大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
時は少し遡る。
ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアの連合軍は、現れたゼウス・ファミリアやヘラ・ファミリアの第1級ゾンビによって苦しめられていた。
搦手を持たないシャクティが2体のLv6ゾンビによって封じ込められ、他の人員がLv5のゾンビ兵によって薙ぎ払われていく。
シャクティを除けばこの場で力があるのはLv5であるガネーシャ・ファミリア副団長『
他には、アイズ・ヴァレンシュタインをはじめとしたLv3がいる程度だ。Lv5のゾンビ兵軍団を相手にするのは相当に無理がある。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!! どうだよ正義の眷属ども!! てめぇらの大嫌いな悪に蹂躙される気分はよぉ!!」
そんなオラリオの冒険者たちを、ヴァレッタは嘲笑う。
「私の策が全部失敗して、結局あの
名指しされたリューだが、そんな言葉に反応している暇はない。無視されたヴァレッタは、肩を竦めながら嘲笑する。
「おーおー必死だねぇ。普段あんだけ私ら悪を『討つべき相手』だなんだ行ってくれたけどさぁ……所詮てめぇらの正義なんてもんは私らと同じじゃねえか!! 自分勝手な考えを暴力で押し付ける!! だからこうやって私らのほうが強くなったら、てめぇらの正義なんざなんの意味もねえんだろうが!?」
頭が回らない、反論が見当たらない。ヴァレッタの言葉が間違っていることはハッキリとわかるのに、それをひっくり返す理論が出てこない。
「お前らさぁ……どうせあれだろ? この抗争も、普段のモンスター退治と同じような感覚でいたんだろ? 都市を侵す害虫を潰すだけみたいな感覚だったんだろ!? 甘ぇんだよクソガキが!! これはな、戦争なんだよ!! 間違いを正す戦いじゃねぇ!! 正しさの押しつけ合いさ!! ペラッペラの正義のなぁ!!」
俯瞰してみればなんの説得力もない、その場だけの開き直り。しかし、力のない者にとっては覆しようのないからこそ『暴論』。
そもそもリューは元々、森から出てきて種族的な性格への自己嫌悪で沈んでいたところを、アリーゼたちによって引っ張りあげられたが故に、その『正義』を精神的な支柱にしすぎているきらいがある。そして、自分で考えぬいて出した答えではないが故に、反論されたときの反応が、激昂か狼狽しかなくなってしまう。
「さて……策が失敗した以上ここにいても仕方ねぇ。私はフィンの方に行かせてもらうぜ。あばよ、正義の眷属ども、精々ここで、正義でもなければ悪でもない、脳足りんのゾンビどもに蹂躙されて死んどけや」
そう言い残して、ヴァレッタがその場を去っていく。シャクティはすぐさま、戦いながらもフィン相手にそのことを通信する。
一方、リューは精神的に追い詰められ、疲労が限界に達したせいで剣を弾かれ、決定的な隙を晒してしまった。
「しまっ……!!」
「リュー!!」
アリーゼが悲鳴を上げる。皆がリューを救けに向かおうとするが、ゾンビ兵に阻まれて届かない。そして、ゾンビ兵の右腕がリューの首をへし折らんと迫る。
神は基本的に、過度に下界へ自分自身の手を加えることを良しとしない。それがありなら、なんでもありになってしまうからである。
それは、この『闇派閥』との抗争においてさえ、神が前線で神威を発揮して『闇派閥』構成員の動きを封じるという手を取らなかったことからもわかるだろう。
まぁ、高レベル冒険者を擁する神は自身が送還されることで眷属が恩恵を剥がされ弱体化することを防ぐために、そうでない神は単に保身のために前線に出ることを避けたという理由もあるのだが。
しかし、そのいずれにも当てはまらない神もいる。
救世のため、
その場に叩きつけられた強大な神威。冒険者も、『闇派閥』も、ゾンビ兵も精霊兵も、その神威の前に膝を突いた。
「さて……面白い話をしていたな」
現れたのは、黒と白の斑色をした髪の、青年のような神。しかし、その神格はオラリオの創造者、大神ウラノスに届く原初の神。
いと
「リュー・リオン。確かに君の正義は未だ青く、幼い。現実とはまったく折り合いをつけられておらず、視野が狭く視点がまるで足りていない。君の正義を貫くには、力も覚悟も不足している」
コツコツと、靴の音を響かせて、戦う力を持たない全知零能たる神が、並の冒険者でさえ生き残れない戦場のど真ん中へと歩いてくる。
声を発することもできない幽冥の神威の中で、神は語る。
「だが、高潔だ。どこまでも高潔。故に人を惹きつける。俺は、君の正義を心から尊敬する。だからこそ、その正義を抱いて進み続けてほしいんだ。その先でどんな答えを出してもいいさ」
