メイド姉妹の幼なじみは鬼がかってる   作:なゆさん

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いつ区切るか分かんなくなった挙句投稿し忘れてそのまま丸一年経ってた。反省。


3話〈最初の出会い2〉◆

あの後、とにかくサテラ改めエミリアを探そうと、あのときの盗品蔵に向かった。

途中、再び現れたチンピラ三人に絡まれたものの自力で倒し、昼頃には盗品蔵に辿り着いた。

あの夜死んでいた筈のロム爺という大男とも会うことに成功し、フェルトもそこに合流。徽章を買い取るために、携帯を交換に出し、あと一歩で交渉成立というところまで持っていった。

だが――フェルトが連れてきた依頼主エルザ。彼女は化け物じみた身体能力を持った殺人鬼だった。

彼女がロム爺とフェルトを斬り捨て、抵抗虚しく俺も腹を斬り裂かれた。

またあの熱さと痛みを感じながら、俺の意識は沈んだ。

 

 

 

気がつけば、再び果物屋の前にいた。

 

「ハハハ……なんなんだよ一体…?」

 

訳も分からず、精神的に限界だった俺はぶっ倒れた。

 

果物屋の店主に水をぶっかけられ目を覚ましたとき、彼女の姿が視界に入った。あの時守れなかった、銀髪の彼女に。

咄嗟に飛び起きて彼女の下へ向かった。

 

「ま、待ってくれ! 頼む、待って! 待ってくれ! サ――エミリア!」

「――え? あなたは誰? 何か用?」

「は? いや、俺だよ俺。ナツキ・スバルだよ! 自己紹介しただろ? 君はサテラなんて偽名を使ったけどよ!」

「――何、あなた? 私、誰にも嫉妬の魔女の名前なんて名乗ったことはないわ! 冗談にもならないわよ!」

「え――いや、ちょっと待ってくれよ! 前と言ってることが違う――」

「訳の分からないことを言わないで。……用がないなら行くわ。私も暇じゃないから」

「ちょっ……」

 

瞬間、視界の端に素早く動く人影を見た。

 

「――フェルト! あっ!」

 

エミリアが歩き出したタイミングで、フェルトが人混みを掻き分けてエミリアに近づいた。あっという間に彼女に追いつき、すれ違いざまにポケットの中にあったであろう徽章を奪って去っていく。

 

「やられたっ! このための足止め……あなたもグル!?」

「ち、違う!」

 

咄嗟に否定するが、到底信じてはもらえない。彼女は一瞬俺を睨んで、すぐに背を向けてフェルトを追い始めた。

 

「ち、ちょっと待て! 誤解だ! 俺は――あっ……」

 

弁明の暇もなく、あっという間にフェルトもエミリアも俺の前から消えていた。

二人を追いかけ走り回ったが、結局体力が尽きて追いつくことは叶わなかった。

 

「ハァ、ハァ、誰かもっと俺に優しくしろよ…! ハァ、ハァ、…何のための…ハァ、ハァ、…異世界召喚だよ!」

 

愚痴りながら路地裏を進む。すると、

 

「てめえ、何ブツブツ言ってんだ? 痛え思いしたくなきゃ出すもんだしな! へへへへ……」

 

見飽きた三人のチンピラの姿があった。

 

「テメェらいい加減にしろよ!! 性懲りもないにもほどがあるだろうが!!」

 

2度も痛い目に遭っていながら未だ俺を標的にするとは。その執念深さは驚嘆に値する。

だが、それを向けられる側からすればたまったものではない。

 

「何だその態度は!」

 

またリーダーっぽい男が刃物を取り出す。これも1度目に見た光景だ。いい加減にしてほしい。

 

「邪魔だ! 行かなきゃならないところがあるんだよ!」

 

と、速歩きで奴らの脇を通り抜けようとした。――が、

 

『トスッ』

「――え?」

 

感じた覚えのある熱が再び腰の後ろ辺りから現れ、俺は堪らず倒れ込んだ。

 

――冗談じゃねえ。痛い、熱い…!

