせたスイ。両者、鬼として凄まじい素質を備えた存在だった。そして、村の皆々はその力に人目置かざるを得なかった。その才を潰すことができなかったのである。
彼女らはすくすくと成長し、期待通りにその才覚を遺憾なく発揮し、神童と言われるまでになった。
ラムはその角の力を使えば簡単に滝を割り、スイは村随一の腕利きでさえ正面から伸してしまった。
ラムの妹であるレムに関しては姉に才能を持っていかれたらしく、その力は神童たる姉には遠く及ばなかったものの、ラムの手綱を握るために大いに役立つと、村の聡い者はその価値を認めていた。
彼女らは境遇が似ていることもあり、共にいることが多かった。ラムとスイは同格の相手である互いを遊び相手として重宝した。さらに、世話好きな性格であったスイは、レムを大変に可愛がった。
そうして彼女らは平穏が終わる日まで、その幸福を享受していた。
◇◆◇◆◇
――sideスイ
突然だが、私には人としての前世というものがあったらしい。というのも、私は赤子の頃から妙に自意識がはっきりしており、普通の赤子とは異なっていた。そして、薄っすらとではあるが、前世の記憶というものがある。前世の名前も覚えてないし、記憶の内容も曖昧だ。
何年も前に読んだそこそこハマってた小説ぐらいの感覚といえばしっくりくる。……分かりづらいだろうか? ――まあいい。誰に聞かせるでもないことだ。
そんな私だが、なんと生まれたばかりで殺されそうになった。後から知ったことだが、なんでも私の生まれたこの鬼族の村では、1本角の鬼は忌み子として村に害が出る前に処分してしまうそうだ。
ちなみに、私の知っている他の一本角の鬼族はおでこの真ん中に1本の角があるのに対して、私は何故か左の角だけ生えておらず右にだけ角が生えた、バランスの悪い一本角である。まるで角を折られたみたいですごく嫌だ。
当時自我のはっきりしていた私は、死への恐怖からほぼ錯乱状態になりながらがむしゃらに手足を動かした。
幸いにも、私にはかなりすごい才能があったらしく、赤子でありながら魔法の発動に成功し、その才能を認められて難を逃れた。
そうして力が認められて見逃されたものだから、力を示し続けなければいつ殺されるか分かったものではない。
私は、決して自己鍛錬を怠らなかった。生身で岩を砕き巨木をもへし折ることのできる肉体も、全系統のマナすべてに適性がある上にその制御も大人と遜色ないと言われた魔法も、里の誰よりも努力してさらに磨き上げた。
さらに鍛錬を続けると、私の内に宿る特異な力も自覚することができた。
ソレは、【加護を無効化する力】。加護が勝負を左右するこの世界において、ルールを壊してしまいかねない能力だ。
自覚したきっかけは鬼族の加護持ちと手合わせした際。
私や、私の行動に対して干渉する加護が効果を発揮しなかったのだ。私自身も、その瞬間に自分の力で加護を無効化したという実感があった。まるで暑い時に汗をかくように自然に、私の力は加護を弾いた。
村の大人達はすごい加護だと言っていたが、私の勘だと、この力は加護とはまた別の力であるような気がする。見せてもらった加護の力と私の力は、根本的な部分でズレている気がしたのだ。まぁ直感だが。
もしかすると、前世の記憶があることが影響しているのかもしれない。
また【加護を無効化する力】の二次効果のようなもので、【魔法を減衰させる力】もあった。その効果により、私には魔法の効きも悪い。魔法に対する抵抗力が高いとでも言うべきか、加護のように完全に無効化できるわけじゃないが著しく威力を減衰させることができる。
どちらもとても強力な能力であり、私の強さを際立たせる能力だった。
規格外とまで呼ばれた圧倒的な才能に大人顔負けの努力、そして特異な能力。
だが、村には彼女の存在があった。私でも簡単には勝てない存在。そう、同い年にして、同じ1本角の神童、ラムである。
彼女の力は凄まじかった。大人にも負けたことのなかった私の魔法が、風の魔法のみで言えば完全に遅れをとっていた。鬼としての単純な才能でいえば、間違いなくラムの方が上だったのだ。
