IS×MGS - Another Solid - 作:No.20_Blaz
夜分遅くに投稿となりました。
Act.1の後日談もそろそろ終わりになり、いよいよ次にへとシフトしていきます。
爆弾爆発だけは回避しないと・・・(とき○モ的に)
さて。今回はタイトル通り、ちょっとした過去の話がメインです。
誰のかは読んでからのお楽しみです。
そして久しぶりに蛇さん登場ですよ。
では、誤字脱字・駄文はご愛嬌。
それでも良いと言う方は
第二十話、お楽しみ下さい。
「・・・はぁ・・・疲れた・・・」
重い足取りで歩く鈴。やっとの事で開放された彼女の肩は痛み以上に疲れが伸し掛かっていた。
千冬による説教から二時間。長い話を纏めた結果、三人にはそれぞれ別々の処分が言い渡された。
順に言うと、鈴は反省文としばらくのIS使用禁止(授業にも該当)。もっとも、現在甲龍は戦闘での損傷があるので使用するにも出来ない状態なので寧ろ二つ目は無いに等しい。
箒も同じく反省文を言い渡されたが、彼女は一週間の謹慎処分を言い渡された。
彼女の成績評価を下げるという考えもあったが、始まってすぐにというのもまだ評価しきれていない状況では下し難いという事もあったのだろう。
だが、最後の一人であるセシリアにはそうは行かせる気は無かったようだ。
セシリアの処分は反省文と一週間の監視付き謹慎処分。そして同じく一週間の専用機ISの『没収』。この三つが彼女には言い渡された。
実銃使用と言う罪は消えないので没収したかったが、没収をすれば何か悪影響が及ぼされるのではないかと深く考え、千冬はあえてそれを言わなかった。また、謹慎中は監視カメラなどが付いた部屋に移動と言う処分にしたので銃を使えば気づけると言う事もある。
「・・・千冬さん、なんか
そのあまりに厳しい処分に理由を知らない鈴は彼女の言い渡した処分に疑問を持って居た。
彼女があの場で対物ライフルなんてものを使ったからだとは思っていたが、それにしては内容が一人だけ厳しすぎるのではないか。それなら本来あの場に無関係の箒も似たような処分が言い渡されたほうがまだ納得が出来る。
まるで彼女だけを冷遇しているか、警戒しているという感じだと。
「・・・まぁアタシの知る範疇じゃないって事なんだろうけど・・・」
無理に納得しようとする鈴の表情はあまり良い表情ではなかった。
まるで自分だけが何かを知らされていない、そう思えて仕方のない彼女の目線は下にへと下がっていたのだ。
自分はあの中に入ることは出来ないのか。それとも入れないのか。
考えれば考えるほど、彼女のテンションは夜の様に暗くなっていく。
「・・・・・・。」
ココに来てから彼女の気分はずっと晴れなかった。
いや、あの時からだ。自身の気分がずっと晴れる事がなくなったのは。
子供の時にはあんなに笑えたのに、どうして今はこんなに寂しいのだろう。
全ての切っ掛けは二年前だ。あの年行われたモンド・グロッソ。それが彼女の中から日の光を消した出来事の始まりだった。
自分が好いていた一人の男。その彼が、突如として消えたあの事件。
その報を聞いた自分の頭は一瞬にして真っ白になったのを今でも覚えている。
言い訳だ何だとテレビでは報じていたが、そんな事は彼女には関係ない。
彼の情報を出せ。今すぐにでもと白く何も無かった頭の中は一瞬にして赤く紅蓮の炎が燃えるかのように怒りに火をつけた。
だが、そんな事をしても彼は帰っては来ない。
悔しいがそれがその時の現実だった。
嘘だ嘘だと、向ける相手の居ない怒りの炎は日に日にその勢いを強めた。
が。それは一気に冷める事にもなった。
一度だけだが、千冬と会えたのだ。そして、それが彼女の中に燃えていた怒りを一気に消す事になった。
死んでいた。
ただそう言える目を、再会した彼女はしていた。
生きる理由も希望も無い。絶望だけの目。
自分の怒りがどれだけ小さく愚かな事だったか、この時鈴は始めて知ったのだ。
そして戦慄する。黒く濁った手が彼女を覆うかのような絶望感が千冬から出されていたのだ。その手に飲み込まれたら最後。恐らくその先ずっと彼女の様な虚無感に包まれる事になっていただろう。