 

「ああ……やっちまった…」

「おい、刺しちまったのかよ!」

「違えよ! こいつが勝手に自分からぶつかってきて―」

 

三人の声がやけに遠く聞こえる。

 

『ブシュッ』

「ごぁっ…がぁ…!」

 

ナイフが背中から引き抜かれる。

痛みから声を出そうとするが、血とともに喉から何かが詰まったような音だけが出た。

 

「何やってんだお前!」

「だってもったいねえだろ! 何か、何か金目のモンでも持ってけ!」

「ああ、待った! 衛兵がすぐに駆けつけてくる!」

「――あれ? ちょっと君たち! 何やってんの?」

「な、ナニモンだテメェ!」

 

三人の話し声、そして聞き覚えのある声がした。

振り返ろうにも身体は鉛のように動かない。もう、燃えるような背中の痛み以外身体の感覚も消え始めていた。

 

――あれ?

 

ふと、持っていたビニール袋の中から、コーンポタージュ味のスナック菓子が覗いているのが見えた。

 

――おかしい。アレはロム爺に食われたはず…何でだ…? これは、ひょっとして……

 

『あ―――、残―――どもう助け――ないな。』

 

聞き覚えのある声とともに、人影が視界に入る。

 

『さっ――果物屋―――お兄さ―――。ご愁傷――』

 

こちらの顔を覗き込んだのは、確かにあのメイド服の女性だった。最後に会ったときのあの冷酷な表情が脳裏をよぎる。

でも、霞んでよく見えない彼女の表情には、少なくともあのときのような冷たさはない気がした。

 

『――せめて、楽に逝けるようにしてあげよう』

 

そんな声が、やけにはっきりと聞こえた。彼女の指が優しく俺の額に触れる。

瞬間、ずっと止まなかった筈の激痛が消えた。それどころか、むしろ少し心地よい感覚に陥る。

そして、まるでベッドで眠りに落ちるように俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

「――兄ちゃん。リンガは?」

 

目を開けると、再び見覚えのある顔と目があった。

 

「なぁ、オッチャン」

「ん?」

「俺のこの顔見るのって、何度目?」

「何回も何も初めてだろうが」

 

予想通りの返答。自らの仮説が正しいことを理解する。

 

「で、兄ちゃん。リンガは?」

 

少し語気を強めた店主。彼があまり気が長くないことは、よく知っていた。その割にはしっかり父親をしていることも。――向こうは知らないと思っているだろうが。

 

「フッ――悪いけど、天壌無窮の一文無し!」

「とっとと失せろぉ!!」

 

騒がしい表通りに、大きな怒声が響き渡った。

 

「うわわ、びっくりしたぁ! オヤジさん、ちょっと落ち着きなよ」

 

とそんな声とともに、店主に言われた通り失せようとした俺の横からヒョイと顔が覗いた。

1度目はリンガを分けてくれて、2度目は刃物を突きつけられたもののエミリアの名前を教えてくれたメイドさんだった。

 

「それにしても、無一文なのにこんなところに来るなんて物乞いにしても珍しいタイプだねぇ。面白くて気に入ったよ――オヤジさん、リンガ2つ〜」

 

そう言って、以前と変わらぬ様子でリンガを投げ渡してくる彼女。――そういえば、一度も礼を言えてなかったな。

 

「ありがとな、綺麗なメイドさん!」

「お? 上手だねぇ君。褒めてもこのくらいしか出せないぞぉ?」

 

と、彼女は俺の掌に金色の硬貨を1枚落とした。

 

「お、おいこれって――!」

「大盤振る舞いってね〜! まっ、ちゃんと働いて出世払いで返してよ!」

 

そう言って、彼女は人混みに紛れて消えていった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「財布、携帯…コンポタにカップ麺、ジャージとスニーカーもほころびナッシング。そして当然――」

 

背中の傷もお腹の傷もない。

 

「フゥー、よかったぜ。背中の傷とか、マジ剣士の恥だかんな」

 

――さて…こんだけ状況証拠が揃うと、流石に認めるしかねぇか。

 

今までの三度の致命傷。そしてその前後の人々の反応。時間の経過。所持品。そして自分の汚れと傷。

 

――ちょい信じがたいけど、つまりアレだな。

 

「――タイムリープ。しかも、死ぬたびに初期状態に戻る、名付けて――【死に戻り】!」

 

それで、すべての辻褄が合う。合ってしまう。二度目に会ったときのエミリアの反応も、果物屋の店主が毎度俺の漫才につきあってくれるのも。つまりは皆、初対面だったってことだ。

 

