IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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一月十五日。俳優であり声優の大塚周夫さんが亡くなられました。
MGSのスネークを演じた大塚明夫さんの父である彼が一度だけMGS4でもう一人のスネークであるビッグ・ボスとして出てきてくれた時の感動は現在でも忘れられません。
改めてご冥福をお祈りします。お疲れ様でした。


では改めまして第二十一話です。
そろそろAct.1の後日談は終わり、Act.2のストーリーへと本格移行します。
はてさて、Act.2でMGS要素を出せるのか・・・どっちかと言えばMGRの要素が・・・ああ、どうしよう(泣)

という今回の話はギャグ的な鈴と一夏。そして他の人たちがその時何をしていたかです。

では、誤字脱字はご愛嬌。
それでも良いと言う方は
第二十一話、お楽しみ下さい。


No.21 「変化の夜明け」

 

 

「どっこい・・・しょっ・・・ったぁ!!重い!!なんでアンタこんなに重いのよ!?」

 

深夜の時間。鈴は答える事の出来ない彼に対して怒声を放つ。

暗い時間に彼女が何故其処まで怒りをあらわにしているか、それは傷の癒えていない身体だというのに突然現れ、言う事を言うと突然倒れた彼を一人で保健室まで肩を担いでいたからだ。しかも本人は気を失っており、答える事はおろか顔を盾に振る事さえも出来ない状態。

最早八つ当たりにしか聞こえない怒声が、空しく暗い夜に響き渡った。

 

 

 

が。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・ううんっ・・・五月蝿いな・・・」

 

「へ?」

 

裏返った声を出した鈴は、自分と気を失っている彼しか居ない筈の保健室で第三者の声がしたことに驚いた。

こんな時間で、あの一件の後だ。生徒達や教師達でさえももう寝て居る筈の時間帯だ。

なのに一体誰が?もしかして霜月が戻ってきていたのか?

それとも・・・と思いたくも無い事を考えてしまい、顔色が急速に青くなっていく。

人工島だからと言って出ないわけでもあるまい。あまりにも非現実的だと言って一蹴したいが周りの暗さと寂しさが、恐怖を感じさせる。

 

 

小さく何かが動く音が聞こえ、鈴の背筋に悪寒が走る。

本当に何かいるのではないか。

恐怖で敏感になり、余計な力が肩に入ってしまう。

肩を担いでいるが、当の本人が気を失っているので気にした所で反応が返ってくる事も無い。

歯を小刻みに鳴らし、寒さに耐えているかのように震える鈴は音のする場所に目を凝らす。

 

まさか本当に?

考えたくも無い事が自然と頭の中から湧き上がり、彼女の冷静さを奪っていく。

 

のそのそと音がする。

何時でも覚悟は出来ているとばかりに唾を飲み込む。

 

 

 

刹那。カーテンの向こうから黒い影が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・へ?」

 

「ん・・・誰だ・・・こんな夜中にっ・・・ふあっ・・・」

 

黒髪。ポニーテール。日本人顔。自分よりもあるフロント上部。

 

明らかに鈴が見た事のある顔が其処には居た。しかも、自分がこんなに怖がっていたのに対し本人は呑気で欠伸をしていたのだ。

 

その姿を見た瞬間・・・

 

 

 

「・・・殴りたいこの女・・・」

 

現在手が塞がっている事を悔い、鈴は空いているもう片方の拳を強く握り締めていた。

あんなに怖がった事が実際がこんな抜けた事なので、気が抜けてしまい後から恥ずかしさと共に怒りが込みあがっていた。無論、彼女にだ。

 

 

「・・・ん?貴様、凰・・・って!?」

 

「今更気づいたの・・・ったく・・・この馬鹿ベッドに寝かせるのを手伝って。こいつ体重こんなに重かったなんて・・・はー疲れた・・・」

 

「一夏ッ・・・仕方ない。詳しい事は後で話せよ!」

 

「気が向いたらね」

 

 

 

流石に女二人がかりだと思いのほか楽に彼をベッドの上に寝かせる事が出来た。

いくら鈴自身、力仕事に経験があるからといっても高校生の彼を運ぶのには手間がかかる。だが、其処に偶然箒が居てくれたお陰で無事に一夏をベッドの上に寝かせる事が出来たのだ。ココは感謝するべきところなのだろう。しかし。

 

 

「・・・で。なんでお前が一夏をココまで運んできた」

 

