大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
「神ガネーシャ。確かガネーシャ・ファミリアでは、
「あぁ、俺がガネーシャだ! そして確かに、このファミリアでは今、絶賛調教師育成中だ!!」
これはウラノスからの要請だった。
理性のあるモンスター、『
「まず、そちらの調教師にこのネズミを
「どうだ? ムシカ」
「は、はい! 大丈夫です……!」
ムシカと呼ばれた少年は元々は吟遊詩人であったが、ガネーシャに調教師としての才を見出され、今ではしっかりと筆頭調教師となっている。
しかし、ネズミなど調教したところでネズミはネズミ。なんの戦力にもならないだろう。
「いや多くないですか!? 何匹いるんですか!?」
「100はいる。そこから先は成功すれば調教された状態で生まれてくるから楽だぞ」
「まだ増やす気でいる!?」
「で、神ガネーシャにはこちらを」
「む? ネズミだな?」
ガネーシャに差し出されたのはネズミ。こちらも数十はいる。
「神ガネーシャにはこのネズミで、ネズミに『
「……んん?」
「『神の恩恵』というのは基本的に人間を相手に刻むことを前提としており、そうでなくとも馬や狼のような人間の魂に規格が近い生物になら刻むことはそう難しくはない。しかし、ネズミという生物の魂は恩恵を刻むには小さすぎる。失敗すれば『神の恩恵』に魂が耐えられず破裂するだろう。だから、そのネズミを使って練習してもらう」
手のひらの上に乗った小さな命に、ガネーシャは全身から汗をかいて震えながら、普段の声からは考えられないほどに小さく「破裂……」と零した。
「あちらのネズミは、うちのスクルドが魂を見て、比較的魂の質が良く、かつ頑丈なものを選定した。こちらの普通のネズミにも安定して刻めるようになれば、あちらのネズミは随分やりやすく感じるだろう」
「や……あの……」
「あぁ、もちろんこれはあくまで人員不足で実力向上できないという点に関する解決策だ。団員たちへの修行はまた別にいろいろ考えている。まさか、群衆の主たるガネーシャが、団員たちが努力している横で辛かろうと練習を拒否することもあるまい?」
「ぬぐぅっ!!」
ガネーシャが手のひらの上にネズミを掲げたまま地面に顔面を打ち付けた。いや、確かにネズミは
たとえそれがネズミでも、小さな命を奪うこと前提で練習など、ガネーシャの心が受け付けない。しかし、だからといって団員たちが辛い修行に耐えるというのに自身だけのうのうとそれを拒否することも自分が許せない。
ガネーシャは苦悶の声を漏らしながら、ネズミの籠を持って自室へと引きこもるのだった。
「……あまりうちの主神を虐めないでもらいたいのだが」
「いや、必要なことだろう。恩恵を得たネズミは魂が成長しやすくなり、恩恵のお陰で知能も向上する。調教師がそれを統率し、都市全体の情報を収集する。そして、恩恵を得たネズミ同士が配合し、さらに魂の強いネズミが生まれ、調教された知能の高いネズミによって教育されて初めから調教された状態で仕事につく。これだけで、普段の哨戒が非常に楽になると思うのだが?」
シャクティが顔を押さえる。単純にネズミの命をなんとも思っていないだけだった。
そしてそれも間違いだ。グリムは基本的に、自身に関係ない相手なら人間でも命をなんとも思わないタイプである。
「ならなぜネズミなんだ? それこそ犬やカラスでもいいだろう」
「カラスを選んだのはいい考えだな。確かに、他の鳥類に比べ、カラスというのは魂の規格が大きく恩恵を刻みやすい。ただネズミを選んだのは、単純に増やしすいから、仮に殺されたとしてもすぐに補充できること。そして、基本的にどこにでもいるから、どこにいても不審に思われにくいということがある。犬やカラスでは、どうしてもいることが不審に思われる場所もあるからな。それを踏まえれば、最適なのは虫なのだが、いくらなんでも虫に恩恵を刻めと言うほど私も鬼畜ではない」
