大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか   作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!

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運命

「……ん」

 

 ノルナゲストは首を傾げる。普段なにかに執着しない少年が、何かの紙を持って差し出してきたのである。

 見てみると、盗賊団の手配書だ。最近この近辺を騒がしている盗賊団だというのだが、これがどうかしたのだろうかと少年を見てみると、その瞳に黒い光が灯っているのが見えた。

 

「(あぁなるほど、復讐対象なのか。黒竜だけではなかったのか。となると、随分と悲惨な人生を送ってきたのかもしれないな……)」

 

 過去視の魔法を使えば少年の人生を視ることはできる。しかし、ノルナゲストは安易にそれを選ぶことをしなかった。単純にそんな趣味の悪いもの見たくないというのが大半であるが。

 さて、目の前の少年である。少年は何を求めているのであろうか。

 

「ふむ……皆殺しにして欲しいのか?」

 

「んー……」

 

 少年は首を横に振る。違うらしい。

 

「じゃあ自分の手で皆殺しにしたいのか?」

 

「ん」

 

 少年は首を縦に振る。あっていたようだ。

 とはいえ不安は残る。少年を拾ってから3年、鍛え続けてきた少年は冒険者で言えばLv2。盗賊団は神の恩恵を得ていないようだが、上級冒険者を返り討ちにしたという噂もある。であれば、ノルナゲストがバフをかけるとしても少なくともLv3は欲しいところだ。

 と言うことで、湯治の予定だったが、急遽修行を始めることとなった。『勇士の刻印』は『神の恩恵』に比べてランクアップも楽である。

 今回は少年の技量を上げるよりランクアップが目的であるため、単純に魂が成長しやすいように、適当に捕獲してきたモンスターに魔石を食わせて、強化種にしてから少年にぶち当てる。こうすればいくら地上のモンスターとは言え、ダンジョンのモンスターに匹敵する力を持つわけである。

 少年は死にかけながらもこれを突破。ノルナゲストは少年を治癒し、全快させてから再び強化種をぶち当てるのを繰り返した。

 ノルナゲストも3回目くらいから流石にこれは拙いのではないかと思い始めたのだが、少年のほうが強行したために続けることになった。

 結局、15回目のトライでランクアップが可能になり、少年は第3階位へと昇華。ひとまず及第点のステイタスにはなった。

 

 と言うことで実戦である。盗賊団のアジトなど、いくら隠れていようとノルナゲストの使い魔にかかれば容易に見つけ出すことができた。

 少年は今回単独で盗賊団討伐に動くわけだが、ノルナゲストとしてはここまで手塩にかけて育てた少年を殺させるわけにはいかない。そのため、本当に死ぬ寸前になったら手を出すことを了承させ、外で待機する。

 また、いくつかの付与魔法(エンチャント)をかけてLv4相当のステイタスまで持っていく。武具も相応のものを用意した。もはや恩恵を持たない一般人には戦闘風景さえ見えない状況だろう。ノルナゲストはこれでもまだ万が一があると考えている。

 

 アジトへと突撃していく少年を見送り、使い魔越しにその様子を見る。

 少年は手に持った短剣を使って、何が起こっているかも分かっていない盗賊の腹を深く裂いていく。殺してはいない。少年が殺そうとすれば一瞬で終わるから、致命傷を負わせて死ぬのは時間に任せている。

 蹂躙。アジトの奥へ奥へと進むたびに死人が増えていく。そして最後の部屋。異常事態を察知した頭領は、その部屋へと逃げ込んでいた。

 

 少年は部屋に踏み込み、一気に短剣を振るう。恩恵がないはずの頭領の男は、手に持った剣鉈を使って、その短剣を弾いた。

 

「あれは、天授物(アーティファクト)か……!! なるほど、上級冒険者を返り討ちにしたという大物食い(ジャイアントキル)はあれを利用したのか」

 

 天授物。善神が世界に遣わしたのが精霊であるなら、邪神が世界にばら撒いたのが天授物である。それらは精霊の加護と同じく力を得る代わりに、多くの場合は代償を要求する。

 

「テメェ、あの時のガキか!!?」

 

「…………」

 

 頭領の男は覚えていた。しかし少年はそんなことも気にせず短剣を振るい、頭領は防戦一方ながらもそれに対応する。Lv4を相手にできるほどの力を与えるために、天授物はひたすらに代償を汲み上げる。

 その様子を使い魔越しに見ているノルナゲストに、普段は喋らずにノルナゲストの中に閉じこもっているスクルドが話しかけた。

 

『疑問。助けに行かないのか。私としては、かの少年が死ぬことは許容できない』

 

「彼がそれを望んでいない。セーフティはかけてある。いざとなれば治癒や防御も遠隔でできるからな」

 

 少年と頭領の戦いの形勢は間違いなく少年有利な状況であったが、なかなか決めきれない状況が続いていた。

 

