大魔導士が嫁探しをするのは間違っているだろうか 作:今更止められねぇよ!性癖スイッチオンだ!
大神オーディン。
その名は古今東西、
そして同時に、雷神ゼウスと同様にかなりのロクデナシである。何故これからあの好漢トールが生まれたのかわからないほどに。あるいは、ロキと義理の兄妹であることが非常に納得できるほどには。むしろ、他の神々からは「本当に血が繋がってないのか」と何度も疑われている。
そんなオーディン、実は今回結構焦っていた。
いや、最近のオーディンはかなり機嫌が良かった。下界生まれのれっきとした人間でありながら神の権能に届くという寸前まで魔法の知識を蓄えるその人間の姿は若い頃の自分を想起させたし、そんな人間が開発した魔法の気配を察知して割り込んで見れば、明らかに自身を連想させる狼のスキルが生えている。
魔法の効果で眷属にはできないが、そこでその『勇士の刻印』とかいう魔法を改造して干渉し、追加でワタリガラスの方も授けてしまう程度には。なおこの程度なら
で、そんなお気に入りが見繕ってきた勇士が死にかけていた。その原因となった
いや、あのクソギミックは当時思い付きで作って、下界にばら撒く気もなかったし適当に蔵にしまっておいたのだ。それを勝手に持ち出して下界へ放流したのが、当時悪神真っ盛りであった狡知の神、ロキであった。
それが回り回ってイヤーな形でオーディンの気になっている相手を害していたのだから気が気ではない。思わず助けに来てしまったのである。
幸い自分のシマの精霊が犠牲になってくれたお陰で最悪は免れたため、オーディンはそこから普通に、真面目モードからいつも通りの対応に戻ったのである。
「まぁアレだろ。スクルドがどっちかと言えば女性の精霊だったから、それと融合した影響じゃないか?」
「少年の魂は半分、スクルドの魂はそのまま融合させたから、肉体的にはそっちに寄ったのか? その割に外見は少年のままのようだが……」
ノルナゲストは『勇士の刻印』を確認する。と言っても、見るのはいわゆるデバッグモードのような部分だ。ここには魂に紐づいた情報が表示されているため、一定以上の魔法の技術さえあればその人間に起こっているあらゆる事象が閲覧できる。とはいえ、それは最低でもノルナゲスト並の技術が必要になるが。
「ふむ……存在としてはちゃんと確立している。精神的には少年のままか……肉体的には殆どの部分が精霊に置き換わっているのは、魂に影響されてるのだろうが……精神に影響が出てないのはスクルドの自我が薄かったからか……というか、存在の名前が『スクルド』に上書きされているな……少年が自分の名前を覚えていなかったからか?」
「いや、名前というのは存在にとって重要な要素ではあるが、基本的には付随するものだ。名前が上書きされたから存在が変わったのではなく、存在が変わったから名前も変わったと考えるべきだろう」
「なるほど……しかし少年と呼び続けるべきなのか? 少女と呼び直すか……流石にスクルドと呼ぶようにするのは……」
そう呟いたノルナゲストであったが、そこで少年がノルナゲストの袖を引いた。少年としても、もはや自分の名前をスクルドであると認識していたのである。存在の改変とはそういうことだ。
少年がスクルドと呼ばれることを望むのならと、ノルナゲストもそれを受け入れることとなる。
「ま、ここで話してても仕方なかろう。場所を移すとしようか」
場所は変わって、温泉都市サワガクヌツキ。ノルナゲストたちの元々の目的地である。
ノルナゲストとスクルドが全身の汚れを落として、オーディンと相対する。なお、スクルドはいつも通りにノルナゲストと入浴しようとして、ノルナゲストも一瞬躊躇ったが「精神的には男だからな……」と普通に同浴した。
「ふぅ、さてまずは自己紹介から行こうか。儂はオーディン。戦争と魔法を司る、それなりに格の高い神をやっとる。あぁ、そっちは大方分かっているから自己紹介せんでいいぞ」
「では神オーディン。そちらの要求を聞きたい。我々はこの魔法の効果で、あなたの眷属にはなれないのだが……」
「あーそれも知っとるわい。お前の苦労はずっと見とったからな……んで、要求だったか……儂はちょっとした目的があって、神であることを隠して下界を旅しとるんだがの……眷属を作りたくなかったから、お前の存在はちょうどいいんだ」
