IS×MGS - Another Solid - 作:No.20_Blaz
さて。そろそろラウラ編も山場に突入。ココからは少しオリジナル路線になっていきます!
MGSの関係が少なかったなぁと思った皆さん!ご安心を!!
やっとMGSっぽくなる予定です!多分ッ!!(オイ
と言うわけで、いよいよ今回からラウラが動きを見せます!
…本人出ませんがね、今回。
狂い気味の性格となったラウラが一体学園内で何を起こすのか!?
それでは、誤字・駄文はご愛嬌。
「それでも良い!」と言う方は
第三十二話、お楽しみ下さい。
・ 5/3 追記 ・
作中で出た酸素欠乏症の症状ですが、記憶の欠落は実際にはありません。
ただ筋力の低下はあるそうですが。
記憶の障害については酸素欠乏症の後遺症としてあるようです。(某初代Gダムの主人公の親父さんがこれだとか)
ストーリーを少し面白くしようと思って考えたことですので真に受け取らないで下さい。妄想だと思っていただいてくだされば幸いです。
かなり身勝手な事を書いてしまい本当に申し訳ありません。
白い煙がピット内を覆い、箒の視界は目を開けると白一色となっていた。
視界は煙が目に入っていないのではっきりとしているが、その視界には白い煙のみが立ちこめ見えるのは自分の身体と纏っている打鉄の武器などのみ。
殆どが煙によって見えなくなってしまっていたのだ。
「ッ・・・!」
「対IS用に改良されたスモーク。濃度もかなりありますわね」
『オマケ、機体のセンサーでも中を透視出来ないと来た・・・微粒子で阻害しているのか』
「こちらのでも透視は出来ません。晴れるのを待つしかないですわね」
『・・・・・・。』
下手に動けば敵の思う壺。しかし動かなければそれもまた然り。
思うように動けない箒は刀だけには力を込め、いつでも対応出来るようにと全神経を研ぎ澄まして周囲に気を配る。
「くそっ・・・視界がこれでは・・・!」
『篠ノ之さん。無事ですわね?』
「無論だ。だがこれでは・・・アイツに何処から攻撃を受けるか・・・」
『いえ、恐らくそれは無いかと思います』
「なに?」
セシリアからの通信にどうしてそう言いきれる、と反論する箒。
根拠も無く攻撃がこないというのは余りに考えが甘いのではないかと言いたい所だが、セシリアの性格からして何を言われるのか分かったものではない。
だが、その箒の考えを読んだかのようにセシリアは続けて彼女に言う。
『幾らこの状況で貴方を下したとしても残る相手は三人。ならば行動は一つです』
戦略的に不利なのは当然。なら、戦わず逃げるのみ。
戦略的撤退。それがラウラが取った行動だ。
『その手のスモークならあと一分足らずで煙が地面に落ちていくはずです。それまでしばしお待ちを』
「・・・・・・。」
疑いたいような目で通信を通し聞こえる声に箒は歯を軋ませる。
上から目線のような言い方だからと言う訳ではない。全て分かっているかのように言う彼女の態度に嫉妬したのだ。
戦況を見極め、相手の次の行動を予想するその目。そして、それを冷静に分析する能力。
どれも今の自分では到底追いつくことの出来ない物ばかり。
頭が上がらない訳じゃない。自分よりも上の場所に背を向け立っている。
箒の目には時折セシリアがそう見えていたのだ。
「・・・あ!イチカ、
「・・・!」
シャルの言葉に頃合いかと思った一夏は、飛翔してピット内に入る。
煙がゆっくりと地面に落ちていき箒の視界も漸くながら戻ってくる。やっと色のある世界だと思っていると一夏がピット内に入り、鈴が倒れているだろう場所に駆け寄っていた。
箒も忘れていたというよりも頭の隅で気にはしていたが、それが今やっと隅からひっぱり戻されていた。
「ッ!」
ゆっくりと無音のまま消えていく煙の海の中を手の感覚だけで探す一夏。その手に一瞬だが誰かの肌が触れた感覚が指先から伝わり、彼はその感覚を確かなものと触れた場所に手を伸ばした。
