大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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踏み出せぬ者/4人目のパーティーメンバー

■踏み出せぬ者

 

 『豊穣の女主人』。オラリオの西地区に構えている大衆酒場である。その名の通り、元フレイヤ・ファミリアの団長であるミア・グランドがオーナーを務めており、かつてのミアを知る中堅冒険者や一般市民、ロキ・ファミリアの精鋭まで、幅広い客層を常連としている。

 そんな『豊穣の女主人』に最近、新しく常連が加わった。毎日毎日昼間から一番厨房に近い席のどこかに座り酒を飲み、夕方頃に帰る。たまに彼の過去を知る常連にイジられつつも、ヘラヘラと笑っている男だった。

 店員であるアーニャ・フローメルも、一応は彼の過去を知る者のひとりである。当時はまだ彼女もフレイヤ・ファミリアに所属しており、彼――スタルガド・ガムリの現役時代は、まだ物心ついたばかりだったから、実際に見たわけではない。

 彼のことをちゃんと知ったのは、『豊穣の女主人』がオープンしてから。彼女が、兄に()()()()()からである。ミアのもとに一通の手紙が届いたのだ。それがスタルガドからの手紙だった。

 そこには近況と「そのうち店に行く」という言葉が書かれていた。

 

「誰からの手紙ニャ?」

 

「ふん、昔馴染みの臆病な男だよ」

 

 ミアは鼻を鳴らしながらそうとだけ答えた。それ以上は教えてくれなかったので、歳を食っている常連に話を聞いてみれば、スタルガドの名はすぐに挙がった。

 曰く、万年Lv1だった臆病者の冒険者。人柄は悪くなかったらしく人付き合いも良かったためか、冒険者としての評判以外は良かったのだが、如何せん冒険者としての評判はよろしくないものだった。

 

「まぁ、あいつがディアンケヒト・ファミリアやミアハ・ファミリアの世話になってるところは見たことなかったけどな」

 

「そらお前、格下の雑魚狩りばっかやって小銭稼いでるだけなんだから怪我するわけねえべ」

 

「違いねぇや! 悪いやつじゃねえんだが、なんつうか男らしくねぇっつうか、そんな感じのやつだったよ」

 

 そんなスタルガドへの評価を聞いて、どこか自分と重ねていた。弱いままで置いていかれた自分。弱いまま踏み出せなかったスタルガド。だからか、なんとなく印象に残っていた。

 とはいえ、その程度の話だ。時間が経つにつれ、その記憶は風化していった。

 

 しかしつい先日……と言ってももう数週間は経つが、スタルガドの名は新たに鮮烈な印象とともに彼女の中に蘇った。ロキ・ファミリアさえ影も踏めない、最上級の実力者として。

 第一級冒険者でも反応できないような速度で、店内に被害を出さないように走り抜け、手に持った盆の上のスープを溢さないままに飛んできた男ひとりを片腕で受け止める。そんな芸当、都市最強のオッタルでもできるだろうか。

 被害云々を考えなければできるだろう。しかし、そのあまりにも繊細な力の使い方はオッタルには難しい。アーニャにはそう思えた。

 

 しかし、今の飲んだくれているスタルガドを見ていると、どうにもそんな大層な人物には思えなくなってくるから困る。他人に絡むことこそないが、昼間から管を巻いて、注文が落ち着いて厨房から出てきたミアを相手になにやらくっちゃべって、気が済めば金を置いて帰る。その行動はダメなおっさんそのものであった。

 だが、その日はなんとなく雰囲気が違った。普段はヘラヘラと笑ってほろ酔い程度で済ませているのだが、どうにも深く酒が入っているように見える。

 ミアとなにか話しているようだが、アーニャの耳には客の喧騒でかき消されて何を言っているのか聞こえなかった。ただ、その湿っぽい雰囲気が妙に目についた。

 やがて手が空いたタイミングで、ミアから声がかかった。

 

「アーニャ! そこの飲んだくれに毛布かけてやんな」

 

「は、はいニャ!」

 

 珍しい。店の中で眠りこけた客など、営業の邪魔だと蹴り出すのがいつものことなのに。まぁ、ここはミアの城である。ルールはミアが決める。ミアが寝かせておけと言っているのだから、誰にも文句を言う資格はない。

 アーニャが毛布をスタルガドへかけるのを見ながら、ミアはボソリと呟いた。

 

「まったくヘタレめ……今度は酔ってない時に言いな。そしたら考えてやるよ」

 

 どうやら、先は長いようである。

 

