大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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 いやぁ、ストーリーの煮詰め不足で丸々1話分没になって辛み。


三人目、そして倍プッシュ

 

 スタルガド加入から1年、勇士一行は極東へとやってきていた。

 

「……なぁ旦那。おじさんさっきから風景が変わっていないように見えるんだけど……」

 

「安心しろ、風景は変わっていない」

 

 グリムが次の加入者の当てとして意気揚々と向かっていったのが、この竹林であった。あったのだが、竹は木に比べて特徴に乏しく、遭難しやすいとされている。

 スタルガドが心配したのは、要するにそういうことであった。

 

「えーっ、それって遭難してるってこと!?」

 

 声をあげたのはルーナ。成長期なのか、この1年でモリっと背を伸ばした少女である。しかし、スタルガドが『魂装(ヴェイプン)』を具現化する《セーヴァルスタズ》を会得したのに対し、ルーナはどうにも魔力の扱いが苦手なのか、未だにこの魔法を使うことができていなかった。

 とはいえ、今回はルーナだけではなく、スタルガドも同様に術中にいるようだったが。

 

「違う。この森には全体に迷走の呪詛(カース)がかけられている。常に同じ景色が見えるようになっているんだ」

 

「んー……それって、(おさ)がなんとかできないの?」

 

「解除も破壊もできるが、敵意はないと証明するために正攻法で入っているんだ。ただでさえ、ここの連中に私……というか、エルフは嫌われているからな」

 

 グリムがそういった直後である。一行を取り囲むように、唐突に気配が現れる。いや、気配だけではない。『詠唱待機』の技術を使っているのか、既に膨大な魔力が魔法として、いつでも発射できるように構えられている。

 

「おいおい……敵視されてるって言っても物騒すぎないかい? どんだけ恨み買ってるのさ」

 

「私個人はむしろ感謝される立場なのだがな……いかんせん、エルフというのは愚かな生き物だ」

 

「その通りだ、客人」

 

 グリムの言葉を肯定するように、ひとりの女性が竹林の奥から姿を表した。極東の装束を身に纏い、グリムへと鋭い視線を向ける妙齢の女性の頭には狐の耳がついており、同じように腰からは大きな尻尾が伸びている。

 その姿は間違いなく、エルフと双璧をなす魔法種族(マジックユーザー)

 

狐人(ルナール)……?」

 

「違う。ルーナ、彼女たちはその始祖に当たる存在だ」

 

「その通り。エルフの弾圧により歴史の表舞台より姿を隠さざるを得なくなった、精霊に認められし獣人――天狐。それが我々の名だ」

 

 魔法種族とは、精霊に認められたことで魔法の触媒をその身に宿し、それが血によって連綿と受け継がれてきた種族である。

 であればいるはずなのだ。エルフにとっての王族、精霊に認められた一族であるハイエルフに相当する存在が、同じ魔法種族である狐人にも。

 

 それが、天狐。

 

「もう一度聞こう、ハイエルフ。我らの里に何用だ。自ら引き籠もっている貴様らと違い、我らは貴様らによってこうして押し込められている。悪いが、貴様個人に恨みはなくとも、だからと言ってエルフに対する恨み辛みまで忘れることができるほど、我らは賢しくないぞ」

 

 天狐は寿命が長い。それこそ、ハイエルフよりも遥かに長い。それ故に、長い生の間にエルフによって、実際に弾圧を受けてきた者もまだ生き残っているのだろう。

 敵意と魔力が混ざりあって、チリチリと精神へ刺すように伝わってくる感覚に、ルーナは思わず身構える。そして、グリムがそれを制した。

 

()()が止めないところを見るに、見極めているのだろうな。であれば、こちらも乗るのが礼儀か」

 

「ッ!? (はな)――」

 

「遅い」

 

 グリムがやったことは、ただ十字を切っただけに見えただろう。しかし、それは十字ではない。欠乏を表す(ナウシズ)のルーンだ。

 たった一文字のルーンだが、神の世の魔法はそれだけで絶大な効果を誇る。周囲の魔力を霧散させ、構築されていた魔法を魔力暴発(イグニス・ファトゥス)させることなく消滅させていく。

 

「クッ……なんて魔力……いいだろう、たとえ勝てなくとも、皆が逃げるまでこの命尽きるまで貴様を足止め――」

 

「やめい」

 

