大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
「んで? ここの次はフレイヤんとこか? 監査」
グリムたちの帰際、ロキがふとそんなことを聞いた。まぁ気持ちはわかる。相手はロキ・ファミリアと並ぶ都市最強派閥かつ、主神、眷属共にロキ・ファミリアよりも問題行動が目立つのが、フレイヤ・ファミリアなのだから。
しかし、グリムは首を横に振った。
「いや、確かに次のファミリアに行くが、フレイヤ・ファミリアに行く予定はない」
「えー。なんでや、あそこも大概やろ」
「いや、だってフレイヤ・ファミリアは
キョトンとするロキに、グリムは「勘違いするな」と続ける。
「フレイヤ・ファミリアはオラリオでは
あまりにフレイヤがボロクソに言われているのを聞いて、笑いを堪えきれずに話をすることがままならなくなったロキ。代わって、フィンがグリムに問う。
「では、どのファミリアを? イシュタル・ファミリアとかかい?」
「いや……」
とあるファミリアの本拠地。大派閥と呼ばれ、強者が集い、オラリオでも知らない者はいない派閥。その大きな本拠地が、襲撃にあっていた。
下手人はふたり。たったふたりの襲撃者に第2級冒険者である団長、副団長含め、本拠地にある闘技場は死屍累々の様相を見せている。襲撃者の片割れは都市最強さえ超えるほどの身体能力で、もう片方は明らかに3つを超える種類の魔法で、団員たちを薙ぎ払っていく。
しかし、怪我人はおれど死者はおろか欠損者はおらず、非戦闘員は襲われてさえいない。
「ロキ・ファミリアで理解した。冒険者というもののプライドの高さ。だから、今回は最初の一手でそれを折らせてもらう」
無論、それをやったのはグリムたちだった。一方的な蹂躙。不意打ちではなく、十分に対応できる時間を渡した上で、正面から全滅させた。
「そもそもだ。『闇派閥』の対策に、ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアが駆り出さるのがおかしいだろう。ゼウス、ヘラ・ファミリアが抑止力になっていた? いなくなったあとのロキとフレイヤは舐められているから抑止力たり得ていない? それを本気で言っているなら度し難い。ゼウスたちの時代から、
グリムは言う。ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアが役割を果たせていないというのなら、この『闇派閥』という存在を相手にろくな成果もなく、都市最強に頼る彼らは役割を果たせているのか。
いや、まぁ彼らが仕事をしていないわけではないのだ。むしろ、誰よりも仕事をしているのは彼らだ。彼らのお陰でオラリオはかろうじて秩序を保っているのだから。
「それでよく都市の憲兵など名乗れたな。ガネーシャ・ファミリア」
ガネーシャ・ファミリア。
オラリオの警邏を担当する、迷宮都市の衛兵。
勤勉な彼らはしかして、少しばかり力不足だった。
「名乗りが遅れたな。私はグリム。ギルドから監査として雇われこうして参上した。見ての通り実力はあるつもりだから反発なく聞いてもらえると助かる。二度手間、三度手間はごめんだからな」
そういうと、グリムは完膚なきまでに叩きのめされたガネーシャ・ファミリアの面々を回復させる。戦闘時にあれだけの攻撃魔法を見せておいて、回復魔法まで使えるのかと、ガネーシャ・ファミリアの団員たちは驚愕に目を見開いた。
「さて、団長はどれだ?」
「……私だ。シャクティ・ヴァルマという。レベルは4だ」
「そうか。ハッキリ言って実力不足だ。憲兵だというのなら、最悪フレイヤ・ファミリアやロキ・ファミリアが暴れたときのことまで考えて力をつけるべきだろう。確か『闇派閥』にはLv5の者もいたはずだが、それを相手するのにロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアを頼り、自分たちは雑魚狩りか? 無論、小虫の掃除が重要でないとは言わんが」
「……理解はしている。しかし、我々にも普段の仕事がある。我々が手を緩めれば、それこそ今ある秩序は崩壊する」
確かに実力ではロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアに劣るガネーシャ・ファミリア。しかしそれでもふたりのLv4を筆頭に、Lv3や上級冒険者の数ではオラリオトップを誇っている。そのため一概に実力不足とも言い切れない。
故に、彼らは平時の警邏としては非常に優秀で細々とした不良冒険者の問題行動の立件はかなり多い。問題があるとすれば、今が決して平時とは言えない有事の状況であることか。少なくとも昨今の『闇派閥』相手への抑止力にはなれていない。団員そのもののレベル以外の練度がそれほど高くないからだ。
特に、パトロールにおいての基本方針が人海戦術である。確かに眷属の数は多いから間違ってはいないのだが、効率化をする余裕もないと言った状況である。
まぁ、そもそも責任を彼らにすべて押し付けるも間違ってはいる。ゼウスやヘラが『闇派閥』を抑止していたのも、ロキ、フレイヤができていないのも紛うことなき事実だ。
しかし、それでも彼らはその責任を背負うことを選んだのだ。ならばその
