大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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『傑物』と『女帝』

 その男は、とあるエルフの森で王族として生まれた。

 その森の王族はとある英雄の血を引くとして、他の森のエルフからも強い尊敬を得ていた。だからこそ、男には特に重い期待がかけられていた。兄弟の中で、彼の才能が抜きん出ていたからだ。

 しかし、その才能は年を経るにつれて涸れていき、やがて彼は兄弟の中でも底辺の存在に成り下がった。

 

 あぁ、なんてありふれた物語だろう。文字にすればこの程度だ。そして、そのありふれた物語が続く通り、男は力を手にするのだ。『神の恩恵』という名の力を。

 

「ふざけるなっ!!」

 

 オラリオの地下、クノッソスで男が喚く。使い魔から送られてくる映像にはひとりのエルフ――ヘディン・セルランドの姿が映っている。

 

「ただのエルフの分際で王族のものを奪いやがってッ!! クソッ、手始めに『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』と『炎金の四戦士(ブリンガル)』を手に入れてやろうと思ったのに邪魔しやがってッ!!」

 

 男が荒れている理由。それはヘディンが『ヒルドスレイヴ』でヘグニとガリバー兄弟を生き返らせたことに他ならない。そもそも、男がオラリオを壊滅させんとする『闇派閥』に手を貸す理由こそがそれなのだ。

 すなわち、より強い者の死体の収集である。

 

 極東には、魂魄という概念がある。魂とは天界と下界を巡るものであり普遍的な概念だが、一方で魄はあまり知られていない。

 魄は生きている間は魂と一体であり、死ぬとともに地の底へ消えていくと言われている。魂は巡るものであるが、魄はひとりにつき真にひとつの存在だ。

 魂は精神に紐付き、魄は肉体に紐付く存在とする説もある。それであれば、例えば鮮烈な強靭さを誇ったとある聖女の生まれ変わりである少女が、弱者へと身を落としているのも納得であろう。

 

 そう、ここまで言えば瞭然だろう。男の授かった魔法は操屍魔法。屍へ力の源泉たる魄を地の底から呼び戻し、魂の欠けた生ける屍を己の兵隊へと変える魔法である。

 

「まぁまぁ、そんなに荒れんなよ」

 

「……ンザンビ」

 

「どうせ、オラリオの戦力じゃあお前の駒には勝てんさ。たとえ『暴喰』と『静寂』がいてもなぁ。いやぁ、まさかゼウスもヘラも天界に帰ってなかったとは!! いい拾いもんしたもんだ!!」

 

「……そう、そうだな……雑兵はヘディン・セルランドを集中して攻めさせよう。いくらLv5とはいえ、神官ジジィの失敗作どもを10もけしかければキツいだろ……ガネーシャ・ファミリアの連中も皆殺しだ……アルヴの王森のアバズレも……」

 

 男は奇妙なことに彼の目的とは反して、後一押しで倒せそうで、かついい駒になるザルドやアルフィアではなく、ヘディンやリヴェリア、ガネーシャ・ファミリアへと戦力を割く。

 しかし、その理由もまた、簡単なことだ。

 

「この俺の知らない先天系魔法なんざ、あっちゃならねえんだよ……」

 

 その男の名は()()()()()()()()()()()()()。ンザンビ・ファミリアに所属する『闇派閥』のひとりであり、『大魔道士』の生まれた森で、過去800年、唯一『大魔道士』と同じ名をつけられた、元王族であるハイエルフだった。

 

 

 

「グッ……」

 

 同じ頃、オッタルもまた苦戦していた。

 本来、オラリオにおいて苦戦しようのないLv7の彼であるが、彼を襲っているのもまたLv7。ゼウス・ファミリア、ヘラ・ファミリアの幹部たちが8人。その表情は虚ろで、肌の色は土気色だ。

 