 ペチンと、気の抜けた音が竹林に響いた。

 いつからそこにいたのかわからない。特に、スタルガドは周囲に常に警戒を払っていた。しかし、意識の隙間を縫うように、その人物はいつの間にかそこにいた。

 表に出てきていた天狐の頭に、蛇腹の紙で作った打撃武器――いわゆるハリセンで一撃を加えたのは、恐らくは同じく天狐であろう、壮年の女性だった。

 一見すればその特徴は妙齢の天狐と変わらない。狐人と同じような容姿だ。しかし一点、大きく異なるところがある。それは、九つに分かれた巨大な尾の存在。

 

婆様(ばばさま)!? なにを――」

 

「覚えのある魔力だと思って見に来てみたらなんだいなんだい。ハイエルフはいつから800年生きるようになったんだい? 魔法狂いの小僧」

 

「そちらは随分と老け込んだな、呪詛狂いの(ばあ)

 

 グリムと壮年の天狐の親しげなやり取りに、両陣営ともに困惑する。天狐の里の者たちは彼らの頂点である壮年の天狐がハイエルフ相手に気安く話しかけていることに。

 そして、グリムの素性を知る勇士たち3人は、天狐がグリムのことを「小僧」と呼び、グリムが天狐のことを「婆」と呼んだことに。

 

「婆の悪戯好きには苦労した。たかが狐人の由来を調べるだけにどれだけこき使われたか……」

 

「そういうのを因果応報って言うんだよ。あんたらハイエルフがあたしらを隠してなけりゃ、そんなことにゃならんかったろうさ」

 

「まったく否定できんな……さて、どうやら説明が欲しいようだ。ここはひとつ、自己紹介といこうじゃないか」

 

「そっちは3人なんだからアンタが言えばいいじゃないさ……まぁ、いいさ」

 

 そうして、グリムと壮年の天狐は、互いに率いている者たちに向けて名乗る。

 

「我が名はグリム。800年ほど前に、ノルナゲスト・タング・アールヴとして、少しばかり魔法の可能性を探究していた者だ」

 

「名乗る名はないさ。婆様とでも呼びな。天狐で、ここの前里長をやってた、ただのババアさね。ま、1000年ほど生きちゃいるがね」

 

 

 

 グリムと婆様の関係はそれほど長いものではない。グリムが精霊と狐人との関係を調べに極東にやってきた800年前、当時200歳ほどでこの竹林にある天狐の里の里長をやっていた婆様に出会い、力試しの後に和解。

 様々な交換条件を飲んでやっと、天狐に関する文献を読むことができた。その程度の仲である。

 

「ま、まさか、かの大魔道士様であらせられたとは……大変失礼いたしました……」

 

「いや、悪いのはおおよそこっちの正体がわかっててスルーキメてたそこの婆だ。気にするな」

 

 ノルナゲスト・タング・アールヴはハイエルフの中では珍しく、天狐からも尊敬されていた。魔法種族にとって、ノルナゲストの功績はそれほどまでに大きなものだったからだ。

 

「んで、わざわざアンタがこっちまで来たってことは、研究の一個や二個は完成させてきたんだろうね?」

 

「当然だ婆。むしろ、当時研究してたものはすべて完成させたさ。魔法種族以外へ先天系魔法を使えるようにする魔法、先天系魔法の短縮や強化。そして、『神の恩恵』の魔法化」

 

「……ふーん? そりゃまただいそれたことをやったねぇ……てことは、ここに来たのは人材狙いかい? この土地は神がいないからねぇ……いや、それとも、そっちの小童かい?」

 

 婆様は、スクルドを見てそう言い放った。

 

「わかるか」

 

「わからいでか! こりゃ神の呪いだね。魂を削る呪いなんてさ……そこに魔法で精霊を継ぎ接ぎしたか」

 

「言っておくが、精霊側の意思は確認した」

 

「そりゃ、随分と愛されてんだねぇ、その小童は」

 

 婆様にそう言われたスクルドは、むず痒そうに足をすり合わせると、グリムの脚にピタリとくっついた。

 

「おんやぁ……?」

 

「いやもう考えてらっしゃるとおりで」

 

「昔っからそういうとこあったよこの小僧は」

 

 スクルドの様子を見てスタルガドへ目線を向けた婆様に、スタルガドが頷いて肯定した。

 

「さて、ま、とりあえず要件を済ませてしまおうか。その眼に適うかどうかはわからんけどねぇ……楓、梅を連れて来な」

 

「!! 婆様!! 梅はまだ未熟者ですよ!?」

 

「だからこそだろう。せっかくハイエルフ様が守ってくれると仰ってんだから、こっちはそのお考えに乗ってやろうじゃないか。どうせ、今の世の中、エルフの間でも天狐なんざ覚えてるやつはいないだろうしねぇ……へぇっへっへっ!」

 

