大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
ノルナゲストがヘカテー・ファミリアに入団してから10年が経過した。ノルナゲストの研究は順調に進んでいる。明確な成果こそ見いだせていないが、時折ランクアップ可能になることを考えれば、偉業とみなされる程度の何かを残せているのだろうとノルナゲストはぼんやり考えていた。
実際のところ彼が達成した偉業を挙げていくと、「『
特に、先天系の回復魔法を再開発した功績はかなり大きなもので、自身の派閥の名声を高めるためにその功績を喧伝したヘカテーによって、各地のエルフたちの間にこの話が広まると同時に、ノルナゲストはエルフたちから神々と同等の畏敬を集めるようになった。
ただし、本人は名声を利用できるのはありがたいもののいちいち敬われることや、この先天系回復魔法を習いに来る者がいるのは鬱陶しかったようで、後に数人とったエルフの弟子にこの魔法を授け、習いに来た者たちの対応をさせている。
そうして彼の再開発した先天系回復魔法の存在が各森のエルフたちに受け継がれることで、彼は『大魔導士』として語り継がれていくのだが、今回はそれは置いておくこととする。
兎角、ノルナゲストは順当にランクアップし、現在はLv4。アルテナの中でも有数のレベルを持つこととなった。ステイタスも更新され、魔法やスキルも発現したのだが、それもここでは割愛する。
団員との関係性に関してだが、基本的にノルナゲストから団員へは事務的な会話しか交わしていないこともあり、団員がノルナゲストへ向ける感情の多くは畏怖、あるいは雲の上の人というイメージが強い。唯一、副団長だけは以前と同じように話しかけてくるため、彼女が橋つなぎになることが多いか。
「……賢者の石が作れない」
と、そんな副団長であるフェルズは、完全に
特に発展アビリティである《神秘》のレベルが右肩上がりであり、その点に関してはノルナゲストさえ凌駕している。この魔法大国アルテナで最も重要な《魔導》の発展アビリティに関してはノルナゲストに比べて二歩三歩劣っているのだが、それでも周りの団員よりは上である。
そしてここ最近、主神ヘカテーからフェルズに対して課された命題こそ、賢者の石の作成だった。
「……また神特有の無茶ぶりなんじゃないか?」
ノルナゲストは言う。魔導具に関しては門外漢である彼でさえ、その存在は知っている。曰く、不老不死を与える錬金術の秘奥。伝説の魔導具。御伽噺に最も近い魔導具である。
今まで幾人も、その不老不死という絶対的な欲望に惹かれて挑戦し、そして破れてきた。
まぁ、それだけなら単に難しい挑戦である程度の認識だろうが、ノルナゲストは主神ヘカテーに対して、それほど良い感情を抱いていなかった。
「いや、ヘカテー様は慈愛深いお方だ。平民出身の私にもお声をかけてくださったのだからな……」
20代半ばも過ぎ、妙齢の女性としてすっかり副団長らしい話し方をするようになったフェルズは言う。確かに、かの女神はそういう一面もある。だが、そのヘカテー自身が言っていたのだ。自分は3つの顔を持つ女神なのだと。
「ノルナゲスト、いるかしら? 蜂に刺されてしまったから、治してもらいたいのだけど……」
噂をすれば影が差す。ノルナゲストの部屋へとやってきたのは彼らの主神ヘカテーであった。黒い髪に黒いドレス。漆黒という表現が相応しい女神である。
儚げでいて、しかしどこか末恐ろしさを感じさせる瞳。なにより、彼女が天界においてどのような存在であったかをノルナゲストは他の派閥の神々から聞かされていた。それはもちろん、ノルナゲストを自身の派閥へ引き込むためのロビー活動であり、すべてを鵜呑みにすることはノルナゲストもなかったが、いくつか共通した証言もとれていた。
曰く、ヘカテーとは魔法の神であると同時に、死と闇と罪と月の狂気の女神でもある。
曰く、地獄において三つ首の番犬を駆る魔物たちの母。
曰く、慈悲深さと残酷さが矛盾なく同居した女神。
他にも「あのヘラでさえ手が出せない」だとかなんだとかという話も聞こえてきたが、生憎この時代ではまだヘラの名はそこまで広まっておらず、ノルナゲストもその意味をわかりかねていた。
閑話休題。部屋に入ってきたヘカテーは、一瞬フェルズの姿を見るも、すぐに目を逸らしノルナゲストへ話しかけた。どうにも、ノルナゲストはこの女神に気に入られているのだ。
「ヘカテー様、それでしたら私が……」
