大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
『
スクルドと精霊スクルドの融合事件から1か月が過ぎた頃。ふたりはオーディンから授けられたルーン魔法の修行を行っていた。
ルーン魔法の解析――というより、ルーン文字を用いた先天系魔法詠唱の代替技術『字刻詠唱』については、ノルナゲストによって既にほぼ完璧に翻訳されており、今はスクルドに字刻詠唱を用いた魔法の扱いを学ばせているところである。
また、ノルナゲスト自身はルーン魔法そのものの研究にも勤しんでいた。
「よし、では手本を見せる。【
ノルナゲストが魔法を発動すると、光と共にふたつのものが現れた。ひとつは青いマント、ひとつは長い枝のような杖だった。それぞれに強い魔力が宿っており、ただのマント、ただの杖でないことは容易に見て取れる。
「これは自身の魂のエネルギーから武装を生み出す魔法だ。個人個人の適性にあった武装が現れるが故に 最適解ではあるが、融通が利かない。私の場合はこの外套と杖しか現れない。その代わり、魂のエネルギーを編んで作るから手入れは不要だ。武装の性能は魂の質に準じるが、まぁ私たちの選んだお前なら大丈夫だろう」
「んぅ……」
「ルーンは
「ん」
ノルナゲストが促すと、スクルドはひとつ頷いてから右手中指に嵌めた指輪型の魔法の発動体をかざし、指を動かす。空中に書かれた魔力の軌跡が、一文字ずつルーンを形作っていく。
通信、知らしめるという意味を持つ
一度光に包まれたスクルドは、滑らかな流線型をした白銀の鎧に包まれていた。それはどこか精霊スクルドに似ている。翼の装飾がなされたバイザー付きの
精霊スクルドと異なるのは、
その上からは白い外套を羽織っており、これが透けて裏が見えるほど薄く軽い。
また、腰には二本の長剣を提げており、それぞれがちょうど組み合わせる前のハサミのような形を取っている。
精霊スクルドの影響を多分に受けたであろう武装であるが、ノルナゲストの予期した通り、それらからは強い魔力と薄っすらと神威を感じる。間違いなく業物である。
なのだが、ノルナゲストはやや目のやり場に困っていた。
「あー、えーとだな……スクルド、
「ん!」
「……大丈夫か。いいのかそれで……」
ノルナゲストが言い淀んだのも無理はない。鎧の下は全身に及ぶ黒インナーで覆われており地肌こそ見えないのだが、このインナー、しっかりと肌に密着している。ここまでが前提だ。
鎧の説明の際に
そしてこのパーツなのだが、ちょうど正面部分だけ存在していない。可動域を確保しているのか、その部分だけやや鎧が薄いのだ。
そして一番の問題なのだが、このインナー、脚部が存在していない。いや、それだと控えめな言い方になっているだろうか。このインナー、臀部も存在していない。有り体に言えば鼠径部が露出している。
これを見て、神ロキあたりはこう叫ぶだろう。
「ハイレグアーマー&絶対領域や!!」と。
いや、相手は流石にまだ10歳の、しかもひと月前までは女どころか少年だったわけで、そんな起伏もなにもない相手に劣情を抱くことなどないわけだが、それはそれとして身体だけとはいえ少女がそんな格好をしているのはいかがなものなのか。
一方のスクルドはその幼さと、羞恥心などろくに育たない人生を送ってきたこともあって、この装備の意匠にはまったく疑問を抱いていない。ノルナゲストがやや狼狽えていることの方が疑問なほどだった。
なお、このデザインはオーディンが監修した、彼の部下であるワルキューレたちの正式軍装であり、のちにロキによる暴露でオーディンがノルナゲストにしばき倒されることとなる。
「ん……?」
「閉めなさい」
「ん……」
上胸部も開くようになっていた。しかもその部分だけインナーに穴が空いていた。ムレ対策(建前)である。仮に胸が育てば、しっかり谷間が見えるようになるだろう。下半神がよ。
ノルナゲストはどうするか考えたものの、装備自体は変えようがないため、ひとまず腰布を巻くということで落ち着いたのであった。
さて、ノルナゲストは魔法の専門家ではあるものの、武器の扱いに関しては素人と言って差し支えない。剣の振り方など知らないし教えようもなかった。そのため、スクルドに一時的に『神の恩恵』で言うところの《剣士》の発展アビリティを付与し、訓練させるようになった。