その手を振り払い、自身の気を確かに持たせた鈴は自分だけでも彼がどこかで生きていると信じて待とうと再び決意し、今までを生きてきた。
そして。それに終わりが釘付けられる。
「いっつ・・・」
「えっ・・・」
自分の歩く先から小さく声が聞こえる。その声に聞き覚えのある鈴は顔を上げてその先を見る。其処には白い制服を肩に掛けただけの姿で歩く一人の青年がいたのだ。
彼女の頭の中で思い返していた事、その原因とも言える彼、一夏が。
「っ・・・!」
「・・・ッ!!ち、ちょっとアンタなんでココに居るの!?まだ動いちゃ・・・」
「・・・。」
怪我が多く、治るまでに時間が掛かると聞いた筈だがそれでも彼がココに居ると言う事に驚いていた鈴だが、それ以上に彼がまだ治りきってもいない身体でココに居る事に対しての驚きの方が勝っていた。
怪我の悪化もあるだろうし、何よりも本人がふらふらの状態だ。目も焦点がずれており息も普通より荒い。
「す、ま・・・」
「ッ!!」
それでも彼は何かをする為にココに来た。身体の状態が悪化してでも行かなければならない理由があったのだ。その理由をなそうと彼は重く感じる口を開かせるが口を開こうとした瞬間、彼の身体は前にへと倒れ掛かった。身体への負荷が大きく、ココまで来るのでやっとだったのだろう。
その彼の身体を鈴は直ぐに抱きかかえ、倒れる彼を支える。
「っと・・・・・・ッ!」
一夏の身体が自身の身体で支えるような体勢となった時。鈴は自分の手を彼の身体に触れる細胞を疑った。
軽い。女である彼女でも男の体重は重いと感じるのが普通だと思っていたのだが、鈴が受け止めた一夏はまるで小さな子供を抱きかかえるかのように軽く感じたのだ。
疲労や疲れ、痛み。どうして彼がココまで軽いのかは分からないが、その重みのなさに鈴は言葉が出なかった。
「一夏、アンタ・・・」
「・・・・・・。」
「・・・・・・しょうがない・・・」
軽くなった彼を支えるのは思ったよりも簡単だった。
鈴は近くの壁に彼を座らせる。軽く感じるからと言っても相手は男だ。保健室まで連れて行ける自信は彼女にはなかったので、鈴は誰かを呼んで運ぶのを手伝ってもらおうと座らせた一夏に声を掛ける。
「誰か呼んでくるから、ちょっと待ってなさ・・・」
「・・・りん」
「・・・えっ・・・」
「・・・ごめんな」
唯一言。
その一言を言いたいが為にその身体で態々ココまで来たのか。
そんな身体の状態で、急ぎの用でもないのに来たのか。
鈴の中にその一言が駆け巡ると、無意識に手を強く握り締めていた。
怒りでも、驚愕でもない。それ以上に懐かしい感覚。
「・・・・・・・・・本当よ、馬鹿・・・」
鈴は小さく呟いた。
その言葉を待っていた。その言葉が欲しかった。
長い間待っていたその言葉に、鈴の身体が小さく震えていた。
今まで押さえ込んでいた感情が、少しずつ開放されていく。苦しくても拒絶はしない。
震えを抑える為か鈴は目線を下へと落とす。震えと一緒に何かがはじけ出しそうだったからで、そんなみっともない姿を彼には見せたくなかったからだ。
一夏はそんな鈴の見えなくなった表情に若干の不安を感じていたが、それは当然の報いだと自分でも受け入れていた。
散々彼女たちに迷惑をかけたのだ。
どんな言葉を吐かれようとも、彼はその全てを受け入れると。
そして。その言葉は静かに彼女の口から吐かれる。
「・・・やっと口を開いたわね・・・この馬鹿っ・・・一体・・・どれだけ迷惑したか・・・どれだけあの人が悲しんで、心配していたのか・・・分かってるの?」
「・・・分からんさ。人の気持ちを分かれって言って、分かる奴なんて・・・この世には何処にもいない。だから人間は難しいんだ」
「・・・・・・。」
「けど・・・俺は言わなくちゃいけない。お前に・・・鈴に・・・ちゃんとごめんなって・・・」
「・・・子供みたいね」
「昔の約束だからな。二人で
「そう。いっつも一人で背負い込んでいた千冬さんを助けようって・・・あの日、私達は約束した。アンタがいなくなってからも・・・ずっとどうやってあの人を助けようかってずっと考えていた・・・」