ラムがもし双子の妹よりも自己鍛錬を優先していたのなら、私はこうしてラムと競い合うこともできなかっただろう。
ラムに出会った日から、私は彼女を勝手に好敵手認定し、毎日のように彼女のもとに訪れていた。
そこで、私はラムの双子の妹とも知り合うことになる。彼女の名は、レム。本当にラムとそっくりの子だった。
でも、姉のように特別な力があるわけではなかったからか、いつもなんだか自信無さげで、大人しい子だった。
――正直に言おう。レムは可愛い。とてつもなく可愛い
初対面では余りにもラムに似ていたものだから、どうしてもラムにイメージが引っ張られていたが、そのラムとのギャップに、大いに萌えた。なんというか、母性が湧いてきた。褒めちぎって、よしよしして、抱きしめてあげたい。そんな気持ちになった。……我ながらちょっとキモいな。
それからというもの、私はラムに勝負を挑み、レムのお世話をする生活が習慣となった。
ラムとの勝負は楽しかったし、レムはずっと可愛かった。
◇◆◇◆◇
その日、鬼族の平穏は突如として失われた。
彼ら――魔女教が鬼族の里を襲撃してきたのである。
里の民は次々に殺され、里は火の海と化した。
そんな中、懸命に抵抗を続ける者達もいた。その中の一人が、スイであった。
「みんな! こっちに集まって! 私が守る!」
生き残った皆を集め、スイは迫りくる魔女教を相手に奮戦していた。
「【ウル・ゴーア】! 【エル・ドーナ】!! はぁ、はぁ、はぁ……これが、人を殺す感触――うぷっ…!」
スイにとって、初めての実戦。そして初めての対人の殺し合いだった。
嫌な感触が手に残る。
もう何人も、その拳で、魔法で、人を殺していた。
「ッ…! きりが無い――【ウル・フーラ】!!」
吐き気に耐え、四方から襲ってくる敵を魔法で薙ぎ払う。
嫌だなどとは言っていられない。里の腕利きはほとんどが殺され、己が戦わねば後ろの皆の命はないのだ。たとえ殺されかけたとしても、たとえ対等な関係でなかったとしても、彼らは同じ里の仲間だ。そんな人々を見殺しにできるほど、彼女は賢しい者ではなかった。
『ズバッ』
「ぐっ…! このッ――やぁ!!」
死体に紛れて隠れていた敵の刃が彼女の左腕を切り裂いた。すぐさま殴り飛ばすが、隙ができたところに、次々と魔女教が殺到する。
「しまった…! みんな!!――ぐっ、そこを退けぇえええ!!」
咄嗟に助けに入ろうとするが、もう遅い。
スイの守りを突破された人々は成すすべもなく殺されていった。戦いに向かない者達に魔女教から逃れる術はない。敵に妨害され、スイは助けることも敵わない。
数秒の後、残ったのは無残な死体達だけだった。
「あ、あぁあ……嗚呼アア!! アル・ゴォーアァー!!」
守る者を失い、やり場のない感情を、魔法として魔女教へぶつける。
彼女の魔法は、守っていた者達の亡骸ごと、近くにいた魔女教徒を焼き尽くした。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
スイは歩いた。最早守るべき者はいない。目に映るのは、焼ける家屋と昨日まで普通に歩いていた里の仲間の苦痛に顔を歪めた死体のみ。
「レム、ラム……」
彼女はうわ言のように呟く。
皆を守れなかった彼女の心中にあったのは、彼女のたった二人の友の姿だった。
自らの好敵手であれば死ぬはずがないと、戦えない者達の守護を優先し、救援に行かなかった彼女らの姿だった。
「大丈夫。きっと、二人共無事の筈……」
よろよろと歩きだすスイ。左腕を含め身体には幾つもの切り傷が残っており、血が流れている。鬼化の回復力により少しずつ回復してきてはいるがダメージは浅くない。
どうやら、彼女は通常の鬼よりも回復能力が鈍いらしかった。今まで大きな傷を負ってこなかった彼女には気づけなかった欠点だ。
「……あ」
いつの間にか周囲を囲まれていた。
ボロボロの少女に対して過剰極まりない人数が、彼女に敵意を向けている。
スイの胸に、再び抑えがたい憤怒の炎が燃え上がった。
「いい加減……」
