大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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繋ぎです。



稽古体験

 

 結論から言うと、クロエはボコボコにされた。

 はじめのうちはよかったのだ。スタルガドという中年のハーフ・ドワーフ相手に基本的な戦い方を教わっていた。

 小器用なスタルガドは様々な武器を使いこなして、相手と同じ武器を使って指導する。クロエの使う武器『バイオレッタ』は切っ先が湾曲したツインダガーで、毒を仕込めるようになっている対人用のものだ。 

 スタルガドが使うナイフは『バイオレッタ』のような特殊なものではないが、そこは指導にはさして影響しないだろう。

 

 ナイフ自体の扱いは、流石に幼い頃からナイフだけを突き詰めてきたクロエのほうが上だった。しかし、根本的な対面での立ち回りで差が出てくる。

 元暗殺者であるクロエにとって、戦闘している時点で基本的には()()なのだから仕方がない。

 そのうち、ナイフの扱いに関しては教えることがないと気づいたのか、スタルガドは先程までの訓練で使っていた黒い棒を取り出して、本格的に対面戦闘の指導を始めた。

 メインの武器であろう長柄武器を持ったスタルガドは、かなり()()戦士だった。槍使いと聞いて真っ先に思い出すのは、やはり『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナか、『女神の車輪(ヴァナ・フレイヤ)』アレン・フローメルだろう。

 しかし、スタルガドの戦い方、その堅牢さはむしろ、『重傑(エルガルム)』ガレス・ランドロックを思い出させる。盾を持っていないにも関わらず、その隙のない立ち回りが一枚の盾を彷彿とさせる。

 

「知らない人いる! アタシもまぜてっ!」

 

 それらの指導が一段落ついたタイミングだった。先程ワイバーンを蹴り殺していた狼人(ウェアウルフ)の少女が乱入してきたのだ。

 歳は、もしかしたら14歳であるクロエよりもさらに年下かも知れない少女。しかし、両足につけた銀色のメタルブーツを軽々と振り回し、とんでもなく重い蹴撃を繰り出してくる。

 その戦い方はスタルガドとは打って変わって大味なものだが、多少の隙を飲み込むほどの猛攻を前にクロエは手を出せなかった。

 

「うぐっ……【戯れよ】《フェレス・クルス》!」

 

 距離を取ろうと、クロエは超短文詠唱の幻影魔法を発動する。自分の姿を投影する魔法で実体はないが、めくらましや陽動には十分。

 

「裂け! 『スコル』!!」

 

「にゃあ!?」

 

 しかし、それは少女の紡いだ一小節(ワンワード)によって無惨にも消え去った。

 これこそが、ルーナ・ローガの『魂装(ヴェイプン)』、魔靴『スコル』の能力。

 重量自在、空中歩行の能力に加え、魔法の吸収と冷気への即時変換、放出という、ベート・ローガの《ハティ》に酷似した能力を持つ『魂装』である。

 

 そして、冷気を纏った蹴りがクロエの腹部に直撃――する前に、スタルガドの棒での叩きつけがルーナの頭に入り地面へと叩きつけられた。

 しかし、それもなかったかのように、起きあがったルーナが再びクロエへと飛びかかる。

 追撃が来る。そう身構えたクロエの眼の前で、ルーナの頭が超高速で飛来した何かに撃ち抜かれ、そのまま空中を滑って木を数本薙ぎ倒しながら消えていった。

 

 呆然としながら、その何かが飛んできた方向へ視線を向ける。周囲の木よりも少し高い木の上、そこにいたのは、梅と同じく極東の装束を身にまとった、黒髪の少女だった。

 種族は梅と異なりヒューマンだろうか。手に持っているのは弦のない和弓に見える。少女がそれに矢を番えるような振りをすると、それに光の弦が張られ、魔力で構築された矢が手に現れた。

 

「瓜子ぉぉおおおおおおお!!」

 

 叫びながら、ルーナがその少女の下へと『スコル』の能力で空中を踏みしめながら駆けていく。瓜子と呼ばれた少女は、番えていた魔力の矢を適当なモンスターに当てたあと、背負っていた薙刀を抜いてルーナを迎撃した。

 

「いやぁ……うちのお嬢がごめんねぇ……あとでちゃんとお仕置きしておくから……」

 

 スタルガドが頭を掻きながら謝ってくるが、それならしっかりと手綱を握っておいてほしい。そう思いながらルーナと瓜子の方を見れば、目に見えない速度での攻防が目に入り、一応手加減はしてたのかと察することはできた。いや関係ねぇよやめさせろ。

 

 

 

 その後は特にトラブルもなく稽古は終わり、再びモンスター退治に合流して、一日が終わる頃にはクロエは疲れ果ててヘロヘロになっていた。

 