「私だって知らないわよ。アイツが勝手に保健室抜け出してアタシに会いに来たのかどうかは知らないけど来たら来たで言う事言って直ぐに倒れるし・・・」

 

「は?一夏がお前に?」

 

「・・・多分ね」

 

「・・・・・・おい。前から聞きたかったのだが・・・お前は一夏の何なのだ?千冬さんのことは知っているし下の名前で呼ぶなんて・・・」

 

「そう言うアンタも一夏の何よ。まさかストーカーなんて言うんじゃないんでしょうね。アタシはあって欲しいけど。ぶん殴れるから」

 

眠気を誘う深夜の時間にも関わらず、一夏を運んだ事で悪いほうに親交が深まった二人。

最早彼女たちの間では一触即発の空気となっていたのだ。

もし仮に一夏が起きていたとしたらこの場は更にややこしい状態になっていただろう。その理由は一夏が知っており、恐らく二人の会話の中で分かる事だ。

 

「誰がストーカーだ。お前の様な暴力女に言われたくない!」

 

「っ!誰が暴力女ですって!?」

 

「お前に決まっておろう!一夏と目が合ったかと思ったら即殴りを入れる奴に暴力と言って何が悪い!!」

 

「あれはそこで寝ている馬鹿(一夏)に対しての制裁よ!!アイツが突然居なくなってから一番苦労したのはアタシなんだから!!」

 

「・・・・・・さっきから知った風な口を聞く。お前は一夏の何だ!!」

 

「一夏の幼馴染だコノヤロー!!」

 

「なっ!?私だって一夏の幼馴染だぞ!!」

 

「は!?寝ぼけた事言ってんじゃないわよ!!アンタまだ寝ぼけているの!?それとも単なる馬鹿なの!?何、⑨なの、死ぬの!?」

 

「馬鹿馬鹿五月蝿い!!一夏とは昔からの付き合いで千冬さんの事も知ってるわ!!」

 

「アタシだって知ってるわよ!!ていうかアンタの話なんざ一言も聞いてないわよ!!後付じゃないの?」

 

「後付なものか!!私は小学生五年の頃まで一夏と一緒だったのだぞ!!」

 

「アタシだって小五から中学まで一夏と・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・ん?(あれ?)」」

 

 

可笑しい。二人の頭にその言葉が最初に過ぎった。

ココまで互いの事を信じられないという顔をしていたのだが、聞き間違いで無ければ可笑しいと思うワードが二人の口から語られたのだ。

箒は一夏の幼馴染で小さい頃から小学五年生(・・・・・)までは一緒だった。しかし、姉の一件もあってか引越してしまい、それ以後は彼とは一度も会っていない。

鈴は小学五年生(・・・・・)から中学二年の初めまで。その後は一夏が誘拐されてスネークの所に身を寄せていたので会える事は無かった。

ココで二人に共通する事。それは。

 

「・・・・・・小学五年・・・つまり・・・」

 

「学校が同じ・・・んで・・・一夏とクラスも?」

 

無い話ではない。現在本人が眠っているので確認は取れないが、それだと少なくとも箒も鈴も一夏と同じクラスにいたと言う事になる。

ちなみに箒も確かに一夏と同じクラスだったのは覚えており、鈴も転入後に親しくなった男友達は彼で、クラスも同じだ。

 

つまり。可能性の話ではあるが二人は同じ学校同じクラスに居たと言うことで、少なくとも箒が引っ越すまでに同じクラスに居たのかもしれないのだ。

だが、互いに互いが一夏と同じクラスに居たと言うのは知らない。

 

と言う訳で・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「どういうことだ(よ)一夏!!!!!!!」」

 

 

起きる事が出来ない本人にへと何故か怒りの矛先が向いてしまったのだ。

それに反応したのか一夏は苦しそうな顔でうなされており、まるで彼が夢を見てその夢が悪夢か何かの様な物であるのかと思える様な表情だったのだ。

夢の中まで彼女たちが現れて詰め寄られているのだろうか。

 

 

 

 

「うるさい!!!」

 

 

しかし。其処に口喧嘩をする二人の頭の上から広辞苑が振り下ろされ、二人の頭に直撃。

言い合いを続けていた二人はその一撃で撃沈するのだった。

平たい場所であったからまだマシではあるが、二人の頭には相当の衝撃が走ったのだろう、直撃後そのまま広辞苑に釘を打たれた釘の様にしゃがんで衝撃が響く頭を二人は抑えていたのだ。

