大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
リヴェリア・リヨス・アールヴ。種族、ハイエルフ。
『
持ち前の知識欲と好奇心、そして魔法に関する才から、魔法においては右に出る者がいない知識と技量を持ち合わせ、さらに後天系魔法にも恵まれ、それぞれ三段階の攻撃、防御、回復魔法を操る、9種類の魔法の使い手として、都市最高の魔導士と呼ばれている。
しかし。
「なんだ……なんなのだ、これは……?」
自分は今、何を見ているんだ?
ガレスとスクルドの立ち合いにおいて、リヴェリアが覚えた感想はそんな疑問符だらけのものだった。
「さて、ランドロック殿。勝負は真剣で構わない。今回の監査において、示威行為は許可されているし、それに伴う治療はギルド持ちでディアンケヒト・ファミリアへ依頼できることになっている。無論、私が治すこともできる。遠慮なく、普段使っている得物を持ってきてくれ。こちらもそうするつもりだ」
そんなグリムからの申し出でガレスが持ってきたのは、まさに普段下層のモンスター相手に使っている、第一等級武器の斧と盾、そして鎧だった。
ガレスのシンパである若者が「本気だ……」と呟く。それと同時に、あれほどの殺気を見せたスクルドが相手でも、ガレスならば勝てるのではないか、いや、勝てて当然だ。あのガレスだぞ。ロキ・ファミリアの誇る第一級冒険者だぞと、そんな雰囲気が漂い始め、やや余裕が現れる。
一方のガレスは、目の前の――自分と同世代だということが信じられない――少女然とした剣士を前に闘志を燃やしながらも、脂汗を滲ませていた。
体捌きは自分やフィンの方が上である自信がある。しかし、スクルドから発せられる圧力は、そもそもの能力が自分より数段上であるということをガレスへと伝えている。
「(殺す気でかからねば、腕を飛ばされるのはこちらだ)」
ガレスは油断なく、盾を前にして構える。一方のスクルドは、ようやくマントを脱いでその正体を現した。
ガレスはその体重移動であったりという要素で「小娘」と断定したが、顔だけを見た団員たちの中では少年であると思っている者が多かった。だから、ガレスと同年代という言葉に驚いたわけだが。しかし、実際にマントを脱いでみればスクルドが幼くはないとはっきりわかっただろう。
それは、発育の暴力だった。田舎の少年といった風な服の胸元をギチギチと押し上げる二つの質量。同じくズボンのウエストをぎりぎりまで引き延ばす重量。そして一見すれば少年然とした顔の中に隠された、少し厚い唇という色気。
この時、団員のうち何人かの性癖がねじ曲がった。
なお、一番騒ぎそうなものであるロキはこの時ばかりは押し黙っていた。流石に、オーディンの関係者を前にちょけるだけの余裕はないようだ。同じく、フィンも明らかに小人族であるスクルドに粉をかけるような真似はしない。流石に場を弁えている。
「それで、お前の武器はどこにあるんだ? 見たところ手ぶらのようだが……」
「……ん」
失声症であると事前に告げられたスクルドが短くそう返すことを咎める者は流石にいない。しかし、人差し指を使って空中に魔力で文字を書き始めたあたりで、エルフがざわめき始める。それはハイエルフであっても同様であり、リヴェリアも、その様子を凝視していた。
刻まれるルーンは、
そうして光に包まれたスクルドが身に纏っていたのは、白銀の鎧と二振りの長剣。突如現れた明らかに第一等級の武装に、ガレスも他の団員も、エルフたちも驚く。そして誰よりも驚いているのは、やはりリヴェリアだった。
「(なんだ? 魔法? 魔導具や魔剣ではない、明らかに魔法だ。しかし彼女は
「なんや、ルーンをけったいな使い方しよるな……しかもあれ、ワルキューレの軍装やんけ、どうやって出してん……ホンマ何者なん、自分……」
「ルーン……? 待て、ロキ。貴様あれが何だか知っているのか?」
「んぁ? あーあれな。あれはうちの義兄が見つけてきたルーンっちゅう魔法の宿った文字でな。あれ
