IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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第十三話です。

今回はやけにシリアスになってしまいました・・・
相手が相手な為にちょっと複雑にと思っていましたが・・・どうしましょ・・・
取り合えず鈴のことについては一騒動の後に分かります。
そして、ここで初のオリジナルキャラの登場です。キャラについてはいずれ設定集で。

ってな訳で、今回は朝の騒動の続きとその後。再び授業風景のワンシーン。そして一夏の悩みです。ちょっと長引くと思うので次回からやや駆け足で進めると思います。

それでは、誤字脱字・駄文はご愛嬌。
それでも良いという方は
第十三話、お楽しみ下さい。


No.13 「事情」

 

 

 

 

鈴の一撃はこの力に任せた勢いのお陰か、なんの防御も反撃もなく一夏の頬に直撃した。

重く力が伸し掛かった一撃は一夏の身体全身へと行き渡り、同時に身体は振られた拳と共に仰け反っていく。

流れに反する事もせず、ただ身に任せる事しかできない彼は、その流れに反せずに殴り飛ばされた。

 

 

 

 

殴り飛ばされた一夏はその後、身体が殴られた勢いにのったのか足が地面から離れて跳ばされて勢い良く窓側の壁に背中と頭をぶつけた。

ぶつかった瞬間に一夏の全身と頭部に激しい激痛が走り、特に頭部には骨から振動が伝わり、一瞬のことではあるが意識が飛びかけた。骨から伝わった振動が脳に響き、頭の中はぐちゃぐちゃにかき回された様な気分だ。

 

 

 

 

 

「はー・・・はー・・・」

 

 

 

「・・・えっ・・・一体・・・」

 

殴りかかった鈴は肩で息をしており、その周りで一瞬の出来事にどう言う事かと全く状況がつかめていなかった周りのメンバー達は唖然とした顔をしていた。

そして、次の鈴の行動が読めた瞬間、セシリアと箒がいち早く我に返った。

 

「っ・・・!」

 

「っ!!オイ待てッ!!」

 

鈴の次の行動。それは追撃だ。

彼女の息は荒く、いきり立った獣の様な鋭い目つきで一夏を睨む目は先程までのとは違い、完全に理性と言う物が無くなっていた様な目つきでそこから彼女が一夏に更に追撃を入れると考えるのは容易だ。だからそれに早く気づいた二人は鈴を止め、一夏の安否を気遣ったのだ。

 

「うっさい離せ!!」

 

「いきなり人を殴っておいてそれは無いだろうが!!」

 

「五月蝿いって言ってんのよ!!とっとと離しなさい、このクソが!!!」

 

いきなりの事にまだ状況が掴めない箒だが、鈴が一夏に追撃を加えると言う事は予想できた。だから身体が先に動き、彼女を止めることが出来たのだ。

箒は鈴の両脇を掴み、足に力を入れてその場に留まらせようと踏ん張っている。

腕が封じられているこれなら、いくら彼女でも無理矢理離れることは出来ないだろう。

だが、それでも彼女の怒りが治まる気配は全く無い。

それ以前に先程よりも暴れていたのだ。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「・・・ああ・・・っ・・・」

 

「っ!頭から血が・・・」

 

 

 

「くっ・・・誰か織斑先生たちを呼んできてくれ!このままじゃラチが開かない!!」

 

「わ、わかった!!」

 

必死に鈴を押さえ込む箒だが、鈴は強引に箒の腕を振り払おうと右に左に激しく動く。

このままではいずれ鈴はまた暴れだす。箒は近くに居た相川達に千冬達教師を呼んでくるように頼み、それを聞いて相川と鷹月の二人は急いで教室を後にする。

 

だが、偶然にも先に所用があって直ぐ其処まで千冬が此方に近づいて来ていた事が幸いし、相川達は直ぐ近くにまで来ていた千冬を急ぎ声で呼び止める

 

 

「お、織斑先生ッ!!」

 

「ん?相川それに鷹月も、どうしたそんなに慌てて」

 

「実は・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せっ!!離しなさいよ!!」

 

「離すと思うか!?行き成り他人を殴っておいて「はい、そうですか」と言って離す馬鹿が何処に居る!?」

 

