『……?』
まず、不可解に思ったのは、自分の両手足を縛り付ける鎖が外されている感覚がした事だ。
次に、断続的に誰かが言葉を発しているのが聞こえたこと。
更に、何処からか金木犀の香りが漂っている事に気付き、何故か横たえている身体を起こして周りを見渡して、暗闇で何も見えない。手元の手触りから、身を起こした布団の上に座り込んでいると判断した故に、不安が増長される。
おかしい。
『……誰か、そこに居るんですか?』
そう問い尋ねたものの、音も反響せず、聞こえた
しばらく期間が空いてから、徐々に声が連続的に聞き取れるようになったが、姿は未だ見えないままだ。
声の主はカミツレという女性の人らしく、名前を聞いただけで加密列という漢字が頭に思い浮かび、これまでずっとあたしに仕事の後に話しかけていたらしい。彼女は桜町学園に勤める保健室の先生で、何処かで聞いた地名を思い出そうとしたが、それを遮るようにズキズキと波打つような強い頭痛が襲ってくる。幼稚園児の頃から続く症状に、思わず顔をしかめた。
『
『……
『はい。私達は、この身体の本来の持ち主であられる貴女の事をそう呼びます。目覚められるのをお待ちしておりました』
聞いている限り、悪意や敵意は感じられない。
『私達』と言う言葉を信じるなら、彼女の他にも私の下に付いている人がいるのだろう。偉くなったつもりは無くても、眠っている間にそういう事になったのかと深く考えないようにして、この香りの出所を探る。
『
『ああ、文机の上にある土産物の香水ですね。
『お母様からですか?』
『いいえ。福地様からです』
『ふく、ち……?』
復唱したが、記憶が全く思い出せない。
まただ、と内心独り
一度目は、五歳の誕生日の後。
二度目は、中学一年生の夏。
三度目は、中学二年生の秋。
そして、今回で四度目だ。
どれも記憶が抜け落ちて、自分が何をしたか全く解らない。だから、長崎でも埼玉でも大きな病院の精神科に通って、解離性健忘だと診断されている。
『ふくちとは、
『
『はい……。五歳の頃から頭痛に苛まれています。……記憶も時々抜け落ちてる状態で、今回で三度目です』
『ふむ、なるほど。頭痛は様々な病気の要因ですから、幼少期から続いているという記憶障害と合わせて、
『そう、なのですね。知りたいのは山々ですが、あたしは研究所に居るのでは……?』
不安を吐露する私に対し、一拍置いて、
『大丈夫です。
『入る……? 何処にですか? あたし、何も解らなくて……』
『ここから外に出られる場所があります。ここもですが、外にも
『……今は、本当に自分が研究所に居ない事をこの目で確かめたいです』
『はい。承りました』
彼女の言う通り、あの重くて耳障りな音はしない。
先生の柔らかい声音に『信じてみよう』という気持ちが湧いてくる癖に、大叔父の事もあって簡単に人を信じられなくなってしまった。
それでも、自分の現状を知るためになけなしの勇気を出して、言われるがままに布団の上から
*
手元と後頭部の感触から、あたしは布団が敷いてある部屋で眠っているらしい。
「……いっ」
数回瞬きをして時間を確認すると、枕元に置いてある目覚まし時計は六時を差していて、外の光量を考慮するなら朝なのだろう。冬なのか部屋全体が寒く、反射的にぶるりと身震いした。
頭痛を無視してゆっくり身を起こし、辺りを見渡して、自分の記憶には無い八畳一間の間取りだと判る。ここは、長崎の家でも秩父の家でも無いらしい。
それでも行動しなければと布団を畳んで物置に仕舞い、枕元に置いてある二つの刀掛けに三振り掛けられ、付喪神が視えたため、朝の挨拶と共に会釈してなんとか刀袋に仕舞う。その後、部屋の出入口である襖を開くと複数人の子供と鉢合わせし、身体が強張って声にならない悲鳴が喉から出た。
「っ!!」
「おはようございます。
「え、あ。お、はよう……。えっと……、