そして、戦場の中心で足を止めた。
「さて、最後に俺の正義を語ろう。少しでも、君たちが答えを出す手伝いになれるように」
エレボスは、告げる。
「『正義』とは――『理想』だ」
暗闇の中で輝く、己の正義を。
「君たちの前にはこれから先、いくつもの選択肢が転がっているだろう。その中に納得のできる答えがないときだってある。そんなときに、『選び取る』のではなく、『掴み取る』のが正義だ。定められた規律を、課せられた前提を蹴り飛ばして、あり得ないをあり得るに変えて、自分の求める答えを求め続けろ。『理想』を追い続けろ」
そして、エレボスが、
使ってしまえば天界へ強制送還される神の力を、幽冥の暗闇の力を使い、その場にいる精霊兵とゾンビ兵を幽冥の底へと引きずり込む。
「それを人々は『正義』と呼び――神々は『英雄』と呼ぶのさ」
そうして、『理想』のために
エレボスは送還の力に、原初神の神威を以て抵抗しながら、最後の言葉を遺す。
「さぁ悩め! そして立ち上がれ冒険者! こんなところで立ち止まっている暇はないぞ!! 俺たちに、君たちの光を見せてくれ!!」
――なんせ、
光の柱が消え去ったとき、そこには何も残されていない。幽冥神の力によって引きずり込まれたゾンビ兵も精霊兵も、そして幽冥神自身も。
リューが、アストレア・ファミリアが、冒険者たちが呆然とする中で、誰よりも早く我に返り、声を出したのは、秩序の眷属だった。
「……行こう、リュー」
「……アーディ」
「あの神様の正義を、巡らせよう。――正義は、巡るんだ」
その神の『正義』は、誰も傷つけない『正義』だった。
『善』も『悪』も、誰もが持っている『理想』という『正義』を認め、先に進めと叱咤するものだった。
人間が好きで好きで堪らないという、彼の神格が見て取れる『正義』だった。
そんな『正義』を聞かされて、立ち止まったままではいられない。
「行こう、リュー。みんな。オラリオを護るんだ」
アーディが、リューが、皆が向かう。
アルフィアを助けるために、迷宮へと。
ロキ・ファミリアの三幹部、フィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ガレス・ランドロックの3人は、現れた精霊兵とゾンビ兵による数の暴力で足止めされている状態だった。
それらはどうやらリヴェリアを標的としているようで、魔力を拡散させ、魔法を阻害する装備を身につけている。
そんな状況で、ガネーシャ・ファミリアからザルドとアルフィアの危機という情報が入った。
「さて……まずい状況になったね……」
「そうじゃなぁ……」
フィンは考えを巡らせる。復活した『傑物』と『女帝』。その状態がこのゾンビ兵と同じであるなら、『傑物』はどうとでもなるだろう。問題は『女帝』の方である。
はっきり言って、アルフィアが『女帝』に突破されでもすれば、オラリオは壊滅する。
「……リヴェリア、フレスヴェルグを飛ばしてくれ」
「……いいのか?」
「あぁ、アルフィアが倒れたら終わりだ。あとは僕たちがなんとかする」
『フレスヴェルグ』。それは、リヴェリアの『
『フレスヴェルグ』はリヴェリアの使い魔として動き、リヴェリアは『フレスヴェルグ』へと意識を移し、『フレスヴェルグ』を経由して魔法を放つことができる。
自分たちより小回りの利く『フレスヴェルグ』をアルフィアの救援へ向かわせ、遠隔で支援する。それが、フィンの出した指示である。
問題があるとすれば、ただ視覚を預けるだけでなく魔法を使うとなると、リヴェリア本体は完全に無防備になる点だ。
「……フン、仕方ない。儂が残る。フィンはリヴェリアを担いで、『静寂』の救援へ向かえ」
精霊兵とゾンビ兵の前に立ちはだかり、フィンたちを背に隠したのはガレスだった。ガレスはLv6。Lv5である精霊兵やゾンビ兵なら格下ではあるが、レベル差が1つ程度であれば数の暴力というものが通用する。
だが、無防備になったリヴェリアを庇いながら戦うにも限界がある。それならば、リヴェリア本体をアルフィアのもとへ届け、隙を消すというのはひとつの手だ。
「……死ぬなよ、ガレス」
「誰にものを言っておる。はよう行け」
フィンは『フレスヴェルグ』に指示を出したリヴェリアを伴って、迷宮へ向かい走り出す。
リヴェリアは『フレスヴェルグ』がアルフィアのもとへ着き次第、すぐに援護を始めるために既に意識を『フレスヴェルグ』へ移している。フィンはそんなリヴェリアを背に担いで、戦闘を避けながらオラリオを走った。
ゾンビ兵はゼウス・ファミリアやヘラ・ファミリアのような強豪の死体だけではなく、迷宮で死んだ第3級冒険者の死体も使われている。そういった雑兵でもゾンビ兵の特性によって、一般人や下級冒険者相手には脅威になりうる。
