大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
「ほら、脇が甘い」
「ヴェッ!」
地面を転がされるルーナ。指導をしているのは、新しく勇士に加わったハーフドワーフの元冒険者、スタルガド・ガムリである。彼は元々オラリオで冒険者をやっていたが、なんと25年間レベルがひとつも上がらず引退し、剣製都市ゾーリンゲンで隠居していたところをスカウトされた男である。
スカウトの際に一足早く『
しかし、長年冒険者をやっていただけあって、武器の扱いや身のこなしは熟練の経験が根付いている。それでもって、ルーナ相手に指導をするのが彼の役割となっていた。
「いやぁ、しかし本当に便利なもんだね、『勇士の刻印』。それに、この改良された先天系魔法に『字刻詠唱』とやらは」
小器用なスタルガドは早くも、超短文相当の先天系魔法を習得、『字刻詠唱』にも成功していた。これには、元々彼が恩恵を持っていた時に、魔法を戦闘に織り交ぜるために『並行詠唱』の技術を持っていたことが理由である。
彼が覚えた魔法は足元をごく狭い範囲ぬかるみに変えるものや、ほんの一瞬だけ痺れさせるもの、あるいは軽い煙幕であったりと搦め手が多い。それが彼の戦術の組み立てと噛み合っており、かなりの効果を発揮するようだった。
「ヴ~……」
「唸らない唸らない。もうちょい考えて攻めなさい、動きが単純すぎるよルーナちゃん」
「アタシはバカだから考えないで感じるんだもん」
「自分で言ってちゃ世話ないやつでしょそれ……おじさんはそろそろ飯作るから一旦休憩。休んでて」
スタルガドがそう言うと、ルーナはその場でぺしゃりと潰れる。限界まで追い込むタイプなので、かなり体力を消耗していたのだろう。
自炊系男子(45)だったスタルガドは、勇士に加わってから料理を担当することを申し出た。特に文句は出なかったので、それからすべての料理を彼が作っている。幼馴染から教わったレシピであるそれは何度も作ったものであり、体が覚えている。
スタルガドが全員分の食事を作り終え、落ちていたルーナを拾って小脇に抱えながらグリムを呼びに行くと、ちょうど、スクルドがグリムになにやら話しかけ*1ているところだった。
このふたりは見るたびにイチャついているようにスタルガドには見える。しかし、グリムの反応を見る限り彼はスクルドのことをそういう目で見ないようにしているのは見て取れた。それは元々男だったというスクルドのことを気遣っているのだということは理解できはする。するのではあるが。
「んん……」
「ん? また新しい魔法を使えるようになったのか?」
「ん」
スクルドは、座っているグリムと対面になるようにグリムの脚の上に座り、正面から体格差のあるグリムへと抱きつく。グリムはそんなスクルドの頭をわしゃわしゃと撫でてやっていた。
そんな様子を、スタルガドとルーナが見ている。
「……なんであれで気づかんのかねぇ……」
「メスの顔してる、メスの顔」
「どこで覚えてくるんだいそんなワード」
「お父さんが言ってた」
微妙に呼びかけにくい雰囲気のせいで、飯を食べるのは少し遅くなった。
「ところで旦那、目的地は決まってるのかい?」
「寄り道はするが、極東に行こうと思っている」
「クソがあっ!!」
人工迷宮クノッソス。名工ダイダロスによって作られ、その子孫に受け継がれてきた血と妄執の証。
そこを根城にする『闇派閥』のひとり、『
「なんで
「……勘が外れたか、ヴァレッタ」
その様子をニヤニヤと嗤いながら見ているのは、『
「笑ってんじゃねえぞオリヴァス……Lv3のテメェごとき、私がその気になりゃ簡単に殺せるんだからな……」
「おぉ怖い怖い……それで、危険を冒してまでガネーシャ・ファミリアに手を出し、既に数も減って貴重になっている地上のダミー拠点を3つ犠牲にしてまで攫ってきたガネーシャ・ファミリア団員はわざと
「〜〜〜〜ッ!! チィッ!!」
盛大に舌打ちをしたヴァレッタは、親指の爪を噛みながら考える。自分の考えは間違えていなかったはずだ。ここ1年ほどのガネーシャ・ファミリアの連携は異常だ。それこそ、リアルタイムで直接連絡を取り合っているとしか思えない。だからこそ、ヴァレッタは『通信の魔導具』の存在を疑ったし、今回ガネーシャの眷属を捕縛する時は、わざわざひとりで虚空に向けて喋っていた者を選んで捕まえたのだ。
『通信の魔導具』をひとつでも手に入れてしまえば、そこからあちらの情報は筒抜けになる。地上のダミー拠点の3つ程度安いものだと考えて。
「なのに、持ってねぇわけがねぇだろうがよぉ……!!」
だがしかし、結果は空振り。捕まえた団員はそんなものどこにも持っていなかった。
「クソッ、考えは間違ってねぇはずだ。なんらかの手段で連絡を取り合ってる、そこまではあってるはず……魔導具じゃねえならなんだ? 考えろ……なら、魔法? 先天系魔法か?」
ロキ・ファミリアの『
その魔法は本当に少しずつだが、『
その中に、例えば遠距離の仲間同士を繋ぎ、会話させられる魔法があったら?
