大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
戦棍と双剣がぶつかる。甲高い音と火花を生じさせながら互いに弾かれ、次の瞬間にはまた目の前の敵に決定的な破壊を見舞わさんと武器を振るう。
『女帝』の戦棍が唸りを上げてスクルドを叩き潰さんとするその攻撃を、スクルドは完全に見きって顔スレスレで躱す。返しの刃は『女帝』がスクルドの手首を殴って弾いた。
スクルドは殴られた勢いを利用してそのまま回転。逆方向から斬りつけをかける。それを『女帝』は刃を掴むことによって受けようとするが、スクルドは手首のスナップを利用して剣筋を加速。『女帝』の手を深く斬り裂いた。
しかし、『女帝』はカウンター気味に戦棍でスクルドを突きにかかる。それを読んでいたスクルドは『字刻詠唱』によって自身に束縛魔法を発動し、その応用で自身の身体を後ろへと大きく引っ張り戦棍を躱した。
引っ張られた空中で束縛魔法を解除し、鎧の『
基本ステイタスでは『女帝』がやや上回り、小手先の技ではスクルドが上。戦いは互角。だが、スクルドは冷や汗を垂らしている。その理由をアルフィアやリヴェリア、フィンならば察することもできるだろう。
スクルドはスキル《
《
スクルドはルーンを描き、自身に許す限りのバフを掛けながら、『女帝』を撹乱するように動く。足を止めず、『女帝』を中心に周囲を回るように死角を突く。『女帝』もそれにできる限りついていこうとするが、少しずつ、スクルドが『女帝』を上回っていく。
だが、『女帝』が傷を受ける度に、今度は逆に『女帝』がスクルドへと追いついていく。『女帝』のスキル《
下手に傷を作るのは悪手だ。そう気づいたスクルドは端的に、一撃で仕留める攻撃を決めることにした。
スクルドは魔力翼を広げ、一度空中へ飛び立ち大きく距離を取りながら旋回。空中で速度を上げ始める。魔法が使えない『女帝』はスクルドを撃墜しようと投石を放った。
Lv9の膂力で投げられれば、ただの石であっても隕石のように途轍もない破壊力を生む。音速を超えて発射された石だったが、それをスクルドは加速しながら躱していく。
その中で、さらにスクルドはルーンを刻む。描くのは、変化、転換を意味する
このまま轢き潰そうというのか、超高速で向かってくるスクルドに対峙し、迎え撃とうとする『女帝』。ふたりの間の距離は瞬く間になくなっていき、そして、それが交差する直前で、スクルドが不自然に停止した。
それは、ルーンに籠められた魔法が発動したためだ。すなわち、転換の魔法。スクルドの持っていた、超高速移動の運動エネルギーを、ルーン魔法によって転換する。転換先はもちろん、もうひとつのルーンによって示された熱エネルギー、すなわち炎である。
『女帝』の受けのタイミングを急停止でズラしたスクルドは、さらに炎に魔力を焚べていく。もとより運動エネルギーを減らしての急停止が目的ではあったが、炎に使うとなると変換した運動エネルギーだけでは足りないからだ。
「ぁぁぁああああああっっ!!」
スクルドの咆哮と共に、炎を纏った斬撃が『女帝』へと振り下ろされる。斬撃は咄嗟に防御に回した『女帝』の腕に当たると一瞬の拮抗の後、腕を焼き焦がしながら刃が進む。腕、そして胴体まで両断すると、切断面から炎が噴き出し、さらに体を燃やしていく。
『女帝』の死体が完全に燃え尽きるのを確認したスクルドは周囲を警戒しつつ、漆黒のドラゴンの方へ目を向けた。スクルドの見立てでは、ドラゴンの強さは
スクルドは支援程度に回復魔法を冒険者たちへとかけると、隠れているガネーシャ・ファミリアの通信兵のもとへ行き、流れ弾に備えることにしたのだった。
「って、手伝ってくれないの!?」
「このくらいは
リヴェリアが防御魔法を二重に設置し、漆黒のドラゴンの