「うっさい!!こちとらこの馬鹿を殴るだけでも済まない事情があるのよ!!」

 

「っ・・・何!?」

 

暴れ狂う鈴を抑える内、自分の口から彼を殴った理由に耳を疑う。まるで知った風な台詞だったのだ。今は抑えるだけでまともに考える事は難しいが、一つだけ分かった事がある。

鈴は、彼女は一夏を知っている。それもかなり近しい仲と言う関係だ。

でなければ会って直ぐに殴りかかると言う事もしないし、何より彼女は小声ではあったが彼の下の名前を呟いた。

それだけでも彼との何らかの関係があったというのは確かだ。

 

 

 

「今更ノコノコ戻ってきて!よくあの人の前に顔を出せたものね!!自分がどれだけの事をしたのかわかってんの!?え!?」

 

怒りに身を任せ始めた鈴は、抑えられたままの状態で一夏に怒声を吐く。

その怒声は喉が掠れるぐらいに激しく、何処か悲しい声で彼に対する怒りだけではなく、悲しみも聞き取れたのだ。

溜まりに溜まっていた怒りも悲しみも、彼に対する思いが全て一気に吐き出された。それが、彼女を暴走させるかの様に暴れ、怒り、叫ぶ事しか出来ない状態にしてしまったのだ。

 

 

「・・・・・・。」

 

その言葉を聞くも、一夏はただ壁にもたれかかって倒れている。

返す言葉も無いのか、それともただ聞いているだけなのか。

その時の彼の目を僅かな髪の隙間から見る事が出来たセシリアは気づかれない程度に目を見開き、驚いていた。

 

「・・・。」

 

 

 

「なんとか・・・なんとか言いなさいよ!織斑一夏(・・・・)ッ!!!」

 

 

 

「・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。乾いた音が教室に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

その一瞬のことに誰もが何が起こったのかと疑いたくもなったが、その答えは既に示されていた。

目の前に起こっている事。それが全てだ。

 

 

「・・・え?」

 

 

 

僅かな出来事だった。

気づけば、その場にもう一人の人物が姿を見せており暴れ叫ぶ鈴に平手を打ちつけた後だった。

黒い女性用のスーツを着込み、少し荒れた息を肩でしつつ右手は叩いた後だ。鋭い目を暴れる少女に向け、自分の今の心境をまじまじと見せ付けていたその目は、怒りであり悲しみでもある、まるで鈴と同じ様な目であったが、彼女の場合は悲しみが勝っていた。

 

 

抑えていた箒も、彼の近くに居たセシリアも、呼んだ相川達も。

まさかそうなるとは、こうなるとは誰も予想できなかった。

 

 

 

「・・・・・・。」

 

「ち・・・千冬・・・さん・・・」

 

 

 

 

 

「・・・拳でなかっただけでも有難い思え・・・」

 

「・・・っ・・・けど・・・」

 

「それ以上の言い訳は聞かん。とっととココから失せろ・・・!」

 

 

千冬は何時もよりも低いトーンの声で鈴にこの場から去る様に言う。

その言葉の一言一言は何かを抑えているかのように震えが感じ、彼女が今必死にそれを押さえ込んでいるというのが分かる。彼女の状態からして何時までも抑えられないのだろう。

鈴はその彼女に言い訳にか聞こえないかもしれないがと思い、反論しようとするが、千冬は聞く耳を持とうとせず、怒りの混じった声で鈴に更に追い討ちを掛けるように言い放つ。

 

 

最早千冬は鈴の言い分を聞きたくないという考えで一杯だ。

このまま彼女がわがままの様に言い訳をしたり反論したりすれば、いずれ彼女の抑えていたタガが外れて、先程の彼女同様あるいはそれ以上に荒れるだろう。

それは鈴も分かっていた。彼女とはそれなりの付き合いだ。姉の様に時には慕っていた彼女の気持ち。分からないわけが無い。

 

 

「・・・・・・はい・・・」

 

 

本当はまだ言い足りない。まだ言いたい事が山ほどある。

だが、今はそれが許される時ではなかった。

 