「何故、何故それを今まで教えなかったのだ!! オラリオに来る前も来てからも魔法に関するあらゆる文献を読んできたが、そのどれにも欠片も書かれていなかったんだぞ!?」
ロキに対して掴みかからんばかりに詰め寄るリヴェリアは、既にガレスとスクルドの手合わせなど眼中にない。ただ、自分にとっては未知の魔法に対しての好奇心の身で動いていると言っても過言ではなかった。
「いや教えられるかボケ! あんなもんうちかて1個や2個しか覚えとらんわ! 使いこなしとったのもオーディンくらいで、他の神は自分に関係しとるルーン1個覚えてるくらいやったわ!! やろうと思えば時間はあったから覚えられたやろうけどやる気なんか出えへんねん! リヴェリアかて、極東の『居合』のことは知っとっても教えろ言われたかてできひんやろ!!」
「むっ……そういう意味での知っているだったか……すまん、先走った……」
ロキの言葉に冷静さを取り戻したリヴェリアは、改めてガレスとスクルドの手合わせへと目を向ける。スクルドが作り出したのは鎧と剣。その両方が、リヴェリアから見ても相当な業物であることが見て取れる。
互いに相対し、そして審判を買って出たフィンがはじめの合図をした直後、スクルドの剣はガレスの盾を弾いていた。
「ぬぅっ……!!」
外見に反映されない凄まじい膂力。それは、『神の恩恵』の特徴。しかし、ロキは彼らが恩恵を授かっていないと言ったときに嘘を指摘しなかった。
「クヒッ」
そこまで考えて、ガレスは思考を振り払った。理屈を考えるのは苦手だ。そういうのは神経質なエルフにでもやらせておけばいい。自分は
「がああああぁぁぁぁぁっ!!!」
「っぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
ガレスのシールドバッシュと大斧の一撃を鎧で真正面から受け止め、浮きかけた体を踏ん張って押さえつけたスクルドが放つ剣戟は、しかし絶妙に配置されたガレスの盾によって弾かれる。
小手先の技術と経験による老練さはガレスの方が上手。それを、スクルドはスピードとパワーで覆しにかかる。
隙を突いての後ろ回し蹴り。ガレスの防御のテンポを乱す攻撃を盾に直撃させ、その表面にヒビを入れる。しかし、それを折り込み済みで放たれたガレスの大上段を躱すことができず、スクルドは交差させた長剣で持って受け止めた。
ガレスの連撃を受けてヒビひとつ入らない鎧にも、同じくガレスの一撃を受け止めて揺るがない長剣にも、団員たちは言葉をなくす。なにより、その第一級の武器が魔法によってどこかから取り出されたことに、リヴェリアはずっと反応していた。
「……なぁ、あの子ぉが手合わせ前に使っとった魔法。あれなんなん? ルーン使っとったけど
「スクルドは説明した通り失声症で魔法の詠唱ができなくてな。あのルーンは私が開発した『字刻詠唱』という、詠唱をルーンで代替する技術だ。お察しの通り、あの魔法はルーン魔法ではない。ただの先天系魔法を発動するのに、ルーンを使ったと言うだけだ」
「(あの魔法が、ただの先天系魔法……!? あれだけの武装を召喚する先天系魔法なんて、聞いたことがない……それに、恩恵がないことが事実であれば、あの時の2つの魔法も……まさか、本当に先天系魔法なのか……?)」
「恩恵なしでこれほどの力を出せるのか……まるで古代の英雄たちだな」
「(古代の英雄……先天系魔法……いや、まさか……まさか……!?)」
そしてリヴェリアが、グリムの正体へと思い当たった。思わずその場に跪きそうになり、それをグリムが制止する。エルフにとって、ノルナゲスト・タング・アールヴというのは、それほどの偉人なのだ。
「な、なんやねんリヴェリア、急に……」
「リヴェリア殿。普段周りのエルフに王族扱いをやめろなどと言っておいて、自分がそのざまというのは都合が良すぎないか? 私が名を偽っている意味を考えろ」
「ッ!! ……申し訳ございません……」
あのリヴェリアの敬語に団員たちがざわめき、エルフたちは「まさか」が「やっぱり」に変わり、フィンは静かに胃を押さえた。
「さて、そろそろか。スクルド、もう加減はいいぞ。決めろ」
「……ん!」