「せっかくのタイムリープ能力なのに、死ななきゃ発動しないって負け犬前提が、いかにも俺らしい」

 

どこぞの主人公みたく、どんな困難も覆し勝ち続けていくような華々しい能力は、残念ながら俺には不釣り合いらしい。

 

「時間をさかのぼったってことは、この四度目の世界じゃサテ――エミリアは俺を助けてない。つまり、返すべき恩義もきれいさっぱりなくなっちまったってことだ」

 

――もしかすると、恐らくかなりの金額になるだろう金貨を見返りなく渡してくれたあの美人のメイドさんにこそ、恩義を返すべきかもしれない。怒ると怖いけど。

 

「だったら別に危険を冒す必要もねぇ。とっととケータイ売っぱらって、軍資金作って、現代知識で異世界ウハウハライフだ! あのメイドさんへの恩返しも、次に会った時にすればいい。もしかしたら、いい関係になれるかも――ハハッ、夢が広がるぜ! なあオッサン!」

「な、なんだね急に。なぁとか言われても、知らないよ私は」

「何だよ冷てぇなあ」

「よそ者の面倒事に関わるのはゴメンだよ。話しかけないでおくれ」

 

勢い余って何の関係もないオッサンにダル絡みしすぎてしまったらしい。

 

――ま、どこの世界でも触らぬ神に祟りなしってのは一緒か

 

そんな感想が浮かんだ。そりゃそうだ。皆、今を生きるので精一杯なのにどうして好き好んで面倒事に首を突っ込まなきゃいけないんだ。

 

――でもよ、自分が切羽詰まってでも人のこと助けちまうお人好しもいんだよな……。あのメイドさんみたいに気まぐれの施しじゃなく、大切な物を盗まれてそれどころじゃないってのに、無関係の役立たずを助けて、治療までしてやって…そんでもってその役立たずの自己満足につきあって……

 

あのときの光景が蘇る。1度目の死に戻り、俺の横に倒れ、血を流していた彼女。

たとえエミリアが俺と知り合ってなくとも、フェルトは徽章を盗み、そしてエルザのやつが――。

そこんとこは何度繰り返しても変わらない。歴史の強制力ってやつか?

 

「――ええい!」

 

――やっぱ、いっぺん知り合った奴らが殺されるって分かってて……

 

度を超えて優しいエミリア。なんだかんだ面倒見がよく、フェルトのついでだが確かに最後まで俺を助けようとしてくれたロム爺。徽章を盗んだ悪党とはいえ、気安く話して短い間だが打ち解けたフェルト。皆、確かに俺と関わって、俺を認めてくれていた。嫌いになんかなれない。無関心になんてもっとなれない。

 

「――見過ごすのは無理だ!」

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

息切れしながら、果物屋まで走って戻って来た。

 

「なぁ、オッチャン」

「何だ一文無し」

「ハァ、ちょっと聞きたいんだけど、ハァ――この辺でスリ騒ぎとかなかったか?」

「何も買わずに質問とか、いい度胸してんな。まぁあの嬢ちゃんが2つ買ってくれたのはアンタがいたからだが」

 

――やはり、初対面だと厳しいだろうか

 

「そんな騒ぎなんか珍しくも何ともねえよ。だが、さっきのは珍しかったな。通りで2、3度魔法がぶっ放された。ほらあそこ。つららが矢みたいに飛んで、突き刺さった跡だ。すぐに消えちまったがな」

 

間違いない。エミリアだ。

 

「出遅れたか。徽章が盗まれるのを阻止すればひょっとしてと思ったけど」

「何がひょっとしてだ?」

「ああ、こっちの話だ。だけど…ありがとな、オッチャン。何も買ってないのに、教えてくれてよ」

「大したこっちゃねえ。ついさっき、アンタと同じ無一文に迷子の娘が助けられたばかりなんでな」

「―――」

 

――これも運命の強制力、か

 

「フフッ」

「何笑ってやがる」

「何でもねえ。――貰いもんだけど、コレやるよ!」

 

『ヒョイ』

 

「おっと。何だこりゃ――ってアンタ! コレ金貨じゃねぇか!」

「おう! 質問の代金だ。盗んだもんじゃねぇから安心してくれ。つりは要らねぇぜ!」

 

あのメイドさんには悪いが、オッチャンにお礼として金貨を渡し、走り出す。

 