千冬に教室から去る様に言われた鈴は、一言呟くように言うと先程まで怒りの表情だった顔を下に向け、唇を強く締めて足を動かした。

その場から逃げるように走った鈴の背を箒達はただ見ることしか出来なかったが、彼女がそれだけ悲しそうだったかは嫌でも分かるほどだった。

 

 

 

 

「・・・オルコット。そいつは大丈夫か」

 

「・・・頭から少し血が出ています。他は大した怪我ではないですから、多分目立った外傷はそこだけかと」

 

「・・・分かった。エメリッヒ。保健室に行って来い。その怪我で授業に出られては迷惑だ」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・返事は」

 

 

「・・・・・・はい」

 

 

死んだ人の様にその場に倒れる一夏に千冬は保健室に行くように言うが、彼の声は何時もよりも低く、その返事が近くで聞こえるぐらい小さな音量だった。

無気力というよりも、何も言い返せなかったのだ。

 

全てその通りなのだと。受け入れた結果だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室は一般の学園のよりもかなり設備が整っている。

身体測定の機材は勿論、簡易的な物なら本来病棟などにある物も備わっている。

備えは万全だが、そんな物を滅多に使う事は無い。

学園が設立されて幾年、そんな大怪我の事件などは唯の一つでさえも無い。

最早宝の持ち腐れとも言うべき機材である。

 

 

その保健室の主を務めるのが『霜月純菜(しもつきあやな)』。若き医師である。

 

 

 

「はい。もう大丈夫よ」

 

「すみません。霜月先生・・・」

 

「謝る事は無いですよ。私もイキナリ頭から血を出して来るなんてだけで驚いたから、これであいこにして下さいね」

 

たっぷりとしたブラウンのロングヘアーを腰まで伸ばし、銀色の眼鏡を掛けて知的に見せているが、白衣の中に来ている服装はそれとはまた逆といっても言い。

下は黒のスカートを穿いているが、そのスカートは膝の上辺りまでしかなく、白衣の中のシャツは藍色と知的と言うよりも何処か色気を優先しているような服装だったのだ。

 

だが、彼女の性格はその服装とは反対。知的なイメージ通り、真那の様に温厚な性格の人物だ。それ故に一夏が最初来た時には驚いて声を裏返していたのだ。

 

「けど、ちょっと血の他の怪我だったり足の軽い捻挫とかもあるからしばらくはココのベッドで寝てて下さいね」

 

「・・・そこまではしなくても平気ですが・・・」

 

「そうは言うけど、足は多分その時の弾みで中の肉が変になっているから歩けるのは歩けるけど、当分走ったりは出来なくなりますよ?」

 

「・・・・・・え?」

 

「相当強い衝撃だったんでしょうね。足の肉が揺れて正常な位置から少しずれているんです。ですから無理に動かしたら筋肉が余計な負荷で最悪切れる可能性があるので、今無理に動くのは駄目ですよ」

 

「・・・・・・。」

 

「私も何があったのかは聞きません。ですが、今は安静にしていて下さいね」

 

優しく柔らかい声から語られたのはかなり現実味の帯びた事実だった。

ギャップで語られた事に一夏は思わず声を出し、尋ねるように彼女に反応する。

確かに、言われて見ればと意識を足に集中させると所々に違和感を感じた。特に足首辺りだ。温い血が溜まるかのように生暖かく気持ちよくない。

無理に動かそうとすれば身体が自然と抑止を掛けて、何時もは動く範囲の所に足が動かず、しかも無理に動かそうとすれば足に激痛の一片が走って無理矢理にでも動きが止まってしまう。

他の事を考えていたので足などに気を使っていなかった一夏は彼女が其処まで見抜いて診断をしたのだと分かると、彼女の言葉を素直に聞き入れることにして、自分の状態からまともに動く事は難しいと判断し、一夏は純菜の言う事を聞いて大人しくベッドで怪我の治療を優先する事にしたのだ。

 

 

 

「いっ・・・」

 

「余り無理に体は動かさないで下さいね。肉が抉れますから」

 

「・・・はい」

 

 