彼女にマナが集まっていく。彼女の体内のゲートが軋み、膨大なマナに身体が悲鳴を上げている。
「消えろ…!【エクスプロード】」
瞬間、凄まじい爆音と共に、辺り一帯が消し飛んだ。彼女にかろうじて理性が残っていたのか、集まったマナに反して爆発の範囲はそこまで大きくなかった。だがそれでもその威力は絶大。その場にいた魔女教徒は骨すら残さず消え去った。
好敵手ラムを驚かせるために彼女が開発していたオリジナル魔法。未だ未完成だった、超広範囲爆撃魔法である。
『ミシッ』
身体から嫌な音が聞こえる。無茶をしたスイのゲートは、致命的ではないもののその形を歪めさせていた。
身体へのダメージも大きい。左腕は衝撃のためにもう千切れそうなほどの有り様で、身体中の骨が軋んでいた。血も止まらず、正に満身創痍である。
「……いかなきゃ」
それでも、彼女は歩みを止めない。最早、彼女の頭には自分の状態への関心など欠片もなかった。ただ友の下へ向かうことだけを考え、痛みすら感じなくなった手足を動かした。
――そして、
「……スイ、姉?」
声が、聞こえた。もうほとんど何も聞き取れないスイの耳にも、彼女の声ははっきりと聞こえた。
ゆっくりと顔を上げる。
「れ、む」
そこには、悲痛な顔でこちらを見つめるレムの姿があった。視界が霞んでよく見ることができないが、無事なようだ。
後ろには、よく顔が見えないが豪華な服を着た誰かが立っているのが見える。ラムは彼に抱えられて、眠っているようだった。
「よ、かった……ふたりが、ぶ、じ……」
スイの視界が揺れ、前のめりに倒れる。
「スイ姉!!」
そのレムの叫びも届かず、スイの意識は深い闇に沈んだ。
◇◆◇◆◇
その後の話をしよう。
その後、ラム、レム、スイの三人は、彼女らを救ったロズワール・L・メイザースの屋敷で、メイドとして働くことになった。
レムは魔女教の襲撃を経て何か思うことがあったのか、メイドとして尋常でない努力を積み、三人の中で最も仕事のできるメイドになった。
ラムは先の魔女教襲撃の際レムを庇って角が折れ、その影響でロズワールの助けなくして生きていけない身体となり、かつての力を失った。それでも、ロズワールの忠実なメイドとして、残った力を存分に振るっている。
そしてスイは、左腕を失い、義手をつけることになった。彼女は鬼としての回復能力が乏しい他、【加護を無効化する力】の二次効果である【魔法を減衰させる力】によって、回復魔法の効きも悪い。故に、左腕の傷を治療できず、斬り落とすしかなかったのだ。
更には、ゲートにも後遺症が残ることになった。再び本気で魔法を使えば、耐え難い苦痛が彼女を襲い、最悪の場合、ゲートが壊れて体内のマナを放出できなくなってしまうという。
こうしてラムと並ぶと言われたスイ自慢の魔法は、今では真の力を発揮できなくなってしまったのだ。
だが、本人はこれを仕方ないと受け止めた。そして、ラムとレムを救ったロズワールに大いに感謝し、忠誠を誓った。
メイドとしての仕事も精力的に熟し、またロズワールの依頼から後ろ暗い任務もこなすようになった。
こうして三人は、
過去編はかっ飛ばしていきました。オリ主の紹介回のようなものなんで。
――正直、過去の日常を描いてたら原作入るのにどれくらいかかることか……書きたいのあるけど…! 書きたいのあるけど…!!
オリ主の固有能力紹介
【加護を無効化する力】
正式名称不明。文字通り自らの肉体、自らの行動、そして自らの行動の結果に対して干渉する加護を無効化する。魔女などの権能にも有効。
例えば、ラインハルトに初撃を食らわせられるし、【不死鳥の加護】を発動させずに殺すことも可能。
ペテルギウスの【見えざる手】では彼女に触れられないし、シリウスの感覚共有も効かない。また彼女の感情を変質させることはできないし、彼女に対する他者の感情も変質させられない。
ただ、【見えざる手】で投げた岩とかは普通に当たるし、シリウスの感覚共有も彼女以外の者になら彼女がいても問題なく使える。つまり、彼女がシリウスを殺した際、彼女以外の周りの人間が死ぬことには変わりない。