その隙を突いて今度はフィンが吶喊する。その目は赤く染まり、手にした『マック・ア・ルーン』がやすやすとドラゴンの翼の付け根を切り裂く。明らかに理性と引き換えにステイタスに超域の補正を与える高揚魔法《ヘル・フィネガス》を使用しているにもかかわらず、その目からは冷静さが見て取れる。
これがフィンの持つ最後にして三つ目の『魂装』、『フィンタン・ハンズキ』の能力。親指部分だけ残っている右手のみのフィンガーレスグローブであり、装着時にあらゆる精神異常を跳ねのけ、常に冷静さを保つ力がある。
この『魂装』によって《ヘル・フィネガス》はデメリットを失い、大幅なステイタス補正という強力なメリットのみが残る魔法と化したのだ。ただし、なんらかの理由で『フィンタン・ハンズキ』が破損して外れてしまえば、あっという間に《ヘル・フィネガス》の狂化に呑まれるため、油断はできない。
アーディのバフを受けたアリーゼたちも3人についていこうとするが、攻撃が通るのは精々スキル《
瞬時にそのことを覚ったライラと輝夜は、既に鱗が破壊されて、守られていた肉が露出した箇所に狙いを定め、なんとかダメージを与えていく。少し遅れて、リューもそれに倣った。
「おい、誰か目ん玉潰しに行けよ!」
「私たちが行っても瞬膜に阻まれて終わりだろう! ロキ・ファミリアか『静寂』に任せるしかない!」
ライラの無茶ぶりに、猫を被る余裕もない輝夜がそう投げやりに答える。ふたりは未だLv3。Lv8という本来は吹かれれば骨も残らず吹き飛ばされる相手に相対すること自体が恐怖でしかない。
だが、彼女たちの団長はどこかねじが飛んでいるのか、はたまたどこかに落としてきたのか、嬉々としてドラゴンへと向かっていっている。団長が無茶をしている以上、彼女たちが退くわけにはいかない。
「そもそもが『静寂』の援護のために『
「同感だな! あのような化け物大戦に付き合っていては体がいくらあっても保たん!」
勢いに流されたが、そもそも『
幽冥神の言葉が思い出される。彼はリューに向けて言っていたが、同時に自分たちにも刺さる言葉だった。自分たちが抱く正義を貫くためには、まったくもって力が足りないのだ。
強くなりたい。今ここにいる者の多くが、同じ気持ちを抱いていた。
一方。クノッソス内部では、死霊術師の男が壁を殴りつけて喚いていた。
「ああああああああああああああああああああああ!! なんだ! なんなんだ!? 何故『傑物』と『女帝』が倒される!? 最強じゃなかったのか!?」
「おいおい、何があったんだよ……俺がさっき神威使ってドラゴンを出してきてやったばっかりだぜ? まさかドラゴンにやられたのか?」
「いや、小人族だ。『女帝』は小人族にやられた! しかも『
「『深影』って……メルティ・ザーラか!? おいおいなんでオシリス・ファミリアの団長が……って、俺らが団員の死体を散々使ったからか。因果応報だなコリャ」
「クソッ!! 壊れた駒は再利用できないんだぞ!! 大損害だ!!」
「なんだ、できないのか」
「「!!?」」
突如聞こえてきた見知らぬ声に、死霊術師ノルナゲストと主神ンザンビが勢いよく振り向く。侵入者がいるという報告はなかった。クノッソスへ侵入してきたら、タナトス・ファミリアでありクノッソスの主でもあるダイダロスの子孫、バルカ・ペルディクスが気づかないはずがない。
そうして振り向いた先で、ひとりと一柱は信じられないものを目撃した。クノッソスの空間を切り開いて、何者かが虚空から姿を現したのだ。
姿を隠していた? いや、違う。直感する。この男はたった今、この場所に現れた。
「ふむ、思っていたより期待外れだな。元の魔法がどうあれ、再利用程度はできるようになっていなければ話にならないだろう」
「は……あ……?」
「なんだその反応は。まさか、貰った後天系魔法をただ振り回しているだけで満足していたのか。だとすれば底が知れるな」
現れた男は死霊術師の地雷を丁寧にことごとく踏み抜いていく。