まるで海の中に溺れた彼女を助けるかのように手を探らせた一夏は柔肌の確かな感覚を見つけ両手に掴み取り、引き上げた。
「鈴・・・!」
ぐったりとした顔色は何時もよりも青ざめ、表情はかなり苦しそうだ。
幸い小さく呼吸はしているが、その呼吸も不規則で本当に辛うじて頑張って呼吸をしているという感じであった。
その彼女を最後まで守っていた機体は強制解除されて彼女の手元に転がっている。
その場での役目を果たしたかのように転がる機体は打鉄から降りた箒の足下に当たり、彼女に拾い上げられた。
『一夏さん、今すぐ彼女を保健室に』
「・・・ああ」
このままココで介抱するという事も出来るかもしれないが、その場に居る面々では専門的な事までは行えない。
言われるまでもないとばかりに鈴を背負った一夏は脇目も振らずに走り出した。
背負った鈴の重さは以前装備していた武器装備一式よりも軽く、その軽さが一夏の心に不安を抱かせる。元からなのか、それとも、と。
目的地である保健室へは自分の足なら背中に鈴を抱えていても一時間もかからない。
だがそれはあくまで全力で走ったらの話だ。彼女を抱えて全力で走りきれる保障はないし、一時間以内に着くという根拠も余り無い。
「・・・・・・。」
だけどやるしかない。
そんな理由も何も無い考えに一夏は自分を納得させ、アリーナを後にしたのだった。
その後ろを彼のもう一人の幼馴染が黙ってついて行っていた事に気づきもせずに。
彼の後姿を見届け、シャルはとりあえずはと胸を撫で下ろす。
あそこまで心配したような顔をしていたんだ、大丈夫だろう。自分もついて行きたいと思っていた彼女だが、その彼女の隣にへとセシリアが降り立った。
ついて行きたかったのは事実だが、助けてくれた恩を言葉で返すぐらいはしておきたい。
「さっきはありがとう。えっと・・・オルコットさん」
「別にセシリアでも構いません。それに、牛は牛連れ馬は馬連れ・・・ですし」
「・・・え?」
「・・・お互い様と言う事ですわ。デュノアさん」
その言葉を最後に、セシリアはふわりと機体を浮かせピットの中にへと消えていった。
それをぽかんとした顔で見ていたシャルは独り言のように頭の隅で呟いた。
言葉の意味が違うのではないか。
「・・・。」
いや。
冷たい緊張の汗がシャルの頬を伝い喉元へと滴り落ちていった。
◇
脇目と人の目を気にせず学園内を爆走した一夏は、予想していた時間ギリギリで保健室に到着していた。
更に幸いにも霜月が偶然入ってすぐの場所に居たので、掠れ気味の声で一夏は彼女に鈴の治療を頼んでいた。
ちなみに、その時彼が霜月にへと言った台詞は「鈴が首を絞められた」だそうな。
自殺でもしたかったのかと驚く霜月だが、とりあえず彼の背に背負われていた鈴を以前一夏が寝ていたベッドの上に寝かせ、診察を始める。
それから十分と経たず一通りの治療等は終わったようで霜月は結果を二人にへと伝えた。
「・・・目立った外傷は首や手首足首を圧迫された程度。死ぬ事はないけど、筋肉が痛めつけられていたから湿布を貼っています。完治は大体でも二・三日です」
大袈裟だったようで大したダメージも無いと知った二人は安心したのか、胸を撫で下ろした。どうやら絶対防御の防御範囲内だったようだ。
「とりあえず、大丈夫なんですね」
「・・・ええ。とりあえずは、ね」
しかし霜月の顔は浮かばないもので、気になった箒が霜月へと尋ねる。
「とりあえずは・・・?」
「・・・・・・。」
「・・・霜月先生」
「・・・二人共。これから先は他言無用で、お願いできるかな」
「・・・・・・んっ」
ゆっくりと重い目蓋を開き、意識を覚醒させる。
開いた視界には少し汚れのついた白い天井が映り、目覚めた最初は空白の状態だった頭の中が整理され次第に状況を確認していく。