「それがこれか・・・こうでもしなきゃ・・・無理になっちまったもんな・・・」
「・・・・・・。」
だからこそ言える。だからこそこの言葉を送れる。
謝罪にもならない言葉だが、他に彼女に対して自分らしい言葉が浮かび上がらない。
だから、一夏はこの一言を言う。
「・・・心配掛けて・・・すまなかったな。鈴」
「・・・・・・やっと帰って来たわね。一夏」
逃げるのはもう止めだ。
自分の犯した事は自分で贖罪をしなければいけない。
それがどんなに小さくても、その義務がある。一夏はその思いを決め、自分らしい言葉で彼女に謝罪した。
懐かしく感じるその言葉に、鈴の瞳にはいつの間にか小さな雫が流れていた。
やっと戻ってきた。やっと自分の知る一夏と会えた。
その嬉しさのあまり、無意識に彼女は一夏にへと抱きかかえられているのも気づかず逆に彼に抱きかかえられるのを受け入れていた。
泣いた子供をあやす様に抱いた一夏の事を二度と離さないと。
今感じる嬉しさを目一杯受け入れていた。
◇
「・・・・・・その・・・泣き止んだか?」
「・・・ん。ゴメン・・・」
改めて恥ずかしさを感じた鈴は顔を真っ赤にして座り込んでしまっていた。
嬉しさなどに浸りきっていた時には気持ちよく思えていたのだが、改まって真剣に考えると彼女は無意識に自分が好いている彼に抱かれていたのだと言うのに気づいた鈴。
それが切っ掛けで彼女の頭の中で妄想などと共に恥ずかしさが膨れ上がり、赤面となった彼女は現在その原因である一夏の隣に座り込んでいた。
(ううっ・・・もう少しあのままでもよかったかな・・・)
「・・・どうした?」
「なんでもない・・・」
「・・・・・・。」
気まずい空気だ。どちらも似たような事を思っていたが、その切っ掛けを作ってしまった鈴は、静まり返った場の空気に自身の行動の後悔と恥ずかしさを感じていたのだ。
何であんな事をしてしまったのだろうと後悔と恥ずかしさが頭の中をずっと回り続けており、彼女の頭は沸騰寸前の状態。まともに話す事も出来ないだろう。
「・・・あのさ」
「・・・・・・。」
「・・・大丈夫か?」
「・・・えっ、あっ・・・何?」
「・・・・・・。」
おぼつかない物言いをする鈴に何かあったのかと一夏は心配するが、彼女のその原因が自分であるというのには自覚はないだろう。年月を経ても、変わらない彼の性格の一つだ。
「・・・覚えているか。小学生の頃」
「えっ・・・」
「お前が馬鹿にされた時に、お前が馬鹿にした相手に単身殴りかかってよく怪我して俺の所に泣きついてきてた」
「よ、よく覚えてるわね・・・ってあたし一人じゃなかったでしょ。時々一夏だって加わってたじゃない」
「・・・・・・。」
不意に一夏が持ち出した話は、昔まだ彼らが幼い頃の出来事。
箒が引っ越した後の小学生時代、中国人だからと言う理由で他の同級生の男達に馬鹿にされたり苛められていたりした事があった鈴は、男勝りな性格故に怒りに任せて喧嘩へと持ち込む事が多かった。
一対多。そんな事は彼女にとってはザラだった。
だが、其処に一夏も時折駆けつけては参戦し、二人で多人数を相手取っては教師達が来るまで続ける事もあったのだ。
教師に見つかれば大抵は捕まる事が多いが、二人は苛めの相手を囮にその場を逃げ切るというのを何度も行ってその場から逃げる事もあり、彼らの後に見つかり叱られると言う事もあった。
その教師に見つかるまでの間。
二人は校舎のどこかに隠れ、何度も何度も傷つけられた鈴を一夏が慰めていたのだ。
怒りに任せ拳で相手を殴る鈴だが、それでも彼女はまだ幼い少女。無責任な言葉に傷つけられ、彼と二人きりの時には目一杯涙を流すことは当たり前だった。
「パンダだ、カンフーだってありきたりな言葉でアタシを苛める奴等を見て、正直殺してやろうかってぐらい殺意が湧いた事もあった」
「・・・一度だけ本当に殺しそうな事があった時、血の気が引いた。典型的なガキ大将って奴だったけど、手から血を流しながら殴っていた所なんて本当に驚いたぜ・・・」