 

 

「っーーーーーー!!」

 

「だ、誰よ!?」

 

 

「誰よって私に決まっているじゃないですか!!」

 

「ッ!霜月先生・・・」

 

保険担当の霜月。彼女が両手に広辞苑を持ち二人の後ろに立っていた。

服装は平時と変わらず白衣とそれに似合わぬ服装。ただ、髪の毛が纏まっておらず、やや広がっていた所を見ると、どこかに座っていたのか髪を直す時間が無かったか。

 

「全く。人が気持ちよく寝ている時に・・・もう夜中の四時ですよ?」

 

「え゛っ・・・」

 

「もうそんな時間ですか・・・?」

 

「あ。もう朝でしたね」

 

「「・・・・・・。」」

 

霜月も疲れて眠っていたのだろう。それが二人の口喧嘩に起こされてしまい、現在やや不機嫌な表情だった。誰でも寝起きは機嫌が悪いのは当然の事だろう。特に無理矢理起こされたとなれば尚の事。

 

「・・・で。二人はどうしてこんな時間に起きているのですか?」

 

「あ、実は・・・」

 

「この馬鹿が昨日の夜にココを抜け出して・・・」

 

「えっ・・・!?」

 

「で。今ベッドの上に戻したって事なんです・・・」

 

「・・・・・・。」

 

喧嘩の原因である一夏がもう起き上がっていたと言う事に霜月は驚きを隠せなかった。

彼女もそれなりの経験をつんできた身なので身体の状態を見れば動けるようになるまでの目安は大体分かる。

彼でも同じだ。彼の場合は動けるようになるにはもう一日は要すると思っていたのだが、彼はそれよりも早い一日足らずで身体を起こせるようになっていたのだ。

それが彼が無理矢理であったとしても身体にはダメージがある為に起き上がるだけでも相当苦労する筈。立とうにも力が入らずに倒れる事もあり得る。

 

 

(だとしても・・・この回復力は凄いわね・・・)

 

一夏がココまでの回復力を持つ理由。

最初は誰もがナノマシンによる物ではないかと思っていた。

 

現代のナノマシンはSOPシステムによる管理をナノマシンで行っていた事による副産物だ。

体内にナノマシンを注入し武器などをIDで管理し制御する。これがSOPシステムの大まかな概要で、このSOPのナノマシンはIDによって武器の使用などが制限されたりするのが欠点であるが、他にも痛みを抑制したりも可能で更には互換を共有する事も出来るのだ。

 

その痛みの抑制などが注目を浴び、医療技術に転用。痛み止めや自然回復の助長を促したりと多様に使う事ができる様になったのだ。

しかし、これだけ多様に活かせるナノマシン技術なので当然違法合法もある。

第一にナノマシンは全て専門機関等が管理するのが普通で市販される事は無く、また使用時には許可の手続きが必要となる。これを無視し使用すればその瞬間違法として裁かれる。

また。最近では老人介護の為に筋力を補ったり筋肉の活性化を促すナノマシンも存在しており、それを老人でもない者が使えばこれも違法として裁かれる。

 

(彼の検査は正常だった・・・じゃあこれは彼自身の自然回復?)

 

この学園もそうだ。違法にナノマシンを使用し能力を偽ればその時点で退学処分は免れない。過去にその事件があった学園側はナノマシンに対しての警戒を強化。入学前の生徒には念入りにナノマシンが入っているか否かを検査する事が義務付けられていた。

一夏もそうだ。入学前には念入りな検査を行い結果は使用痕跡はなし。

 

「・・・凄い回復・・・」

 

「・・・?」

 

 

つまり。彼は自然回復のみで動けるようにまで回復したのだ。

 

 

「・・・二人共。少し離れていてくれませんか。少し彼の様子を診ます」

 

「えっ、はい・・・」

 

「分かりました・・・」

 

未だ驚愕の顔だった霜月は顔にその色を残しつつも冷静な表情を取り戻し、抜け出したという本人の様子を診る為に彼の元へと寄り添う。

医師として彼を見るのだと自身に建前を言い聞かせているが、本心では彼がどうしてここまで回復したのかと興味を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、夜明け前の職員室では一人の教師が自分が完徹したことに気づき、デジタル時計の時刻を見て頭を抱えていた。

