大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
「なんか私のときと対応違いすぎないか!!?」
フェルズが喚いた。スクルドとの扱いの差が気になったのだろう。腐っても10年来の付き合いであった自分にはめちゃくちゃ薄情だったのに、当時は2年程度師をやっただけだったスクルドに命まで懸けているのでまぁ気持ちはわからなくもない。
「なんか勝手に押しかけて勝手に居座ってる付き合いだけ長い他人と、自分の意思で拾い手塩にかけて育てた、純粋に慕って懐いてくる子どもの扱いが同じだと思うか」
「それはそう!!」
フェルズは一度項垂れると、顔を上げて今度はノルナゲスト――今はグリムと名乗る彼に付き従う少女へと目を向ける。
グリムの説明を信じるならば、彼女は精霊と融合した元小人族の少年で、今は見た目こそ若いが歳は40に近いはずだ。しかし、その少女の顔立ちというか表情には大人っぽさがない。有り体に言って、見た目のまま子供っぽいのだ。
例えば三十路を超えているロキ・ファミリアの小人族、フィン・ディムナの顔立ちは、確かにヒューマンの子供のものなのだが、対面しているとその表情や仕草に強い違和感を覚える。表情の動かし方やそもそもの情緒などが子供のものではなく大人のそれだからだ。
大人のような表情をする子供、というのは存外に強い違和感があり、実はこれも小人族が差別される一因――というよりは、小人族の差別を感情的に正当化する理由――になっている。
一方、スクルドは今見る限り、ボーっとしている子供そのものの表情をしている。それもそのはず。情緒発達に重要な幼少期を踏み潰され、思春期を修行漬けにしていたスクルドは、10歳の頃から情緒面がほとんど成長していなかった。
あと、800年生きてきた超長命人がナチュラルに子供扱いを続けていたのも原因だろう。精神的には少年の頃のままなのである。
「ん……」
そんなスクルドとフェルズの目が合った直後、スクルドがグリムの顔を見上げ、ローブの裾をクイクイと引っ張ったあと、再びフェルズの方を見る。どうやら紹介してほしいようだと理解したグリムが、フェルズの紹介を始めた。
「スクルド。こいつは800年くらい前に同僚だったフェルズだ。私の左目になっている賢者の石の作成者でもあり、一応『賢者』と呼ばれていたこともある女だ」
そしてフェルズは見た。一瞬スクルドの瞳に暗い光が灯るのを。
まだ肉があった時代、一切浮いた話がなかった干物女であったとはいえ、フェルズも女である。その瞳に宿った感情を如実に察知することができた。そう、嫉妬である。
フェルズは後ろから視線が突き刺さるのを努めて気づかないふりをして、グリムの肩を抱き寄せ内緒話の体勢を取る。
「なぁ、お前とあの子ってそういう仲なのか?」
「そういう……恋仲ってことか? いや、今までの話を聞いていたか? スクルドはなりはあんなだが男だぞ」
「30年前はだろう!? 30年あれば人は変わるぞ普通に!? ホルモンバランスって知ってるか? 体の変化は心にも影響を与えるんだぞ!?」
「いや、それにしても私とスクルドは養父と義息、もしくは師匠と弟子だ。そんな関係になりようがないだろう。それに、それこそ数十年一緒に生きてきたが、普段の態度や反応も男の頃のままだぞ。それは流石に性の不一致で悩んでいた頃はあったが……」
これはグリムが特別鈍感というわけではない。スクルドの方も、実際あまり態度が変わっていないのである。というのも、スクルド側も恋愛感情について一切教育されてこなかったこともあり、そういった自身の感情に一切自覚がないのである。
本人が少年の頃の感覚のまま生きてきている。そのため、グリムもそのあたりに気付けなかった。さらに言えば、切実な問題もあった。
「というか、本当にやめてくれ。俺としては本当に抑え込んでるんだ」
「抑え込むって……恋心とか?」
「いや性欲」
「ダボが!!」
フェルズは膝蹴りを放った。グリムにはダメージがなかった。
赤裸々な話が続き、ふたりとも口調が昔に戻っている。
「まじめな話だ。こっちは800年拗らせた童貞だぞ。あれをよく見ろ、あんなんが甘えてくるんだからこっちとしては限界も近いんだよ……」
言われて、フェルズは再びスクルドを観察する。顔立ちは幼い。美少年ではあるが、ごく一般的な小人族同様、ヒューマンの子供のような顔立ちだ。
その割に、しっかりと体は育っている。忘れがちであるが、小人族は決して、
例えば、将来的に15歳であった小人族、リリルカ・アーデの胸が、まぁそれなりに育っていたり、くびれがはっきりしていたように。スクルドの体も、『神の恩恵』同様寿命や老化に働きかける『勇士の刻印』の影響や、精霊と融合したことによる寿命の延長を差し引いて、恐らくは通常の小人族の妙齢の女性の肉体にまで育っているはずだ。