そう告げると、少年少女は言葉を失い、お互い幼さが残る顔を見合わせて、現状を把握できていないあたしの異変を感じ取った。しかし、泣き喚く事なく冷静に冷たい板張りの上に正座して、あたしも釣られて畳の上で姿勢を正す。
「
「わ、私は芥川銀です。七歳、小学一年生です。よろしくお願いいたします」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願い致します。あたしは、秋月
「
「何処かで眠っていた時に、『ここにも外にも、
「ここは、横浜市栄区にある
「え……? あたし、家なんて買ってないですよ?」
「そうですか。今は、思い出せなくても大丈夫です。部屋の何処かに記録があるので、朝食後に探されてみて下さい。あと、敬語は不要です」
「……解った。ごめん、龍之介君。本当に、覚えてないんだ」
「構いません。無理して思い出すほうが危険だと勉強しました。今日は
「起きる前と、今、頭が痛い……」
「わかりました。後の事は、妹の銀に任せます」
少年の隣に立っている『銀』と呼ばれた少女が、激しい頭痛によって俯くあたしの額に手を伸ばしてきた。視線だけ動かして見
「朝ご飯は、
「うん……。驚いて、頭がついていけないみたい」
「大丈夫です。他に、
「……あたしの事を、
「私にはわからないです。でも、
「そう、だね。……銀。お顔洗いたいけど、あたしは何処に行けばいい?」
「あ。こっちです」
銀も龍之介君も、普通の子供のように大人と手を繋ぐ素振りを見せない。自己紹介の通り、過酷な貧民街で生活していたらしい。
「銀。今は、一九八五年の冬?」
「? ……いいえ。二〇〇三年の冬です。十二月七日、日曜日になります」
「え?」
洗面所に案内して貰う最中、いつも通り数時間程度だろうと考えて日付の確認をしたら、予想外の数字が聞こえて驚愕してしまった。
次に、頭を
あの時、一六歳になる年だったから、二〇〇三年という事は十八年後。加算すると……、三四歳。あと六年で初老になる。左手薬指に指輪やその痕が無いという事は、独り身らしい。そして、記憶が無い間に身寄りの無い子供を一軒家で育てている状態だ。
そうして、恐る恐る到着した洗面所の三面鏡に映った自分の容姿に目を瞬かせる。
鏡に映っていたのは、十代の時と全く変わらない若い姿の自分だった。
「
震える指先と手で自分の顔を包み込むように触るが、鏡に映っている通り、噓偽り無く滑らかで皺が無い状態に恐怖する。
あたしの身に何が起こった? 思い出せ。
ほんの数分前に感じたズキズキと波打つような激しい頭痛が再び襲ってくるが、声を抑えて洗面台の縁を両手で掴み、膝が屈しそうになるのを無視して考え続けた。
ここは、横浜。
橋を挟んだ公園の向こう側にある研究所に連れて行かれた。中学の卒業旅行で、『最後に』と大叔父に言われた言葉を信じて。
大叔父は親しげに白衣の人と話していて、詳細は覚えてないが、確か階級で呼んでいた。ならば、あの研究所は軍事施設だ。そこで体を弄られた代償に記憶を大部分失ったのだろう。
頭の中で推測していると、何処からか声が聞こえた。
──それは、軍研究施設の人体実験により獲得した異能力の一つだからです。名前は、『永遠を旅する者』。不老不死になったのですよ、
しかし、今は夢の中に居ないどころか、周囲を見渡しても傍らに居るのは銀だけ。だから、これは幻聴だ。すると、先程とは打って変わって声色が落ち着き、悲痛な顔をしているのだろうと容易に想像できる。
──……詳細は、朝食後にご説明致します。さァ、お顔を洗いましょうね。
「……はい」
幻聴が続いている事に眉をひそめるも、落ち着きを取り戻したあたしの反応を目の当たりにして、明らかに困惑する銀に、ベビー石鹼とタオルを差し出してくれたお礼を言って微笑んだ。
微笑む事自体、随分久しく思える。最後にそうしたのは、いつだろう。