物腰と話し方、そして声は優しいのだが、言っている事があまりに似合っていないので一夏は息を飲んで彼女に従う。

下手をすれば殺されそうだ、と勘違いであって欲しい事を想像しつつ純菜に手伝ってもらい一夏はベッドに横になる。

 

「それじゃあ、何かあったら呼んで下さいね」

 

「はい。ありがとう御座います」

 

純菜がそう言い、ベッドの周りに敷かれたカーテンを閉めると彼女が穿いていたヒールの甲高い音が少しずつ遠くなっていく。

遠のく音を耳に入れ、一夏はしばらく足が治るまでは大人しくしていようとベッドの上で寝転がる。ベッドは清潔に保たれており、そのシーツなどからは既に何人も寝ていたのか、女性の髪の香りなどが伝わってくる。だが、それを一夏は少し鬱陶しく思い眉を小さく下げて眉間にしわを寄せる。鼻が敏感になっていたのか、女性の髪の匂いは彼はどうしても慣れなかった。甘い匂いではあるが、頭に響いて痛く感じ、その匂いを吸っていると自然と不快になる。

 

 

「・・・・・・。」

 

仕方なく一夏は匂いに慣れるまではそのままでと上半身だけを起き上がらせ、流れる時を過ごす事にした。幸い、他の所持品などはある為に暇は潰せるので其処まで暇になる事は無い。

一夏は持って居たiDROIDを取り出しスリープ解除のボタンを押そうとする、が何を思ったのか直ぐにボタンを押せなかった。

 

 

「・・・・・・。」

 

 

躊躇のが理由ではない。ただ、今の彼の頭には先程の出来事が鮮明に頭の中に残っており、それがフラッシュバックしていたのだ。

その事が頭から離れず一夏はiDROIDを持ったまま考え込んでいて、まるで彼の周りだけ時間が止まったかのように呼吸だけをしつつ動きをぴたりと止めていたのだ。

 

 

「・・・最低・・・だよな・・・」

 

 

「自分がどれだけの事をしたのか」。その言葉が一夏の頭の中に何度も蘇って再生される。

彼女から言われたからか彼の心には深く刺さっており、素直に受け入れようという気に放れなかった。

寧ろ、当たり前だと今更ながらの後悔を今していたのだ。

今の今まで忘れかけていた事。頭の片隅に置いていた小さな『約束』。

 

 

 

「・・・当然だ。俺が啖呵切ったのに、それをほっぽって行っちまったからな。アイツが怒るのは・・・当然だ・・・」

 

 

 

 

 

 

「相当ショックなのね。彼女がココ(IS学園)に来た事が」

 

「・・・!」

 

突然の返しに一夏は声を出さずに驚き、今まで動かなかった身体をピクリと動かす。

何時から居たのか、カーテンの向こう側から楯無が姿を現したのだ。

全く気配に気づけなかった一夏は思わず楯無の居る方に顔を向け、彼女が本当に居るのかと確認するが、どうやら本当に気配を消して彼の近くに現れた様で、彼女の話の切り出しからしてどうやら先程の小言が聞こえていたのだろう。

 

「全く・・・貴方の様な性格と経歴には色々と語れない過去と言うのがあるとは思っていたけど。思っていた以上に深い事情らしいわね」

 

「・・・先輩。今授業中じゃないんですか。第一、霜月先生は・・・」

 

「彼女は所用で職員室。授業は・・・サボってきた☆」

 

「・・・・・・。」

 

平気で授業をサボってその先大丈夫なのかと一応彼女の身を案じる一夏だが、彼女は彼女で分からない事も多いので迂闊な言葉を使う事は出来ない。

カーテンを開けた楯無はベッドの上に座っている一夏に顔を合わせる。

相も変わらずのスマイルだ。

 

「で。彼女とはどういう関係?今はまだ其処までぶっちゃけなくても良いけど、出来れば関係だけでも簡単に教えてくれない?」

 

「・・・教えたところでどうするんですか?」

 

「まぁ・・・場合によっては串刺しに・・・」

 

「冗談抜きで止めて下さい。迷惑です」

 

「・・・。ま。私は取り合えず貴方とあの子の関係を聞きに来たって事は本当よ。それと・・・」

 

 