「そもそも、ただ蘇らせてただ突撃させるだけなどあまりにも芸がない。精神的な異常を受け付けないのだからカース・ウェポンのデメリットを踏み倒させたり、工夫のしようはいくらでもあるだろう。研鑽のけの字も見えない。そもそも、なぜ戦場を見ていない。前線に出なくとも、使い魔を使うにしろ何にしろ視界を飛ばすことくらいできるだろう。直接お前が指揮をすれば、生きる屍の判断力の低さもカバーできるだろうに」
「な……なぁ……なんだよ、なんなんだよ!! 急に出て来てよぉ!!」
死霊術師が杖を振るうと、彼が護衛として残しておいたゼウス・ファミリアのLv6ゾンビ兵が現れ、男に襲い掛かる。しかし、襲われようとしている男が杖で地面をコンと軽く突いたその瞬間、男とゾンビたちの間に何者かが躍り出て剣を振るい、斬撃を浴びたゾンビ兵が唐突に燃え始めた。
「芸がない、工夫がない、遊びがない。魔法を使っているんじゃなく魔法に使われているだけ、あまりにも情けない。死体と魄の使役程度の魔法、そのまま使っていたのでは大したものにはならないだろうに、なぜ学ぼうとしない」
現れたのは、一体のゾンビ兵。しかしそれは、死霊術師の支配下にはない個体だ。そしてそれ以上に、その風体が異常だった。下半身は、左側が褐色、右側が色白に肌の色が分かれており、それぞれの足首から先にさらにもう一本、色の違う脚が継ぎ足されたように長くなっている。腰から上は二色の肌色が渦を巻くように胴体で混ざり合い、癒着しあい、肌というキャンパスの上で奇妙なグラデーションを描きながら胸元まで達し、そこでまた右側が褐色、左側が白へと分かれている。
腕は通常の位置にある腕とは別に、胴体の背部から虫のようにもう2本。計4本ある腕のうち、白色の左腕だけが武器を持っておらず、ガリガリと血が滲むほどに胴体を引っ掻き削っている。
異様に広くなった肩からは首が2本と頭が2つ。虚ろな目をした褐色の少女の首は右目に移植された口と本来の口で呪詛のように詠唱を呟いており、その表情は他のゾンビ兵と同じく感情の色が見えない。
反対側の白肌の少女の首は下顎がなく喉から飛び出した舌がそのまま垂れ下がっており、見開かれた目からは滂沱の涙を流しながら常に何かを否定するように首を振り続けている。
見る者が見れば一目瞭然だろう。その悍ましい怪物は、かのディース姉妹の成れの果てである。
もちろん、魂はここにはない。ただ、『傑物』のゾンビ兵のように、魄に魂の欠片が付着していたせいで、生きているかのような反応を見せているだけだ。しかし、その冒涜的な姿は、今まで死者を弄んできた死霊術師をさえ絶句させるに相応しいものだった。
「せっかく魂が欠けているんだから、魄を重ね合わせてやれば元がLv5二人分でもLv7に届く戦力になる。ついでに魄の強度も高まるから、一度壊れても再利用できるようになる」
「な、なな、なんで、なんでそれ、それ俺の!! 俺の魔法だろう!!? 俺の!!」
死霊術師は激昂しながら考える。何故自分の魔法が使える? コピー魔法か? 思考を回す死霊術師に、男は無慈悲にも事実を伝える。
「お前の魔法? この魔法は500年ほど前に私が見つけたものだ。まぁ、それ以前に誰かが見つけているかもしれんが……恩恵に頼らずとも、先天系魔法でこの程度そう難しくはない」
「は……あ、ああ、ああああああああああああああああああああああ!!」
そして男は気づく。銀髪だったからすぐにはわからなかったが、自分に近しい魔力の波動。間違いない、同族どころか、同氏族のハイエルフ。
「お前、お前のせいで、お前のせいでええええええ!!」
「親に言え阿呆」
死霊術師はディース・ゾンビによって胴体を両断され、悲鳴をあげながら炎に焼かれていく。
「あぁ、それとだな。私に子はいない」
今際の際に、死霊術師はそんな声を聞いた。
「お前の親は私の直系と偽って王を継いだそうだが、別の森出身のハイエルフで、私と血縁はない」
死霊術師は、ただ空虚な感情だけを抱えて、燃え尽きていった。
Q:グリムと同じ名前でこの所業はスクルドガチギレ案件とちゃう?
A:いやグリムも似たようなことやるし別に……