大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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『異端児』

 

「フェルズ。なにか仕事はないか」

 

 突如現れたグリムに飛び跳ねて驚くフェルズ。じっとりとグリムを見る視線には非難がこもっていた。

 

「……突然なんだ一体」

 

「…………まぁ、色々あってな」

 

 具体的には、スクルドがより女性らしい格好をするようになった。

 他の『勇士』を問い詰めたところ合意の上、というかスクルドから進んでとのことだったし、嘘はついていないようだったからそれはよいのだが、これまでスクルドを努めて()()()()()()から外してきたグリムにとって、スクルドがより()()()()()()へと近づいてきてしまったことは一種の危機であった。

 さらに言えば今回のドレスは手始めであり、これから女性用の服が完成し次第何着も追加される予定らしい。

 いくらスクルドが女性としての自分を受け入れたからとはいえ、自分はスクルドの育ての親であり、スクルドからも父として慕われている状態である。そんなスクルドに恋情を向けるのは信頼への裏切りに他ならないと、グリムはそう考えていた。

 ここで「色情を向けるのは(当然表に出さないことと本人にバレてないことを前提として)仕方ない」としているあたりグリムも大概なのだが。

 

 そういうわけで、しばらくスクルドから離れて冷静になるため、こうしてわざわざ用事を作りに来たのである。

 

「で、どうなんだ」

 

「……まぁ、正直に言えばあるが……こちらは何も差し出せるものはないぞ? こちらが出せるものなどお前は自分でどうにでもできるだろう」

 

「いい。単なる気まぐれだ」

 

 そう言われてしまえば、ぜひとも解決してほしいことはフェルズにもある。具体的に言えば、彼女たちの抱える最も大きな爆弾、理性あるモンスターこと『異端児(ゼノス)』についてである。

 元々、彼らのことは対黒竜の戦力とする代わりに彼らの存在を認めさせるという理由で交流が進んでいた。その黒竜討伐が、明言されていないが恐らく目の前の大魔道士によってなされてしまったためにその必要はなくなったのだが、だからといってそれじゃあバイバイで済ませるには、フェルズは彼らに情を移しすぎた。

 そういうわけで、フェルズは『異端児』に関してグリムへと話すことにした。この男が常識というものを持ち合わせていないことはわかっている。理性あるモンスターという理外の存在に対しても、そんなものもあるのだな程度で済ませるだろうという確信があった。

 

「そんなものもあるのだな」

 

 ほらね。

 

「で、お前の望みというのはその『異端児』とやらをどうすることだ?」

 

「……彼らの望みを叶えてやりたい。彼らの多くは日の下へ出ることを望んでいる」

 

「迷宮から出すだけならどうにでもなる。人との交流も……まぁ『勇士』なら言って聞かせればどうにかなるだろう。他には?」

 

「え? いや、他には……」

 

「周知して皆に受け入れさせろというのなら、まあ少しばかり手荒になるが……」

 

「い、いや、そこまではしなくていい!」

 

「そもそも、研究にしろなんにしろ着地点は明確にしておけと昔あれだけ言っただろう。『異端児』に望みの聞き取りは済ませているのか? 迷宮を出ることを望まない者はどうする? そのくらいはちゃんと考えておけ阿呆」

 

 言いたいことだけ言って、「行くぞ」と身を翻すグリムは、物体を透過する使い魔を作って飛ばし、フェルズの言っていた『異端児』の隠れ里を探す。地面も迷宮の壁もすり抜けるため、一直線に目当ての階層まで辿り着いた。

 なお、こともなげにやっているが、地面や迷宮の壁を透過させるためには使い魔を物質化させてはいけないので、使い魔自体は魔法へ変換せず魔力のみで作り、使い魔を導体にして常時映像をグリムへと飛ばす魔法を使い続けているという状態である。

 便宜上使い魔と呼ぶしかないので使い魔と呼んでいるが、実際はただの魔力の塊を遠隔操作しているだけ。しかも魔法を使うための魔力もまた供給しなければならないので、魔力の塊とグリムとは魔力の線で繋がった状態を保たねばならない。