「ふむ……つまり、自身の眷属ではない私兵が欲しかったと……」
ノルナゲストは考える。かの神の手助けをするのは構わないが、どのくらいの期間になるのかがわからない。ノルナゲストには寿命がなく、オーディンにも寿命は関係ない。スクルドも、精霊と融合した今、ハイエルフを優に超える寿命を持ってしまった。
そこでオーディンは、さらに追加で条件を提示する。これは、例の天授物の製作に自分が噛んでいることを知られたときに好感度低下を防ぐための保険だったりする。流石ロキの義兄、狡い。
「んー、ならこうしよう、坊主の弟子、そっちの娘御は喋れんのだろう?」
「娘御と言うのはやめてやってくれないか? この子は男だ」
「oh……それは、失礼したな。話を戻すが、その弟子は見たところ喋れんのだろう? であれば、儂の叡智を分けてやってもいい。具体的に言えば、ルーン文字を教えてやろう」
「……ほう?」
これにはむしろ、ノルナゲスト自身が食いついた。
魔法神を自称する神から出てきた、自身の知らない魔法に関する概念だ。食いつかないはずがないし、それをオーディンも分かって言っている。
「簡単に言えば、複数の意味を一つの文字に閉じ込めることで魔法的な概念を内包させた文字でな……」
「ふむ? ……一つの文字で複数の音韻というのは大丈夫なのか?」
「そこはまぁ、文脈で……」
「まぁ……しかし確かにこれなら、魔力操作さえできれば発声の有無に関わらず魔法が使えるか……」
これにはスクルドも反応する。実を言うと、スクルドが精霊スクルドと融合するまでもなく、スクルドの中にひとつの大きな変化が生まれていた。
それは、復讐心とノルナゲストへの奉仕心の優先順位の変化である。前まではノルナゲストを慕いつつも、黒竜への復讐心を優先させる傾向にあったのだが、今は黒竜を捨て置いてもノルナゲストのためになりたいという気持ちのほうが強くなっている。
そして、スクルドはノルナゲストが自身に魔法を教えたがっていることを知っていた。それ故に、スクルドは喋れない自身でも魔法が使えるかもしれないルーン文字に強く反応したのだ。
「ん! ん!」
「スクルド……そうか、お前もルーン文字の知識を望むか。いいだろう、オーディン。あなたの契約を飲もう」
なお、ノルナゲストはルーン文字を知りたがるスクルドの動機を、未だに復讐心だと思っているのだが。
「ま、とは言えそんな構えることもないわ。救世は順調に進んどるし、ゼウスもククルカンも動いとる。ヴィシュヌは天界からなんかやろうとしとるし、天照は好きに動いとるが……そうそうお前の力を借りることもなかろうさ! 精々、プロメテウスのとこの火を何とかするのに力を借りる程度だろうが、それも黒竜をなんとかしてからだしなぁ」
そう言ってオーディンは笑った。
「すまん、助けてくれんか?」
それからおよそ30年後。久しぶりにオーディンから連絡があり、第一声がそれであった。
「いやぁ、オラリオでブイブイ言わせてたゼウスんとこの勢力が黒竜相手に爆死してなぁ……このままじゃオリンピアの炎の浄化もままならんし、オラリオの後継は内輪揉めも抑え込めとらんし……」
『闇派閥』との抗争を
「しかも、それでトップになった後継が
「なるほど。では、私たちは黒竜を潰せばいいのだな。とはいえ、元々スクルドの無念を晴らすために、奪い取ってでもこちらでなんとかするつもりだったが……」
「あぁいや、そっちは封印があるから、まだ時間がある、後回しでいい。問題は内輪揉めの方でな……このままだと、迷宮の方がな……ロキとフレイヤは協力する気配もないし……まぁ、とりあえずオラリオに行ってもらえんか? そっちで適当に色々なんとかしてもらえればええから……」
ノルナゲストはそれを承知し、オラリオへ向かうこととなった。また、オーディンから「オラリオではグリムとでも名乗っておれ。これ、儂の別名な。これ使っとればフレイヤもロキも突っかかってきよるだろうし、ベコベコに凹ましてやれば少しは真面目にやる気になるじゃろ」との指示でグリムを名乗ることになったのだった。
そして時は、冒頭へと至る。