ノルナゲストの指示で、瞬く間にスクルドがガレスの懐へと入り、持っていた盾を縦一文字に斬り裂いて首筋に刃を当てる――その瞬間にガレスが自身の腕を割り込ませ、刃に筋肉を食い込ませてこれを阻む。
しかしスクルドは剣での攻撃と同時に、逆の手でルーンを描いている。内容は、
続けて、
その様子を唖然として見ている若手団員たちの顔色は悪い。そんななか、グリムがひとつ手を叩き、意識を自分に集中させた。
「さて、他に文句のある者はいないか? いるのなら、私が纏めて相手になろう。遠慮無くかかってくるがいい」
しん、と、その場の空気が死ぬ。正確にはアマゾネスの実力者であるバーラなどは若干やる気になっているが、ノアールに止められていた。
しばらく沈黙が続くが、それを吹き飛ばしたのは、起き上がってきたガレスだった。
「ガッハハハハハハハハハハ!! 負ぁけた負けた!! 完敗だ!! 銀髪の、あの剣士殿はどの程度手加減していた?」
「スクルドの身体能力が恩恵に換算してLv7程度だと考えてもらえばいい」
「そりゃ、大人が子供に合わせるなんてもんじゃないな……最後の魔法をもっと連発されてたらなんもせんで負けてただろうし、最後の速さは目で追えなかった」
ガレスは冷静に分析するが、他の団員は驚きで口を閉じられなかった。Lv7、それはオラリオ最強と言われるフレイヤ・ファミリア副団長、オッタルをさらに超えるステイテスだ。*1
フカシであるなどと笑い飛ばすことは、ガレスが一方的にやられた手合わせを見てしまえばできない。
「しっかし、どうやったらそんなに強くなれる? 恩恵はないんだろう?」
「ちょ、ガレスぅ!? 何聞いとんねんそんなもん機密事項に決まっとるやろ! 機嫌損ねたらどないすんねん!!」
「まぁ別に教えたところでどうにもならんから構わないが」
「いやエエんかい!」
「簡単に言ってしまえば、私が開発した『神の恩恵』を模した先天系魔法だ。恩恵のように経験値を得て肉体を強化する」
再び時間が止まる。それは、信じられない発言だった。
「とはいえ、『神の恩恵』と同じく魂を核にシステムを構築しているから、『神の恩恵』を受けている者には使えん。逆もまた然りだ。この魔法を刻んだ者は『神の恩恵』を受けられん。故に君たちが知ったところでどうにも……どうした?」
「いや……えぇ……?」
「……興味はある。興味はあるねんけど、詳しい仕様聞いとらん今なら後々知らぬ存ぜぬを通せるから聞きたない……」
「先天系魔法ということは、私も覚えられるということですか?」
「リヴェリア!!?」
元々未知を求めて王族の責務を放棄して里を出た女だ。面構えが違う。このふたり、功績こそ違うが根本的には同類であった。
「覚えられる。が、今言った通り覚えたところで無意味だ」
「む、確かにそうですが……しかし……」
「――が、その魔法への貪欲さは評価できる。これをくれてやろう」
グリムは、
「これは……?」
「スクルドへの魔法の教鞭用に作った指南書だ。分類的には幻覚の魔導具に当たるのかな。先天系魔法に関する私見を書いた部分と、初歩的ないくつかの先天系魔法の『
エルフたちがまたざわめく。中には膝を折り祈り始める者までいた。仏陀が現れ経典を渡してきたようなもの。あるいは手塚治虫が手作りの漫画指南書を渡してきたようなものである。さもありなん。
リヴェリアもそれを恭しく受け取ると、我慢出来ないと言った風に中を読み始め、そして止まる。
「……初歩的……? 知らない魔法しか載ってないのですが……?」
「ちゅーかサラッとバインドルーンとブランクルーンまで使いこなしよったなコイツ……マジ何者なんや……ホンマに下界の子か……?」
ひとまず、団員たちは納得せざるを得なくなった。ガレスを倒しリヴェリアは何故かものすごく下手に出ている。ロキもいつもとは違う雰囲気だ。そんな異様な状況に、遅まきながらただのギルド職員ではないと気がついたのだろう。
チャンスを得たサポーターたちは、むしろ嬉々としてソフィ(着替え後)についていった。
そしてグリムたちは、あらためてロキ・ファミリア首脳陣と話すこととなった。