大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
アルテナを出たノルナゲストが行っていた研究は主に2つ、
まず前者に関してだが、ノルナゲストの研究結果とスクルドから齎された答えを踏まえて、先天系魔法とは精霊の加護によって発動する魔法のことであると断定した。神の恩恵で先天系魔法が発動しない理由は、神の恩恵の魔法発動機構が後天的魔法に特化しているが故だろう。
であれば簡単だ。精霊の加護さえ刻まれれば、魔法種族以外でも先天系魔法を発動できる。これは歴史が証明している。問題は、精霊以外が精霊の加護を刻むのには少なくとも先天系魔法を必要とすると考えられるため、非魔法種族が独力で先天系魔法を使えるようになる術は現状ないことだが。
続いて後者の研究。まずもって、神の恩恵とはなんなのか。これは精霊であるスクルドも知らないことであった。確認できているのは、少なくとも精霊の加護と同じく詠唱を世界構成へ通信する機能があることだけだ。
『
各アビリティに沿った行動をすると得られる経験値。その経験値が一定以上に達して偉業を達成すると、人々はランクアップとしてレベルが上昇し、身体能力が格段に向上する。ここでさらに疑問が出てくる。偉業とはなんぞや。
ノルナゲストは、これらのうち経験値を、ひどく適当なものとして認識していた。そもそも、ステイタスのうち力と敏捷が異なることが疑問なのだ。力というのは、要するに筋力である。では敏捷は? おおよそ筋力である。いやまぁ、判断力や動体視力、情報処理能力などもあるだろうが、体を速く動かすという事象において最も重要なのは筋力であろう。
また、耐久においても酷く曖昧だ。衝撃や斬撃、熱に対しては機能するのに、酸欠であったり、あるいは痛覚でも舌の痛覚である辛味にはなぜか機能しない。さらに、《耐異常》でも致死毒などは和らげるのに、なぜか酒の酩酊や食あたりなどの毒には効果が薄かったりする。
だからステイタスはそういう原理の基本的な部分を強化しているのではなく、それらが起こす
強化系の付与魔法と、魔法を起こすための世界構成への翻訳機能を、対象の体に直接搭載する。それが、神の恩恵であるとノルナゲストは解釈した。神の恩恵は、一度失われた後でも異なる神から再び恩恵を受ければ、失われる前と同じ力を取り戻すことができる。恩恵を刻む神があからさまにステイタスに影響している場合もあるから、完全に同一とは言えないが、ある程度、神の恩恵は規格化されていると考えていいだろう。
であれば、神の恩恵が効果を発揮するのに必要な『経験値』とはなんなのか。幸いなことに、これはスクルドが答えを持っていた。
『回答。「経験値」とは即ち、魂の成長である』
「魂の成長?」
『肯定。「選定」の精霊である私には、魂を見定める能力が備わっている。私の加護を持つ汝にも、その能力を使う権利がある』
そう言われ、ノルナゲストは通りがかった適当な人間に、スクルドから貸し与えられている『眼』を向けてみた。
なるほど、これが魂かと納得する。人間の中心で淡く輝いている、一種の宝石のようなもの。それは玉石混交で、形や質感、色や輝き方などが千差万別であった。
『解説。魂は精神と肉体の健全なる成長と共に拡張する。それを、神々は「経験値を得る」と呼んでいる』
「なるほど。神の恩恵は魂をエネルギー源にしたシステムなのか。例えるなら冒険者とやらは『城』で神の恩恵は『兵士』か。『
魂が発生させるエネルギーを使用する、という発想自体は、そう珍しいものではない。ただ、アプローチを間違えれば魂そのものを消費してエネルギーとする呪具になり果てる上、魔力というもっと手軽で簡易なエネルギーがあるので、そこまで使用されることがない。
「言われてみれば、天界の邪神がばらまいたという
そうなれば話は見えてくる。神の恩恵と精霊の加護はもとより似ているのだ。精霊の加護を改造して、神の恩恵と似たようなシステムにしてしまえばいい。
今現在、ノルナゲストに恩恵はない。それ故にステイタスは封印され、《魔導》のアビリティやステイタスの魔力を使うことはできない。しかしその分、今の彼には賢者の石による膨大な魔力が与えられている。後天系魔法は便利だったが、便利なだけだ。使えなくとも支障はない。と言うか、だ。
「【精霊に告げる。岐路と復路、三本の道、進む方角は思いのままに。其れは現在を示すもの。現在の否定、その枝はあるべきではない。以上をもって契約を果たせ】《トリニティ》」
別に使えなくなったわけではない。
後天系魔法の発動に必要なのは詠唱式と魔力操作。詠唱式は当然暗唱できるし、魔力操作も覚えている。神の恩恵に搭載されていた経路を一から再現してやれば、後天系魔法を先天系魔法同様に使うことはできるのだ。まぁ、『
とはいえ、これはその魔法の魔力制御を知っていることが前提なので、他人の後天系魔法をコピーすることはできない。
「まずは精霊の加護を刻む感覚を、スクルドに教えてもらうところからかな……」
それから750年。
ノルナゲストはひたすらに人工『神の恩恵』の開発に時間を費やした。流石に『神の恩恵』。神が直接手掛けた加護なだけはあり、再現だけでもかなりの難易度だった。それにさらに、ノルナゲストは改造までし始めたのだから大変である。
