大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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やばいと思ったが、性癖を抑えきれなかった。


第一章 大魔導士と戦乙女
『賢者』と『大魔導士』、あるいは『愚者』と『大馬鹿者』


「協力者?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 世界の中心地、英雄の生まれる地、あるいは厄災の蓋と呼ばれる迷宮都市オラリオ。そのさらに中心たる迷宮に蓋をする役割を負うのが、冒険者統括組織『ギルド』。

 その地下に、『ギルド』の主神である天空神、ウラノスは鎮座している。言葉を交わす相手は、800年の時を生きるかつての『賢者』、『愚者』フェルズ。

 

「ロキとフレイヤは、ゼウスとヘラの後継としては未熟で頼りない」

 

「あぁ……それは同感だ」

 

 最強と最恐が去ってから3年。オラリオの治安は悪化の一途を辿っている。

 ロキ・ファミリアの三幹部はオラリオとしては強者だが、ゼウス・ファミリアやヘラ・ファミリアの平均にすら届いていない。その三幹部さえ、人員が膨れ上がった組織の運営に手一杯でまともに研鑽を積めていない始末。

 フレイヤのところのミアとオッタルなら平均に届くかもしれないが、そもそもフレイヤに救世への興味がなく、ダンジョンへ潜る意思を感じない。

 そして両派閥共に、明らかに『闇派閥(イヴィルス)』から侮られている。

 

「ちょうど先日、古い神友から手紙が来てな。手を貸してもらうことになった。一時的に、だがな」

 

「……力足らずで不甲斐ない限りだ」

 

「いや、お前はよくやっている。ただ、裏から物を動かすのも限界があるというだけだ」

 

 ウラノスがフェルズを慰める。実際、フェルズの姿では人前に出ることは難しいと言わざるを得ない。なにせ、その体に必要不可欠である肉も皮もついておらず、血の一滴すら通っていない。モンスターにさえ見紛われそうな、生ける骸骨こそ、今のフェルズの姿なのだから。

 かつて永遠の命を手に入れる『賢者の石』の生成に成功した唯一の『賢者』にして、それを砕かれ、無限の知識に取り憑かれて手に入れた『不死の秘法』の代償に肉体が腐り果てた『愚者』。それこそが、フェルズの正体である。

 

「それで、その協力者とやらはいつやってくるんだ?」

 

「そろそろのはずだ。ロイマンには来客は通すように言ってあるんだが……奴は横領はするが無能ではない。仕事をさぼるということはないと思うんだがな……ぬ!?」

 

「なっ、ウラノス、後ろへ!!」

 

 唐突に光り始めた部屋の床に目を剥くウラノスと、咄嗟にウラノスを庇うフェルズ。

 やがて光は複雑な魔法円へと変わっていき、その中心にいくつかの影を映し出す。影は実体を持ち、光が収まると同時にその姿が明らかになった。

 現れたのは、妖精(ハイエルフ)の男だった。髪は後ろで縛る程度に長く、色は銀。瞳の色は金で、その左目は、ウラノスが救援を仰いだ古い神友であるとある大神と同じく、眼帯で封じられている。そして彼から感じるその膨大な魔力。魔導士としてはオラリオ最高峰であったかつてのヘラ・ファミリアの団員、Lv7である『静寂』アルフィアにさえ匹敵する、いや、大きく上回るだろう。傍らには、こちらもまた手練れであろうことがはっきりと理解できる少女が控えている。

 一方のフェルズであるが、驚いていた。なにに驚いていたかと言えば、まず彼らが移動してきた手段だ。彼らは間違いなく何の用意もされていなかった場所に、突如として出現した。すなわち、それは目視していない場所であっても転移する手段があるということ。それはあまりにも危険な手段だ。

 なぜ、どうやってそんな魔法を。そう考える前に、しかしフェルズはその男の顔を見て納得していた。なるほど、この男であればあるいは転移魔法なども使えるのかもしれないと。そしてそれと同時に激しい疑問が湧いて出る。

 

「な、なぜ……」

 

「自分で名乗るのもなんだが、我が名は大魔導士グリム。主神よりの命にて大神ウラノスに手を――む?」

 

「なぜお前が生きているんだ!? ノルナゲスト!!」

 