「こうなりゃ方法は一つだ。エルザが盗品蔵に行く前に、フェルトから徽章を買い取ってエミリアに返す!」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

それから、チンピラ三人組を衛兵を呼んで対処し、そのおかげで“剣聖”とかいうカッコイイ肩書を持った衛兵ラインハルトと知り合いになった。

だがエルザの件に巻き込むのも気が引け、結局はエミリアに伝言を頼んで別れた。

その後、貧民街へと向かうがエルザと出くわすというアクシデントが発生。恐怖や敵意まで見抜かれて絶体絶命だったがなんとか見逃され事無きを得た。

それからフェルトのねぐらへ。切られそうになったもののなんとか事情を説明したが、結局その場で徽章を交換することは叶わず携帯をロム爺に鑑定してもらうことになった。

 

 

そして――

 

『トントン』

 

フェルトとの交渉が難航している最中、ノックの音が響いた。

 

――エルザだ

 

あの光景が鮮明に蘇る。片腕を切り飛ばされ喉を抉られて死ぬロム爺と、肩から胸元まで切り開かれ倒れ伏すフェルト。その光景が、その元凶が、近づいてきている。

 

「誰じゃ?」

「アタシの客かもしんねえ。まだ早い気がするけど」

 

不味い不味い不味い。ここに居るメンバーじゃエルザには太刀打ち出来ない。このままだと皆死ぬ。なんとかして止めないと。

 

「開けるな!」

「ん?」

「こ、殺されるぞ…!」

 

喉から絞り出した忠告も虚しく、フェルトは扉を開けた。

あの薄ら笑いがもうすぐ見える。おしまいだ。エルザが来てしまえば、ここにいる誰一人として生き残れない。あのときの焼き直しだ。

 

 

「殺すとか、そんなおっかないこといきなりしたりしないわよ」

「あっ……」

 

 

だが、そこに立っていたのは悪魔(エルザ)ではなく、天使(エミリア)だった。

 

「うあっ!」

 

フェルトが顔をしかめる。そりゃそうだ。盗んだ徽章の持ち主を招き入れてしまったのだから。

 

「よかった居てくれて。今度は逃がさないから」

 

剣呑な雰囲気のエミリア。だが俺は、それよりも単純な疑問を頭に浮かべていた。

 

――どうしてエミリアがここに? まだ明るい時間なのに……ひょっとして、俺がいなけりゃこんだけ早くたどり着けたってことか?

 

己の不甲斐なさを突きつけられ、軽くショックを受ける。

俺がそんなことを考えている間にも、事態は進んでいく。

 

「ホントしつこい女だなアンタ。いい加減諦めろっつうのに!」

 

後退りながら悪態をつくフェルト。

 

「残念だけど、諦められない物だから。おとなしくすれば痛い思いはさせないわ」

 

そう言って、エミリアはかなり大きなつららを幾つも作り出した。彼女の意思次第で、この凶器達がフェルトに襲いかかるのだろう。

 

「私からの要求は一つ。徽章を返して。あれは、大切な物なの」

 

その表情は真剣そのもの。今まで見たことのない顔だ。

 

――そんな凛々しい顔も可愛いと思ってしまう俺はもう重症だろうか。

 

「むぅ。ただの魔法使い相手ならワシも引いたりせんがこの相手はまずい」

「何だよロム爺! ケンカやる前から負け認めんのか?」

「――お嬢ちゃん。アンタエルフじゃろ?」

 

エミリアは少し黙って、ため息をついた。

 

「ハァ――正しくは違う。私がエルフなのは半分だけだから」

「ハーフエルフ? それも銀髪!? まさか……」

「他人の空似よ! 私だって迷惑してるもの」

 

訳の分からない会話が続き、疎外感に少し寂しくなる。

 

「兄ちゃん。さてはまんまとアタシをハメたな?」

 

と、思っていたらフェルトの矛先がこっちを向いた。

 

「は? いや俺は何も――」

「持ち主に返すとかおかしなこと言いやがるから怪しいとは思ってたんだ!」

 

フェルトが言いがかりをつけてくる。

いや本人にとっては言いがかりというより本当に怪しいのだろうが、見当違いも甚だしい。

 

「どういうこと? あなたたち仲間なんじゃないの?」

 