 その難易度を例えるなら、ドローンの操作をすべてリアルタイムにコードを書くことで行うようなものである。馬鹿げた魔力量と数百年の研鑽を積んだ魔力操作があってこそ可能な絶技だ。

 そんなものを見せられては、計画性のなさを散々(あげつら)われて凹んでいたフェルズも唖然とせざるを得ない。

 

「相変わらず頭おかしいな……」

 

「見つけた。跳ぶぞ」

 

 そして当たり前のように転移魔法を使い、フェルズが待ったをかけるよりも早く隠れ里の中まで跳ぶ。

 突然見知らぬ人間が現れ驚く『異端児』たちだったが、多くの者は隣にフェルズの姿を認めると、少なくとも敵ではないと察して冷静さを取り戻す。

 とうのグリムが何も言わずにまた別の魔法を使い始めたのだから、再びざわつき始めているが。

 

「……悪いフェルズ。説明頼んでもいいか?」

 

「何をする気かは私も知らんが、地上で暮らせるようにしてくれる、らしい……こいつ本人は信頼できる相手だし、こいつができると言ったらできるのだろう……」

 

 有無を言わせぬ様子のグリムに対し、おずおずと現れた『異端児』のリーダーであるリザードマンのリドは、少なくとも会話できそうなフェルズへと事情を問うも、フェルズから返ってきたのはなんとも曖昧な返答であった。

 

『フン、イクラフェルズノ知人トイエド信用デキルワケガナイダロウ』

 

「ならば隅で口を噤んで黙っていろ」

 

『ナッ!?』

 

 絡んできた共存否定派のガーゴイル、グロスの言葉をバッサリと切り捨て、グリムは続ける。

 

「親切心でやってきたわけではない。フェルズから仕事として請け負っただけだ。その気がない奴の説得までは私の仕事ではない……そら、ゲートを作った。前に私が拠点にしていた無人島で、どこの国の航路からも外れているから地図に載っていないし寄り付く船もない」

 

「そ、そう言われても心の準備が……」

 

「別に移り住むわけじゃあない。私は道を作っただけだ。行って帰ってこられるから普段はここで暮らして、好きな時に行って好きな時に帰ってくればいい。基本的に消えることはないからな。人間との触れ合いが望みの者は、物怖じしないやつを連れてきてやる。で、他に望みはないか」

 

 突然そう言われてたじろぐ『異端児』たち。ほとんどの『異端児』が望むのは、迷宮の外の光景、空や夕焼け、太陽を見ることか、人間と抱き合いたい、歌を聞いてもらいたいといった人間との友好そのものである。

 正史では彼らを襲っていたイケロス・ファミリアがディース・ゾンビによって全滅していることもあり、人間への不信感を持つ者は本来よりも少ない。とはいえ、作られたゲートというのがなんか空間が歪んで見えるモヤモヤである。突っ込んでいく勇気は早々出ない。

 

「ええイ! ハーピィは度胸!」

 

「あ、ちょっとフィア!?」

 

 そこに飛び込んだのは、人間友好派のハーピィ、フィアであった。恐れ知らずというかどちらかと言えば考えなしなのだろうが、好奇心のほうが勝った彼女はゲートへと飛び込んだ。

 数十秒、沈黙が続き、不信派が声を上げようとする直前に、興奮した様子のフィアがゲートから飛び出してきた。

 

「すごイ!! すごいでス!! 天井がなかっタ!! どこまで行ってモ!! 外!!」

 

 それだけ言い残して再びゲートへと飛び込んだフィア。しかし今度は、その言葉につられて何体もの『異端児』たちもまた、おそるおそるゲートへと踏み込んでいった。

 ゲートの先にあったのは、ごく普通の風景だ。自然に囲まれた島、見果てぬ海、照りつける太陽と広がる空。地上であれば当たり前の風景であり、迷宮という穴倉で暮らす彼らには遠すぎた光景。彼らはそれを目に焼き付けんばかりに見つめていた。

 

「……そうダ。すみませン! 実は下層にマーメイドの仲間がいテ……ここまで水路が繋がっていないから普段は一緒にいられなくテ……」

 

「水路を作ること自体は簡単だ。経路はどうする? 表を通せば普通のモンスターも入ってくるが」

 

「隠し通路がありまス」

 