自分が今何処に居るのか。そしてどうしてココに居るのか。
思う所は多くあるが、彼女はゆっくりと自分の身体を起こし頭を抱える。
「・・・・・・。」
頭痛の痛みが嫌味な加減で響き、その所為あってか気分はよくない。
意識がハッキリしていくほど痛みが段々と強くなり僅かながら吐き気も感じる。
寝起きだというのに身体中にストレスを感じ肩は重りが乗せられたように重たい。
正に最悪の目覚めだ。
「はぁ・・・・・・」
すると、彼女の耳に誰か複数の人が足音を立てて近づいてくる。
誰だと警戒する余裕もない鈴は重たい目でその音が聞こえる方へと目をやった。
そこに、自分の知る友人が居ると知らずに。
「目覚めたか、鈴」
「・・・一夏」
顔を見せたのは一夏だった。
それも心配げな顔をしており、声も自分が目覚めたという事を素直に喜んでいるという表情だ。どうやら心配していてくれていたようで制服に着替えたようにも見えるが、中にISスーツを着込んでいるのが彼の首筋から見えていた。
着替えるというよりも上から着ただけだ。
「気分はどうだ」
「最悪。頭痛い」
「・・・・・・。」
一応愚痴を言う程の元気はあるようだ。
そうか、と答えた一夏は小さく笑い彼女が目覚めた事を霜月に報告しようとした。だが。
「・・・ねぇ一夏」
「なんだ?」
「アタシ、なんでココで寝ていたの?」
「・・・・・・。」
彼に尋ねた内容な何気の無い事だった。
どうして自分がこんな所に居るのか。あの時ラウラに首を締められ、意識を失ったからだ、と答えたい一夏だったが、答える間も無く鈴が呟くように言った。
「可笑しいのよ・・・あの時、あのドイツ女に向かって行ったのは覚えているのに
「・・・・・・。」
数分前の事だ。
浮かない顔をした霜月が眠っている鈴を起こさないようにと、声のボリュームを少しだけ下げて一夏と箒にある事を話した。
それは今の鈴の質問を裏付ける理由でもあった。
「彼女、軽い酸素欠乏症なんです」
「・・・え?」
霜月の言葉に二人は動揺した。
箒はただ一言呟いて口を開け、一夏は息を飲んだ。
一体どうしてだ、と目で訴えるように。
「と言っても本当に小さな程度で大事には至らないんですけどね」
「酸素欠乏症ってどういう事ですか」
「・・・恐らくあの首の締め付けられたあとが原因でしょうね。あれが強すぎてISの絶対防御を貫通させて直接本人にダメージを与えていた」
「ですが、アイツ本人には・・・」
「ええ。大したダメージではありません。ですが、彼女の首を絞めて意図的に酸欠状態にさせて彼女の脳に酸素を送れない状態にしたんです。お陰で神経がちょっと麻痺してしまったんです」
「・・・・・・。」
「今回は軽い症状だけで済みましたが、あれがもっと長時間だったら危険だったかもしれません」
「軽い症状・・・とは」
「僅かな時間の記憶の欠落。そして腕や足が痺れたり一時的に痛みで動きが止まってしまったりする程度だと。それでも、ちゃんと彼女が呼吸していれば身体に酸素が送られて二週間程度で元に戻る筈です」
脳裏に刻まれた事実に一夏は言葉を詰まらせた。
話すべきか否か。後ろから箒と霜月の視線を感じ、特に霜月の視線からは彼女の意思が聞こえてくる。
今は彼女に話すべきではない。そう言っているようにと。
「それは・・・」
「・・・・・・。」
「・・・一瞬の事でお前が忘れただけだ。俺たちも反応遅れたからな」
苦し紛れに答えたものは事実に近くも遠いものだった。
一瞬のうちにラウラがカウンターを入れて鈴の意識を奪った。それに自分たちが追いつかなかった。
事実ではないがこれなら納得のいく答えだろうと信じ一夏は語った出来事に、鈴は疑いなく受け入れた。
「・・・そっか」
「・・・だが。どうしてあの時、前に出た」
「・・・・・・。」