「……もういい、わかった。我々は何をすればいい? 具体的な修行、考えているのだろう?」
シャクティがグリムに指示を仰ぐと、グリムは団員たちを呼び集めるように頼んだ。
そうして集まってきた団員の中から、グリムはエルフと狐人を選別していく。
「いいか、君たちがガネーシャ・ファミリアのこの先を左右する重要な人材となる。まぁ最悪私がすべてやってしまってもいいんだが、それではガネーシャ・ファミリアの自主性が育たないからな。私が君たちにその術を教えるから、君たちが彼らに施すんだ」
「ほ、施すって何をでしょうか?」
グリムの正体に半ば気づきかけているエルフの団員が、膝を突きそうになるのを堪えて聞き返す。グリムは「まぁそれほど複雑な術式ではないさ」と言いながら、それを開示した。
「君たちに覚えてもらうのは、先天系魔法《ベイニ・ヴェットル》。これは、
その言葉に、エルフたちがざわつく。先天系魔法というのは、エルフが受け継いできた伝統である。それを他種族に明け渡せというのか。
しかし、それを言っている相手が悪かった。いや、明言しているわけではないのだが、状況証拠的に一人しかいない。エルフの里では基本的に、エルフの未来のためにエルフ全体の魔法の能力を引っ張り上げることに尽力した偉人として扱われている英雄だ*1。
そもそもエルフとガネーシャの相性があまり良くないため、ここにいるのもふたりと数が少ないし、エルフのステレオタイプな性格でもない。かたやそこそこ生きて老成しているところがあり、まぁ必要ならと考えているし、もう片方はエルフには珍しく放蕩気味な性格で、今も先天系魔法の件より休みが減るっぽい方が拒否感がある。
ちなみに、ガネーシャ・ファミリアの魔法種族はエルフふたりに加えて狐人ひとりの計3人だ。
「しばらくは君たち3人で回してもらうが、最終的には10人程度は常にこの魔法を使えるようになってもらい、ガネーシャ・ファミリア団員は全員が先天系魔法を使えるようになってもらう」
「質問なんですが、そこまでしてうちらを
その唯一の狐人が質問すると、グリムは収納魔法から例の教本を取り出して答える。ただし、収録されている魔法はガネーシャ・ファミリア用に編集されている。
「まず全員に確実に覚えてもらうのは、魔力によって索敵とマーキングを行う広域魔法《グリパフォティン・エルタフラヴニン》と、パスを繋いだ相手の脳内へ念話を送る通信魔法の《ヒミン・スラウズル》だな。このふたつはガネーシャ・ファミリアの活動に関わる魔法だからまっさきに全員覚えてもらう。それと、団員全員の魔力はしっかりと覚えてもらう」
「あのー……それ魔導具じゃダメなんですかね? そんな先天系魔法があるなら魔導具としても作れると思うんですけど……」
話を聞いていたのであろうイブリがそう質問を飛ばしてくるが、グリムは冷めた目でイブリを見ながら答える。
「その魔導具を『闇派閥』に奪われれば、こちらの通信内容が筒抜けになる。少し考えてから喋ったらどうだ」
「ゔっ……」
「その他にも、捕縛や無力化に有用な魔法を収録している。まぁまずは君たちが《ベイニ・ヴェットル》を覚えるのが先だ。少なくともこのくらいは今日中に覚えてもらうぞ」
魔法種族たちの顔が引きつる。本来、先天系魔法の継承は
その後、魔力暴発と
「待ちな、あんたら」
グリムとスクルドが諸々の仕事を終え、オラリオを去る直前のことである。
呼び止められて振り返ってみれば、そこに立っていたのはひとりの女ドワーフ。そしてその後ろには黒白のエルフと、巨漢の
「……フレイヤ・ファミリアか。前はいなかった団長を加えてリベンジか?」
「やめとくれ。このバカどもと違ってアンタ相手に襲いかかるほど身の程知らずじゃないよ。まぁアンタがこのオラリオをめちゃくちゃにしようってんなら、そん時は捨て身で相手になるけどね……アタシはミア・グランド。フレイヤ・ファミリアの団長やらせてもらってる」
