大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
「おとうさんとおかあさんに、会わせてください……」
哀れな
ヴァレッタ自身、憎悪と憤怒を糧に先日、下層で休まずのモンスター百体斬りを成し遂げて、ようやくLv6に達したというのに、疾うの昔にその領域にいた憲兵の長を前に釘付けにされ、ほとんど戦況に関われていない。
クノッソスに立て籠もり、籠城戦をするのなら勝ちの目はあるだろうか。いや、オラリオ外の出入り口を少しずつ見つけられているのはヴァレッタも感づいていた。いずれ完全に封鎖されればジリ貧だ。
それに、それは『敗北の戦い方』だ。ヴァレッタたちの目的はオラリオの破壊。クノッソスに閉じこもっていたところで、オラリオにはなんの被害も与えられない。だからこうして、
それこそが、自爆兵による特攻。タナトスが誑かした死兵を使って第2級冒険者だろうと楽に殺せる『火炎石』の爆発をぶち当てて、オラリオを破壊し、冒険者を殺し、混乱状態に陥れる。その隙を突いて乱戦に持ち込み、瓦解させる。
正義の眷属や秩序の眷属なら、善人なら確実に油断する子供をその鏑矢にする作戦が今、成就する――はずだった。
「【精霊に告げる!】《ビンダ》!!」
1秒にも満たない『
「……ごめんね、あなたのために死んであげられない」
そうしてその隙に、『
「――ッ!!
防がれた。それを理解したヴァレッタは、他の捨て駒どもに起爆の合図を出す。しかし、それも無駄。爆弾を持っている捨て駒だけが、何故か一人残らず固まって動かない。
「何が――ッ!! クソッ!!」
「流石に、貴様ら『闇派閥』全員にかけることは無理だった。貴様のような高レベルの構成員には《耐異常》もあるしな。だが、ついこの間『
広域追跡魔法《グリパフォティン・エルタフラヴニン》。普段は通信魔法《ヒミン・スラウズル》で声を届けるためのマーキングとして使われる魔法だが、その応用力は非常に高い。
もちろん、応用するためには技術がいる。ガネーシャの『
しかしそれができれば、敵の追跡、周囲の状況把握が自在になるばかりでなく、遠隔で様々な魔法を敵のみにピンポイントでかけることさえできるようになる。
複数のガネーシャ・ファミリア団員によって、《グリパフォティン・エルタフラヴニン》を通して与えられた魔法はシャクティの言ったとおり、指南書に載っていた中でももっとも効果は低く、かつ詠唱をもっとも短くできた捕縛魔法《ビンダ》。
その効果は『動けなくなる』という単純なもの。拘束力自体は強いものの、高レベル冒険者には抵抗は容易。ただし、シャクティの言う通り捨て駒相手にはそれで十分。
ガネーシャ・ファミリアの中でも魔法に秀でた者たちが、
「撃鉄装置を奪われたのは不覚だったがな……貴様らが火炎石を溜め込んでいることも、民間人を騙して爆弾兵に仕立て上げようとしていたことも、気づいていないとでも思っていたのか?」
「クッ、クソがぁっ!!」
一方、ディース姉妹を相手にしていたフレイヤ・ファミリアのヘディンは追い詰められていた。いや、その一歩先にいた。
Lv5の精霊兵12体に襲われるガリバー兄弟とヘグニ、今ここでLv5に達しているのはヘディンとヘグニのふたりだけ。このままでは数の暴力で蹂躙されるだろう。
しかしヘディンの後ろには民衆の避難している4つの大聖堂。ここで指揮官であるヘディンが動けば、妹であるヴェナ・ディースは嬉々として大聖堂を爆撃するだろう。
たとえガリバー兄弟が、ヘグニが死のうとも、ヘディンはその場を動かない。ヘディンの選択を嘲笑しようとしていたディース姉妹は、あまりにも冷静なヘディンの態度に違和感を覚える。
やがて、ガリバー兄弟は精霊兵によって蹂躙され、ヘグニは血液を辺り一帯に撒き散らして息絶える。
それを見て、ヘディンは溜息を吐きながらも、懐からひとつ、滑らかな宝石を取り出した。
「これは我が女神より授かった秘術、セイズを用いて作成した『魔剣』の亜種だ。あまり使いたくはなかったのだが、馬鹿どもが不甲斐なさ過ぎるからな、仕方ない、貴様らにも見せてやろう、妖魔ども」
ヘディンが宝石を砕く。その瞬間、光り輝いた宝石が姿を変え、一本の長杖が姿を現した。