まだ日が昇っていないが、デジタルの時刻は既に朝の時刻。普通なら寝ている所であろう。

だが彼女はこうして完徹したと言うことを知り、先ほどまで余り機嫌が良くなかったのが更に悪化したのだ。

 

 

「・・・・・・。」

 

機嫌が悪くなったからか頭が更に痛く感じる。幻覚だと思いたいがそうも思えないアテが幾つかある。それが重なり疲れになっていたのだろう。

自分のデスクの上に置かれているカップを手に取り、眠気覚ましと頭痛の抑制にとカップの中に残っていたブラックコーヒーを喉の奥にへと流し込む。

しかし、カップの中に残っていたコーヒーは入れたての熱気を既に失っており、冷め切った苦い物になっていた。これではもう頭痛の抑制という効果は無いだろう。

 

「・・・・・・仕方ない」

 

諦めるか。次に続く言葉を口にする事無く、彼女はカップをデスクの上にへと再び置いた。先ほどまで飲んでいたコーヒーにはそろそろ飽きが来ていた所で、キリがいいだろうと思っていたのだろう。

 

デスクの上には資料等が詰まれており、彼女が今までその資料を使い何かを行っていたというのが分かるが、機嫌の悪い彼女にとってはもう余り見たくないと思う物だ。

 

「・・・。しばらくは休みだな」

 

疲れが現れたのかそういうとデスクの上にうなだれ、張っていた肩の力を抜き反動があったかのように脱力する。

完徹をするのは久しぶりなので彼女も体力が限界だ。

 

「・・・メタルギア・・・か」

 

 

沈み込んだ表情の中、千冬はそう言って自分が調べていた資料に書かれた一文を呟き、暗い闇へと意識を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一分も経っただろうか。

睡魔に襲われ、意識が闇の中へと落ちた所までは彼女も意識的に理解していた。

だが、其処から再び起きたのかと聞かれれば彼女は答えられないだろう。

寝ているという意識も無く起きているという意識もない曖昧な状態。これが夢と言う幻象なのだろう。

 

(・・・何処だ?)

 

夢であるからか、意識がハッキリとせず自分が何処にいるのか。周りがどうなっているのかが分からず、唯自分が其処に居るという意識だけは確かなものだった。

 

 

(・・・夢か・・・)

 

 

ならば直にこの夢は覚めるだろう。

意識が定かではないこの世界に興味の湧かない千冬は夢が終わるのを待つことにした。

 

これが唯の夢であったのなら彼女はそれで済んだのだろう。

 

 

 

 

 

(・・・!)

 

 

誰がが居る。千冬の視界におぼろげではあるが誰かが映っていたのだ。

しかし、姿は光に当てられて影しか見えないシルエットの状態で辛うじて分かるのは体形からして歳は若く、男であると言う事。

そして。彼女が何度も見た姿であると言う事だ。

 

 

「・・・一夏?」

 

その影を見た彼女は思わず口を動かし、思いつく者の名を出す。

現実でもないというのに口に出来た彼女は、その名を発したと同時に自分の身体が冷たくなるのを感じた。

 

その姿を見てなのか。影の男は彼女の前から歩き去ろうとする。

 

「ッ!!まっ・・・待て!!」

 

もがき手を伸ばす千冬。しかし。影の男はそれでも歩き、離れていき彼女の前からの自身の影だけの姿を消そうとする。

 

「お願いだ・・・待ってくれ・・・!!」

 

夢の中だからか彼女は普段見せている表の仮面ではない、本当の自分を見せ弱々しく叫んでいた。確かな存在だと分からないのに、自分の中ではそれが確かな存在と認識している。

その確かな存在を離したくない。何処にも行かせたくない。

それは正に一夏が死んだと言われ現実から逃げていた時の彼女と同じだった。

 

 

その彼女の願いを聞き入れたのか、影の男は歩みを止めた。姿は既に殆ど見えず、僅かに顔と身体と周囲の区切りが見える程度ではあるが、彼女の目では確かに影の男は歩みを止めたように見えた。

自分の願いを聞き入れてくれた。喜びのあまりとまでは行かないが自分の前から立ち去ろうとするのを止めてくれた事に感謝し、千冬はその影の正体だと思う人物の名を口にしようとした。

 

 

 

「・・・!」

 

しかし、その口は開かれるも言葉を発する事は無かった。

発しようとした瞬間、出す言葉を失ってしまったからだ。

 

 

 

 

 

 