そうすれば真実を忘れる事はなかったのに、と頭の隅で呟いた彼は何時もとは違うくらい顔をする彼女に問いを投げる。
彼女を悪く言ってしまうことだが、そもそもそれが無ければ鈴はこんな事にならなかった。
冷たく問いを投げた一夏の言葉に鈴は俯き、ぽつりと呟いた。
「直感・・・かな」
「・・・は?」
しかし、その台詞は余りに意外な事であったために一夏は自身の耳を疑った。
彼女の言葉を言い換えるなら「野生的勘で動いた」という事になる。
彼女を良く知る者からすれば実に鈴らしい言葉なのだが、正直一夏にはどう思えば良いのか、どう言い返せばいいのか分からなかった。
今までなら「そうか」の一言で終える彼だったが、精神的に成長したからか一言だけでは納得がいかなかった。
何故、直感なのか。
直感は意識的ではなく無意識に起こる事なのでどうと言われても言い返すことは出来ない。それは彼でも分かっている事だ。だが問題はそこではない。
どうしてその瞬間
「無意識に身体が動いてさ。その直後かな。頭の中で本能が訴えていたの」
あのままだと確実に一夏は負ける、と。
「根拠とかは無いわ。けど、なんとなく・・・その考えが正しいんじゃないかって、さ」
「・・・・・・。」
頭ではなく身体で理解した。言いたい事は分かるが、一夏には分からなかった。
何故、鈴の本能は一夏が負けると予想したのだろうか。
武器の種類や戦闘スタイルからすれば一夏に僅かながら分があった。
仮にラウラが自身の手の内を全て明かさなくとも戦闘スタイルの違いで優勢に立てたはずだ。
「まぁ・・・結局どうなったのかは分かるけど」
「・・・そうだな」
俯いた鈴は申し訳無さそうな顔で言う。
彼女の頭の中にはおぼろげな記憶しか残っていないが、自分が今ベッドの上に寝ていたという事は結果は一つしかない。
足手まといをしてしまった。それぐらいは彼女でも察せた。
察したからか、忘れていた感情が鈴の心の奥底から吹き上がった。
悔しさが溢れ出し、感情は身体に表れる。身体を丸め、沈黙した鈴。
その目には小さな雫が溜まり、音も無く彼女の目から流れていった。
◇
その後、気を落ち着かせた鈴は照れ隠しも兼ねて彼には見えない角度で目に溜まった雫を拭き取る。
彼に見られては恥ずかしいと強く拭き取られた目には肌が擦れた後が残った。
あまり目を強く擦るなよ、と注意された彼女は何時ものように強気な口調を取り戻し一夏にへと言い返した。
「もう平気よ。大丈夫だから」
「そうか」
「・・・・・・。」
そこはその一言で返すのかよ。
薄目で睨む鈴に一夏はまた悪いことを言ったかとばかりに頭を掻く。
どうにも自分には女を相手に話すというのが向いていないようだ、と頭の隅で思っていた一夏は話題を変えてそのジンクスから逃れようとした。
「・・・身体は平気なのか」
「・・・・・・まぁね」
どうやら逃げる事はできなかったらしい。
逃がさないとばかりに不機嫌になった鈴を見て、一夏は目線をズラした。
しかし、更に何処からか誰かの視線を感じ、完全に逃げ場が無くなったと頭を抱え込んだのだった。
「・・・分かった。取り合えず霜月先生に言って来る」
「・・・・・・。」
不機嫌なままだった鈴に一夏は深い溜息を吐き肩に重いものを感じながら霜月のところへと歩いていく。今日は厄日だったのか、と独り言を呟き自分の不幸を呪う彼は、不自然に慌てていた霜月のもとへと行き、鈴が目覚めた事を伝える。
「先生、鈴が目を覚ましました」
「あ、はい!目を覚ましたのならもう大丈夫です!後は煮るなり焼くなり・・・」
「・・・はい?」
「い、いえ何でもありませんよ!!エメリッヒ君、急いで出て行ったほうが良いとオモウナーハハハハハハ・・・」
途中から変な喋り方をした霜月に、一夏はそうですかと答えるとまた鈴の居るベッドのところにへと歩いていった。