居間に向かう廊下で、同じ貧民街出身の中原中也君と、一週間前に
芥川兄妹がエプロンを着けて、脚立を使って朝食を作り、中也君がホットミルクを温める様子を見守り、それらが乗ったお盆を受け取った。自室で食べる旨を伝えて、お盆を持って引き籠り、熱々のポテサラトーストを一口
咀嚼していく度に温かさが感じられて目頭が熱くなり、徐々に視界が滲んでいく。自由になれた安堵と、これからどう生活すればいいのかという不安が混ざり、嚥下もままならず何度か咳きこんでしまった。それを聞きつけて自室にやってくる子供の気配がしたが、年上の子達にやんわりと居間に戻される。心配で来てくれたのに申し訳ない。
時間が経つにつれて、大粒の涙と共に嗚咽が室内に響いていき、一時期
「……ご馳走様でした。龍之介君、全部美味しかったよ」
「……おそまつさまでした」
「っ!!」
台所に泣き腫らした状態で現れた時には、龍之介君に引かれ、着物姿の
そのまま和装の少女に手首を引っ掴まれて、『美人が台無しじゃ』と褒められてるのか怒られているのか理解できない中、洗面所で温度の違う二種類の手拭いを渡され、言われるがまま交互にそれを当てて腫れを引かせる。辛うじて礼を告げて自室に向かい、畳に座り込んだ。
「疲れた……」
まだ起床して三時間程度しか過ごしていないのに、全身が怠くて疲労感が凄い。
──お加減は如何ですか?
「大丈夫ですよ。疲れているだけで、まだ動けます」
自分の身に何が起きているか知るために、鞭打って割座の姿勢から立ち上がり、まずこの家に関する記録を調べた。保管場所は、
言われた通りそこを開くと、大きな茶封筒に紐で無限大の記号の如く厳重に封がしてあり、それを解いて書類を一つずつ読んでいく。購入時に交わされた取引で、連帯保証人の欄に続柄が母だという名前が書かれていたのを見た時、頭痛がした。総額が億単位で、三十五年ローンが組まれ、毎月百数十万円を返済できる程のお金を何処から持ってくるのか見当も付かない。
「……先生。こんな大金を払う当てはありますか?」
──あります。話が長くなるので、机に伏せて休まれて下さい。
痛む頭を抱えつつ書類を机上から片付けて尋ねれば、あっけらかんとした物言いで告げられる。そして、言われた通りに休むため、机の上に腕を組んで枕代わりにして頭を乗せて瞼を伏せると、頭痛が徐々に和らいでいき眠気が襲ってきた。
*
次に目覚めた時、相変わらず暗闇の中で声だけが響く。
『……先程の当てですが、大丈夫です。芸能界で働いているので』
『え!?』
『今年でモデルとして三年目、女優として二年目に突入し、シンガーソングライターとしてデビューしたのが八ヵ月前。防音仕様のプライベートスタジオの物件があれば、五年以内に楽器を運び込んで賃貸で住むつもりです。そのほうが仕事もやりやすいですから』
『……』
先生の説明を聞き終えた後、『芸能界』や『シンガーソングライター』など聞き覚えがある断片的な言葉に頭痛がして、
『……
『……あたし、ちゃんと食べていけてますか? お母様に言われた通り、別の業種にしたほうが否定されずに済むのに……』
『確かに、小学校の卒業文集にそう書かれていましたね。
もし、電話に出ていたのがあたしだったら、お母様に丸め込まれてもう一つの夢を諦めていた。
お母様から卒業文集を隠したのも、シンガーソングライターの夢を否定され続けたせいだ。中学二年生の三者面談で『保健室の先生』になる夢すら踏み
『……一層の事、お母様との縁も切れたら良いのにな』
『名案ですね。
『……解りました。いつすれば良いですか?』
『芸能活動がお休みの時、及び
『はい。……それで、記憶を失った代償に、あたしは何者になったのですか?』
今後のやるべき事が決まり、改めて説明して頂く。