「(……動揺はした。だが、冷静になれば分かる。間違いなく()()()()()()()。身体能力は据え置きなんだろうが、技がことごとく劣化している。所詮は屍か……そして『傑物(マキシム)』と『女帝(████)』がいないな……先程の通信を考えれば、やはりザルドとアルフィアの方へ行ったか……)」

 

 オッタルは襲いかかってくるゾンビたちの攻撃を弾き、立ち止まらないようにヒット&アウェイを意識する。Lv7になって間もないオッタルでは、同レベルで鍔迫り合いでの力勝負になるのは不利だ。

 ゾンビたちの剣には冴えがない。体に染み付いた動きこそ残っているものの、考える能力は残っていないのか。だからこそ、複数人のLv7相手でもオッタルが戦えているのだ。

 

「(魔導士はいない……魔法は使えないのか? そう考えれば下手人は大したことはないが……他に行っている可能性もあるか……)」

 

 それでも、過去の強者を使役する能力は一般人や第2級までの冒険者には脅威だろう。流石にゼウス、ヘラの両ファミリアほどの駒は第1級へ当ててくるだろうが、それでも数は残っているはずだ。

 それに加え、アパテー・ファミリア、バスラムの作った、Lv5の精霊兵も暴れ回っている。

 

「(さらに、この屍の特性は、ザルドとアルフィアに相性が悪い……)」

 

 オッタルが迫りくるゾンビの腕を斬り捨てるが、ゾンビの動きは鈍らない。やはり、()()()()()()()()()。恐らくは疲労も感じないのだろう。であれば、()()()()()()ということになる。

 一方でザルドとアルフィアの毒と病に侵された体は、持久戦にすこぶる弱い。

 

「(いや……それ以前に、痛みと疲労を感じない『女帝(████)』という存在自体が恐ろしい。アルフィアが死ぬ前にザルドと合流して『傑物(マキシム)』を倒し、アルフィアの救援に行く……!!)」

 

 アルフィアが突破される前に、Lv7が3人揃っているうちに。そうでなければ、手遅れになるから。

 Lv9というのは、それほどの脅威なのだから。

 

 

 

「温いぞ、マキシムッ!!」

 

 ザルドが大剣を振るい、『傑物』を弾き飛ばす。

 最初の当たりこそ動揺もあって、単純なステイタス差で押し負けはしたものの、それ以降は比較的優位に戦闘を進めている。理由は簡単で、そもそも『傑物(マキシム)』とゾンビ化の相性が良くなかったというのがある。

 

「あいつの剣はお前のようなナマクラではない!! 所詮腐肉は腐肉か……ッ!!」

 

 Lv9の『女帝』を差し置いて、Lv8で最強と呼ばれていた男、マキシム。その理由は、圧倒的なまでの戦闘センスと駆け引きの強さにある。

 戦闘センスの一部こそ本能として体に染み付いたものが発揮されているが、しかし考える脳がなければその強みも半減。駆け引きなど行えるはずもない。

 ステイタスこそLv8で据え置きであるが、『傑物(マキシム)』としての強みは大いに失われている。さらに言えば、ザルドは『傑物』の生前から、条件さえ揃えば『傑物』さえ倒しうると言われてきた男だ。

 勝負は五分五分。勝ち目は十分。だが、問題もある。

 

「クソッ……《自誇最盛(リジェネレート・マキシム)》も機能しているのか……ッ」

 

 ザルドが刻んだ『傑物』の怪我が、徐々に修復している。『傑物』の持つスキルであり、常に自分のコンディションを最良の状態に保つ効果を持つ《自誇最盛》によるものだ。

 対するザルドはベヒーモスの毒に体を蝕まれ、常にスリップダメージを受けている。

 

「……多少の無理は承知で、一気に決める他ないか……!」

 

 ザルドが覚悟を決める一方、アルフィアは着実に追い詰められつつあった。

 アルフィアと『女帝』の相性は悪い。そもそもが魔導士であるアルフィアは、ザルドの剣術をセンスだけで真似ることができる程度には前衛の心得はあるが、しかし過去最上位の本職戦士相手には心もとない。