そう聞かれ、やはり覚えられていないことに寂しさを覚える。分かってはいた事だが――

 

「――お?」

 

エミリアの胸のあたり。見覚えのある花が添えられていた。最初の世界で、迷子の女の子を助けた後果物屋であの娘がエミリアに渡した花だった。

 

――この子の心根は世界を何度繰り返しても変わってない。

 

「……フッ」

 

思わず場違いな笑みが漏れる。

 

「何だよてめえ! 何笑ってんだ!」

「まあまあいいじゃねえか! フェルトは徽章を返してやれよ。そんでエ……君は早くここから出てく。もう取られたりしないようにな」

「何で急に親身になってくれてるの? 私すご〜く釈然としないんだけど」

「納得いかねえのはアタシも一緒だよ兄ちゃん! アンタ何なんだよ!」

 

二人に問い詰められながらも、なんとかなりそうな雰囲気に少し安堵して、俺はふと扉の方を見た。

 

「――うっ!」

 

そこに見えたのは、かつて自分の腹を裂いた凶器。エルザのククリナイフだった。

 

「パック! 防げ!」

 

『ガンッ』

 

氷の障壁に阻まれ、ククリナイフは弾かれた。

 

「なかなかどうして、紙一重のタイミングだったね。助かったよ」

「ナイスパック! まだ5時前勤務時間内で助かった。あんがとよ!」

 

なんとか奇襲は凌げた。だが、エルザはまだ健在だ。危機的状況に変わりはない。

 

「精霊…精霊ね。フフフ、素敵。精霊はまだお腹を割ってみたことないから――ウフッ」

 

いつもの薄ら笑いを浮かべ、ククリナイフを構えるエルザ。

 

「おい! どういうことだよ!」

「持ち主まで持ってこられては商談なんてとてもとても。だから予定を変更したのよ。この場にいる関係者は皆殺し。あなたは仕事を全うできなかった――口ばかり達者なだけでお粗末な仕事ぶり。所詮は貧民街の人間ね」

「くっ!」

「――てめえ、ふざけんなよ! こんな小さいガキイジメて楽しんでんじゃねえよ! 腸大好きのサディスティック女が! フェルトだって精一杯強く生きてんだよ! 予定狂ったからちゃぶ台ひっくり返して全部おじゃんってガキかテメェは! 命を大事にしろ! 腹切られるとどんだけ痛いか知ってんのか!? 俺は知ってます!」

 

フェルトをバカにされた怒りと今までの怒りが爆発して、いろいろとエルザにぶちまけた。これまでを思えばまだまだ言い足りないくらいだ。

 

「何を言ってるの? あなた」

「自分の中の思わぬ正義感と義侠心に任せて、この世の理不尽を弾劾中だよ! 俺の中の理不尽はお前で、この状況で――チャンネルはそのままでどうぞ。はい! 時間稼ぎ終了。やっちまえパック!」

「後世に残したい見事な無様さだったね。ご期待に応えようか!」

 

先程エミリアが出したものとは比べ物にならない数のつららが宙に浮かぶ。

 

「まだ自己紹介もしてなかったねお嬢さん。僕の名前はパック。名前だけでも覚えて……逝ってね!」

 

パックが手をかざし、すべてのつららがエルザのいる場所に着弾した。

 

「やりおったか!」

 

お決まりのセリフを言っちゃうロム爺。

 

「そのフラグ立てんなジジイ!」

「――備えはしておくものね」

 

氷漬けになった筈のエルザの声が聞こえ、

 

『バリン』

 

エルザを覆っていた氷が砕けた。

そのままエミリアへ距離を詰めるエルザ。

 

――不味い!

 

「精霊術の使い手を舐めないこと」

 

俺の考えとは裏腹に、エミリアは落ち着いていた。

エルザの突撃をエミリアは氷の障壁でガード。動きの止まったエルザをつららで仕留めにかかる。――が、流石はエルザ。超速で迫りくるつららをヒラリヒラリと躱していく。

 

「戦い慣れしてるなぁ、女の子なのに」

「あら。女の子扱いされるなんて随分と久しぶりなのだけれど」

「僕から見れば大抵の相手は赤ん坊みたいなものだからね。それにしても不憫なくらいに強いもんだね、君は」

「精霊に褒められるなんて恐れ多いことだわ」

 

底なしとも思える弾幕を打ち続けるパックと高速機動でそのすべてを躱すエルザ。

軽口を叩きながらも、互いにその殺意はまるでおさまっていない。

だが、エルザの方は絶えず動き回っており相当の体力を消費しているはず。これは――

 

「このまま消耗戦に持ち込めば、なんとか勝てんじゃねえか?」

「いや。精霊がいつまで顕現できるかが勝負じゃ」

 

――そうだ! パックにはタイムリミットがあった!