 楓と呼ばれた、先程グリムと対峙していた天狐は一度は反対するも、不承不承一度引っ込んで、一人の少女を連れてきた。

 長い黒髪と横髪、前髪ぱっつんと、ザ・極東と言った出で立ちの少女は、見た目はルーナと同じくらいの年頃に見える。

 

「ほら、挨拶おし」

 

「は、はい! クズノハ・梅です! こ、この度は大魔道士様にお会いできまして、恐悦至極にございます!!」

 

「……ん! ん!」

 

 梅の魂に、スクルドが反応する。どうやら、かなり良い魂なようだ。

 グリムがそれでは早速と梅へ『勇士の刻印』を刻もうとすると、それを止める声があがった。

 

「お待ちを、大魔道士様。疑うわけではありませんが、すぐに信用しては、天狐としての示しがつきませんゆえ、梅にこちらの護衛をつけたく存じます。よろしいでしょうか」

 

 楓が紹介してきたのはふたりの獣人だった。両方とも、天狐どころか狐人でもない。

 片方は大柄な熊人(ベアズ)の男性で年頃は30代程に見える。もう片方は少年と青年の間くらいの歳の猪人(ボアズ)だ。特に、猪人の少年は、先程からグリムを強く睨んでいる。

 

「我々は構わない。ということは、刻印は先にそちらから、か?」

 

「ム。そういうことだ。儂はカムイ・(くぬぎ)。お(ひい)には恩がある。先に儂から刻んだってくれ」

 

「イブキ・牡丹だ」

 

 櫟が自分の身を差し出してくるのに対して、牡丹はグリムを威嚇しながら梅を背に隠す。その様子を見て、スタルガドは何かを察し、婆様に耳打ちする。

 

「あらあらあら、あのお若いのってもしかして……?」

 

「大体考えてる通りよ。離れているように見えて歳は同じゆえな」

 

「ほんほん、おいくつで?」

 

「あれら3人皆15さ」

 

「……待って。あのデカいのも15? マジで? 老けてるね〜おじさんびっくりしちゃった」

 

 ふたりがそんな話をしているうちに、グリムが全員に刻印を刻み終わり、仕様の説明をしている。そんな中、ぶっきらぼうにだが梅を気遣う牡丹の様子を見てスクルドがなにか思ったように、グリムの裾を引いた。

 

「……あれはなんで気付かないんだろうねぇ……」

 

「親代わりやってたのと、元は男っていう先入観があるんでしょうねぇ……いやこっちもヤキモキしちゃって」

 

「へぇっへっへ! 面白そうじゃあないかい! あそこがくっついたら報告しに来るよう伝えな。くっついたときでいいさね」

 

 そのような会話がなされているとも知らず、グリムはスクルドの頭を撫でる。

 スクルドは、自分の心に芽生えた謎の羨望に、困惑を隠せないでいるのだった。

 

 

 

 一方、オラリオ。ガネーシャ・ファミリアの本拠地、『アイアム・ガネーシャ』にて。

 

「それで、『闇派閥』の拠点には踏み込まないのか? 姉者」

 

「はっきり言って、無謀だと私は考えている。城攻めには守りの3倍の戦力がいるとされている。あちらにはこちらの戦力は大まかにバレているのに対し、こちらはあちらの総戦力もわからなければ、扉の向こうの地の利もない。私はとにかくあの扉を見張り、誘い出して捕らえていくか、兵糧攻めにするのがいいと思う。迷宮の方は?」

 

「とりあえず、出入り口を2箇所確認できた。それとだが……オラリオの外にも出入り口があるかもしれん」

 

「……やはり。しかし、オラリオの外か……門番にさり気なく哨戒させるか……? いや、それよりも、それが一箇所ならいいが、複数箇所あるのなら想定以上にやつらの拠点は広範囲に広がっているぞ……」

 

 シャクティとイルタは頭を抱える。

 テロによる被害はかなり小さく抑えているが、それでも0ではない。オラリオにも、じわじわと不安が蔓延しつつある。

 検挙という結果を出せているからまだ信頼を保てているが、実際は捕まえることができているのは下っ端の連中ばかり。

 

「……それでも、外から入ってくる門は限られている。そこを見張っておけば、外の出入り口は気にしなくともよいだろう。兵糧攻めは無理そうだがな……ガネーシャ、計画していた件を頼む」

 

「ガネーシャ了解。プロジェクト、『ガネーシャ・ガルラ部隊』の発足だ!!」

 

 ……つまるところ、鷲へ恩恵を刻み調教する計画であった。




 そろそろ時間飛ばして『大抗争』辺りかな……
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