 頼みの魔法はゾンビ相手に相性が悪い。アルフィアの攻撃魔法はどちらも『音』という特性を持つが故に、不可視かつ音速。回避も防御も困難という強みを持つ一方で、『音』であるが故に属性が『衝撃』に限定される。

 衝撃を無視し続けられるゾンビに対して、斬ることも、燃やすことも、凍らせることもできない『音』の弱点が、とことんまで祟っていた。

 

 何度目かの交差。ボロ雑巾のごとく吹き飛ぶアルフィアは、暴力的なまでの才能で致命傷だけは避けている。それでも、限界が近いことは誰の目から見ても明らかだ。

 だが、アルフィアの表情からは苦しさなど微塵も感じられない。そこにあるのはただ、怒り。怒髪天を衝くほどの憤怒。

 家族(ファミリア)の墓を暴かれ、家族を汚され、家族の手で殺されようとしている、その絵図を描いた者への、そして弱い己へのどうしようもない怒り。

 

「……【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪。(みそぎ)はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】」

 

 【福音(ゴスペル)】ではない。彼女のもうひとつの魔法。オラリオの過去最大レベルの威力と範囲を誇る超長文詠唱魔法。

 『女帝』の屍は本能の告げるまま、それを止めるためにアルフィアを仕留めにかかる。しかし、その攻撃はギリギリでいなされ、外される。アルフィアの動きが、少しずつ『女帝』に食らいついている。

 

「ヤバっ、気付かれた!?」

 

「うるせぇ! 死ぬ覚悟は決めたろ!! 俺たちじゃ『女帝』を止められねえんだ!! 死んでも唱えろ!!」

 

 それは、オラリオではロクに名も知られていないガネーシャ・ファミリアの団員たち。この場での役割は、アルフィアからの伝言を通信で共有すること。要するに通信兵だ。

 しかし彼らは、ここに来て覚悟を決めていた。『女帝』を通したら終わる。だが自分たちでは勝てない。ならば、アルフィアに賭けて、バフを唱え続けると。

 彼らが習得していた先天系魔法の中から、考えつく限りの付与魔法(エンチャント)をアルフィアへかける。それは、アルフィアが早々に《静寂の園(シレンティウム・エデン)》を破棄していたからできること。

 

「【神々の喇叭(らっぱ)、精霊の竪琴(たてごと)、光の旋律、すなわち罪禍の烙印。箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる】」

 

 防戦一方、いや、戦いが成り立っている。淡々と紡がれる詠唱は、『女帝』の猛攻もないかのごとく進んでいく。

 

「【代償はここに。罪の証をもって万物(すべて)を滅す。哭け、聖鐘楼】」

 

 そして、魔法が完成する。

 

「《ジェノス・アンジェラス》」

 

 放たれる、超規模の音波の嵐。しかし、その中を、『女帝』は進んでいる。ダメージは確かに入っているが、『女帝』の強靭な肉体と、痛みも衝撃も無視できるゾンビの特性が、音の嵐の中での前進さえ可能にしていた。

 『女帝』の振るう戦棍(メイス)がアルフィアの頭蓋を砕く。

 

 その直前だった。戦棍は結界によって阻まれ、その一瞬の隙に巻き起こった暴風がアルフィアを後方へと吹き飛ばした。さらに、続けざまにアルフィアの体へと回復魔法がかけられる。

 

『しっかりしろ! 『静寂』!!』

 

 アルフィアへと声をかけてきたのは、1羽の鷲だった。

 

「……その声、年増か……?」

 

『使い魔のようなものだ。いいから前を向け、サポートするから、何度でも叩き込んでやれ』

 

「……言われなくとも、そうするさ」

 

 『女帝』と『静寂』の戦いは闖入者を加え、新たな局面へと移り変わる。

 決着は、まだ先だ。




 死者の操作だと直近で似たようなダンまち小説様ありますが、展開はまるで違うので赦し亭赦して。
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