大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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黒と銀

ロキ・ファミリアの新人冒険者、ラウル・ノールドは逃げていた。

 敵から逃げることは冒険者にとって恥ではない。自分の限界を理解し、決して無理をしない。それもまた冒険者に必要な心構えなのだ。そう自分に言い聞かせても、やはり悔しいものは悔しかった。

 突如現れた、生気のない『闇派閥』。ファミリアの古参であり、一部からは老兵(ロートル)と揶揄されることもある大先輩、ノアール・ザクセンは、それをゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの眷属だと言っていた。ラウルでも知っている、過去の最強たちだ。

 それがなぜ『闇派閥』に? そう思っていると、ノアールから「既に死んだはずだ」という驚きの一言が聞こえてきた。つまり、死人が動く屍になって自分たちを襲ってきているのだ。

 

 そんなノアールたち古豪も、新人たちに未来を託して散っていった。死ぬわけにはいかない。だから、逃げる。だが、現実は非情だ。ステイタスの差は、逃げ足すらも追い詰めてしまうのだから。

 このままではあと少しももたない。ラウルが迫りくる死に怯え、涙を流したその時、通りの向こうからやってきたものすごく速く動く何かとすれ違った。

 直後、後ろから迫ってきていた複数の足音が消える。なにが起こったのかわからない。ただ、追ってきていたはずのゾンビ兵が、追ってこられない状態になったことは確かだ。ラウルは足を止めずに、首をひねって視線を後ろへ向けた。

 

 まず目についたのは、白銀の輝きだった。

 全身に鎧を纏った子供……いや、小人族の女性。両手には奇妙な形の双剣を持っている。背中に見えるそれは、ラウルには翼のように思えた。

 表層的な情報を処理し終わり、ラウルの脳は次にその女性の肉体的特徴を処理し始める。まず目が行ったのはその大きな胸だろう。小人族という種族特有の小柄な体に不釣り合いな胸。次に、脚甲(グリーヴ)に窮屈そうに押し込まれた太もも、そして胸。草摺(テセット)の隙間から見える尻。クセのついた茶髪、胸。おっぱい。

 擁護しておくと、ラウルは命の危機に際して生物の本能としてやや性欲が過剰気味に出ていた。勘弁してやってほしい。

 

 一方、助けた張本人であるスクルドは次の獲物を求めてその場を飛び立つ。とはいえ、第1級クラスのゾンビ兵は一通り殲滅しただろうか。

 残る大敵は主君に聞いていた『女帝』のゾンビ兵だけ。スクルドは迷宮に向けて飛び立つ。

 

 あとには、性癖を半壊させられたラウルだけが残ったのであった。半分だからセーフ。

 

 

 

 閑話休題。

 迷宮18階層では、アルフィアと『フレスヴェルグ』を通したリヴェリアのふたりが、『女帝』のゾンビ兵となんとか戦闘を成り立たせている。

 リヴェリアはとにかく、第三階位防御魔法《ヴィア・シルヘイム》をかけ続けている。ドーム状の結界魔法だが、『女帝』の戦棍での攻撃が3発も入ればヒビ割れ、破壊されてしまう。

 

「(クソッ、ウダイオスの攻撃でも数分は耐えるんだぞ!?)【復唱(ダ・カーポ)】!!」

 

 破壊された結界をすぐさま張り直す。詠唱式が間に合わないため、認証式(パスキー)を保持したまま『要求復唱(リピーティング)』によって詠唱式を破棄して魔法を発動する。実は3年前、グリムが監査に来る前から使えていた技術である。

 リヴェリアの援護によって行動に余裕が出たアルフィアは、持たされていた最上位のポーションを使って傷と体力を回復し、さらにマナポーションを(あお)る。病によるダメージはどうにもならないが、それでも戦える程度には回復した。

 

「面白い技術だな、年増!」

 

「偉大なる先達のハイエルフが開発したものだ。我らの誇りさ」

 

「そういう使える技術ばかり誇っていれば印象もマシになるというものを……こうか?」

 