なにせ、『神の恩恵』は神々が肩入れしすぎないように、敢えて性能を抑えて作られているが、こちらはそんなことをする必要はないのだから、改善できるところを改善し、盛れる性能は盛った。その分時間はかかったが。
結果として出来た魔法版『神の恩恵』こと『勇士の刻印』は、大枠では『神の恩恵』に近いものだったため、相違点を挙げていくことにする。
まず、刻印は背中ではなく体の好きな場所に刻まれ、『勇士の刻印』を刻まれた本人が自分でステイタスを更新できるようになった。
刻印によるステイタスは、手のひらに灯した炎の幻影の中に浮かべることができ、それを操作することで更新することができる。*1また、炎の中のステイタスは刻印を刻んだ者と刻まれた者、刻まれた者が認めた者にしか見えないので、盗み見られることもない。
次に、『神の恩恵』ではそれぞれの基本アビリティに自動的に振られてきた経験点を、『勇士の刻印』では任意に割り振れるようになっている。また、偉業と通常の経験点が区別されておらず、相応の大量の経験点を消費すればランクアップできる。
神の恩恵において各基本アビリティの上昇というのは、もとを辿れば魂が拡張した結果、強化できる容量が増えたということでしかない。であれば、その容量をどう使うかを選択できるのも当たり前の話であった。
偉業も上位の経験値と言われているが、それほど大きく魂が拡張されたという話でしかない。神の恩恵であれば更新の際に普通の経験値は自動的に振られてしまったが、勇士の刻印であれば貯めておけるので、偉業で手に入る経験値と同量まで貯めておけば普通の経験値でもランクアップできるようにしたのである。
また当然、この刻印自体が精霊の加護と同様魔法の触媒となっているので、刻まれれば魔法種族以外でも先天系魔法を使うことができるようになる。
さて、続いて神の恩恵におけるスキルの存在だが、ノルナゲストはこれを発展アビリティの延長線上にある、『神の恩恵の拡張パーツ』だと位置づけた。
発展アビリティも基本アビリティと同様、それぞれの発展アビリティで示された行動を取った結果を補正する、魂のエネルギーを使った付与魔法のようなものだ。そして、スキルは特殊な効果こそ多いがそれと同様である。
問題は、あくまで『行動の補助』という結果に収まっている発展アビリティに比べて、かなりこの特殊な効果が多く多種多様がすぎる点である。
そのため、ノルナゲストは使い手に任せることにした。ノルナゲストが『勇士の刻印』に搭載するのは、補正が発動する『条件』と『補正する基本アビリティ』、『補正量』を選んで取得する基本的な部分だけ。しかも、これはやっていることは基本アビリティと同じで、それに制約をつけることで効果を上昇させただけだ。
それ以上に改造して特殊な効果を得たければ『勇士の刻印』、あるいはこの先天系魔法について熟練し、自分でスキルを改造するという風にしたのである。ノルナゲストであれば当然、神の恩恵でのスキル並みに特殊なスキルも実装できるのだが、それをすべて基本機能に搭載してしまっては膨大な数になる。であれば、基礎的な部分だけを搭載して、あとは使用者の熟練度に任せたほうがいい。
この点に関しては、ある意味ノルナゲストが神の恩恵の性能に敗北した瞬間でもあった。
神の面目躍如であろう。基本性能を抑えているとは言え、やはり神の作ったシステムなのである。
ちなみに、『精霊の加護』とは異なり、『神の恩恵』と『勇士の刻印』は共存し得ない。どちらも魂を核として構築するシステムであるが故に、リソースの奪い合いになるのだ。どちらかが失われた状態、例えば『神の恩恵』が失われた状態であれば、『勇士の刻印』を刻むことはできる。しかし『神の恩恵』を持っている者には『勇士の刻印』を刻むことはできず、逆もまた然りである。
一方、『精霊の加護』は精霊とパスを繋いで精霊の魂エネルギーを上乗せするシステムであるため、『神の恩恵』と『勇士の刻印』両方との共存が可能だ。
さて、こうして『勇士の刻印』を完成させることで、ノルナゲストは恩恵を持っていた頃の力を取り戻した。ほとんどそれに依存することはなかったし、新たな『勇士の刻印』のステイタスUIは恩恵のそれと異なる――例えば魔法の欄がそもそもない――のだが。
ノルナゲスト・タング・アールヴ
第7階位
物理攻撃/対荷重 : 0
生命力/身体強度 : 175×10²
敏捷性/情報処理能力 : 175×10²
動作正確性 : 0
魔力拡張量 : 0
スキル
《
・死体から魔力、経験値徴収
《
・危険察知能力、情報処理能力に補正
まず、それぞれの基本アビリティの働きを明確にした。力、耐久といった曖昧な言葉から修正しただけで、働きは同じだ。
また、『ランクアップで基本アビリティが0に戻る』『S以上も存在する基本アビリティのアルファベット表記部分』を廃止した。そのため、レベルに相当する階位が上がっても数字部分は増え続けるだけである。
また、発展アビリティを廃止した。『勇士の刻印』を刻んでいれば、基本的な発展アビリティは最低ランクで持っているのと同等の効果が得られる。あとは基本アビリティによる補正で十分なためだ。特殊な発展アビリティは、頑張ってスキルを習得してもらう。
元々持っていたスキル《
とにかく、これで人工『神の恩恵』こと『勇士の刻印』は完成した。ノルナゲストは被験体を探すため、数百年の時を過ごした隠れ家を旅立った。
「ふむ……この気配、人の身でこの領域に手をかけるか……やはり下界というのは面白い」