大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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第二章 オラリオ教導篇
監査予告


「監査ぁ?」

 

 迷宮都市オラリオ北地区に所在している、現オラリオの双璧、ロキ・ファミリアの本拠地、『黄昏の館』。

 その執務室で、主神である狡知の神、ロキは素っ頓狂な声を上げた。その理由は手元にある紙に書かれている、とある一文にあった。

 

「どうしたんだい? ロキ。そんな声出して」

 

「ん? フィンか。いやこれ見てみぃ。ギルドが監査員寄越すんやて。今までファミリアに手ぇ入れたことなかったっちゅーに」

 

 ロキから、団長である小人族、フィン・ディムナにその紙が渡される。そこには確かに、監査の文字が躍っていた。

 しかし、それよりも問題であったのは、その日時である。目ざとく指摘したのは副団長であるハイエルフ、リヴェリア・リヨス・アールヴだった。

 

「おい、ロキ。これ、日付が今日からになっているんだが……何故今頃になってここにある? 流石に今日届いたわけじゃないだろう?」

 

「あー……それが、郵便の当番やった団員が忘れて迷宮に潜りっぱなしでな……」

 

「……また、か……」

 

 そんなロキ・ファミリアの目下の悩みのひとつが、団員の質の低下だった。

 ゼウス、ヘラの両派閥は、黒竜討伐に失敗してオラリオを去った。その際、自分たちを除けばもっとも実力のあったロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアに託す形でだ。

 そうして、現オラリオ最強、Lv6である団長ミア・グランドとLv6副団長オッタルを擁し、Lv5とLv4の『黒白の騎士』やLv3のガリバー兄弟などの戦力を持つフレイヤ・ファミリアが戦力の質で。

 Lv5の三幹部、団長のフィンと副団長のリヴェリア、そして同じく幹部、ドワーフのガレス・ランドロック。Lv4にノアール、ダイン、バーラたち改宗組の実力者や新進気鋭のLv3冒険者が多数所属するロキ・ファミリアが戦力の量で、それぞれオラリオ最強ファミリアということになっていた。*1

 

 そうしてネームバリューを手に入れたロキ・ファミリアだったが、同時に起こっていた問題こそ、団員の質の低下だ。これは戦力としての意味ではなく、人格面を示唆している。

 ロキ・ファミリアに入ったからと驕り高ぶる者。ファミリアの看板を笠に着て居丈高に振る舞う者。ロキ・ファミリアに入ったことで満足して研鑽を怠る者。

 もちろん把握できる限りは潰して回っているのだが、団員の数が増えればその分、教育も行き渡らなくなる。

 さらに言えば、ファミリアの拡大と同時に増えていく書類仕事の量。ロキがサボりがちなため、頭脳労働の得意なフィンとリヴェリアが片付けなければならず、昔のように頻繁に迷宮へ行くのも難しい。

 

「まぁ監査が入るのは当然なんだけど……」

 

「正直、監査ごときで改善すんならさせてみろっちゅー話やんなぁ。しかもギルドの監査っちゅうことは、恩恵なしの素人やろ? 百歩譲ってうちらが監査に納得して団員に言うたかて反発はあるやろうし、うちらの目から隠れてやるだけやろ」

 

「ロキ、それは私達の不徳を開き直っているだけだ」

 

 ロキ自身、天界ではむしろ反発する側だったために、どちらかと言えば()()()()する側の肩を持つ場面さえあるのも、ひとつの問題だった。

 悪巧みは得意でも、まともな組織運営が得意であるわけではないのだ。

 

「……で、ロキ。これは門番に伝えたのか? そうでないなら、入り口で追い返されるのではないか?」

 

「あ、ヤベ……ま、最悪あとからギルドに顔出せばエエやろ。流石に恩恵もない一般人に手ぇ出さんやろし」

 

 オラリオにおいて、恩恵のない一般人に手を出す冒険者は、それこそLv1の駆け出しくらいのものである。なぜかと言えば、Lv2が手加減を誤れば、それこそ容易に恩恵なしを殺してしまう程に隔絶した力の差がそこにあるからである。

 冒険者というのは、認識的には檻に入れられた猛獣に近いものがある。『ファミリアに所属する冒険者』という社会的な檻があるから、民間人は安心して同じ町で暮らせるのだ。

 そして、万が一そんな冒険者が民間人を殺してしまえばどうなるか。

 『闇派閥(イヴィルス)』のレッテルを貼られ、すべての冒険者から狙われることとなる。当然、所属ファミリアも守ってはくれないだろう。

 