「……名乗られたなら返そう。私はグリム。こちらは弟子のスクルドだ。知っているだろうがな」
そう。グリムとスクルドはオラリオに来て間もなく、フレイヤ・ファミリアの幹部陣であるオッタル、ヘディン、ヘグニ、ガリバー兄弟に襲われた。
特段見どころもなく、ヘディンとヘグニはグリムに、オッタルとガリバー兄弟はスクルドに鎧袖一触され、それ以来接触はなかったが。
「あれから音沙汰なかったからな……あの女神が『魅了』しに来るくらいは考えていたのだがな」
「悪かったね、うちの箱入り娘が。どうやら、アンタんとこの主人のことを酷く嫌ってるみたいでね。アタシはそうでもないんだが、猪坊主も妖精どももチビ兄弟も、あの娘にゃ逆らえないから……特に、このモヤシは乗り気じゃなかったんだ」
「……あの方は『運命の女神に通ずる戦乙女の魂を持つ者とその勇士を魅了なんてしたら、その時点で破滅の運命が決まり逃れられなくなる』と、そう仰っておりました……」
グリムの言葉にミアが返す。そして言葉を重ねたのは、Lv5の第一級冒険者、『
「御身の前にこの身を晒す無礼をお赦しください」
「しかし、我らのこの身は女神への忠義の徒。言い訳は致しません。しかし『神時代最初の大魔導士』よ。どうか見ていただきたく」
そう言うと、ふたりは
よく見れば彼らの顔色は悪い。ろくに眠れていないのだろう。体も傷はないものの、ポーションや回復魔法でも消しきれなかった、新しい皮膚との境目がところどころに見えている。
「「【――親愛なる女神よ。貴女の認めたこの魂より現れる、貴女を守るための
そうして、二人の手に『
ヘディンの手に現れたのは、一本の長杖。あらゆるものを癒やす力を持ったその杖の柄に刻まれた銘は『ヒルドスレイヴ』。
ヘグニの手に現れたのは、一本の長剣。血液を吸い魔力に変える力を持ったその剣の刃に刻まれた銘は『ダインスレイヴ』。
恐るべきことに、彼等は一度見ただけでグリムの術式を記憶し、それを僅か2ヶ月程度で、魔力暴発をし続けながらも体得するに至ったのだ。
「――見事」
グリムは、動機がなんであろうとその貪欲なまでの魔法への修練に敬意を示した。その声を聞いて満足気に意識を落としたふたりを、ミアが受け止めて担ぎ上げる。
そうして、次に前に出たのは、副団長であるオッタル。オッタルはスクルドの前に出ると、静かに頭を下げる。
「謝罪はしない。再び女神からの命があれば、俺は同じように行動するだろう。だが、お前のお陰でどれだけ自分が惰弱を貪っていたかを理解した。そのことに、礼を言う」
「……ふん」
鼻を鳴らすスクルド。グリムへの謝罪がないのが気に入らないのだろう。まぁ相手はただボコボコになっただけでこちらには被害はなかったのだし、負け猪の遠吠えである。これ以上は気にしないことにした。
「では、我々は行く。女神フレイヤは神格的には未熟だが、勇士を見る目は確かだったと記憶しておこう。君たちが、恥を晒し続けぬことを祈るよ」
「ああ、今度来た時は飯のひとつでも作らせてもらうさ、飯の味には自信がある」
「楽しみだが、君たちの本拠地へ行くことになるだろうからやめておく。君が飯屋でも開いたら、その時に頼むとしよう。なに、引退まで気長に待つさ。エルフだからな」
そうして、彼らはオラリオを去る。
彼らの行動がどれほど未来を捻じ曲げるのか、それを知るものはまだ、いない。
前提として、グリムはオラリオの興亡に興味がありません。
そのうえで、オーディンとウラノスからの依頼はあくまで状況の改善なので、『闇派閥』まで手を出す必要はないと考えています。ザルドやアルフィアみたいな規格外が来なければ現在の戦力だけでもオラリオ側が勝てると考えてますし。
考え方としては消極的なだけでエレボスと似たようなもんです。どうせ内輪揉めなら精々それで磨かれて強くなれと思ってますね。
最悪全滅されたら(迷宮まで手を出さないといけなくなるから面倒で)困る程度の考えです。そうしたら手を貸すかも知れませんね。