「む……その声、お前はフェルズか。お前こそ肉はどこへやった」

 

 フェルズは驚いていた。というより驚愕していた。その様子にウラノスは困惑する。二人の様子から、明らかに旧知であることは見て取れるのだが、しかしフェルズの言うことを鑑みるに、これではまるで……

 

「フェルズ、彼とは知り合いか?」

 

「……私の知るノルナゲスト本人であればな。なにせ、奴は私にとって同僚に当たる男……つまりは、8()0()0()()()()()()()()()()()()! いくら奴がハイエルフであるとしても、神の恩恵で寿命が伸びていたとしても、寿命の限度は500年やそこらのはずだ!」

 

 そう、グリムと名乗ったこの男の真の名は、ノルナゲスト・タング・アールヴ。魔法大国アルテナの元宮廷魔導士であり、かつてのフェルズの同僚であり、好奇心から里を出奔したハイエルフであり、そして遥か昔に生きていた人物であった。

 

 

 

 800年前、魔法大国アルテナ。

 

「よし、脱げフェルズ」

 

「バカなのアンタ!!?」

 

 ヒューマンの女性がエルフの男に脱がされかけていた。

 女性の方は、歳は10代の半ばだろうか。黒髪が艶やかな少女と言ってもいい年頃の女性だ。名をフェルズ。この魔法大国アルテナにおいて駆け出しの、平民出身の下級魔導士である。

 一方、エルフの男の方は既に上級魔導士。その素性はアルテナの上層部により非公開とされており、名もノルナゲストとだけ呼ばれている。しかしその正体は、名をノルナゲスト・タング・アールヴということからわかるように、里から出奔してきたエルフの王族、ハイエルフである。

 ではこの騒ぎは平民に無体を働く王族の図であるかと言われれば、まぁ無体と言えば無体ではあるのだが、皆が想像するそれとは少々違う。何せこの男、女の体には一切の興味がない。

 

「恩恵の研究をするから見せろ。魔導士なのだから持っているのだろう?」

 

「自分で受けてこい大バカ!! こちとらうら若い乙女! 簡単に男に肌を見せてたまるもんですか!!」

 

「? 俺は茶髪の方が好みだ」

 

「アンタの女のタイプは聞いてないんだけど!?」

 

「あとお前だと胸が小さすぎ……」

 

「死ね廃エルフ!!!」

 

 前言撤回。女の裸に興味がないわけではなかったが、フェルズの容姿は悲しいくらいに彼のストライクゾーンから外れていた。

 弁明しておくと、フェルズも世間一般から見れば十分美少女の範疇である。ただ少しスレンダーなところはあるが。

 

「自分の背中に刻まれたら十分に見られないだろう。他人の背中に刻まれたものを見るのが一番いい」

 

「だからって女の子の上裸見ようとする普通!?」

 

「いや前は隠せよ。背中なんぞお前がここに居座ってこっち何度見てきたと思っている」

 

 言われてみればと、フェルズは思い至り赤面する。いや、確かに普段からそういう無頓着な行動が多かったのは認めるが、自分から意識せずに晒すのと人に言われて意識的に見せるのとでは心構えとかが全然違うのである。

 800年後こそ胃痛枠が似合うフェルズであるが、それは曲がりなりにも800年の人生経験を積んだ後の話。今この時点のフェルズはただの小娘であり、なんなら才能アリであることを理由に結構やんちゃしているタイプだった。

 なんならこうやって、後輩であるノルナゲストの部屋に先輩風を吹かせて居座っていたり、公然の秘密であるが故にエルフから貢がれるノルナゲスト(ハイエルフ)宛の菓子やらなんやらを図々しくも貪っていたりするために、こういったときに拒否しきれないのも事実である。

 

「そ、そもそも、私の恩恵を見て何を研究するのよ……ん? 言われてみれば、アンタの研究テーマってなんだっけ?」

 

「言われてみればもなにも俺は何も言っていないのだが……俺が研究しているのは先天系魔法についてだ」

 

 先天系魔法。

 魔法種族(マジックユーザー)のみに使用が許された、恩恵に依らない奇跡。はるか昔より修行と儀式を経て連綿と受け継がれてきた歴史の結晶。

 それを研究していると言うのなら、なるほど確かにそれはエルフらしい研究対象だ。エルフという生き物は、ひどく排他的で自尊心が高く、受け継がれてきた伝統やら誇りやらに固執する。