「・・・聞いてたな」
彼女の不自然さを察し、彼女に聞こえるような音量で態と言いつつ。
◇
夕刻過ぎ。時間は過ぎて、日がすっかり東の空に落ちていた。
一夏と箒そして鈴の三人は
ISの調整。身体の健康状態の確認。未だ整理しきれて居ない自分の思いの確認。
特に、一夏は決心した筈の事が出来なかった為にばつの悪い顔のままだった。
いざ決断の刻とばかりに一歩目を踏み出そうとした矢先、
結果として彼の決心は有耶無耶になってしまい、更にはそのことを今の今まで忘れていた一夏は自分の不甲斐なさにただ頭を抱え込むだけしかできない。
「・・・・・・。」
なんとも言えない結果となってしまった事に一夏は溜息を吐く。
これで何度目だ、と思いつつもその原因が自分である事を思うと自然とまた溜息を吐いてしまう。
これが今に至るまで続いてしまい、彼は目の前にある自身の機体の調整と整備に集中できないでいた。
「・・・くそっ」
駄目だ、気が晴れない。
頭を抱える一夏は負い目を感じ、意識がそこに引っ張られていた。
このままでは作業すらままならない。何か気を紛らわす方法はないか。
そう思った時、一夏はふとある事を思い出す。
そういえば
あれから報告を聞いていなかったので調査中なのかと思っていた彼は、殆ど自分から連絡をせずに向こうからの報告を待っていた。
だが、そろそろ何か進展があってもいいのではないか。
そう思った一夏は気分転換も兼ねて、腰に下げていたiDROIDを取り出すと彼らに連絡を取った。
「・・・応答不可?」
しかし、連絡を入れて数秒で投影式の画面に一つの文面が現れた。
「応答不可」。つまり向こうは現在、応答に答えられないのだ。
「一体どうしたんだ・・・」
何があったのかと少し不安に思った一夏は、もう一つの連絡先であるサニー達に連絡を入れる。そろそろ連絡用GPS付きの通信機ぐらいは持たされている筈だ。
彼女達なら答えてくれるだろうと連絡先を変え、彼女達に
『はいはーい』
「マドカ、俺だ」
『・・・オレオレ詐欺なら間に合って』
「一夏だ」
よかった繋がった。と安堵の息も束の間、マドカのボケに素早く突っ込みを入れた一夏は呆れてまた溜息を吐いた。
これにコールするのは身内と知り合いぐらいだろ、と怒気の混じった声で話す彼の声に彼女は直ぐに謝罪する。
だがそんな事をしている暇はない。
一夏は用件だけでも済まそうとマドカに訊いた。
『で。どうしたの?いつもなら
「その連絡相手に繋がらないんだ。今オタコンは何してるんだ?」
『さぁ。今までどおり部屋に居るけど・・・何か何時もより慌てていたようだったけど』
慌てていた?一夏の問いにマドカはうん、と頷く。
慌てていたという事なら彼が連絡に出ないのも納得するが、一体何に慌てていたのかが彼には気になった。
なにか深刻な事態にでも直面していたのだろうか。
それとも、ただの仕様も無い事に慌てているだけなのか。
彼が一体何に焦っていたのかと思っていた時。マドカの口からその原因らしき言葉が言われる。
『なんか・・・「大丈夫なの!?」とか「
「彼女?」
『そう言ってたよ。あと・・・
「密輸・・・!?」
マドカから齎された言葉に一夏の脳裏ではある一つの仮説が浮かび上がる。
安否。正気なのかという戸惑い。密輸。
これら全ての台詞をつなぎ合わせた瞬間、一夏の中で危険信号が発せられた。
もしかしてという考えに彼の体温は一気に上昇し、汗が吹き出る。
これがもし本当だったら、事態は思った以上に深刻だ。
「・・・まさか・・・!?」
『・・・一夏兄ぃ?』
「マドカ。オタコンに伝言頼めるか」
『え?』
「・・・“それはドイツか”って」
「ドイツでしょうね・・・確実に」
『矢張り、ですが。今仕掛けるとは・・・』
「どうやら、あの時の割り込みも織り込み済みだったようね。でなければ、あの場面で冷静に撤退したのに理由がつけられないわ」