「よぉ、おつかれ!」

 

「お疲れ様でした。いかがでしたか?」

 

 そんなクロエに水筒を投げ渡しながら話しかけてきたのは、ガネーシャ・ファミリア副団長と稽古をしていたアマゾネスと、瓜子と呼ばれていた少女だった。

 

「いかがもなにもシンドいニャ……こんなん毎日やってる奴らの気がしれないニャ……」

 

「アッハハ!! まぁ普通そうだろうねぇ!」

 

「ヘンリー様も未だに弱音を吐いていらっしゃいますし……まぁ、私はこのくらいのほうが刺激があってよろしいかと」

 

「……んん? てか、お前らなんのためにこんなことしてんのニャ?」

 

 クロエはそう言ってから、そりゃ『竜の谷』のモンスターを外に出さないためか、と考え至った。疲れで頭の回りが悪くなっているらしい。

 しかし、結果的に言えばその予想は間違っていたため、訊いたのは正しかったと言っていい。

 

「最終目的は黒竜の討伐、ですわ」

 

「へぇ……っえ゛ぇ!?」

 

「ん? 聞いたことなかったか? アレかね、冒険者のモチベーションのために言ってないのかね。黒竜討伐はアタシらが請け負ってるから、オラリオは迷宮に集中していいって」

 

「まぁ、順当に行けば黒竜と戦っていたであろうロキ・ファミリアは知っていますし、他のファミリアの方々は知らなくても損はない情報ですから、構わないのではないですか?」

 

 ふたりはさっぱりとした雰囲気で話しているが、クロエはひどく驚いていた。いや、言われてみれば順当な目標ではあるのだ。ただ、クロエからしてみれば、あまりにも高すぎる壁であるために目標に据える意識がなかっただけで。

 

「黒竜討伐っつっても、世のため人のためになんて考えてるやつはいないけどな。瓜子もそうだろ」

 

「あら、私はヘルヴォール様のような戦闘狂と違って、世界の行く末を憂いて黒竜討伐に名乗り出ましたが?」

 

 その言葉が嘘であることはクロエにもわかった。この瓜子という少女、へばりついた血と死のにおいが半端ではない。なにより、その立ち居振る舞いから察する。彼女は自分の()()だと。まぁ、元がつくのだが。

 

「黒竜自体に興味があんのって、結局スタルガドの旦那とメルティの姐御くらいじゃねぇか? 他はグリムの旦那への恩義でついてきてるやつらだろ?」

 

「梅様はお知り合いから預かっているとのことなので、恩義も特にはないそうですけれど」

 

「そもそもグリムの旦那自身が黒竜討伐も目標っていうより片手間って感じだしな」

 

「か、片手間……?」

 

「そ。本人曰く頼まれたからやるだけらしいぞ。グリムの旦那自身は基本的に拠点で研究してるだけで、滅多に『竜の谷』の方には出てこないしな。ちょっとヤバくなった時に出てくるくらいで――」

 

 アマゾネス――ヘルヴォールがそこまで話したタイミングで、怒号のような声が響いた。見てみれば、結界の方から大量のモンスターが抜けてきている。

 そのほとんどが竜種で強力なモンスター。ガネーシャ・ファミリアでは一度に2、3体受け持つのが限界で、『勇士』の対応も間違いなく間に合っていない。

 これはやばいんじゃないか? クロエがそう考えたとき、モンスターの進行方向の空中に人影が現れた。

 

 クロエのいるところからでは遠くてよく見えない。目を凝らしているうちに、その人影の周囲に複数の巨大な魔法円が浮かび上がった。

 それからの様相はまさに蹂躙。魔法円から放たれる炎、雷、冷気が、次々にモンスターを羽虫のごとく撃ち落としていく。

 凄まじい威力。それ以上に凄まじい規模。やがて、その災害のような魔法が終わったあとには、『勇士』たちで対応できる程度に、モンスターはまばらにしか残っていなかった。

 

「あれがアタシらの大将、大魔道士グリムさ。レベルは……10相当だっけ?」

 

「なかなか上がらないってぼやいていましたわね」

 

 次元が違う話に震えるクロエ。オラリオが総出になっても敵わないであろう化け物。そしてそんな化け物が自分一人で討伐するのではなく、仲間を育てて複数人で挑むことを選ぶ黒竜という怪物。

 クロエは改めて、この物騒な世界からさっさと脚抜けしたいと願うのだった。

 

 数ヶ月後、クロエは必死の懇願が叶い、現場を離れ『豊穣の女主人』という酒場への潜入捜査に就くことになるのだが、これがクロエの望んだ平穏に近いのか遠いのかは謎のままである。




次回あたり黒竜入って原作開始かな。
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