 

 だがしかし、先天系魔法はそのように説明すれば聞こえはいいが、それは神が降臨し『神の恩恵(ファルナ)』なる力が蔓延した神時代において、もはや遺物と言って相違ないものである。

 魔法種族であれば技術を磨くことで誰でも使うことができる先天系魔法。それは確かに今までであれば強力な武器であったのだろう。

 しかし、恩恵を得た者は多くの場合、ひとつ以上3つ以下の魔法スロットを手に入れる。そしてそのスロットを埋める形で習得できる、言うなれば後天系魔法というものは、先天系魔法に比べて個人それぞれにあった形で発現する。

 同じ服でも既成量産品(プレタポルテ)受注生産品(オートクチュール)とでは着心地がまるで違うのと同じように、先天系魔法に比べてしまえば個人個人にあわせて発現する後天系魔法の方が、威力も効率も安定性に至るまであらゆる要素で上回る。

 逆に、後天系魔法と比べれば先天系魔法は安定性に欠け、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)も起こしやすい。詠唱も長く、精神力(マインド)の消費も多ければ威力も大したことはない。

 つまるところ、神がいる森の外へ出る気のない引きこもりのエルフ以外にはありがたがられない、時代においていかれた過去の遺物。それが先天系魔法なのである。

 故に、里を出たエルフの多くは恩恵を得て後天系魔法を発現するとともに、里で腕を磨いた先天系魔法を捨て、一切使わなくなる。使い勝手のいい専用の魔法を手に入れたのに、性能の低い先天系魔法を使い続ける意味が見いだせないのだ。

 

「だが、はるか昔英雄時代、英雄たちはこの先天系魔法をもって世にはびこるモンスターと戦っていた。であれば、先天系魔法を突き詰めることで、その領域に達することが可能なはずなんだ」

 

 例えば、魔法種族以外の種族でさえ使える先天系魔法。例えば、今よりも詠唱が遥かに短い先天系魔法。例えば、もっと強大な威力を持つ先天系魔法。それらを開発できるはずなのだと彼は言う。

 それは、もしも実現すれば魔法種族の利を捨てるような、エルフの伝統を打ち崩すかのような、エルフらしからぬ革新的な考えであった。

 だから彼は森を出たのだろう。森に閉じこもっていては、これ以上の発展は見込めないと判断して。

 

「……なるほど」

 

「なにか分かったの?」

 

「いや、そう簡単になにか分かるものではないということが分かった。やはり俺も恩恵を取りにいくか……」

 

 コイツは……ッ。と、フェルズは青筋を立てる。なんとも自分本位で身勝手。こういうところはノルナゲストもまさにエルフである。

 

「というか、大体なんで恩恵も受けてないやつがこの魔法大国で上級魔導士になれてるのよ……私より後輩のクセに……」

 

「恩恵を受けた剣士は恩恵に甘えず剣術を学ぶのに、恩恵を受けた魔導士が恩恵に頼りきりで魔法を扱っているのが俺に言わせればわからん」

 

「くっ……これだから魔法種族は……い、いいし。私の本領は魔導具作成(アイテムクリエイター)だし……」

 

「それで、お前はどこのファミリアに入っているんだ」

 

 というか、どこのファミリアにも入らずに、国の魔導士団で上級魔導士を張っているのはこの男だけである。派閥争いにも興味なし。逆に言えば、ただの上級魔導士であるからこそ派閥争いに関わらずとも見逃されてきた。

 それが、どこかのファミリアに入るとなれば、荒れるだろう。派閥争いが。フェルズは、この男も少し苦労すればいいと、己のファミリアの名を告げる。

 

「ヘカテー・ファミリアだよ。入団希望なら私から口利きしてあげよっか? こう見えて、ヘカテー様には目をかけてもらっているから」

 

 ノルナゲストがヘカテー・ファミリアに入団し、恩恵を得てからさらに頭角を現し、あっという間にヘカテー・ファミリアの団長に上り詰めるまで、あと半年。




 性癖が来るのは少し先です。
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