「おいおい、今更復讐のつもりかよ!! お前あのままなら死んでただろうが!! むしろ貴族様のとこに売ってやっただけ感謝してほしいんだがよ!?」

 

「…………」

 

「何だその目は? まさか自分のこと不幸だとでも思ってんのか? 言っとくけどな、黒竜に人生壊されたやつなんかなんも珍しくねぇ!! 幸せに暮らしてた両親が突然死にました? そんなもん黒竜がいなくたってよくある事だろうがよ! 復讐相手がいて、力も得て、幸せものだよお前は!!」

 

 少年は喋らない。頭領は目の前の少年を殺す力を求め、天授物は容赦なく頭領から魂を徴収する。

 そうして、天授物は頭領の魂を吸い取りきりながら、最期に振り下ろした一撃に神秘を宿す。Lv5さえ殺しうる巨大化した力の一太刀は、アジトを両断しながら少年へと迫る。

 そして、頭領が天授物によって息絶える直前に、攻撃の動線から外れて頭領の至近距離まで詰めていた少年の短剣が、頭領の首を飛ばした。

 頭領の体が崩れ落ち、鈍い音を立てて頭が地を跳ねる。天授物は地面に落ちて、その刃にヒビが入った。

 

 ここに盗賊団は全滅し、少年の復讐はひとつの終りを迎える。

 最後の攻撃の導線上にいたノルナゲストは、その攻撃を超短文の防御魔法で軽く受け止め、少年を迎えに行くために立ち上がった。

 一方の少年は油断せず、不意打ちの可能性を考えて未だに構えを崩さない。

 

 だが、それに対抗するには少年は魔法について知らなさすぎて、それを予想するにはノルナゲストは神の悪意を知らなさすぎた。

 

 その天授物の能力は非常にシンプルなものだ。魂を代償に使用者の能力を強化する。ただそれだけの天授物。その強化幅はかなり強く、全力で魂を捧げて強化すれば、一時的にLv6にも届くだけの強化を施す。

 その反面、それだけの強化を使えば天授物自体が耐えきれず自壊する。そういう弱点もある。

 そしてもうひとつ、この天授物には()()()が存在する。それは、刀身を破壊することで、周囲に存在する魂を削って徴収しながら、広範囲に強力な爆破攻撃を行うというもの。ただし、この爆破攻撃はそれほど威力も高くなく、脅威度は薄い。

 

 この天授物の恐ろしいところは、魂の徴収が対価(コスト)として行われるところだ。

 

 異変を感じ取ったノルナゲストが、少年に対して遠隔で防御魔法を施しながら、第7階位の全力で少年のもとへかける。その直後、ヒビ割れた天授物の刀身から現れた黒い手の形をした靄が、少年へと襲いかかった。

 黒い手はノルナゲストの防御魔法を素通りしながら、少年の魂を掴み、削り取る。そう、この黒い手は攻撃ではない。一定範囲内の生きている生物を使用者と定義して、対価を求めているに過ぎない。

 

 例えばこの天授物の担い手がまっとうな英雄たる人物だったとして、怪物を斃すために自身の魂をかけて限界を超えた強化を施し、護るべき者たちを助けるだろう。そして、次の瞬間、ヒビ割れた刀身からその者の意図せぬ()()()が発動する。

 そうして、護るべき者たちの魂は対価として削り取られ、その者もまた死に、周囲に対して民間人ならば十分に死に絶える爆破攻撃が発生する。そういう悪辣な罠なのである。

 

 その罠が、今意図せぬ形で少年に牙を剥いていた。

 

「……あ」

 

 魂を削られるという未知の苦痛に少年は呻きながら血を吐く。その一瞬後に、黒い手を躱しながらその場に到着したノルナゲストが少年を抱え、意図的に魔力暴発を起こして邪魔なアジトの壁を壊しながら、対価徴収の範囲から遠ざかる。

 だが、その頃にはもう、少年の魂は半分ほどが食い散らされていた。

 

「――ッ【精霊に告げる】ッ!!」

 

 ノルナゲストは少年の状態を見て、それが間違いなく死に繋がると理解するや否や、彼が使える最上位の回復魔法を発動し、その生命を繋ぎ止めようとする。

 しかしその回復魔法は身体を治すものでしかない。削られた魂にはなんの効果もない。

 

「クソッ、【精霊に告げる】――」

 

 瞬時に今使える魔法では解決策がないと察し、魔力暴発を覚悟しながら何度も魂を修復する魔法を模索するノルナゲスト。眼帯を外し、賢者の石を露出して、力を全力で回す。

 しかし、そんなノルナゲストの努力虚しく、少年の身体から生命力が消えていく。

 

「巫山戯るな!! 認めてたまるか……ッ!!」

 

 ノルナゲストは自身の左目――賢者の石を引き抜き、少年へと押し当てる。そこから溢れる魔力は生命力として少年へと流れ込み、しかし魂の疵から再び流出する。

 

「適合しない……クソッ、だが時間は……」

 

