大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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邂逅

 その日、『豊穣の女主人』ではやや忙しない時間が流れていた。つい昨日遠征から帰還したロキ・ファミリアが、夜から貸し切りの予約をとっていたからである。

 ロキ・ファミリアは人数が多く、当然よく食べる。その分多めに仕込みをしなければならない。夕方頃には昼間から管を巻いていた常連を追い出し準備にかかっていた。

 その上、店員の一人であり特にワケアリでもあるシルが、予約を忘れて客を夜に呼んでしまったと言うのだからてんやわんや。シルの強い希望で店の奥に呼び込むことになったが、バカなことをした小娘に店主であるミア・グランドは不機嫌を隠そうともしていなかった。

 当然その客も事情を知れば固辞しようとしていたのだが、シルがにこやかかつ強制的に店の裏へ引っ張り込んでしまい、1人分店員の穴ができた上にその客の料理まで作らなければならないのだからさもありなん。無論、その客の料理をシルに作らせるなどという、他の料理にまで影響の出そうなことをさせるわけにもいかない。

 そんな状況で予約客が来る前の清掃を行っていた、絶賛潜入任務中のガネーシャ・ファミリア団員の元暗殺者、クロエ・ロロは、任務開始の前日以来数年ぶりに聞く声を耳にして、弾かれたように店の外へと目をやった。

 

「ニャ? クロエどうしたニャ?」

 

「あ、いや……別に……」

 

 同じく店員であるアーニャ・フローメルから訝しげに見られて誤魔化すクロエだったが、近づいてくる聞き覚えのある声に冷や汗が止まらず「怪しいニャア……」などと疑われてしまう。

 そして、不意に店の扉が開いた。

 

「ゴメンよ。豊穣の女主人ってのはここであってるかい?」

 

 そこに立っていたのは痩身のおっさん。クロエもよく知るとある集団のメンバーである、スタルガド・ガムリであった。

 スタルガドもクロエに気づいたのか「おや」という顔をするが、彼が口を開く前に近づいていったアーニャが、少々厳し目の口調で話しかけた。

 

「ドアの『CLOSED』が見えなかったのかニャ? 今日は貸し切り予約が入ってるから一般客は入れないニャ!」

 

「あぁいや、すまんね、客じゃあないんだ。ミア・グランドに用があってきたんだけど、いるかい?」

 

「ニャア……?」

 

 スタルガドの言葉に気勢を削がれたアーニャは、ひとまずミアに判断をぶん投げる、もとい仰ごうと店の奥へ引っ込んでいく。その間に、スタルガドはクロエに話しかけた。

 

「やぁクロエちゃん。ひさしぶりだねぇ。急に訓練に来なくなったからルーナが寂しがってたよ」

 

「シー! おっさん、今ミャーは潜入任務中なのニャ……シャラップニャ……!」

 

「――なんだい。アタシに客って聞いて来てみれば、随分懐かしい顔があるじゃないさ」

 

 クロエがわちゃわちゃと言い募っている間に、店の奥、厨房から出てきたミアが、スタルガドの顔を見てそう呟いた。

 

「やぁ、久しぶり、ミア。君は変わんないね」

 

「アンタも、そのしけたツラ変わらないね。店ん中入りな。()()()()()()店の前塞いでたら、通行人に迷惑だよ」

 

 ミアの言葉にスタルガドが肩を竦めて店へ入ると、その後ろから、ゾロゾロと『勇士』たちが入ってくる。店員たちは、ミアが貸し切り予約の前に大勢を店の中へ入れたことに驚き、クロエはひとり白目を剥いていた。

 とはいえ、流石にテーブルにつかせることはなく、店員休憩用の小部屋へと案内された『勇士』たち。その筆頭であるスタルガドは、ドカリと椅子に腰掛けたミアに、ため息混じりに話を切り出された。

 

「んで、用事ってのはなんだい? 悪いがこれから団体の予約が入ってて暇じゃないんだ。思い出話なら明日にしてほしいね」

 

「いやいやちゃんと用事もあるよ。ほら、故郷のおばさんから預かってきた手紙」

 

「ハン、まだくたばってなかったのか。そりゃ重畳だね」

 