まぁ、何が言いたいのかと言えば、要するに、胸がデカいのである。恐らくここにいるのが
あと、尻もデカい。骨盤がしっかりとしているし、太もももなんかムッチリしていた。というか、全体的に肉付きがいい。現在真っ白な、向こう側が透けるほどに薄い、それ意味あるのか? というレベルの外套に身を包んでいる*1スクルドだが、その下に着ているのは本人の趣味なのかヒューマンの少年が着るようなごく一般的なフード付きのシャツとベスト、それに短パンである。
手直しされているのかなんとか収まりきっているが、しょうがないにゃあと言った感じで引き延ばされたようにも見える深い襟元から覗く胸元にはハッキリと胸の谷間が見えているし、胸元は服への虐待レベルで張りつめていて、シャツはズボンにINしているため、くびれもしっかりと強調されている。
胸元より酷いのはズボンのウエストへの虐待である。こちらも手直しされているのだろうが、ギリギリ入っていると評してもいいのではないだろうか。膝は細いからか余裕があるが、太ももの一番太い部分はぴっちりとズボンに張り付いているのが対照的である。
フェルズは再びスクルドの顔を見る。キューティクルこそ美しいものの特段セットされていないくせ毛の茶髪や、眠たげに瞼が半分下ろされた左の瞳が金、右が銀のヘテロクロミア、日焼け肌にも見える褐色の肌。その顔立ちもあわせて、首から上だけ見れば、ヒューマンの子供、しかも紅顔の美少年にしか見えない容姿ではある。しかしよくよく見てみれば、ぷっくりとした唇に、妙にツヤがあるようにも見える。
「……いや、というか、向こうももう40代だろう。子供じゃないどころか普通に大人だろう。甘えるって……」
「? 40なんてまだ子供と大人の間くらいの歳だろう」
「エルフ算をやめろ!!」
まぁ、スクルドの精神年齢は12歳くらいがいいところだから間違っていないどころか、グリムの見立てですら少し大人にみているくらいなのだが。
ちなみに、エルフという種族はある時期、あるいは精神的な壁を乗り越えた際に、一気に精神的、情緒的に成長することがあり、同じ18歳のエルフでも人間で言う6歳くらいの情緒の者と18歳くらいの情緒の者が交ざっていたりする。
さらに付け加えるなら、エルフという種族は基本的に性欲が乏しい。それでも800年生きていれば溜まるものは溜まるもので、グリムの反応はむしろよく抑えている方ともいえる。
むしろ、15歳程度の年齢でハイエルフでも精霊でも神でもない相手に執着して滅茶苦茶に感情を振り乱されているようなエルフは、特別外れ値レベルにスケベなのである。
「とにかく誤解を解いてこい。あれだ、多分私元カノかなにかだと思われてるぞ。こっちを見る目が怖い」
「なに? 確かにそれは心外だな……流石に俺も骨は抱けん」
「しばきまわすぞ」
「スクルド、フェルズとはそういう浮いた話は一切ない。『ドワーフの禁酒、アマゾネスの禁欲』*2だ」
「ん……」
スクルドの雰囲気から黒いものが散っていき、ようやく安心できたフェルズ。彼女もLv4の強者ではあるはずなのだが、スクルドから発せられた圧は在りし日のヘラ・ファミリアを思い出させるものだった。
「……話を進めてもいいだろうか」
「ああ、すまなかった神ウラノス。とはいえ、大筋はオーディンより聞いている。内w……『闇派閥』との抗争と、ロキ、フレイヤ・ファミリアの現体制をなんとかすればいいのだろう?」
「あぁ、具体的には、しばらくの間『ギルド』職員として雇わせてもらうから、特別監査職員として、ロキ・ファミリア、およびフレイヤ・ファミリアの状況を確認し、改善してほしい。少なくとも片方は」
「承知した。その方向で進めよう。あぁ、それとこれはオーディンからの伝言だが、黒竜の方は私たちでなんとかするから気にしなくていい。オラリオは迷宮の攻略に集中してくれ、だそうだ」
「……非常に助かる。が、ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアの前でその話はしないようにしてくれ」
「善処する」
ウラノスは頭を抱える。実際、毎日迷宮を鎮めるために祈祷を行っているウラノスには、迷宮がもう限界に近いことは一番よく分かっている。だからと言って、黒竜討伐は冒険者としてのひとつの目標であることには変わりない。ゼウス・ヘラ両ファミリアの黒竜討伐失敗から4年。オラリオには黒竜に恨みを持つ冒険者も多くいる。
できれば火種になってくれるなよと、ウラノスは淡い願いを祈るのだった。