「わかった」

 

 仲間であるマーメイドのマリィのことを案じたセイレーンのレイがグリムにそう言い募ると、グリムは魔法を使ってゲートの先の海から水路を作り、水を引き込んで隠れ里へ湖を作る。

 と、ここでグリムは迷宮の地面を魔法で直接操り陥没させようとしたのだが、どうにも魔法の通りが悪く感じた。

 

「(……なるほど、文献で『迷宮は生きている』と言う記述を見た覚えがあるが、こういうことか……)」

 

 グリムは地面の支配権を迷宮と競り合ってみたが、流石のグリムでもどうにもならなかったため、直接地面を破壊して削り、修復されないように呪詛(カース)を用いてコーティングした。無論、『異端児』へは一切影響が出ないようにしたものだ。

 しかし、大規模な迷宮の破壊を起こせば、当然現れる怪物が存在する。正史では、アストレア・ファミリアが被害に遭って存在が判明するそれの名はジャガーノート。しかし、この世界線においては『大抗争』でルドラ・ファミリアが全滅したが故にアストレア・ファミリアによる追走もなく、ルドラ・ファミリアによる迷宮の大規模破壊とジャガーノートの出現もまた発生していない。

 つまり、一切の情報がない状態で、魔法を反射する装甲を持つジャガーノートと、魔導士であるグリムが相対する事態となってしまったのである。

 

「あれは……意思疎通できそうにもないな。殺すぞフェルズ、いいな?」

 

「あ、あぁ……この隠れ里は安全地帯のはずなのだが……」

 

 グリムが魔法の雷撃を放つ。超高速で放たれたそれはジャガーノートが反応できない速度で飛来し、その体表に命中した瞬間に方向を大きく反転し、グリムへと命中した。

 

「なっ、ノルナゲスト!?」

 

「……攻撃を反射するのか」

 

 反射された魔法はグリムが常に展開している結界に阻まれ、グリムへと傷を負わせることはなかった。

 フェルズの反応から、このモンスターの情報がないことを察したグリムは、分野は違えど研究者としての性が疼く。

 

「では、物理攻撃はどうだ?」

 

 今度は周囲に散らばる石を、魔法を使い超音速で撃ち出す。それらの弾丸はジャガーノートの脆い装甲へと命中すると、容易にそれを打ち砕いてみせた。

 大きくその身を削がれながらも、ジャガーノートは驚異的な速度を以てグリムへ接近し、その身に凶悪な爪を突き立てんと腕を振るう。しかし、それも結界に阻まれて、グリムの髪を揺らすことすらない。

 

「なるほど、魔法を反射する甲殻を持つモンスターだったか。興味深いな……安全地帯に直接生み出されたことを考えれば、迷宮の免疫反応と言ったところか? 外敵の排除を目的として生み出されたから速度と攻撃性が優れ、一方で防御面は一方的に駆逐されないための魔法反射に頼る、か……あぁ、もういいぞ」

 

 ジャガーノートの分析を終えたグリムは、かつての彼の後天系魔法であった《トリニティ》を発動し、ジャガーノートの体内に直接破壊点を生み出すことで、魔法反射を無視してとどめを刺した。

 その後も水路を延ばす度に現れるジャガーノートや漆黒のモンスターを一方的に駆除するグリムを見て、リドは顔を引き攣らせながらグロスへと告げた。

 

「……頼むから気に入らなくてもあの人と敵対するようなことだけは避けてくれよ」

 

『……ワカッタ』

 

 最終的にLv9相当のモンスターが、「弟子に当てよう」とグリムの空間魔法によって収納され確保されてからは迷宮からの妨害もなくなり、無事水路が隠れ里と下層『水の迷都』を繋ぐこととなったのだった。




「ん……」

「いや大丈夫大丈夫、効いてたってあれ」

「女として意識させることはできてるし脈アリな反応だって。直接気持ちを伝えればオチるよあれ」

「ん……」

「筆談できるって黙ってたのを怒られないか心配? いや怒らんでしょあの人は」

「でもどうせなら喋れるようになって、それで告ったほうが感動的で押しきれない?」

「いいねそれ。ちょっとリハビリとかしてみようぜ姐御」

「ん」
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