「あったわね、そんな事。無我夢中でソイツを殴り殺してやろうかって思った時には後で本当に怖くなった。下手したら人一人が死んでたかもしれないし」
その一度と言うのは一夏もよく覚えている記憶の一つで、その出来事は今でも鮮明に思い出すことが出来る。
鈴への苛めの本当の原因。それは、親が外国人を毛嫌いしているという理由で子供に間違った教育をしたのが原因で、鈴に殴られた彼の言う『ガキ大将』と呼ばれた少年も親にそう教わったというので本人にも其処まで悪気がなかったのだ。唯イタズラかからかい程度の物と思っていた事が彼女にとっては最悪殺意を抱くまでに怒りを増大させてしまった。
その怒りが爆発した時。一対一の決闘とも言うべき殴り合いであり、相手も腕っ節は自信があったが、事態は大きく違っていた。
鈴が彼と殴りあっていると知った一夏と数人の男女同級生達は急いで現場に向かったが、其処には彼らが予想もしなかった光景があったのだ。
頭一つの差のある相手にまたがり、彼の頭を何度も何度も殴り続ける鈴がいたのだ。
自我はその時はなかったであろう。獣が捕食相手を喰らい殺すように息の根を止めようとしていたのだ。あまりに悲惨な光景にそれを見た一夏達は青ざめて言葉を失っていた。
それから一分と経たず一夏が我を取り戻したので鈴を止めに入り、一応の事態は終結したが、殴られた少年は顔の皮膚が酷く崩壊しており、全治約三ヶ月と言われた。
鈴は親に呼び出され厳重注意ほか小学生としては無いであろう三日間の登校禁止が言い渡された。
ほとぼりが冷めるまではと言う事らしいが、其処までうまくいく事もない。それに彼の親の事もあり、案の定親が鈴の強制退学を申し付けてきたが義務教育もあれば親の教育が間違っていたと言う事もあるので、結局叩かれたのは彼の親だけ。痛み分けとなった。
「・・・・・・。」
「・・・一夏。前にも聞いたけど・・・もう一度訊いてもいい?」
「・・・?」
「どうして、私に普通に接してくれたの?」
「・・・・・・。」
「他のみんなは私を忌み嫌ってたりからかったりしていたのに、一夏だけは・・・」
「難しい理由なんて無い。昔の俺が、鈴と仲良くしたい。助けてやりたいって思ったから・・・」
「・・・!」
「別に外国人だからとか・・・そんな理由で特別視する程の事も無かった。同じ奴だから・・・知り合い程度にでもなれるかって・・・安直な考えだ」
子供の頃の一夏が深く考えずにそれだけの理由で鈴に近づくというのも昔の彼の性格を考えれば納得がいく事だ。
深く物事を考える事をせず子供の様な理想を掲げていた一夏だ、彼女の喧嘩にもそんな正義の味方染みた理由で参加したのだろう。
「・・・そっか・・・昔のアンタは結構馬鹿だったからね・・・」
「ああ・・・そう、だな・・・」
「・・・一夏。教えて、どうしてアンタ・・・」
顔を見て訊きたいからと思ったのが幸いか。鈴が顔を一夏の方へと向けると、彼の顔が真っ青になっていたのに気づいた。
「ッ!!一夏!?」
(やべっ・・・頭が・・・)
ココまで無理をして来たのが今頃になって災いしたのか、一夏の身体に少しずつ痛みが戻り始めていた。いや、我慢していたが彼の身の限界で途切れてしまい、耐えていた状態だったのが悪化したのだろう。身体を動かしたりする事で痛みを一時的に忘れさせていたが、じっと座っていることで痛みを再び感じ始めたのだ。
(無理しすぎたか・・・)
「大丈夫なの、一夏ッ!?ねえってば!!」
「っ・・・・・・。」
必死に自分の事を呼びかける鈴の声。その声に彼は答える事は出来ず、それを最後に彼の意識は暗闇へと突き落とされるのだった。
◇
時を同じく、場所は変わり一夏が再び倒れた事を知らないオタコンは自室の部屋で自分のPCのモニターと向き合っていた。
夜遅くにも関わらず、何かを待っているかの様にデスクトップ画面の状態のモニターを見ているが、デスクトップ画面はノーマッドの機内でも使っていたPC同様に自分の義妹のエマの顔が映る画面で特に変化はない。
「・・・・・・。」