 

窓を見ると、既に茜色に染まっている。

 

「あっ! そろそろ5時を回るか!?」

 

不味い。パック以外にエルザをなんとかできるヤツなんて…!

 

「あら。せっかく楽しみになってきたのにつれないわ」

「モテるオスのつらいところだね。女の子の方が寝かせてくれないんだから。――でもほら、夜更かしするとお肌に悪いから。そろそろ幕引きといこうか」

「――あっ! ん?」

 

エルザの動きが止まる。見ると、彼女の足元が凍らされていた。

 

「無目的にばら撒いていたわけじゃあにゃいんだよ」

「――してやられたってことかしら?」

「おやすみ〜」

 

パックが今までよりもずっと大きな氷を作り出し、動けないエルザに向かって打ち込んだ。

 

 

その魔法はエルザの命を刈り取らんと彼女に迫っていき――

 

「なっ!」

 

――嘘だろ

 

確実に命中するはずのその一撃は、すんでのところでエルザが身を翻し直撃するには至らなかった。

 

「――ああ、ステキ。死んじゃうかと思ったわ」

 

凍った筈の足を無理矢理動かし、傷だらけになりながらも難を逃れたエルザ。彼女は痛々しい傷などまるで頭に無いかのようにいつもの薄ら笑いを更に深めていた。

 

「女の子なんだからそういうのは僕関心しないな〜」

「――パック、まだいける?」

「ごめんすごい眠い。ちょっとナメてかかってた。マナ切れで消えちゃう」

「後はこっちでどうにかするから、今は休んで。ありがとね」

 

パックが半透明になり、今にも消えようとしている。

 

「――いや、ちょっと待ってて。最後に助っ人を呼ぶから」

 

ふと、パックがそんなことを言った。

 

「え? 助っ人って――」

「あとは頼んだよ、スイ!」

 

 

 

「――はぇ?」

 

ドアの向こうから、そんな声が聞こえた。

 

「じゃあ、後はあのメイドに任せるよ。あのメイドで駄目だったら、オドを絞り出してでも僕を呼び出してね……」

 

そう言い残して、パックは消えた。そして――

 

「――ハァ〜、まったく。私に任せられた任務はあくまでも監視なのに。パック様は人使いが荒い。まぁ戦闘音が聞こえた時点で危なそうなら助太刀しようと思ってましたけどね?」

「「だ、誰じゃ(だ)!?」」

 

現れたのは、あのメイド服の女性だった。

謎の乱入者に、フェルトもロム爺も驚いている。

 

「な、何でアンタが!?」

 

思わず声を洩らすが、今までを思い出せば確かに彼女はエミリアの関係者らしかった。エミリア様なんて言っていたし。

彼女がここにいてもおかしな事ではないのかもしれない。

 

「えっ!! 何でスイがここに!?」

 

――違った。エミリア自身が一番驚いていた。

 

「ヤッホー、エミリア様、一文無しのお兄さん! 通りすがりのメイドさんだよ――っと!」

 

『ガンッ』

 

「なっ!?」

 

軽い調子で俺たちに手を降っていた彼女が、いつの間にか背後にいたエルザのナイフを蹴り弾いた。

 

「舐めないでよ【(はらわた)()り】。そんな安い殺され方するわけないでしょ? ――エミリア様、下がっていてください」

「う、うん。分かった」

「――ああ、アナタもステキね」

 

弾き飛ばされたエルザがフワリと壁に着地、勢いそのままに真正面から接近。ナイフを突きたてようとメイドさんに迫る。

 

「遅い」

 

エルザの高速の刺突は、メイドさんに余裕を持って躱された。その速度の差は一目瞭然。あのエルザを軽く上回る速さだ。

 

「舐めんなって言ったでしょ!」

「――あら、舐めているつもりはないわよ?」

 