 同時に、ノルナゲストに流れ込む魔力の量も大幅に減少する。もはや万事休す。

 

 

 

「ふむ、何かの縁だ、助言をくれてやろうか?」

 

 そこにいたのは、見るからに神であると理解できる相手だった。豊かに蓄えた髭に左目に巻いた眼帯。老いた容姿にしてはガッシリとした体躯。足元には2頭の狼、肩には2羽のワタリガラス。そして伝播してくる強大な神威。

 

「さて、時間もなさそうだし自己紹介は後にするか……坊主、その少年を助けたいか? いや、問うまでもなさそうだな。ではお前はどうだ? スクルド」

 

『……無論。私はかの少年を助けたいと思う。大神オーディン』

 

 老神の問いかけに答えたのは、精霊スクルドだった。

 

「それは例えば、お前の命を……いや存在を犠牲にしたとしてもか?」

 

『愚問。この身は選定の徒。加護を捧げたノルナゲストにもはやこの身は不要。であれば、私が選定した勇士に存在を捧げることになんの不満があるだろうか』

 

「……おい、待て」

 

『拒否。汝もそうだっただろう。その左目を失えば自身の命が近く尽きることも知っていて、それでも少年のために使おうとしたのだろう。であれば、汝に私を止める権利はない』

 

 スクルドな毅然とそう言い返す。自我が薄い精霊の特徴と本人の資質から、犠牲となることに一切の躊躇がない。

 

「フハハ!! まぁ消えてなくなるわけではない。そう構えなくともいいだろう、坊主が思っているより悪い結果にはならないだろうよ……術式を教える。坊主、お前がやれ」

 

「……本当に救えるのか」

 

「アースガルドの大神、オーディンの名に誓おう。そら、時間はないぞ」

 

 ノルナゲストは覚悟を決め、賢者の石を左目へとあてがった。

 

 

 

 少年は微睡んでいた。

 体から熱が奪われていく感覚。何度も味わいながら、しかし今最も近くまで感じ取った、死という感覚。

 海の中を漂いながら体が末端から解けていく感覚の中で、少年は静かにそれを受け入れようとしていた。

 

【精霊に告げる。聞け、これは勅令である】

 

 そんな中で、声が聞こえた。

 涼やかで流麗ないつも聞いている美しい声。

 

【我が縁に大神オージン。捧げるは運命を断ち切る鋏の写し身。欠けた魂を塞ぎ給え。大いなるトネリコの枝。この者、未だヴァルハラの門を潜ることなかれ】

 

 少年の目に写ったのは滑らかな鎧……いや、それは光の粒子となり解けていくと、ひとりの女性の姿へと移り変わる。

 

『生きなさい、████。汝の運命はここで終わりではない』

 

 女性が手のひらを少年の魂に重ねる。女性の体を形作っていた粒子が、少しずつ少年の魂へと混ざっていく。

 

【今、私は首を吊ろう。引き換えに大神の叡智をここに。新たなる契約を結び、最も新しき奇跡を齎し給え】

 

 欠けたものはもうない。少年の意識が引き上げられる。

 

『行きなさい、勇士よ』

 

 そこで少年が初めて見たその人の左眼は、まるで星が宿っているかのように、眩い耀きを放っていた。

 

 

 

 少年が目を開けたのと同時に、ノルナゲストは全身の力が抜けたかのようにその場に座り込んだ。詠唱式に不穏な言葉も交ざっていたが、今のところ問題はなさそうだ。

 いや、変化はある。ノルナゲストの体から『精霊の加護』が失われていた。同時に、体に宿っていたスクルドの気配も消えている。賢者の石と『勇士の刻印』があるから問題自体はないのだが、会話自体は多くなかったとはいえ750年を連れ立った仲だ。喪失感は大きい。

 同時に選定眼も失い魂を視ることはできなくなったが、少年に刻んだ『勇士の刻印』越しに少年の魂がスクルドの魂と融合し、生命力の流出が止まっていることを確認して、ようやくホッと一息をついた。

 

「……我が弟子が助かった。この恩は必ず……」

 

「阿呆が坊主、救けたのはお前だろう。それに、儂は貪欲だ、そんなことを言えばとことんまで取り立てねば気が済まんぞ」

 

「……なら遠慮なく踏み倒させてもらう」

 

「それはちょっと違うんじゃないかな」

 

 当たり前のように速攻で恩を無視しようとするノルナゲストに対してツッコむオーディン。ノルナゲストはそれをスルーして、少年の身体を検査し始める。

 そして、とある事実に気づいて硬直した。

 

「……おい、神よ」

 

「ん? なんだぁ?」

 

「……少年が少女になっているのだが?」

 

「ダーッハッハッハ!! そうなったかぁ!!」

 

 彼の名は大神オーディン。

 アースガルドの神々の王であり、死と戦争と魔法を司る神。

 そして神々の王の例に漏れず――だいぶアレな性格をした神であった。




 はい、ヒロインです。
 まだ要素が足らねぇな?
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