楯無はそう言うと先程から抱きかかえていたある物を一夏の座るベッドの上に置く。

刹那、ソレを見た一夏は思わず声を漏らして反応する。

ココにあるというだけでもマズイ物で、しかもそれを楯無が持っていること自体が可笑しいという物だからだ。

 

Mk.Ⅳ。一夏が大切に保管していた筈のメタルギアが何故か其処にあったのだ。

 

 

「お見舞いの果物代わりって訳じゃないけど」

 

「・・・どうしてコレを?」

 

「其処の近くでステルスをしていたからついでにと思って。ちなみに電源はついているわよ。遠隔操作で動いていたらしいし」

 

遠隔操作で動いていたと聞き、一夏は目線を楯無からMk.Ⅳに移す。確かに、現在Mk.Ⅳは起動している。しかし、肝心のモニター部分が起動していない所を見ると、どうやら意図的にモニター部のみを閉じているらしい。別に出来ない事ではないが、そんな事をしてまで何がしたかったのか。

それを今からそれを操作しているであろう人物に一夏は問うた。

 

 

「・・・オタコン?」

 

 

 

『・・・ゴメン。ちょっとね・・・』

 

 

矢張り彼か。モニター部が稼動すると、其処にタッチ式のモニターが現れてモニターの画面からオタコンの顔が映し出される。

申し訳なさそうな顔をしているが、別に彼は無断で出歩いた事に怒っているわけではない。

寧ろどうやって出てきたのか、何をしていたのかと聞きたいのだ。

 

「・・・別に出歩いたのには怒ってないさ。Mk.Ⅳにはステルスがあるしな。それよりもどうして出歩いてたんだ?」

 

『・・・まぁ色々と見学がてらにと思ってね。もしもの時に迷うのもゴメンだしと思って君に黙ってMk.Ⅳを遠隔操作で起動させたんだ。で、コイツで学校見学をしていたんだけど・・・』

 

「・・・見たのか」

 

『・・・ああ。随分と潔い受け入れだったね』

 

「・・・・・・。」

 

皮肉にも聞こえるその言葉に一夏は軽く息を吐く。

どうやら彼もこっそりとあのいざこざを見ていたらしい。

簡潔な彼からの意見と感想を聞いて一夏はとてもではないが言い返せなかったのは、潔かったのは事実だからだ。

それをよしとして受け入れた。それが彼は当然の報いだと思っていたのだ。

 

だが当然の如く、それはオタコンも楯無も知らない。

疑問を持つというのが普通だ。

 

だから知りたい。だから

 

 

 

 

『・・・僕だって本当はこんな事を聞きたくも無い。けど、君が何時までもそれを引きずっていたら、この先色々と支障が出る筈だ。だから・・・』

 

「アイツと・・・鈴との関係を話してくれ、か」

 

『知る権利ぐらいは、僕らにもあるだろ?』

 

「・・・・・・。」

 

 

一夏はどうするべきかと考え、顔を少し下げると口ごもる。

話すべきか、否か。単純な話ではあるが、一夏とにとっては重要な話でもある。

そう易々と話していい事でもないのだからと口を閉ざそうと考えるが、それはそれで何か納得がいかない。では話すべきかと言われると理性が話したくないと言い張る。

どちらも拒絶する一夏は答えを出さねばと自身に焦りを促すが、それでもどちらも嫌だと拒絶しようとする。だが、このままではラチが開かない。

一分近い迷いの末。一夏はその答えを導き出す。

 

 

 

「・・・分かった。けど・・・其処まで多くは語れないからな」

 

『分かってる』

 

「・・・じゃ。ざっくりと聞くけど、貴方と彼女との関係は?」

 

 

「・・・俺と鈴は小学校の終わりぐらいから中学二年の頭ぐらいまで同級生・・・つか幼馴染だったんだ」

 

楯無の質問から始まった一夏と鈴の間の出来事。それを彼は何の抵抗もなく語り始める。

 

幼馴染と言ってもその関係は二年か三年と短い期間の事で彼女とはよく遊んでいたというだけの仲だ。だが、それはあくまで一夏からの話。一夏からの視点だけでは分からない所は幾つもある。