男が振り向いた。

影で顔も見えず、何処がどの顔のパーツかは鼻以外分からない。

しかし、彼のその姿を見てそれでよかったと言えるだろう。もし、仮に彼女が口にしようとしていた者なら、彼女は絶望にへと落とされる事もありえなくも無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い目。黒く塗りつぶされた顔の中で唯一つ。鋭い目が赤い色をして彼女を見ていたのだ。

濁りも淀みもない、ただ純粋で鮮やかな赤く美しい瞳。

 

 

 

 

 

 

血の色をした深紅の瞳で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ッ!!!」

 

一瞬だが背筋が凍るような殺意と狂気を感じた千冬は、その恐怖が切っ掛けでまどろみの夢に落ちていた意識を現実へと引き戻した。いや、反射的に意識が戻ったのだろう。

それ以上は危険だと、野生的勘が彼女をあの世界から引き上げたのだ。

 

意識を取り戻した千冬の顔は眠る前の様な苛立ちはなく、今度は何かを恐れたかの様に青ざめていた。呼吸は荒く、正常だったリズムは乱れ通常よりも大きく息を吸っては吐いてを繰り返していた。

 

 

「・・・夢か・・・」

 

夢であってよかった。白く空っぽだった頭の中で最初に思ったのは安堵だ。

夢の中で感じた恐怖から逃げ切れた、アレは夢だから二度と会うことは無い。自分にそう言い聞かせるように千冬は荒れた呼吸を整え、頭の中から先ほどの夢を忘れようとする。

アレはただの夢だ。現実にある事ではないと何度も自分に言い聞かせ暗示するが、その夢について意識を集中すればするほど夢については頭から離れない。

 

 

「・・・疲れているのか・・・」

 

それでも頭の中から消えない夢に千冬は諦めたのか忘れようとする事を諦めた。意識を集中していたらそれだけで頭の中に残ってしまいからだ。

頭を抱え、他の事を考え始めた千冬は今の時刻を見ようとデスクに置かれたデジタル時計を見る。

時刻は午前六時。仮眠を取ってから一時間ほどしか経っていないのかと眠気を取りつつ身の周りの状態を確認する。周りは先ほどと何一つ変わっておらず、変化があるとすれば資料が微妙に動かされただけと言う事だろう。

眠気の取れていない頭を起こそうと千冬はデスクの上から頭を離し椅子に深く腰掛けて無理にでも頭を動かそうとする。そろそろ他の教員達も起きてくる頃だ。

 

 

「ん、メールか・・・」

 

すると千冬は自分の携帯端末にメールが来ていた事に気づき、届いたメールを開封する。

彼女のメール相手というのは該当する人間が限られているので彼女も大よそではあるが誰からメールが来たのかは予想ができる。それほどまで彼女はメールでの連絡のやり取りをする人間が少ないのだろう。

 

開封したメールの文面を流し読みした千冬は誰が送ってきたのかを送信者が表示される場所を見ずとも分かっていた為、文面だけを読み終えると直ぐに携帯の電源をスリープに切り替えデスクの上に置く。

メールの内容を見終えた彼女の表情は、何時もと変わらない冷静な表情を取り戻していた。

そのメールのお陰なのだろうか。それとも、夢の事を頭の中から忘れたからだろうか。

 

 

 

「さて。どうなるか・・・」

 

ただ一言、千冬はそう言うと夜が明けて日の光が照らし始める空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り合えず、追加分はこれでいいかな」

 

「ああ。後は向こうからの連絡で調整すれば問題はないだろう」

 

肌寒い朝の日差しと寒さに肌を震わせる二人、オタコンとスネークは自分達の前に立ち止まっているトラックを見つつ会話をしていた。

何かコンテナを後部に詰め込むトラックはサイドに「AT・Japan」と書かれたロゴを張っており、それがAT社の日本支部のトラックだというのは明らか。

その詰め込まれているコンテナはスネーク達が頼んだもので、それを運んでもらう為にトラックがやって来ていたのだ。

 

「それに、向こうも動き始めた。予想よりも早いがな。今の内にやれる事はやるべきだ」

 

「装備の充実化と居場所の特定・・・かな」

 

「出来るのか?」

 

「冗談。彼女のサーバーに辿り着くのなんて雲を掴む以上に手間の掛かる事さ。最悪、人生かけても見つからないかもね」

 

「・・・となると、矢張り向こうから尻尾を出すのを待つしかないか」

 