 スタルガドから手紙を引ったくり中身を改めると、そこにはミアの母親からの、まぁ言ってしまえばありきたりな文句がツラツラと並べられていた。

 それを眺め鼻を鳴らすミア。その後、スタルガド、そしてその後ろに並んでいる面子をジロリと眺めた。

 

「女侍らせていいご身分だね」

 

「まさか。こんなおじさん相手にされてないよ。ファミリアの仲間みたいなもんさ。それとも、美人局だのなんだの言われない辺り、俺も多少は見られるようになったってことかな?」

 

「ふん、アンタは変わんないさ。多少は強くなったようだけど、一番ダメなヘタレなとこが直ってないんじゃあね」

 

 多少は強くなった。なんて言ったものの、ミアは内心冷や汗をかいていた。

 眼の前にいるのは何十年もLv1のままだった腐れ縁のスタルガドのはずだ。それは間違いない。しかし、Lv6のミアから見ても、この男の強さの()()()()()()

 いや、スタルガドだけじゃない。後ろに立ち並ぶ男女の誰をとっても敵う気がしない。明確な格の差を、ミアは感じ取っていた。 

 

「手厳しいなぁ」

 

「せめて、こんな()()を用意しないで正面から会いに来られるようになりな。今夜みたいに忙しくなきゃ会ってやるさ」

 

 スタルガドが仕方ないから出直そうと席を立ちかけたとき、にわかに店のほうが騒がしくなってきた。どうやら、予約していた団体客が到着したようだった。

 それに気づいたミアは、にやりと笑ってスタルガドを見た。

 

「ちょうどいい、人手が足りないんだ。ガディ、手伝っていきな。終わったらまかないくらいは食わせてやるさ」

 

 腕は鈍ってないだろうねと笑うミアに、スタルガドは変わらないなぁと苦笑いしながら、厨房へと向かうのだった。

 

 

 

 ロキ・ファミリアの素行は比較的悪くない方だろう。それは、11年前に行われた監査、そしてその後のサポーター改革により、事務作業面へ団長、副団長であるフィンとリヴェリアが取られる時間が少なくなった分、団員へ向ける教育の質が良くなったから、ということがある。

 流石に正義の眷属と称されるアストレア・ファミリアに比べれば粗暴ではあるが、冒険者の中では上澄みといえる素行へと変化していた。

 

 しかし、それでも組織の拡大とともに教育が行き渡らない者は存在し、教育に反抗する跳ねっ返りもまた存在する。これには様々な問題が複雑に絡み合っていた。

 まずは種族的な問題だ。問題の要となっているのは、ロキ・ファミリアが誇る妖精部隊(フェアリー・フォース)のエルフたちである。とはいえ、彼らの素行が悪いわけではない。むしろいいと言える。

 彼らはほぼ例外なく、ハイエルフである隊長にして副団長、そしてロキ・ファミリア内で秩序派筆頭であるリヴェリアのシンパである。そのためかあるいは他の要因からか、彼らは内心はともかく表面上は他の派閥のエルフよりも、他種族を見下す言動を控えており、問題行動も少ない。

 しかし、その反動からか同じロキ・ファミリアの、とりわけ素行の悪い他種族を見下す言動が増えており、それに反発した者が余計に素行を悪くする悪循環があった。

 それに加え、その筆頭とも言える人物がロキ・ファミリアの幹部なのだから始末が悪い。フィンやリヴェリアも力ずくで言うことを聞かさることが難しく、その幹部に影響される者も少なくなかった。

 

 そこに拍車をかけるのが、エルフへの贔屓問題である。当然、ロキや三幹部にそのような意識はないのだが、結果的にそうなっていると言っていい。

 なにせエルフと言えば種族的に美男美女。面食いであるロキが優先的に採用するのも仕方なく、さらにはリヴェリアのスキルによってエルフであるというだけで強化されるため採用の下限が低くなっている。

 さらに問題なのが、リヴェリアの持つ『教本』の存在だ。大魔道士から授かったという超魔道具(アーティファクト)*1は、いくつもの強力な先天系魔法を覚えるための教材である。