だから一夏はそれを踏まえ、出来るだけ余計なことは言わない様にと気をつけ話を進める。

 

「鈴と会ったのはその中学二年・・・丁度モンド・グロッソのある、あの日まで」

 

『それからは一度も会えなかった・・・?』

 

「まぁ・・・そうなるな。一度鈴の故郷の香港に行った事はあったけど、短い間だったから多分入れ違いか、会えなかっただけか」

 

そう言って一夏はクセの様に自然と自分の手を頭に置き、自分の髪をかく。

言いにくい時や説明が難しいときは彼は大抵この仕草をしている。

オタコンが二年の間で見つけた彼の特徴の一つで、頭をかいたと言う事はまだ何か隠しているか、彼自身が上手く説明できないのかだが、彼の顔はすっきりとしていたので恐らく後者だろう。

 

 

『・・・じゃあ、彼女はどうしてあんなに怒っていたんだい?』

 

 

そして、オタコンは覚悟承知でいよいよ話の本題、どうして鈴があそこまで怒りをあらわにしていたのかを尋ねた。

 

 

「・・・理由は多分二つ。そしてその二つが多分答えだと・・・」

 

「二つの・・・約束って所かしら?」

 

「・・・・・・。」

 

静かに肯定の意味である顔を縦に振り、一夏は楯無の問いに答える。

だが、ここで一夏はまた何か考えていたのかワンテンポ遅らせて話を続けたのに楯無は気づき、眉を上に吊り上げた。彼は何かを隠そうとしていると、彼のそのワンテンポを何か言い訳を考える為の間だったのではと予想し、気づいてないフリをしつつ一夏の話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

場所は変わり一組の教室では千冬の担当授業が行われており、入学初日から続く戦争経済についての勉強となっていた。生徒達は千冬の授業と言う事で一度たりとも目を閉ざさないようにと聞いていたが、実際彼女達にはちんぷんかんぷんなのだ。

その戦争経済の授業がここまで長く続く理由は二つある。

 

一つは戦争経済と言う事を現代の日本人の認識がとても甘いと言う事。

戦争経済は言うなればPMCが戦争を請け負い、そのPMCが儲かるという市場。

その為、ナノマシンによる感情の制御や武器のIDロックなど様々な機能も出たのだ。

しかし、その結果兵士の感情の制御による無関係の人間への攻撃は止められたが、その感情を制御した者達が一度ナノマシンの制御から外れればどうなるのか。

抑えられていた負の感情が暴発し、精神が崩壊して最悪だと精神崩壊での死も在り得るのだ。

正に痛みの無いビジネスと言うべきものである。

 

そしてもう一つ。その戦争経済によって世界情勢は大きく変化したと言う事だ。

例題を挙げれば日本同様に軍隊を持たない国家であったコスタリカは警察を自衛軍としての活動も視野に入れると言い、実質的軍隊を再建。軍を持たない国と言うのは事実存在しない世の中になってしまった。また、戦争による経済の進歩とそれに比例して加速した地球温暖化。それによって砂漠化も進んでいたり、海水が上昇したりしており、あのシャドーモセスも今や沈没寸前にへと向っている。

 

その他、様々な事がこの数年で行われ、情勢は大きく変化。それを一つでも多く知って貰おうと言う事で学習カリキュラムの見直しでその戦争経済が組み込まれたのだ。

 

 

「現在、戦争経済での被害や傷跡と言うのは世界中に残っている。それが目に見える物、見えない物は様々だ。その中で最も注目があったのが『中国の分裂』と『アメリカの国際的地位の揺らぎ』。この二つが戦争経済後の最悪の事態とされている。

特にアメリカの地位の揺らぎは現在の世界情勢に大きく響いている。アメリカは世界一の軍事国家で、それによる影響力も絶大な物だった。だが、戦争経済の終わりでPMC事業が盛んだった列強国は次々とPMCの倒産や市場の崩壊で大赤字を出してしまった。当然、アメリカもな。それによってアメリカの軍事は大幅に削減。更に、大統領の辞任等など・・・負の連鎖が続いた所為で今やアメリカの世界一と言う肩書きは無くなりつつあると言う事だ」

 