メイドが目にも止まらぬ速さで連続の拳を繰り出す。

が、エルザはそれを紙一重で躱す。速度はメイドの方が上だというのに、エルザはまるで攻撃の来る位置が分かっているかのようにそれを躱していく。

躱して、躱して、躱して――

 

「――ここ」

 

その懐に潜り込んだ。

 

――殺られた

 

俺は次の瞬間に起こるであろう惨状を想像し、ギュッと目を瞑る。

 

「フフフッ、アナタの腸を見せて頂戴――」

「――イヤだね」

 

『メキャッ』

 

 

不快な音が鳴り響く。人の骨が砕けた音。生まれて初めて聞く音だ。

 

――斬り裂かれる音じゃない…?

 

咄嗟に目を開くと、

 

「そんな見え見えの攻撃が通ると思ってるの? それを舐めてるって言うんだよ」

 

エルザの手首が、あらぬ方向に曲がっていた。どうやったのか、メイドはあの距離から斬られるよりも速くエルザの手首を破壊したのだ。

そのままメイドはエルザを蹴り飛ばす。

一瞬意識を失ったかに思えたエルザだったが、すぐに身体を起こして地面になんとか着地する。

 

「あら、ヒドイわね。私を誘導したのかしら?」

「うわぁ~……普通の人なら泣き喚くじゃ済まない痛みのはずなんだけどね。まぁ異常者には関係ないか」

 

スッと立ち上がり自分の壊れた手首を眺めるエルザに少し引き気味のメイド。

 

「あのメイドさん、あんなに強かったのか……」

 

二度目の世界で自分を建物の屋根まで吹っ飛ばしたことから只者ではないと思ってはいたが、まさかエルザを圧倒するほどとは思ってもみなかった。

 

「ハッ!!」

「怖いわねぇ」

 

メイドさんの攻撃がエルザの頬に掠る。たったそれだけで、エルザの頬は刃物で斬られたように出血した。

 

「当たったら死んでしまうかも」

「当たる時は加減してあげる!!」

 

最早エルザもメイドさんの攻撃を避けることも難しい様子で、反撃の余裕は無さそうだ。いつ攻撃が命中してもおかしくなかった。

 

「これなら――」

 

いける…あのエルザに勝てる!

 

――誰もがメイドさんの勝ちを確信した瞬間、

 

「――仕方ないわね」

 

不意にエルザがこちらを振り向いた。

 

「ッ! ちょッ!?」

 

『バキッ』

 

 

「……は?」

 

驚きに声が漏れた。目の前の光景が信じられない。

 

「――スイ!!」

「来ないでくださいエミリア様!!」

 

瞬きの間に状況は反転した。

いつの間にか俺やフェルトの前にメイドさんが立っており、その左腕にはエルザのククリナイフが食い込んでいた。

思わず駆け寄ろうとしたエミリアをメイドさんが止める。

 

「あら?」

「ぐぅッ…! てい!」

 

左腕に刺さったナイフを無視し、エルザを蹴り飛ばすメイドさん。

 

「チィッ! マズった!」

 

メイドさんがぼやく。

一方、かなり強く蹴られたはずのエルザであったが、今度は空中で体勢を立て直しフワリと着地してみせた。

メイドさんはダラリと垂れた左腕を右手で押さえながら、エルザに睨みを利かせる。

腕一本を切られたのに、まだ彼女は戦う気だった。

 

「あ、アタシらを庇って…!」

 

フェルトが呟く。

 

――そうだ。彼女は足手まといな俺たちを庇って深手を負った。

 

『ギリッ』

 

奥歯を噛み締める。メイドの彼女にすべてを任せ、何もできない自分に腹が立った。でもいざ動こうとすれば、あの痛みが蘇って尻込みしてしまう。

 

「クソッ! 俺だって何か…!」

 

何かできるはずなんだ。流石のあのメイドさんだって片腕に深手を負った状態じゃエルザに勝てるとは思えない。やるしかないんだ! ビビんな、俺!