 そして、ロキ・ファミリアの門番にLv1を置くわけがない。門を護るから門番なのである。Lv1などという駆け出しを置いてどうなるのか。

 同時に、中にLv4やLv3が常駐しているのに、それほど高いレベルの冒険者を門番にしてどうなるのかということもあり、ロキ・ファミリアでは門番は、Lv3程度のある程度事務処理のできる団員を配置している。

 

 それ故に、知らされていないギルド職員がいきなりやってきたとして、とりあえず通して応接室で待たせることや、適当に対応して追い返すことこそあるかもしれないが、手を出すことはないだろうとロキはたかをくくっていたし、フィンとリヴェリアもおおむね同意ではあった。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()という考えが、まったくなかったのである。というよりも、()()()()()()()()()()()()()()という存在を考えてもみなかったと言おうか。

 

 まぁ、正確には手を出してもいないのだが。

 

「【精霊に告げる(セット)】」

 

 詠唱が始まりを告げる。

 

「【(スズリ)の心、(ノルズリ)(まなこ)西(ヴェストリ)の爪、(アウストリ)(あしゆび)。風よ舞い集め、雨と共に去れ。契約を以て命ずる(オーダー)】《グリパフォティン・エルタフラヴニン》」

 

 魔法が完成する。その瞬間、魔力の波が『黄昏の館』を駆け巡った。魔力に敏感な者はそれを感じ身構える。その魔力は、各々の魔力に結びつき、なにかパスのようなものを通していく。

 リヴェリアはただ「捕捉された」と強く感じた。

 

「【精霊に告げる(セット)(あみ)を張り、橋を渡りて伝令は往く。星々の(まなこ)、霹靂の(みね)、遣使の(あしあと)契約を以て命ずる(オーダー)】《ヒミン・スラウズル》」

 

 そして、続けた魔法でそのパスを通じて、直接声が響いてきた。

 

『ロキ・ファミリアの団員諸君。門前にて騒ぎを起こしてしまい申し訳ない。私はギルドより派遣された監査の者である』

 

「これは……魔法?」

 

「はぁ? 魔法て、ギルド職員のくせに恩恵貰っとんのかい」

 

「…………」

 

 リヴェリアは考える。先ほどの感覚、恐らくふたつの魔法が使われている。片方は恐らく、一定範囲の魔力――いや、魔力のないロキも繋がっているから他のなにかか――を探知し、マーキングする魔法。もうひとつがこの、声を伝える魔法。先に発動した魔法と合わせて遠くの相手に声を伝えられるなら確かに便利だ。

 

『どうやら門番に話が通っていなかったようで、門前払いを受けそうになったためこうして話を通させてもらっている。主神、あるいは幹部の者よ。面を通すことは叶わないだろうか』

 

「今回はこっちの落ち度やし、行かざるをえんなぁ……」

 

「とにかく、大きなトラブルになる前に行くぞ。というか、話を聞いていなかったからと言って門前払いとは……門番の教育もしなければな……」

 

「監査に対して初手でマイナス要素を見られてしまったね……」

 

 一柱と二人(さんにん)が執務室を出て館の玄関へ向かうと、何やら人集りができている。先ほどのこえはどうやら、館にいた団員全員に聞こえていたようだ。

 館の扉を開いて外に出る。門の前に立っている3人の人影が見えた。ひとりは、ギルド職員の誰だったか。

 

「おぅ、ソフィちゃんやないの! なんやなんや、監査ってソフィちゃんのことやったん?」

 

 そう、彼女の名はソフィ。ギルドでは3本の指に入る美人アドバイザー。『氷の妖精』とまで呼ばれるクール系美人であり、ロキも何回かモーションを掛けている。そう、異名の通りエルフである。

 よく見れば、ソフィはやたらと冷や汗をかいているように見える。

 

「い、いえ。私はこのお方の伴として来たものでして……」

 

「む、先ほどの魔法の者か……名を聞いてもいいだろうか?」

 

 リヴェリアが、他二人を誰何する。なにげに、オラリオにいるなら自分のことは知っているだろうという考えが透けているが、まぁこのオラリオにおいてはそれくらいの知名度はあるから間違いではない。

 フードで顔がよく見えなかったその男が、それを外して顔を見せる。酷く整った顔、銀の髪、眼帯で隠された左目。同胞のものである長い耳。

 

「ギルドから監査を任された。グリムと名乗ることを許されている。そう呼んでほしい」

 

 その名乗りを聞いて。

 

「……なんや、自分……?」

 

 ロキが、緩やかに神威を解放した。

*1
『大抗争』4年前の戦力に関しては完全に予想です。ただ、このくらいの戦力バランスだったなら質のフレイヤ、量のロキになるかなと。『大抗争』時点だと、フレイヤ幹部陣以外がよほど雑魚じゃないと質も量もフレイヤの方が上に見えますし。




 ここの魔法2つにはオマージュ元があります。うす。
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