今更そんな杖一本で何ができると嘲笑しようとしたディース姉妹が、その杖に籠められた魔力量に声を引き攣らせる。
「魔杖『ヒルドスレイヴ』。能力は、同じ神の恩恵を刻まれた、死んでから1日以上経過していない――」
勢いよく振り返ったヴェナが魔剣を構えて己を守ろうとする。しかし、それを突破して、黒剣が彼女の腹部を浅く斬り裂いた。
「死者の蘇生だ」
妹に傷をつけられ、激昂した姉のディナ・ディースが生き返ったヘグニへと斬りかかる。しかし、彼女は気付かなかった。
ヘグニの持つ魔剣も、斬撃範囲の拡張効果を持つ『ヴィクティム・アビス』ではなく、見たことのないものへと変わっていることを。
「……魔剣『ダインスレイヴ』……」
そして、それが命取りとなる。
「その力は、己の血液と、己の血液が飲み込んだ他者の血液の操作」
ディナが全身に被っていた返り血がすべて針状に硬化して内側へと伸び、ディナの皮膚が刺し貫かれる。臓腑に、あるいは神経、腱を穿たれたディナは、全身から血を流しつつその場に倒れ込み、起きあがったヘグニがそれを見下ろす。先程までの逆の構図。
「滅せよ、魔女」
ヘグニが振り下ろしたダインスレイヴにより、ディナの首が刎ね飛んだ。
姉の死により妹が動揺した隙に、ヘグニが地面を伝っていた血を操り、ヴェナの体を串刺しにして空中へ縫い止めた。
腕をちぎり取られ、肺を刺し貫かれた魔導士にできることなど、なにもない。このまま言葉を紡ぐこともできないまま、血が抜け落ちるまで苦しむだけだ。
「無様に死んでいた分際で何を気取っている。終わったならさっさと働け」
ヘディンが呟き、ガリバー兄弟の方を見る。不意を突かれ、連携を崩されたが故に一方的な蹂躙にあったが、一度死んでから蘇り体勢を立て直した今、Lv5の精霊兵とは言え
そう考えていたときだった。魔力が繋がる感覚、事前に説明されていた、ガネーシャ・ファミリアの《グリパフォティン・エルタフラヴニン》だろう。
そして、ガネーシャ・ファミリア団員による通信が、オラリオ中の戦力へと、緊急事態の発生を告げた。
オラリオの中心部、バベルの塔。そこを護るように配置されていたのが、Lv7の『暴喰』ザルド。現オラリオの最大戦力をそこに置いていた。
一方、迷宮内から攻撃しに来るであろう相手に対しては迷宮内へ赴いた『静寂』アルフィアが対応する。それが今回の防衛作戦であり、地上へ出てきた相手がある程度減ったとなった時に、一気に攻め込めるようにしていた。そのはずだった。
しかし、そのザルドは大剣を地面に突き刺して膝を突き、アルフィアは敵を睨みながら地に伏している。最大戦力であるはずのふたりが、敗北直前にまで追い詰められていた。
大言を吐いておいて情けないとは言えない。ザルドもアルフィアも、間違いなくオラリオの誰よりも強い。そして、敵は策を持ってそれを打ち破ったのではない。
例えば、とある歴史でザルドやアルフィアが敵に回ったときにやったように、毒や病に侵された彼らの体が限界を迎えるまで耐久戦を仕掛けたのではなく、真正面からの戦闘で彼らを打ち破ったのだから。
「……ふざけるな」
それはザルドか、それともアルフィアか。はたまたどちらもなのか。怨嗟のような声が口から漏れる。
「ふざけるなよ『闇派閥』……」
それは、自分が敗北した事実への怒りではない。そんな些細な問題ではない。
憤怒のあまり言葉が浮かばない。ただ、単純な怒りだけがふたりの心中に去来した。
「ふざけるなぁ!!」
ザルドが大剣でもって斬りかかる。しかし、相対する男はそれを真正面から受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。Lv7の本気の一撃をである。
一方アルフィアは【
『ガネーシャ・ファミリアより通信!! ザルド、アルフィアともに苦戦!!』
そして、オラリオは絶望を知る。
『敵は……敵はLv8とLv9!! 死んだはずの、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア団長、『傑物』と『女帝』!!』
あり得べからざる、死者たちとの対面を以て。
まぁ、これしかないよね。