以前発展アビリティを研究していた際に、その仕組みはおおよそ理解できていた。要するに、「正しい動きになるように動きをアシストする」というよりは、「正しい動きをしたときに補正をかけることで、自然と体がそう動くようにする」のが、この系統の発展アビリティなのだ。「間違った動き」には補正がかからず、やがて淘汰されていく。
イメージとしては、レーシングコースを思い浮かべればわかりやすいだろう。剣筋がレースマシンで、例えば「正しい動きになるようにアシストする」ような機能であれば、それはコースに柵があって、そもそもコースアウトしないようになっている。一方発展アビリティの仕組みは、コースの外がダートになっていて、コースの中なら速くきれいに走ることができるが、ダートにはみ出すと減速し走りにくくなる。そんなイメージだ。
そのため、発展アビリティに頼っていればそのうち体が正しい剣術を覚えるし、既にちゃんとした剣術を覚えてその通りに動いている者は無駄がない分、アビリティに頼っているだけの者よりも強い補正を得ることができるため、素人にも玄人にも有用。よくできた仕組みである。
スクルドの剣は先に言った通り、特徴的な形をしている。16
そのため、二振りの剣を余白と刃の境界で交差させると、巨大なハサミのように見えるのだ。ハサミと違うところはその大きさと刃の鋭さ、そして、両刃であるというところだろうか。
片手剣にしては握りが長いため操作性はよいが、長剣であるため重量はあり取り回しも難しい。まぁ、重量に関しては『勇士の刻印』で補正されているからどうにでもなるが、問題になるのは取り回しだ。しかも双剣である。
しかしそこは流石、魂から編んだ武器と言えるだろう。スクルドは数日剣の訓練をしただけで、あっという間にこの奇妙な双剣に習熟した。もちろん剣筋や立ち回りに関しては熟練の剣士に比べれば数段劣るものだが、少なくとも剣を持ち始めてから数日という初心者の剣筋では到底なく、1年以上の訓練を続けた者のそれであった。
ノルナゲスト自身が《セーヴァルスタズ》によって手に入れた武装――『
さて、現在二人がいるのは、世界三大秘境としてオラリオの迷宮と並び称される危険地域、黒竜の封印されし地、『竜の谷』――からやや離れた地である。この地は、黒竜の影響で生まれ落ちた迷宮級のモンスターの中でLv3相当のモンスターが、黒竜から逃げてやってくる地であり、冒険者ではない人間にとっては非常に危険であるため、やはり危険地域として指定されている。
特にこの地には、黒竜から飛んで逃げてこられるワイバーンのような翼竜が多く、群れで制空権を取られてしまえば一般人どころか上級冒険者でさえ歯が立たない。
そしてスクルドはそんなワイバーンたちを、その鎧の能力で顕現させた白鳥のような魔力の翼を使って飛びながら、両の手に持った双剣を振り回して斬り伏せていた。
「……飛ぶんだ」
無論、ノルナゲストが飛べないわけではない。彼の魔法レパートリーの中には既に飛行魔法が記録されている。飛ぶことは可能ではあるのだが、まだ教えていなかったのに鎧の効果で飛び始めたので
スクルドは空中で身を翻し、高速で空を滑りながらワイバーンの群れを討っていく。ノルナゲストが「もうこれだと大した成長にならなさそうだ」などと暢気に考えていた時である。
スクルドからやや遠い位置にいるワイバーンが息を吸い込み喉を膨らませる。火球の前兆である。流石に同格であるワイバーンの火球を浴びてはスクルドでも危ない。しかし、スクルドは気づいていないのか、躱す素ぶりを見せない。
鎧の性能を考えれば、直撃しても死にはしないだろうが、大丈夫だろうかとノルナゲストはハラハラしながらそれを見守る。
そして、ワイバーンの火球が発射され、かなりのスピードでスクルドへと迫る。スクルドは迫りくる火球を視認すると、剣を持ったまま、左腕で体を庇うように構える。
すると、前腕甲の装甲が拡張し、
散っていく火花の中から飛び出してワイバーンを斬り伏せたスクルドは、それが最後の一匹であることを確認してノルナゲストの元へと戻ってくると、被っていた兜を光の粒子へと還して消した。
それが何を意味するのか察したノルナゲストがスクルドの頭を撫でると、スクルドは気持ちよさそうに目を細めた。
ノルナゲストは「この魔法が広まったら装備関連の生産者が破産するな」などと考えていた。