「そこでだ。ギルドからこのような提案がある。君たちが、『憲兵を任されている探索系ファミリア』として続けるのか、それとも新しい分類である『憲兵系ファミリア』として登録をし直すかだ」
「それは……どのような違いが出るんだ?」
「前者であれば、ギルドは神格的に問題がないと判断したファミリアを数派閥、ガネーシャ・ファミリアと同じく憲兵に取り立てて単純な頭数を増やす。君たちの負担はその分減るので、その上で実力向上を目指してもらう。私はほとんど介入しない方法になるな。大雑把に言えば、ほとんど現状維持だ。
後者は、建前上『ギルド』の傘下ファミリアになってもらい、治安維持活動と実力向上に専念してもらう。特典としては税金の免除、必要経費の全面支援などがあるな。その上で私がある程度、君たちの実力向上を補助させてもらう。迷宮へは探索ではなく訓練という名目で、危険な階層まで潜ってもらうことになるし、休みも減る。しかし、現状は打破できるだろう。
要するに、今まで通り『探索系ファミリアが趣味で警邏活動をし、周囲もギルドも他に任せるファミリアがいないから成り行きでそれを認めている半公式』のまま活動するのか、『警邏活動を唯一の任務とし、公的に憲兵としての役割に従事する』のかだ」
団員たちは息を呑む。グリムの言い草に思うところはあった。彼らとて秩序を維持するという役目に誇りを持っている。それを趣味扱いされるのはあまり愉快とは言えない。
だが、
結局のところ、ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアの違いは、派閥の規模だけなのだ。
「……どうする、ガネーシャ。我々は判断に従うつもりだ」
シャクティが目を向け、判断を仰いだ先にいたのは、像の仮面を被った半裸の巨漢。障害を除き去り、群衆の主の名を持つ神、ガネーシャである。
「……皆、ガネーシャは民衆の主として、ギルドからの提案を呑みたいと思っている。これからも俺に付いてきてくれるだろうか……?」
「――当たり前じゃねえっすかああああ!! いつも振り回しといていまさら言いっこなしっすよおおお!!」
「そ、そうだ! 俺たちはガネーシャ・ファミリアだ!! やってやろうじゃねえか!!」
普段に比べ、やや自信なさげにそう問いかけるガネーシャ。しかし、返ってきたのはイブリ・アチャーのやたらデカい声と、それに触発されたハシャーナ・ドルリアの啖呵。そして、他の団員もそれに続いて声を上げる。
感動したガネーシャが「うおおおおおおっ!! 俺が、俺達がガネーシャだあああああああああっ!!!」などと漢泣きに泣いているのを見ながら、シャクティはグリムへと話しかける。
「……ということらしい。それで、具体的にどのような手続きが必要になる?」
「申請書類は持ってきている。事務員がいれば渡すが……『ギルド』傘下となったことで、事務仕事はすべて『ギルド』で受け持つことになった。実質的には『ギルド』の一部署になる形だな。建前としてはガネーシャ・ファミリアの名前は残し、『ギルド』とは別組織という運用をする。『ギルド』と癒着している、などということになると困るだろう」
グリムは連れてきていたギルドの事務員をシャクティに紹介し、ガネーシャ・ファミリアの事務員と合流して書類手続きをするように指示を出す。
そうして、盛り上がっているガネーシャ・ファミリアへと向き直った。
「盛り上がっているところ失礼。『ギルド』傘下についたということで、臨時職員として今後についていくつか指示を出すこととなる。
まず、活動については基本的に今まで通り、オラリオの哨戒活動には取り組んでもらう。迷宮での活動は、今まで団員個人の小遣い稼ぎであったりファミリアの資金繰りであったのは中止。パーティー構成をそちらで考えてもらい、それにあった階層でのレベル上げを中心に、ギルドから哨戒活動と休暇とのシフトを指示する。ファミリア運営に使う活動資金はギルドから支給。団員は月給制か日給制かを選ぶ形になる。
同時に、迷宮でのドロップアイテムや魔石もギルドに納入してもらい、そこから君たちの活動資金にあてられる。当然、過不足あった場合はギルド側で差し引きし、常に一定金額を支給する。別途臨時で必要な場合は書類で提出してもらえばこちらで審査する。
ここまでが活動に関わることだ。そして、肝心の君たちの実力向上についてだが、まず君たちが実力向上へリソースを振り分けられるように、人員の不足についていくつか解決策を提示する。
ひとつが、先ほど言ったいくつかのファミリアを新たに憲兵に取り立てると言うのに近いが、ギルド側で審査し、合格したファミリアと君たちとの連携を強化し、単純に人員を強化する。
もうひとつが、これだ」
グリムがルーンを描き、魔法を発動する。他の場所とのゲートを開く魔法。転移魔法の一種なので高度な魔法だが今更だ。
普通の瞬間転移との違いは、慣れていない者でも負担が少ないところにある。そう、例えば子供や動物のような負担に弱いものでも。
ゲートから次々に現れる影に、団員たちの頭にはてなマークが浮かぶ。そして、シャクティが代表して、その疑問を口に出した。
「……ネズミ……?」
ゲートから現れたのは、大量のネズミであった。