「……ガネーシャ・ファミリアの魔法種族を優先的に狙うか……? 無理だ、そんなもん厳重に警備してるに決まってる」
ヴァレッタは読み違えていた。とはいえ、『ひとりが中継地点として全員を繋いでいる』のではなく、『全員が一方的に伝える魔法を覚えている』など想定もできないだろうが。
しかしそれも些事ではある。起こっている現象は同じなのだから。それに、急激に向上した情報収集能力についても、まだ正体がわかっていない。最悪、このクノッソスの存在がバレるかも知れない以上、派手に動くことはできない。今回だってギリギリだったのだ。
「だが、地上に被害がねえってのは流石に面子が立たねぇ……
それでも、クノッソスのことを知られないために、おいそれとクノッソスから地上へ人員を出すわけにはいかない。最低でも迷宮を経由して、迷宮の出入り口から地上に出さなければならない。
そして迷宮の入り口には、ガネーシャ・ファミリアの検問が張られている。これがどうにも突破できない。
「お困りのようですな……」
「あ゛ぁ!? ……テメェかよジジィ。なんの用だ」
「いえいえ、迷宮で捕縛した木っ端冒険者の狂戦士化が一通り終わったので報告に」
ニヤリと悪い顔をして笑ったのは、獣人の『邪神官』バスラム。アパテー・ファミリアの彼が担当するのは、使い捨ての死兵の増産。タナトスが企んでいる爆弾兵とは違う、薬と呪詛で狂化した化物を作ることだ。
流石に、元オシリス・ファミリアの冒険者によって作られた狂化兵に比べれば幾段質は劣るし、武器化精霊も刺さっていないが、それでも、薬による強化でLv3程度の力は出せる。それは、このオラリオでも上位の力ではあるのだ。
これをいきなり迷宮の出入り口から外へ突撃させれば、Lv4の冒険者が来るまでにそれなりの被害は出せるだろう。なにせ、数はいくらでもあるのだから。
「クククッ……待ってろよフィン〜……テメェのスカした面を、絶望と屈辱に歪めてやるぜぇ……」
ヴァレッタはズキリと痛んだ右眼を押さえながら凶悪に嗤う。先日迷宮内で運悪く――ヴァレッタは決して認めないだろうが運悪く――遭遇してしまった、
無様に逃げの一手を打つしかなかった屈辱を煮え立たせて。
「間違いない。『闇派閥』の拠点はダイダロス通りの地下にある」
ガネーシャ・ファミリアの拠点、『アイアム・ガネーシャ』の一室。
ガネーシャ・ファミリア団長のLv5、『
「《グリパフォティン・エルタフラヴニン》で追跡していた連れ去られた団員の魔力はそこで途切れた。魔力の動きから
シャクティの言葉に、ガネーシャは仮面の裏で沈痛な表情を見せる。心優しい神だ、団員が自決したことに心を痛めているのである。
「ダイダロス通りの地下……地下水路か?」
「少なくとも、出入り口はそこにあると思うが……地下水路そのものが拠点かと言われると違う、と思う……そうであれば、流石にここまで見つからないというのはないだろう。だが、オラリオ全域への神出鬼没ぶりは間違いなく地下水路を用いているからだ。そこへ直接入り込む経路があるはずだ」
「となれば地下水路の捜索……『ガネーシャ・チューハー部隊』の出番だな……!!」
ガネーシャがしたり顔で言う。ちなみに、チューハーとはヒンディー語でネズミを指す。そのまんまである。
「姉者、迷宮の方はどうする」
「引き続き、出入り口の警備を固める。Lv4以上の団員はできるだけ迷宮入り口にシフトを固めろ。多少厳しくなるが……仕方ない。恐らく、『闇派閥』は迷宮内にも侵入経路を持っているからな……」
ガネーシャ・ファミリアの実力は日々上がっている。それでも、まだ足りない。
「……ギルドに、アストレア・ファミリアを含めた少数精鋭の、スパイが入りこまない優良派閥をこちらの作戦行動に加えるように提案する。四の五の言ってはいられん」
「……わかった」
「それもまたガネーシャだ」
オラリオの闇は深まる。しかし、同時にそれを照らす光も、少しずつ大きくなっていた。
ダンまち二次創作書いてて一番楽しいのはヴァレッタ苛立たせるとこ。コイツとオリヴァスには何やってもいいから。