「向こうがそう易々と尻尾を出してくれればいいんだけどね」

 

「・・・今はそれを願う他ない。それに、アイツの方には協力者が居る。確保に手ぐらいは貸すだろう」

 

「元SBSと暗部、そして元SAT・・・裏事情の多い女の子を抱えるのが好きな学園だね」

 

「元SBSには驚いたが、まさかSATまでもとはな。軍隊も変わったな」

 

平和を謳歌する少女というのは、この世界ではもうこの国の者達だけなのだろうか。

二人がそう言って会話をしていると、荷を詰め終えたトラックがエンジン音と共にから排煙が排出させる。

作業を終えたトラックの運転手達はいそいそと運転席に乗り込むと窓から顔をだし被っていた帽子を上げて一礼をする。

 

「では、我々はこれで」

 

「ああ。後は頼むよ」

 

「分かりました、それでは」

 

運転手はそう言って顔を引っ込めてトラックを動かした。

今の朝の時間にはトラックの音は騒音にしか聞こえないので早く去りたいと思っていたのだろう。アクセルを踏み、トラックは特有のエンジン音をうならせて走り去っていくトラックの後姿を二人は見届け、音が遠のいていくのを確認すると、オタコンは「さてと」と呟き隣に立つスネークに尋ねる。

 

「・・・これからどうする?」

 

「やるべき事はやっておく。恐らく、近い内に何かがまた起こるだろうからな」

 

「準備は早めに・・・か。先ずはなにを?」

 

「・・・先ずはコーヒーでも飲んで考えるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・うーん・・・」

 

再び学園では霜月が一夏の様子を診終え、背筋を縦に伸ばして眠気を取っていた。

一通りの検査も終え、ガーゼなど彼の身体に付けられていた物を取り替えること数時間。普通なら一時間かそこらで終わることだが、彼女なりのやり方で行ったからか思った以上に時間が掛かってしまったのだ。

 

「うわっ、もうこんな時間・・・」

 

日の光が昇り、時計の時間を確認すると自分が長い時間彼に費やしていたというのを知り、疲労と呆れの混じったため息を大きく吐き捨てた。

 

「・・・。」

 

だが、目的は果たせた。霜月は何かを思いつめた顔をして白衣に付けられていた左ポケットの辺りを手で触る。僅かにふくらみのあるポケットの中には彼女がここまで時間をかけるほどの理由が収まっていたのだ。

それが一体何なのかと尋ねる者はその場には居ない。居たとしても、この時間なので眠っているのは確実だ。

 

「・・・さて。後は織斑先生に報告にと・・・」

 

何事も無かったかのように独り言を呟き、霜月は一夏のベッドの周りを覆っていたカーテンを引くと自分が出られる程度に開けてベッドを後にした。

 

 

「あら」

 

すると、最初に目に入ったのは日の昇る朝日ではなく、その朝日の下で薄い毛布に包まり眠っていた少女二人、箒と鈴が目に映った。

一夏の様子を診る前に毛布の事を話していた霜月だが、その毛布一枚を頼りに眠っていたとなると、彼女たちは検査を始めて数十分ほどは起きていたが、途中から眠気に勝てずに熟睡してしまったのだろう。

 

 

だが、あれほど元気に口喧嘩をしていた二人だ。根気強く起きていたのは間違いないし、競い合っていたのだろう。彼の寝るベッドが見える範囲に座り込みどちらが彼の事を気に掛けているのかを競う為に二人の間は近くも遠い間隔が開いていた筈だ。

 

なのにどうして、現在彼女たち二人は寄り添い互いの肩を貸し合って眠っているのだろうか。

 

 

「・・・喧嘩するほどなんとやら・・・ですかね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前七時。日が昇り、西の空から朝焼けの太陽が姿を見せる。新しい一日の始まりを示すその光は同時に彼らに新たな物を見せてくれる。

それが良き事か悪しき事か。それは誰も知らない。

 

これから起こることを運命付けるなど、誰も出来ないのだ。

 

新たな役者達。新たな舞台。新たな敵。

 

 

 

 

 

今。戦いの第二幕が開かれる。

 




後書き。

2010年代に入って多くの声優さんが亡くなってしまいましたね・・・
世代が変わるとは言え、子供の頃から慣れ親しんだ人達が亡くなったと言われたら他人事とは思えなくもなります。
某○太郎で聞き慣れた声ももう聞けなくなると思うと・・・

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