学園の寮の中、楯無は携帯で虚と会話しつつどこか別の場所へと移動していた。
慣れたように廊下を歩き階段を下りる彼女の足は速く、急ぎ足気味に見える。何時もの猫を被った物とは違い真面目な表情をするあたり、今は余裕がないのだろう。
『どうするんですか・・・こんな事、公にしては更に面倒になりますし・・・』
「・・・苦しいけど、私達でどうにかするしかないわね。幸い、彼もこちら側の人間。状況を説明すれば・・・」
その時だ。楯無は喋りを止めて足を止め、硬直してしまう。
まるでその先に透明の壁があって行けないのか、はたまた身体中に透明のワイヤーが付けられて動きを止められてしまったのか。
どちらも違う。彼女が自ら足を止めたのだ。
小さな違和感と脳裏を過ぎった本能による警告。
僅かに空気に変な肌触りを感じた彼女は、恐る恐る顔を見上げた。
階段の中間にいた彼女が見上げたのは月の光が輝く上の階だ。
白く光る月が窓からさし込み、幻想的であるのと同時にどこか怪しさを感じる光
だけではない。上の階になにかあるというのに気づいた楯無の顔には自然と小さな汗が垂れ落ちていた。
「・・・・・・本気なの?」
◇
そして。時を同じくして、学生寮。
部活終わりの生徒やフリータイムを楽しむ生徒たちが一斉に寮に戻り今日という一日の最後ともいえる時間をそれぞれ過ごす。
シャワーを浴びて汗を流す者。自分の趣味に没頭する者。予習復習を行う者。
何より、食事を済ませていない生徒も多々居たので食堂に行き空腹となった腹を満たしにいく者。
この時間こそ、彼女達にとっては一日の中で最も至福の時間と呼べるだろう。
当然、箒や鈴たちも例外ではなく。明日の為に英気を養っておくという格好の良さげな理由を元に思い思いの時間を過ごす。
そして、彼女。セシリアもその一人。
謹慎の言いつけを破っているが、現在お咎め無しという事なので本人は気にせず悠々自適に過ごしていた。
「・・・。」
ゆったりと椅子に腰を掛け簡素なテーブルの上には高価に見えるティーセット一式が揃えられている。ティーセットはお気に入りのもので、実家で使っていた物を頼んで持ってこさせた一品で見た目どおり値は馬鹿にならない位だ。
そのティーセットのポットの中には芳醇な香りを醸し出すアッサムティーが入っており、香りだけでも心を落ち着かせる。
暖かい湯気を立てているアッサムをゆっくりと音を立てずに飲んでいくが、彼女の表情は何故は曇りのあるものだった。
彼女が悠々自適に時間を過ごしていたのは確かだが、アッサムティーの色を見るや表情は無表情に近いものになったのだ。
別に紅茶自体が嫌いな訳ではないし、味が気に入らなかった訳でもない。
彼女の表情の原因。それは色だ。
アッサムは他の紅茶と比べて色が違い、基本紅茶は琥珀色に近いのが普通。しかし、アッサムはそれとは違い、色合いが紅いものが多い。
セシリアが飲んでいるアッサムもその一つで色合いは紅。それも、どこか別の場所で見慣れたような色の紅だ。
「・・・・・・。」
不意に彼女は何を思ったのかカップだけを持つと、空いた方の手の指をゆっくりと暖かい紅茶の海につけて行った。
指先からほんのりと温かみを感じ、それが段々と肌に馴染んでいく。そして温かみのある紅茶の海の中をセシリアの指先は泳ぐようにかき回される。
「・・・・・・はぁ」
小さく溜息を吐く。
その吐息はまるで安堵の喜びを表したかのような息で、なにに安心したのかセシリアは紅茶に入れていた指を抜き出した。
紅茶に入れていた指を眺めながらティーカップを置いて椅子に深く持たれかかる。
「抜け切れませんわね・・・」
ポツリと呟き、今度は両手のひらを見たセシリアの目には、白く透き通った自分の肌が全く違って見えた。
アッサムのような紅い色の液体。