 そう言ってアルフィアが行ったのは、リヴェリアも知らない、グリムが表に出していない技術。すなわち()()()()()()()()()()()()。そして、その認証式を用いた『要求復唱』。

 

「【復唱(ダ・カーポ)】【復唱(ダ・カーポ)】【復唱(ダ・カーポ)】 」

 

 再び放たれる、聖鐘楼による大音波。2連、3連となって『女帝』を襲い、18階層の果てまで弾き飛ばす。

 

「ゲホッ……ふん。連発したことなどなかったが、消費が重すぎて3発が限度か……」

 

「……いやになるな、これだから『才禍の怪物』は……私が『要求復唱』を会得するのに何年かけたと……」

 

 アルフィアが再びマナポーションを飲み干し、精神力を回復させる。これで決まったとは到底思えない。

 基本アビリティの耐久が恐ろしく高いこと、そして、魔法攻撃に対する耐久を底上げする《魔防》の発展アビリティも高レベルで持っていることを、アルフィアは知っているからだ。

 そして、次の瞬間にはそれを肯定するように、遥か向こうから超高速で跳んできた『女帝』が、勢いのままに戦棍を結界へと叩きつける。

 

「チッ、これだけやって軽傷か……相変わらずやってられんな」

 

「あぁ……久しぶりに見て、自分たちがどれだけ楽観していたか気がついた……これがLv9……そして、この先達でも、迷宮は攻略しきれなかった……腑抜けている暇などない……!」

 

「ふん、気づくのが8年遅いぞ年増……【復唱(ダ・カーポ)】!!」

 

 再びアルフィアが『女帝』へと《ジェノス・アンジェラス》を『要求復唱』で放つ。それが『女帝』へと命中した瞬間、『女帝』が僅かに後ずさった。

 

「……? なんだ? 威力が上がっている……? またバフか……?」

 

「いや、魔法の気配はなかった……だが、《ヴィア・シルヘイム》の強度も上がっている……」

 

 アルフィアとリヴェリアが、突然拮抗し始めた状況に困惑しつつも『女帝』を相手に立ち回っていると、隠れていたガネーシャ・ファミリア団員が叫んだ。

 

「援軍が来てる! うちのアーディの範囲バフだ!! 他にアストレア・ファミリアと『剣姫』!!」

 

「チッ……小娘どもか……相手はLv9だ、足手まといを庇いながら戦う余裕はないぞ……? わかっているのか……?」

 

「だが、バフ自体は強力だ。もうすぐ私の本体も到着する、手数が増えれば押し切れる!」

 

 どちらにしろ、そのままではジリ貧。マナポーションが切れ次第敗北が決定していた。

 確かに、Lv9の『女帝』相手では、Lv5以下の冒険者がいくら集まってもまとめて鎧袖一触にされるだけだろう。

 

 一方、18階層へ向かっているアーディは、アストレア・ファミリアの面々にこれからの動きを説明していた。

 

「18階層には、『闇派閥』の拠点への入口がある。これがその拠点の鍵」

 

 アーディがアリーゼへ、Dと刻まれた水晶玉を投げ渡す。人工迷宮クノッソスの鍵、ダイダロス・オーブだ。オリヴァスの懐から奪ったものである。

 

「Lv9相手じゃ、私たちは相手にならない。みんなはこれで拠点に入って、『女帝』の死体を操ってる本体を倒して」

 

「ええ、わかった!」

 

「……待ってください。みんなは、って……アーディはどうするんですか」

 

「私は……私が戦場にいれば、アルフィアさんとリヴェリアさんにバフがかかるから、ルァイダさん*1たちと一緒に隠れてバフを渡すよ」

 

 そうして、一団は18階層へと到着する。

 18階層の中央部では、先に辿り着いたリヴェリアの本体が口述詠唱と『字刻詠唱』、そして『フレスヴェルグ』での詠唱を用いて3つの魔法を並列で唱え、結界を張りながらも攻撃にも参加し始めている。

 少しずつ、形勢が傾いている。

 

「アリーゼ! 入口はあっち!」

 

「わかったわ! みんな、『女帝』を操ってるやつを見つけて倒すよ!」

 