『簡潔に申し上げますと、異能兵器になりました。人体実験は成功し、十年間表向きは階級はありませんが、軍人として稼働。三年前に戦争が終結し、管轄が国防軍から内務省に移りました。しかし、有事の際は兵器として呼び出しに応じる手筈です。報告は以上となります』
『……理解はしました。ですが、あたしには軍人として働いた記憶がありません』
『記憶の空白が起きているという事ですね。……解りました。管理人の記録に
『はい……』
『まず、ここで目覚める前に、何か違和感がありましたか?』
『え、あー……。金属製の枷が外されて、その分だけ軽くなって可動域が広がっている感覚と、金木犀の香りがしました。先生に福地さんから頂いた香水だと伝えられましたが、外には無くて。その、福地さん? という方を思い出そうとすると、頭痛が襲ってきます』
『ああ。一気に思い出そうとするのは身体に毒なので、焦る必要は全くありませんよ』
『わ、かりました……』
『では、ここで説明が一区切りついたので小休止として、朝食後の歯磨きに行きましょう。それが終わったら、私と一緒に頭痛の原因について勉強をしますよ』
『は、はい……。あ……』
はたと思い出して、再度目覚めて忘れていた歯磨きをしに洗面所に向かう。
そこで、洗顔をしている男性が居て挨拶を交わした。
彼は爽やかに微笑みつつ、記憶の無いあたしに改めて自己紹介をする。春に蝉と書いて
「今でも思う事があるんです。もし、運命の歯車が一つ狂って、秋月さんに戦場で出会わずに、僕が身の上話をしていなかったら。東雲さんに物理的に救われなかったら、呆気なく死んでいたかもって」
「そう、かもしれませんね。……あたしは見ての通り、昔から言動が嚙み合わずにいます。先程、
「……? 僕は、貴女が情けないとは思いません。記憶の齟齬があって、周りに理解されなくても、めげずに頑張って生きて来られた。僕から見れば、
「え? あ、ありがとう、ございます……」
家族以外の人に褒められた経験はあったかもしれないが、今はその記憶も丸毎抜け落ちているせいで、どう対応すれば良いのか判らずに、ただ壊れたカセットテープのように途切れ途切れでお礼を告げるのが精一杯だった。
『お互い無理せずに』と言葉と微笑みを交わして別れ、自室に戻って背の低い書棚から、
──二冊取って下さい。勉強を始めるにあたって、解離性障害と書かれた『入門書』と『よくわかる本』です。本の大きさがそれぞれ違いますが、隣同士で置いていますよ。
「わ、わかりました」
探し出した後、文机前の座布団に座って入門書を開く前に、自分の兆候を先生に話す必要があった。
記憶の欠落が複数回あった事は話しているため、今度は
──一度目の欠落については、当時の管理人の記録が頼りです。私は、当時、未だここで生まれていなかったらしいので。
「此処? ……生まれるって何ですか?」
──心理学に関わってくる事ですから、心の中と致しましょう。
「……うん?」
心の中で生まれたのに、何故声が頭の中に響くのか理解できず、自然と疑問符が口から
悩んでいては話が進まないから仕方ないと気持ちを切り替え、自己完結した時、
──さて、
「あ、はい。宜しくお願い致します」
数時間に渡り勉強していく中で、『記憶を切り離した』張本人の『主人格』であるあたしは、兆候として『記憶を切り離された』彼女
自分の症状としては、『メールや電話の履歴があるのに記憶がない』
そして、一度目の記憶の欠落──年長さんになった五歳の時、お風呂に入った覚えがないのに寝間着を着ていたことを尋ねる。
──記録によれば、二〇代前半の男性の人格が外に出たようですね。彼の名前は、
確かに、その頃に長崎の大きな病院に連れていかれた記憶があるが、そのような破廉恥な事を言ったり、男だと思った覚えは全く無い。昔から短髪で活発的、スカートよりズボンを好む性格のせいで男の子だと間違えられた事は多々あるが、幼い頃はそれで心が傷つくような