まだかまだかと焦る心で画面を見続けているが、画面は直ぐに変化はしない。
彼が待っているのは自分から行える事ではないのだ。
「まだ来ないのか」
「あ、二人は」
「やっと寝付いた。こういうのには慣れんな」
そう言って入ってきたのはほぼ毎日彼が着ているだろう服装のスネーク。
だるそうに肩を回し、疲れを表す動きをする彼にオタコンは一笑する。
先ほどまでサニーとマドカを寝かせる為にずっと一人奮戦していたのだ。慣れない事だったので今の彼の気力は元の五分の一は減っているだろう。
「すまないね。未だに進展はないよ」
「・・・向こうはそろそろ昼だろ。呑気にランチでもしていると言われたらかなわん」
「多分ランチをする暇もないと思うよ。事が事だしね」
「ああ・・・」
そして、オタコンの言う進展が起こる。モニターから電話の様にコールが鳴り響いたのだ。
それを待っていた彼らはモニターから目を喰いつかせ、コールに応答する。向こうから連絡をしなければ出ないのが痛い所で、それを彼ら二人は今の今まで待ち続けていたのだ。
『すまない。予想以上に話が長引いてしまった』
「ランチの暇も無かったようだな、大佐」
通信相手は大佐ことキャンベルで、スネークのジョークを真に受けて目を自身の腹部にへと一度だけ下げていた。どうやら本当にランチを食べる時間も暇も無かったようだ。
今や彼は多忙の身であるのでスネーク達が通信で連絡をとっても出られることが少ない、その為互いに通信に出られる時間は日本でいえば夜遅くで、キャンベルには空いた時間が殆どないらしい。
『年寄りに空腹は拷問だよ』
「ローズのメシが恋しくなったか」
『・・・・・・それは・・・』
「・・・それより。例の件は?」
『ああ。そうだな』
思い出したくも無いと言えば本人に悪いのだが、キャンベルの顔は拒絶の色を示していた。
雷電の妻であるローズは、実を言うと料理はそこまで美味しくは無い。本人に自覚があるのかは不明だが、彼女の振る舞いからして恐らく無いというのが身内と関係者からの意見だ。
その記憶を振り払い、キャンベルは元の落ち着きを取り戻し話を始めた。
『米海兵隊とAT社のRAY開発関係者に聞いた結果、矢張り今回学園に現れたタイプはプランには無かったそうだ』
「・・・一応の確認は当たりか」
『ああ。近年増加しているサイボーグ化した兵士やISに対応する為に提案されたメタルギアRAYの改修プランは君達の知るプランだ』
「右腕部をブレード、左腕部に多目的榴弾。そして水圧カッターをプラズマ砲に・・・最近起きた水圧カッターの暴発の対応だったね」
水圧カッターは文字通り水を圧縮して放つ武器。圧縮された水は高度な切断力を有しRAYの主兵装とも言うべき武器となっている。
その水圧の為の水は何処から来るのか。それはRAYが海中潜行時に補給するか人の手で補給してもらうかの二つで、そのどちらの方法でも水の補給は可能となっている。
元々RAYは沿岸部からの奇襲を前提として開発された物で、その為に潜行中に水を補給したりする事が出来る個所がある。其処から水を補給し攻撃に使い、使用して無くなれば他の兵装を使い攻撃する。
『対テロとして公に出したメタルギアRAYだが、その対テロ演習時に水圧カッター発射口から暴発。付近にいた数名の米海兵隊員が負傷した。原因は水圧カッター発射口などのパーツ劣化の貯蔵部の水漏れ』
「見た目はインパクトがあったが、原因がお粗末だったあの事件か。場所はアラスカだったな」
『そうだ。整備時には問題がないと指摘されたが、実際確認すれば内部の方が劣化していた。其処から水漏れによって精密な場所に当たってしまったのだろう。もしアラスカの大高原ではなく街などが近くにある基地でだったら、大騒ぎになっていただろうな』
「で。それを反省点にプラズマ砲に改修と」
『プラズマ砲は水圧カッターよりもチャージに時間を要するが威力・射程共に水圧カッターを上回る。それに漏れる事も無い』
「で。多目的榴弾で対人・対戦車。ブレードで対拠点か」
「そもそも、大型ブレードで攻撃するほどの要塞なんてあるのかい?」