 だが、その時だった。

 

 ――それは、困るなぁ

 

 第18階層へ、神威が降り注いだ。

 

 それによって一瞬硬直したアルフィアとリヴェリアは、いち早く神威から立ち直った『女帝』ゾンビの猛攻に押され始める。しかし、問題はそこではない。

 神威によって刺激された迷宮が、哭く。それは迷宮による免疫反応。忌々しい神々の気配を感じた時に出現する始末屋。

 

「あ、あああああああああああっ!!」

 

 それを目にして、アイズが叫ぶ。現れた漆黒のモンスター。その姿は、黒竜に酷似していた。

 

 現れた漆黒のドラゴンは憎い神を殺さんと、桁外れの威力を持った息吹(ブレス)を下手人である『闇派閥』の神、ンザンビへと放つ。

 しかし、その時には既にンザンビはクノッソスの奥へと引っ込んでおり、ドラゴンの息吹はクノッソス入口の扉とその周囲へと命中し、大規模な破壊を巻き起こす。

 幸いなことに――この場で知っているのはアルフィアくらいだが――ジャガーノートは現れなかったものの、クノッソスの入口はそれで倒壊し、使用不能になってしまった。

 

「あぁっ!! 入口が……!」

 

「……ッ!!」

 

「なっ……【剣姫】!?」

 

「アイズ!? ッがあっ!!」

 

 周りが制止する間もなく、衝動のままにドラゴンに向かって突撃するアイズ。そんなアイズの魔力反応に気を取られ、リヴェリアが隙を晒した瞬間、結界を破った『女帝』の一撃がリヴェリアへと命中してしまう。

 一方のアイズはスキル《復讐姫(アヴェンジャー)》と魔法《エアリアル》、アーディのスキル《正義巡継(ダルマス・アルゴ)》によって爆発的に戦闘力を上げ、Lv3にも関わらず、その能力はLv6相当にまで膨れ上がっていた。

 アイズの剣がドラゴンの首へと向かい――弾かれた。

 

「ッ!!」

 

 現れたこのドラゴンのレベルは、推定Lv7からLv8。

 空中で体勢を崩したアイズを、ドラゴンの攻撃が襲う。同時に、『女帝』もまた、無防備になったリヴェリアへと追撃を繰り出そうとしていた。

 咄嗟にアルフィアが『要求復唱』の《ジェノス・アンジェラス》で『女帝』を弾き飛ばそうとするが、よりにもよってこのタイミングで、病による咳がそれを妨げた。

 もはや、万事休すか。そう思われたときである。

 

「《ティル・ナ・ノーグ!!》」

 

 乾坤一擲の槍が『女帝』へと突き刺さり、再び『女帝』を大きく退かせる。同時に、降り注ぐ瓦礫を足場にした黒馬が、アイズを手綱で絡め取ってドラゴンの攻撃から離脱する。

 

「傾注!! 総員、漆黒のドラゴンに攻撃を集中!!」

 

 ギリギリで到着したフィンが、手元に『マック・ア・ルーン』を呼び戻しながらそう叫んだ。

 

「フィン!!」

 

「おい、『女帝(████)』はどうするんだ!?」

 

 アルフィアからの指示への疑問に、フィンはニヒルな笑みを浮かべながら答える。

 

「心配いらないさ、『静寂』。心強い援軍が来てくれた」

 

 フィンが告げた瞬間、白銀が飛来する。

 『女帝』へと斬り掛かったそれは手に持った双剣での連撃で、『女帝』に攻撃をさせず、防戦一方に追い込む。

 

「ッ、何者だ、アレは!?」

 

 アルフィアが叫ぶ。間違いなく、久しく感じたことのなかった、『女帝』と同じ自分よりも格上の力量を感じたからだ。

 

「『猛者(おうじゃ)』を赤子扱いしたらしい、オラリオの外の実力者だよ」

 

 現在のスクルドの階位は第11階位。レベル換算でLv9に限りなく近いLv8か。魔法を使えば、それを上回るだろう。

 最終決戦が、始まる。

*1
アルフィアについているガネーシャ団員。

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