 当然魔法種族(マジックユーザー)にしか使いこなせないのだが、リヴェリアは他種族でも先天系魔法を取得できるようになる魔法《ベイニ・ヴェットル》を会得しており、その存在は小人族であるフィンや、ドワーフであるガレスが先天系魔法を使っていることから証明されている。

 問題は、その魔法をリヴェリアが施す条件が、リヴェリアが出すペーパーテストへの合格であることだ。第一級冒険者でさえ音を上げ、シンパのエルフさえ避けるというリヴェリアの座学を受けていても合格率が5割を切るペーパーテストをである。

 当然、それを受かった者はごく僅かで、幹部だとLv5の『貴猫(アルシャー)』、アナキティ・オータムくらいである。

 そのためロキ・ファミリア内での《ベイニ・ヴェットル》の普及率はごく僅か。その一方で元から魔法種族であるエルフは強力な先天系魔法を数多く取得し、実力の差が開く一方。これが、エルフ贔屓と言われる所以であり、多くのエルフが属する秩序派への反感に繋がっている。

 ちなみに、元から魔法の媒体である精霊の血を引いているアイズだが、リヴェリアから先天系魔法を使えることを知らされておらず、座学からも逃げているため先天系魔法を覚えられずにいる。

 

 そして、その反抗派筆頭である幹部と、妖精部隊側の筆頭幹部とが犬猿の仲であるという事実が、さらなる対立関係を生んでいるのだ。

 

「なんのための貸し切りだ? 多少羽目外しても迷惑にならないような配慮してんだから、それ以上にこっちが気にする必要はねえだろうが!」

 

「だから、そのうえで自分を律する程度の節度を持てと言っているのだ!」 

 

 すなわち、ヴィーザル・ファミリアの元団長であるLv5、『凶狼(ヴァナルガンド)』ベート・ローガと、ディオニュソス・ファミリア元団員であるLv5、『道化の血液(クヴァシル)』フィルヴィス・シャリアである。

 ベートはおおよそ皆の知る通り、自らの留守中にファミリア壊滅、想い人の死を経て荒れていたところを、ロキ・ファミリアの強さに魅せられて入団した、徹底した実力主義者である。

 一方フィルヴィスは、ガネーシャ・ファミリアによってディオニュソスの裏の顔と『闇派閥』との繋がりが暴かれてファミリアは解体、主神は送還となっていたところをリヴェリアに拾われた、リヴェリアのシンパ筆頭。反りが合うはずもない。

 一応、ベートが放つ罵倒には彼なりの優しさが根底にあるのだが、それを知るのは主神であるロキと三幹部くらいのものなので意味がない。

 

 とはいえ、今回の主張はベートにも一理ある。そもそもこの宴の目的が、長期間の遠征による精神負担を和らげるためのストレス発散にある。そこで抑圧していては意味がない。

 それに、元々は普通に予約するだけの予定だったロキへ、貸し切りにしたほうが迷惑をかけずに済むだろうと提案したのが、他ならぬベートである。彼も彼なりに、周囲への配慮を考えていた。

 まぁ、酒癖が死ぬほど悪いため、行動に説得力は欠片もないのだが。

 

 そして、ベートは()()話へと話題を移す。皆様大好きなトマト野郎の揶揄である。

 この時点で、ベートはその嗅覚から、トマト野郎が何故か店の奥にいることに気づいていた。だから、発破をかけるためにあえて大声で話題に出したという点も少なからずある。

 それはそれとして、惚れているアイズが妙にその雑魚を気にかけていてムカついていたという気持ちも確かにあった。

 フィンやリヴェリアにしてみれば、自分たちのミスで危険に晒した相手を揶揄するのは言語道断であるが、この状態のベートを止めるのは一苦労だ。幸い貸し切りであるし、張本人が聞いているということもないだろうから、あとで懲罰を科すということで済ませようと考えて静観していた。流石に、その張本人が店員のミスとゴリ押しで店の奥にいるなんて事態を予見しろという方が無理な話である。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに雑魚は釣り合わねぇ!」

 

 そこまで言い切ったとき、ベートへ文字通りの冷水が浴びせられた。

 静まり返る店内。ベートへとグラスを向けていたのは、ひとりの黒髪の狼人族(ウェアウルフ)だった。

*1
(笑)




 正史とは色々変わっています。
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