 

「……(はらわた)()()なの? 貴方」

「生憎と、左腕だけだよ。昔いろいろあってね」

「そう。――それはよかったわ!!」

 

エルザが急接近。

 

「――どぉりゃぁ!!」

 

そこに身を乗り出し、そばにあった椅子を全力で投げ飛ばした。

 

「ちょッ!? バカッ!!」

「あら」

 

投げた椅子は簡単に躱され、瞬時に接近される。

 

「せっかく助けてもらったのに、バカな子」

「――狙いは、腹ァッ!!」

 

エルザのナイフが迫る。俺は咄嗟に身を引いてその一閃から逃れた。

 

『シュッ』

 

――と思ったが、服の腹の辺りが切れていた。紙一重だったらしい。あと数ミリでまたあの屋台のおっさんと再会するところだった。

 

「今だ、メイドさん!!」

「――オッケー! 色々言いたいことはあるけど、よくやったよお兄さん!!」

 

ナイフを振り抜いて隙だらけのエルザの目の前に、拳を構えたメイドさんが迫る。

 

「あら――やられたわ。少し見くびっていたようね」

「そうだね。君も私もお兄さんを見くびってた」

 

『メキィ』

 

メイドさんの拳がエルザの鳩尾にめり込み、エルザの身体はまるで弾丸のように壁を突き破って吹き飛んでいった。

 

 

 

「今度こそやったようじゃな」

 

ロム爺がほっと息をつく。あんだけコテコテのフラグ回収をかましておいてまだ懲りないらしい。

 

「いえ、逃げられました」

 

ロム爺の言葉に、メイドさんが険しい顔で答えた。

 

「はぁ!? アレで生きてんのかよ?」

「たぶん、殴られる直前に後ろに跳んで脱力したんだよ。明らかに手応えが軽かった。もう襲ってこれないくらいのダメージは与えたはずだけど、逃げる力は残してたみたいだね」

 

メイドさんがため息を吐く。

 

「ま、いっか。とりあえずエミリア様と、ついでに君たちも無事だし十分でしょ」

「でも、アンタの左腕が……」

「あぁ、これ? 心配しないで。これは――誰だ!!」

 

話をしていたメイドさんが急に店の入り口に向けて構えた。

 

「――すまない。盗み聞きするつもりはなかったんだ」

「貴方は……」

「ラインハルト!? なんでここに?」

「ああ。君に頼まれた事を果たそうと思っていたのだけれど、生憎とアテがなかったものでね。君が口にした盗品蔵という言葉を追っていたらここまで辿り着いたんだ」

 

どうやら俺の伝言のためにここまでやって来ていたらしい。

 

「こんなとこに来てまで、ありがとな!」

「いいや。結局僕は役に立てなかったようだからね。お礼は要らないよ」

「それでも、だよ。見ず知らずの俺のためにこんなとこまで来てくれたんだろ? 礼は言っとかないとな」

「……分かったよ。その言葉、素直に受け入れよう」

 

ラインハルトはそう言って微笑んだ。

男の俺が惚れてしまいそうになるほどのイケメンスマイルだった。

 

「あ~、つまり、お兄さんが剣聖に頼み事をしてたってことでオッケー?」

 

会話が終わったタイミングで、メイド――スイが話を切り出す。

 

「剣聖ってのは、ラインハルトのことだよな。そうだけど……」

「見ず知らずの他人にしては随分と協力的じゃない、剣聖ラインハルト。一文無しの一般人に肩入れして、何が狙い? どこまで知ってたわけ?」

「今日は非番なんだ。騎士としてではなく、スバルの友人である1個人として、協力したまでさ。他意はないよ」

「ふ~ん……。ま、いいや」

 

険悪な雰囲気になりかけたが、なんとかメイドさんが矛を収めてくれた。

 

「で、お兄さんは大丈夫なの?」

 

ふと、メイドさんが俺の方を向いてそう言った。

 

「え?」

「だって、最後の【腸狩り】の一撃、当たってたでしょ?」

 

メイドさんの言葉に、俺は急に嫌な予感がしてきた。

 

「ハハハ……まさか、そんなわけ――」

 

改めて服をめくって腹を見てみると……

 

「――ヤッベ…!」

 

血がドクドクと流れ出ている。認識した途端に頭がクラクラして、足元が覚束ない。たまらず膝をついてしまった。

 

「ちょッ、「大丈夫!?」」

 

メイドさんとエミリアが2人揃って俺に駆け寄ってくる。

 

「待ってて、すぐに治してあげるから!」

「あ~もう! なんで自分で気づいてないわけ!?」

 

エミリアの方から淡い光が見えたのを最後に、俺の意識は途絶えた。

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