『いや恐らくそれは建前だ。本当は対ISであるのだろうが、女政治家や軍人達が五月蝿いからだろう』
「至上主義の妨げになると思っているから?」
『それ以外にあるまい。それにAISも米軍では配備が遅れていて、運びが上手くいっていないようだ』
「・・・。」
「列強国が抱える女性社会主義との対立だね」
『そう言うことだ。結果、此方からデータが漏れた・・・いや、見られた形跡は無いと言う事だ』
「矢張り。あのRAYは彼女が改造したって事だね」
『・・・そういえば。そのRAYの解析作業はどうなっている』
「・・・・・・キャンベル。その事なんだが・・・」
途端にスネークの声のトーンが低くなり、深刻な顔をする二人を見てキャンベルは何かトラブルがあったのかと覚悟し彼らから話を聞く。
それが彼の予想を上回る事だと知らずに。
「・・・RAYのOSデータ等々が全て削除されていたんだ」
『何っ・・・』
「戦闘データ。OS。その他全てが、解析時既に全部意味消失してしまっていた」
「武装火器に手がかりがあるかって思ったけど、殆ど一般的に流通するパーツで重要な個所はキッチリと爆破されていた」
『手がかりを残さない為にか・・・』
「・・・それと・・・これは余り言いにくい事なんだが・・・」
『何だ。そう躊躇わなくても、私は聞くさ』
「・・・・・・。」
オタコンに相槌を打ったスネークは、彼に言おうと言ったのだろう。
どうするかは全てはスネークに任せていたオタコンも彼が覚悟したのならと、自分も腹を決め躊躇っていた事を話し始めた。
「・・・RAYのAIユニットなんだけど、解析と解体を進めていたら・・・」
『・・・・・・。』
「・・・脳があった。人の脳みそが」
『・・・・・・そんな・・・馬鹿な・・・』
話は今から数時間前の事。
偶然にも日本支部にオタコンの知り合いがいたと言う事でRAYの解析結果を裏で教えて欲しいと頼んだ二人は、RAY本体の解析結果を待ち続けていた。
全ての解析が終わったのは今から二時間程前の事。
結果はスネークとオタコンが言った事とほぼ同じだが、その中でも彼らがショックを受けたのがこの事実だった。
唯一言。電話越しから知り合いの重い声が聞こえ、どんな結果になったのかと思っていたが、それがまさか『AIユニットが人の脳そのもの』と言う事実には聞いた二人もしばらく言葉を失っていた。
高度な戦闘行動。それを実現する為には光ニューロを搭載したAIが必要といわれていたが、彼女が行ったことは「そんな事をしなくても人の脳があるではないか」と言う結論だった。
「思えば疑うべきだった。倒れてしまった自身の身体を背部のミサイルで誘爆覚悟で起こしたり、人の叫び声に反応するなんて余りに機械的じゃなかった」
『だが・・・その脳は一体何処から・・・』
「分からない。摘出しようとしたら・・・それも爆破されたらしい」
『・・・・・・手がかりになるからと言う事でか』
「だろうね」
「脳の置かれた場所には神経を電波に変更して各部に伝達するコードがびっしりと詰められていたそうだ。脳直でRAYは動かされていたと言う事だ」
『人の姿を失い、新たな身体は・・・』
「酷いってレベルじゃない。人を実験道具だとでも思っているよ・・・!」
「・・・・・・。」
オタコンの言葉をがスネークの頭の中を過ぎり、その言葉を元に彼の脳内ではある記憶がフラッシュバックされていた。
彼女はそんな事に迷いを持つ人間じゃない。そんなのは『あの時』に分かっていた筈だと。
「貴方が伝説の戦士?話で聞いたよりもおじいちゃんだね」
「私?私は、貴方が殺そうとしている相手の友達だよ」
「BB?・・・ああ。あの『動物』ね。面白いでしょ?人の心の奥底に眠る獣の意思・・・笑い、怒り、泣き、叫ぶ。人の末路を見るのには絶好の素材だったよ」
「けどねー・・・なーんか違うっていうか・・・まぁ所詮その程度の物なんだろうけどね」
「・・・お前は一体、何をしようとしているんだ・・・束」
蛇の頭の中を過ぎったのは、無邪気に笑う一人の女の姿。
しかし、その顔は決して幸せを喜ぶ顔ではなく、狂気を楽しむ顔だった。