「特にPMCの中でも大企業と言われていた『ビッグ5』と言う五社の企業の本社を持つ国は経済的大打撃を受けたのです。その五社は・・・」

 

 

「アメリカの『レイブン・ソード』と『ウェアウルフ』。フランスの『ピューブル・アルメマン』。そして、イギリスの『プレイング・マンティス』とそれら四社を纏めるマザーカンパニー。名を『アウターヘブン』。この五社が戦争経済時の大手PMC企業だ」

 

 

しかし、現在戦争経済が崩壊し市場もそれに連なって消滅の道を辿る。

スネーク達による『愛国者達』の破壊は同時に時代をも破壊し、戦争経済は自然的に消滅していったのだ。

戦争経済の消滅によってPMCの需要は大きく減少。特にビック5を抱えた国は財政に大打撃を受け、ビッグ5は倒産への道を辿り分裂した。

元よりマザーカンパニーのアウターヘブンが主導のPMC子会社である為、マザーが崩壊するとドミノ倒しの様に連なって子会社やダミー会社が倒産するのは目に見えていた。

そのお陰で多くの社員が路頭に迷うかと言われると実はそうでもない。

分裂した事によってその会社に鞍替えした社員も多くいたのだ。

 

「ビック5崩壊後、現在PMCの中で最も勢力が強い企業はアメリカ・コロラドにある『ワールド・マーシャル』社。色々と曰く付きの企業だがビック5以後の最大手であのというのは確かだ」

 

「先生、曰くって何があるんですか?」

 

「・・・ワールド・マーシャルには色々と面倒な噂が絶えん。アメリカ政財界に深く入り込んでいる彼等による汚職、裏金、自社に不利益な行為をする民間人などへの殺害行為などなど・・・ま。大手企業によくあるお約束とでも言うべきか」

 

ワールド・マーシャル社は千冬が語ったとおり、噂話が絶えない。大手企業にはよくある話ではあるが、それを証明するかのようにその影響力は凄まじい。民営化された市警に委託されたので地元の『警察=ワールド・マーシャル』と言う法則が成り立つほどで地元で見かける警察の九割はワールド・マーシャルの社員なのだ。その他、近隣の州の市警にも委託されており、コロラドだけでなく他の州にもその社員は居るのだ。

 

そして、何よりワールド・マーシャルは現在サイボーグ技術について力を入れており、開発や研究のスポンサーで、更には本社の近くにもその研究施設を開設するなどサイボーグについては特に力を入れている企業でもある。

大義名分は『手足を失った方々に社会復帰のチャンスを与える為』と言っているが、実際の憶測はまだつかめていない。

 

 

「・・・この様にアメリカではこれ位(・・・)で済んだが、それ以上に被害を受けたのは民族問題を抱えた国々。中でも最も被害が大きかったのが中国だ」

 

「・・・・・・。」

 

 

「中国では近年あまり大きな問題として取り上げられていなかったが、民族問題が続いていたので、それが戦争経済に突入して再燃。分離独立運動が内紛・内戦として発展し、民族問題を第一の問題として勢力を拡大。結果多くの少数民族が決起し独立解放軍と称して中国政府に宣戦布告。これが後に『中国内戦』と呼ばれる内戦の始まりだ」

 

「あ、それテレビで見た事あります。確か上海とかがそれで爆破されたって」

 

「そうだ。民族問題が第一のこの内戦だが、他にも理由はある。貧富の差や多数民族の優遇。主義の違い。それが影響して多数民族からも独立解放軍に参加するという人物も居たと言う。それを利用し行われた爆破事件。被害を受けたのは上海を始めとする主要都市。そして」

 

 

((香港での列車爆破事件・・・))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なるほど。そう言うことね・・・」

 

「・・・・・・。」

 

「それは仕方ないとしか言い様は無いわ。殴られるのも・・・まぁ過剰ではあるけどそれぐらいは当然かもしれないし」

 

「・・・です、よね・・・」

 

再び保健室では話を聞き終えた楯無が率直な意見を一夏に言い、その事実を受け止めた一夏は当然ではあるが矢張り自身の所為であるのだなと再認し何も言い返したりする事は出来なかった。それが事実なのだと彼が認識していたのだ。