ドロドロとした滑りのある、人の身体から流れ続ける血。
当たれば噴水のように吹き出したあの真っ赤な血の幻覚が、彼女の目には見えていたのだ。
「ただの紅茶だというのに・・・」
そう。ただの紅茶だというのに彼女の目には時折血の色と滑りが幻覚として表れてしまう。
アッサムの紅い色が彼女の脳裏に刻まれた過去の記憶を呼び覚まし、それを媒介にして彼女の目に見えてしまう。そして感じてしまう。
紅い液体を見て、触った事によって脳裏に焼きついた紅い血の出し方。触った感触。
何もかもが鮮明に思い出されていき、やがて彼女を幻覚の過去へと誘う・・・
『オルコットさーん、居ますかー?』
「・・・!」
と思いきや、軽くドアをノックする音と行った人物の声にセシリアは引き戻された。
危なかった。あのまま行けば確実に幻覚の世界に落ちていただろう。
幸運にも引き戻された事に安心したセシリアは椅子からずれ落ちるように腰を深くし大きく鼻で息を吐いた。
緊張で火照っていた身体を感じ、額の汗を拭き取る。冷静さを取り戻したセシリアは、先ほど聞こえたドアの向こうの声に答え、鍵の掛けられていたドアを開けた。
「あ、よかった。返事がないから何かあったのかなと思ってしまいましたよ」
「山田先生・・・?」
ドアの前に立っていたのは変わらぬ笑顔と明るさが象徴の山田だった。
やんわりとした笑みを見せ、安心感をもたらす彼女の顔にセシリアは驚いた表情をしていた。フリータイムの時間に教師が学生寮に現れるというのは管理者である千冬を除けば殆ど無い事だからだ。
しかもその稀の例があるとするならば大抵生徒のよからぬ事の処分か、入学初日に一夏が滑り込みで入っていたように生徒の部屋割りについて話したりする事のみ。
そのどちらにも当てはまらないセシリアは身に覚えのないことなので一体何があったのかと尋ねようとした。
「・・・。」
しかし目線を少し下げると、山田の腰には小さな包みが一つある。
もしかしてそれか?と思ったところ、どうやら当たりだったようだ。
「実は、つい先ほどオルコットさん宛てに小包が届いたんですよ」
「小包?」
「ええ。あて先は分かりませんでしたが、英文と印からして多分本国からだと思いますよ?」
「本国・・・?」
本国からの小包と聞き、セシリアはますます訳が分からなくなっていく。
向こうが態々小包で何を届けに着たのだろう。
身に覚えという以前に小包レベルの物に思い当たる物が無い彼女の頭の中は混乱していた。
取り合えず小包を受け取ったセシリアはコレが本当に本国からの物なのかと疑いの念を抱きつつも山田に一応の例を述べる。
「・・・ありがとう御座います」
「あれ・・・違っていました?」
「・・・いえ。確かに送り先は私ですし、印判も本国で使われているもので間違いありません」
「もしかして、身に覚えの無いもの・・・とかですか?」
「まぁ、そんな感じです」
「・・・そこまで心配しなくても、一応念入りに検査をしましたので大丈夫ですよ」
安心感を感じさせる笑顔を見せる山田に、セシリアもそうですね、と本心では微塵も感じていない事を口にする。
小包の事に覚えのないセシリアは心配無用という彼女の言葉を信用おらず、包みに対して疑いの念を持ち続けていた。
だが、彼女のことなので気にしていると言えばその場が面倒になるのは明白。なので、この場は思っても居ないことを口にするしかなかった。
「それでは、私はこれで。まだ用事が残っていますので」
「はい。ありがとう御座います、山田先生」
ひとまず山田を安心させて帰らせたセシリアは、彼女が軽く手を振りながら去っていく姿を見送ると脇目も振らずに直ぐ様部屋の中に戻っていく。
小包の中身が気になって仕方ない。誰かに見られることなく中身を確かめたい。
疑いというよりも興味が先に立った彼女は包みを持って中に戻る。