そしてやはりLv4……第2級冒険者のゾンビ兵も見て取れる。幸い、ガネーシャ・ファミリアをはじめとした実力者なら相手にできている。
一見すれば絶望的な状況には見えないが、タイムリミットは刻一刻と迫ってきている。
『すまん! 『
シャクティからそんな通信が飛んでくるのと同時に、フィンは戦闘準備を始める。ヴァレッタは執念深い性格だ。右眼を奪ったフィンを執拗に狙ってくるだろう。特に、意識を移しているリヴェリアという足枷がある今は。
次の瞬間、辻の影から現れたヴァレッタが、不意打ち気味に
「無視してんじゃねぇぞ!! フィィィィィンン!!」
懐から取り出したダガーを、走り去るフィンの背中、背負われているリヴェリアへと投擲するヴァレッタ。フィンはそれを躱し、なおも前へ進む。
しかし、その後ろからさらにヴァレッタが追う。Lv6の脚力をいかんなく発揮しつつ、さらに小粒の火炎石を爆破させてダメージを受けながらも、その勢いを利用し高速でフィンへと迫る。
「逃げ切れると思ってんじゃねぇぞ!! いくらLv6でも、足手まといがいる今なら私でも……」
「【――精霊に命ずる】《セーヴァルスタズ》」
「……ぁあ?」
フィンはただ逃げていたわけではない。シャクティの通信が入った瞬間から、その魔法の詠唱を始めていた。リヴェリアによって与えられていた《ベイニ・ヴェットル》による魔法の触媒を通して、先天系召喚魔法《セーヴァルスタズ》の詠唱を。
光の中から現れたのは青いたてがみを持つ1頭の黒馬。もちろん
縁は巡る。その馬の名は『フィネガス』。かつて小人族の隠れ里のある『エランの森』を守護していた
フィンはリヴェリアを担いだままフィネガスへと跨ると、手綱を握ってさらに加速するように指示を出す。
「ふっ……ざけんなァ!!!」
それを見て激昂するのがヴァレッタ。彼女にしてみればフィンは自分の策をことごとく見抜き、妨害し、追い詰め、右眼を奪っていった憎い敵である。
しかし実際は、ヴァレッタの策を見破ったのはフィンではなくシャクティであるし、ヴァレッタの右眼はフィンがアンフィス・バエナのソロチャレンジを敢行する道中で偶然遭遇したため、行きがけに潰していっただけ。
その執着はヴァレッタによる一方的なものであり、フィンにとってヴァレッタは『闇派閥』の幹部の一人でしかない。
だが、Lv6の理性がある幹部を放置しておくはずもなく。
「……あ゛ぁ?」
ヴァレッタの右腕が刎ねられる。手綱で体を固定された状態でフィネガスに運ばれていくリヴェリアを見送り、フィネガスから飛び降りたフィンが、持っていた槍を高速でヴァレッタへと投擲したのだ。
その槍は解けるように消えると、ふたたびフィンのもとへと戻る。穂先が剣のように長い槍、あるいは柄が槍のように長い剣。
それがフィンのもうひとつの『
「さぁ、お望み通り降りてきてあげたよ、ヴァレッタ・グレーデ」
「ッ……!!」
「おや、どうしたんだい? せっかく止まってあげたのに」
実際に対峙したフィンの圧力に後ずさるヴァレッタの脚が、『マック・ア・ルーン』によって斬り落とされる。体勢が崩れ、ヴァレッタがその場に倒れ込んだ。
そもそも、普通に対面していればLv6になったばかりのヴァレッタに、Lv6になってから2年は経つフィンが倒せるはずもない。だからヴァレッタは罠を張っていた。彼女の使える唯一の魔法。結界内で動いた者の力と動きを、動いた量に比例して低下させる結界魔法《シャルドー》。
誤算だったのは、ヴァレッタも知らないその槍に、『魔法破壊』の効果が付いていたことだろう。どんな結界が張ってあっても、その槍の穂先に触れてしまえば破壊されてしまう。
もっともこれはフィンも知らないことではあるが、ゾンビ兵に対しては魔法が核となっているからか、深く突き刺さなければ効果が発揮されないので、特効兵器にはなり得ないのだが。
まぁつまり、片腕と片脚を失い、そもそもの戦闘力でも劣り、罠さえ突破されたヴァレッタは、完全に万策尽きたわけである。
「……何しに来たんだ、君は」
呆れながらフィンが振った槍の穂先から放たれた魔力の奔流は、ヴァレッタの体を完全に焼き払った。
「さて……行こうか」
まぁヴァレッタのその台詞はオマージュなんですけども。
原作からして「この台詞刺さるよなぁ」って考えてて、前作では『大抗争』は大幅カットしたんで言わせられなかったの気になってたんで、ここで使いました。
真人たちは生存競争だけど、ヴァレッタは暴れてるだけなんで、元々薄っぺらい主張だったのがさらに薄っぺらく……
拙作ではヴィトーは勇士入りしてるしアルフィアとザルド連れてきたのは実質オッタルだしでほぼいいとこなしだったので、エレボスには最後に大金星だけあげてかっこよく消えてもらいました。