 

 

■4人目のパーティーメンバー

 

 ベルとリリルカが組み始めておおよそ1ヶ月。上層で再びミノタウロスの、しかも今度は変異種に襲われるというちょっとした、いや、かなりの異常事態(イレギュラー)の末に、ベルはLv2へとランクアップを果たした。

 数日間眠りこけたベルは起き抜けに、リリルカからとある提案をされることとなった。

 

「ベルさん。パーティーメンバーを増やしましょう」

 

「パーティーメンバーを?」

 

「はい。ベルさんは上層で留まるつもりはありませんよね? 10階付近で稼いで暮らす冒険者も少なくはありませんが、中層へ行くつもりがあるのなら、やはりソロでは限界があります。リリでは戦力にはなりませんから」

 

 最低でもあとふたり、パーティーメンバーを増やしたいというのがリリルカの考えだった。ベルもその提案に反対することはなく、互いにひとりずつ、パーティーメンバーを探してくるというように決まった。

 そうして、ベルはミノタウロス戦で破壊された防具の調達をしに行った先でヘファイストス・ファミリアの鍛冶師、ヴェルフ・クロッゾに出会い、彼をパーティーに引き入れたその翌日。偶然ながら、リリルカもまたひとり、パーティーメンバーを勧誘することに成功していたのだが。

 

「リ、リリ……? えっと、その人は……?」

 

「ベルさん、落ち着いてください。リリも正直半信半疑ですが、彼女は『剣姫』とはなんの関係もないそうです」

 

 そこに立っていたのは、ベルの想い人であるロキ・ファミリアの第一級冒険者、『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。その少女によく似た容姿を持つ、ひとりの少女であった。

 髪はショートに切り揃えており、色もアイズとは異なり黒髪である。しかし、そのどこか作り物めいた顔と表情はまさにアイズと瓜二つである。

 また、アイズとは違いベルよりも年下である雰囲気があった。とはいえ、リリルカという例があるから、見た目で判断することはできないとベルも分かっているのだが。

 

「……どうも、アリア、です」

 

「アリアさんは魔導師だそうなので、パーティーのバランス的にもちょうどいいかと」

 

「そ、そうなんだ……うん、よろしく、アリア!」

 

 ひとまず、想い人によく似た少女に出会ったことに動揺しつつも、ベルはアリアを受け入れることとなった。

 ちなみに、憧憬は小動(こゆるぎ)もしていなかったことをここに書き示しておく。

 

 そして実際にこの4人で迷宮に潜って連携を確かめていたのだが、アリアの実力というのはそれはもう絶大であった。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 ベルやヴェルフへの付与魔法(エンチャント)

 

「【疾走れ(ゲイル)】」

 

 後衛火力としての優秀な攻撃魔法。

 

「【逆巻け(タービロン)】」

 

 キラーアントの群れを纏めて殲滅できる広範囲火力。

 

「【凪げ(カーム)】」

 

 果てには風の結界による防御まで、幅広い魔法を――

 

「いや待ってください! 明らかに3種類以上魔法を使ってませんか!?」

 

 リリルカからそんな質問が飛んだ。

 とはいえ、それ自体はこのオラリオにおいてそれほど珍しいことではなくなっている。ロキ・ファミリアやガネーシャ・ファミリアの団員は魔法種族(マジックユーザー)でなくとも、迷宮で使いものになる先天系魔法を複数覚えているというのは、もはや周知の事実であるからだ。

 問題は、アリアがそのどちらの所属でもないことである。リリルカが聞き及んでいたアリアの所属は無所属。というか、オラリオのファミリアには所属していないというもの。

 リリルカはこれを、都市外のファミリアから出稼ぎに来ていると解釈していた。もちろん、実際は異なるのだが。

 リリルカの質問に対して、アリアは何もおかしいことはないと言った様子で答える。

 

「……《エアリアル》は、詠唱で効果が変わる。全部同じ魔法だから……」

 

「ロキ・ファミリアの『万魔姫(ナイン・ヘル)』みたいなもんか……そりゃ強えな……」

 

 アリアの答えにヴェルフが納得したように呟く。確かに、リヴェリアの持つ3種の魔法という、詠唱で効果が変わる魔法は存在する。前例があるから、ベルやリリルカもその言葉を疑うことはなかった。

 

 とにかく、強力なメンバーが加入したベルのパーティーが、エイナから中層へと進む許可が降りるのに、そう時間はかからなかった。




 あと2、3話で多分〆。
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