 

『けど、その事情を何であの時伝えなかったんだい?説明すれば多少は分かってくれたと思うけど・・・』

 

「・・・昔の俺なら多分そうする。けど、これは俺が原因でもあるんだ。罰を受ける義務があった。だから・・・」

 

『甘んじてその罰を受けたと』

 

「っ・・・」

 

途中からMk.Ⅳから聞こえる声が急に低くいトーンの声になる。

オタコンの声ではない。彼も声は低いがそこまで低くも無い。

今聞こえているのはもっと低く、威厳のあるような人物の声だ。

 

『・・・なるほど。それがあの拳骨を喰らった理由か』

 

「スネーク・・・」

 

 

声と共にスネークがオタコンの後ろからぬっと顔を出すのがMk.Ⅳのモニターに映し出される。老人の姿と顔でも身体は似合わずがっしりとしており、オタコンと見比べれば差が明らかだ。

その体格に合うかのように鋭い目をする人物、スネークがオタコンと変わりモニターに映され、会話は彼とのに変化した。

 

「見てたのか?」

 

『偶然な。便所ついでにと思ってみたら、お前が丁度受け流しを入れて殴られていたからな』

 

「・・・・・・。」

 

『・・・イチカ。お前が拳骨を喰らった理由が、その意味を知って背負っている事に俺は何も言う気は無い。だがな。拳骨を喰らっただけで、本当に彼女が許すと思うか?』

 

「・・・それは・・・」

 

『付き合いのあるお前ならわかる筈だ。あの手の相手は拳骨だけで済む筈が無い。寧ろ、それを聞けば逆効果だ』

 

「・・・・・・!」

 

『幾ら理由が正当でも、その原因も意味も知っていたとしても、ましてそれを甘んじて受け入れる覚悟があったとしても、本当に、それが償いになると思うか?』

 

「・・・・・・。」

 

 

言い返せなかった。

まるで彼の心の全てを読んだかのようにスネークが淡々と話していく言葉に、一夏はその事実を言われる度に心に何かが刺さる様な痛みを感じた。

それが彼が心の奥底で薄々感じていた、分かっていた事だからだろう。それが暴露され、一夏は言い返せなくなっていたのだ。

確かに理由も分かっていた。それが自分の所為だとも。それが自分の責任だと。

だが、本当に彼女があれだけで許すと思うかと聞かれれば、彼は答える

 

『Noだ』と。

 

 

「・・・じゃあ・・・どうすればいいんだ・・・」

 

ではどうすればと、髪を鷲づかみして一夏は苦しそうな顔をする。

分かっているのだ。だが、だからこそ自分がどうすれば彼女が許してくれるのか、それが分からなかったのだ。分かっているからこそ、どうすればいいのかと迷ってしまうのだ。

 

その姿を見て、スネークは一息をつき、厳しさを伝わらせる声で彼に言ったのだ。

 

 

『そこは、自分で考えるんだ。誰かに乞うんじゃない。自分でその答えを見つけ出すんだ』

 

「・・・・・・。」

 

誰かに乞いて導いた道と言うのは自分が導いた道ではない。

自分が必死に悩み考えて導いた道こそが自分が導いた道、つまり答えだ。

一夏はそれを放棄しようとしていた。誰かに答えを乞おうとしていたのだ。

そんな顔をするんだなとスネークも思っていたが、それでは答えとは言わないと彼もわかっていた。だからあえて非情とも言えるかもしれない言葉を彼に言ったのだ。

 

 

「・・・・・・。」

 

「・・・じゃあ。その答えへの切符を・・・私が渡しましょう」

 

「え・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イチカ・エメリッヒ君。今し方、一年二組からクラス対抗戦の申し込みがありました。対戦相手は・・・凰鈴音」

 

 

投げ渡された切符は突然の物だった。

それが答えへの特急線か、はたまた地獄への路線か。

 

それはまだ誰も知らない。知ることも無いのだ。





後書き。

オリジナル要素が強くなってしまいましたね。
取り合えずオリジナルキャラである霜月さんについては後々設定集に出すと思います。

そして次回からいよいよクラス対抗戦です。
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