「・・・・・・。」
じっと小包を見つめながら部屋の中に戻った彼女は簡素テーブルの上に小包を置き、改めて小包の全貌を見直す。
ありふれた包み紙で包まれ、紐でしっかりと周囲を固定。包み紙が剥がれたり取れたりしないように頑丈に紐が締められている。
紐の結び目も鉄のよう強固で、解こうとしても固く結ばれているので簡単に解けない。
力を込めて紐を解こうとしても結び目を引く紐が意図的に短くなっており、彼女の細い指では力を込めるのが難しく解くのは容易ではない。
「・・・ナイフで開けますか」
仕方ない、と諦めたセシリアは紐を解くのを諦めてナイフで紐を切ることにする。
鉄のように固い紐を解こうとしては時間もかかるし、指の皮膚がはがされてしまう。そんな面倒事をするよりかはナイフで紐を切ったほうが速いだろうと決断を下し、私物として持ってきていたサバイバルナイフを探す為に自分の私物が並ぶ場所へと歩み寄っていった。
「えっと・・・」
静まり返った部屋の中、セシリアは一人私物の中を散策し目的の物を探し出そうとする。
確かここに、とありきたりな言葉を口にしつつぎっしりと詰め込まれた自身の物の中を漁っていく。中身はかなり詰まっているので後で片付けるのも大変だ。
刻一刻と時間を刻む時計の針の音が自然と耳へと聞こえ始める。
しかし時計の針の音など聞き慣れている彼女には、ある意味安らぎの音でもある。
静寂の世界の中を小さな音と共に時間を刻む時計。
個人的にはデジタルよりも少し昔のアナログタイプが好みだ。
「あ。ここに・・・」
すると私物の中から漸く彼女が捜し求めていたサバイバルナイフが姿を現す。
やっと見つけたと思安心したセシリアは私物の海の中からナイフを引っ張り出すと、ナイフになにか異常はないかと確かめる。
ハンドルを握り、ナイフを取り出すと刃は光が反射するほどの光沢を見せて姿を現した。
最後に使ってからかなりの日数が経っていたので、大丈夫かと心配していたが問題はないようで、ひとまず安心したセシリア。
だが問題は切れ味が落ちていないか、また刀身が脆くなっていないか。それが刃物を使う時の問題だ。切れ味が落ちていては切りにくいし、刀身が脆くなっていれば最悪折れて事故になる。刃物は刀身が命だ。
「まぁ・・・大丈夫でしょう。一応砥いでますし」
しかし気にする程でもないとセシリアはナイフを一旦しまうとそう呟いて立ち上がる。
別にそれぐらい後で確かめればどうにでもなる筈。
そう思い、セシリアはナイフを片手に立ち上がると今は何時なのかと確かめる為に顔を見上げた。
―――が。
ココに来てようやく、セシリアはある事に気づいた。
思えばそうだ。可笑しいとは思わなかったのか、と。
ココは日本が莫大な金をかけて作り上げた人工島。ISに関する教育の為に最新の設備がココには集約されている。
衛星からの監視で学園内の様子は確認できるし、その衛星を経由して時刻を調整する事も可能。時間を無駄なく使うために特に時刻については常に最新の物に更新されて誤差をコンマ単位にまで絞っている。
また、最近の若者は円盤型の時計の時刻を確認するのに時間をかける事があるので学生寮の時計は基本全て
つまり何が言いたいのか。
「・・・・・・じゃあ・・・!」
この部屋にアナログ時計は最初から
直後。セシリアの居た部屋が、爆発を起こした。
後書き。
今になって思ったんですが、どうして自分はセッシーをこんな黒いキャラにしてしまったのだろうと後悔しています………
まぁそれでも結構人気というか、そのようなコメントをかなり頂いているので今更変えようとは思っていないんですがね。
こういうダーク系な少女が結構好きなんです、ハイ。
………ダークというよりもブラックというか
ウワ、ナニヲスルンデスカセシリアサ ギャアアアアアアアアアアアアアアア……………