「うーん、フェルズの魔法は流石に虫刺されは役不足すぎないかしら……」
無論、誤用でない方である。
ノルナゲストはヘカテーに回復魔法をかけてやりながら、ヘカテーに問いかける。
「ヘカテーよ。あなたは確かにフェルズが賢者の石を作れると考えて、あの課題を出したのか?」
「えぇ、もちろんよ。フェルズにはそれができるだけの才がある。私、期待しているのよ?」
その言葉を聞いて、フェルズはどこか面映ゆそうにうつむく。ノルナゲストも、その言葉に嘘はないと感じた。ただ、同時にどこか違和感があるようにも思えたのだが、その追及まではできなかった。
それからフェルズが賢者の石を作り上げるまでに、1年の時を要した。それはほとんど偶然の結果できた代物であったが、むしろ僅か1年で賢者の石を手に入れるだけの偶然を引き寄せたことこそ、彼女の才の証左と言えるだろう。
だが、その賢者の石をヘカテーに見せに行った次の日から、フェルズはノルナゲストの部屋へ来なくなった。どうやら研究を名目に自室にこもっているらしく、副団長としての仕事もギリギリで回している状態だという。
「フェルズ、大丈夫か」
ノルナゲストが部屋の外から話しかけるが、フェルズは答えようとしない。やがて、ただ一言だけ返事が返ってきた。
「ノルナゲスト……私は……一体なんのために……」
その声は、絶望と空虚に満ちていた。
原因はおそらく、賢者の石とヘカテーについてだろう。あの日、何かがあった。
ノルナゲストにとって、フェルズという女はある種の腐れ縁である。押しかけてきた先輩であり部下。理由は何にしろ、王族として扱われてきた自分を初めて王族関係なしに扱った相手である。
「そこの君、少々話を聞きたいのだが……」
「へ? 自分ですか……だ、団長様!? ほ、本日はお日柄もよく……」
滅多に話をしない他の団員たちから聞き取りを行った。皆恐縮していたが、フェルズとヘカテーが会っていたのは主神の応対部屋であることが分かった。部屋に着いたノルナゲストは、過去視の先天系魔法を使用して過去を覗き見る。時間指定が必要であり、音は聞き取れず、ほんの少しの間しか見ることができないが、ひとまずはそれで十分だ。
魔法によって詳らかになるその場所の記憶。破壊される賢者の石。嘲笑うヘカテーの姿。そして、茫然とそれを見るフェルズ。おおよそ、ノルナゲストが予想した通りの経緯がそこにはあった。
「見たのね」
後ろから声がした。そこにヘカテーが立っていた。
表情は穏やかだ。少なくとも、映像の中の哄笑するヘカテーの印象とは大きく異なる表情。
「過去を……フェルズとのやり取りを見たのね」
断定。彼女は魔法を司る神でもある。ノルナゲストが使った魔法の残滓を見て、そこで何をしていたのかを言い当てた。にも、関わらず、やはり彼女の表情は穏やかなままである。
「……何故あんなことを?」
「勘違いしてほしくはないのだけど、はじめアレを命じた時は本当に心からできると考えて命じたの。本当に課題のつもりだったのよ、少なくともあの時は」
言い訳という雰囲気ではない。ただ、事実を淡々と話しているという印象。
「ただ、狂い気味だったの。最近の私は。多分、あなたも聞いているでしょう?」
「……ヘカテーが狂気を司る女神であるということならば」
「そう。私は夜闇を司り、欠けていく月を司り、そして魔法を司るが故に月の魔力による狂気さえも司る。些細なきっかけで狂ってしまう。今回は嫉妬よ」
嫉妬。
ヘカテーはノルナゲストを殊更に気に入っていた。だから、フェルズへの嫉妬が狂気に乗せられて表出してしまったのだという。
「正直、今も昼だから多少理性があるだけで、まともとは決して言えないのよ。だって、フェルズに対して何の罪悪感も抱いていないもの」
あっけらかんとそう語るヘカテー。ノルナゲストは神と人との間の価値観の違いをある程度理解している――神相手に人の価値観をあてはめがちな下界の人間にしては、だが――つもりだったが、改めてそのギャップを見せつけられ、一歩後ずさる。
結局、ヘカテーはノルナゲストに何もせず、その場を立ち去った。ノルナゲストはしばらくそこで茫然と立ち尽くしたあと、溜息を吐いて自室へと戻っていった。
僕「ヘカテーはこんなんじゃないもん!! 怒ったら怖いけど基本的にホワホワ系の可愛い女神だもん!!」
僕「いやでもフェルズの恩恵と同じギリシャ神話かつ冥界系の神で魔法神だし……それっぽいのも司っててちょうどいいし……」
僕「やーなの!!」
ダメです。