──お聞きの通り、管理人の次に現実と向き合って覚醒した者です。
「なるほど……。彼は、あたしの何を担当しているのですか?」
──っ……。
そこで、あたしは深呼吸をひとつして腹から声を出す。感傷に浸るのは後回しだ。
「先生。あたしは、前に進むために些細な事でも知りたいのです。主人格であるあたしは、どんな形であれ別人格に
切り離されたとしても、彼、又は彼女達は、今もあたしの『心と記憶の一部』だ。故に、どんな人格であっても知る必要がある。長い沈黙の後、やがて意を決したらしく深呼吸をしたのが音で判った。
──……恨みです。
「……」
──別人格の中でも特に凶暴な性格で、男性や女子供でも相手を一度敵と見
「……そういえば、お母様が怪我をされていた時がありました。
──ええ、そうです。
「……。別件で、同時期に同級生が怯えていたのですが、それも
──それは……、先ず、怒りの人格である琥珀さんが光の柱に立って口論になり、生意気だと平手打ちをされたので、彼女の弟である
あたしは、昔から怒る事が下手で、それより我慢する事に長けていた。だから、相手は自分を標的にするのに最適だったのだろう。
恐らく、琥珀さんと
──当時は、先に相手が手を出したとはいえ、
言われてみれば、中一の夏休み前に空き教室で、担任の先生に呼び出された事がある。
あたしの高身長を揶揄った男子達の声は、喉に異常があるのかしゃがれていて、時折咳をしていた。『背が高いと、女子として終わってるよね』と陰口を言っていた女子達は視線が合うなり体が硬直し、目を逸らされた。
殴ったり脅した覚えの無い相手を交えて、真実かどうかを問い詰められたが、前述の通りやった事に関して記憶に無いので、『自分はやってない』と言っても信じてくれなかった。病状を伝えている
「……そう、だったのですね」
まさか、一度目と二度目の問題を起こしたのが同一人物。そして、疑似的な姉も関係しているとは思わず、驚きのあまり言葉に詰まった。それでも、先生の報告を聞いて抱えていた疑問が全て解決して清々した気持ちになり、人を恨んだり怒ったりした事が無いと思っていた自分も、その感情があるんだと新たな一面を知って笑みが零れる。
気持ちに整理をつけてから、三度目の記憶の空白期間の事を
中学二年生の秋に起こった、身に覚えのない本屋の領収書と長財布の中から減ったお小遣いの件だ。
「中学二年生の秋に起こったのは、
──はい……。あれは、私が『光の柱』に立って外に出たからです。その節は、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
「……ご説明頂けますか?」
──勿論でございます。……私は、当時
「……なるほど」
中学一年生の時に起こした記憶に無い暴力沙汰の罰として、お母様から当時発売されたばかりの携帯電話を持つ事が許されず、お小遣いも減らされていたので、所持金が少なくて公衆電話で連絡も取れない。無い無い尽くしで、西武秩父駅の駐輪場で知らぬ間に数時間過ぎていた事に只々途方に暮れていた。
そして、あの後の定期的な診察で『解離性遁走』だと精神科の先生に診断された記憶がある。
「……
──え、あ……。っ……。お心遣い痛み入ります。
「今度、先生とお茶したいです」
──そのお気持ちだけで十分です。お供は致しかねますが、お勧めのカモミールティーならご紹介が可能ですよ。
「あ、そうか……。一人しかスポットに、『光の柱』に立てないんでしたね。……ありがとうございます。飲んだ事無いな。どんな味なんだろう?」
──あら。でしたら、食器棚に未だ在庫があったので、クッキーとご一緒に今日のお八つにお出ししましょう。
「っ! ありがとうございます……!」
こうして、自分の問題が片付いた事で肩の力が抜け、これから別人格の助けを借りながら生活していく事が決定した。