IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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第三十六話です。

ラウラ編が長くなっているな、と思う方が居ると思いますが、実はもう一人のキャラについてもここでは重要となってきます。
まぁ状況からして……言わなくても分かりますよね(汗
よくよく思えば本当に欧州組は………

さて。ラウラ編も続く本編ですが、相手はラウラ達だけではない…?
一体どうなるのか。果たして一夏は無事に生き抜けるかー(棒読み)


それでは、誤字は時折ご愛嬌。
「それでも良い!」と言う方は
第三十六話、お楽しみ下さい。



No.36 「放たれた存在(もの)」

 

 

 

時間(とき)は現在からかなり遡り(さかのぼり)、数ヶ月ほど前。

とある一室での会話―――

 

 

 

 

「―――ナノマシンの投与は?」

 

「順調です。セキュリティ解除もあと二分ほどあれば完了。データの書き換えを行えます」

 

「・・・本人は?」

 

「はっ。依然として、ご命令どおりに」

 

「結構。少し様子を見に行きます」

 

 

 

 

その部屋を一言で言い表すなら、尋問部屋というのだろう。

コンクリートがむき出しの壁。滲んだカビとシミ。漂う腐臭。

錆のある鎖付きの手錠。

 

まるで十字架で天に召されるかのように、そこには一人の天使が繋がれていた。

そう。羽をもがれた、その使命すらも忘れてしまった、悲しき天使。

 

 

 

「・・・気分はどうかしら、《―――》」

 

「―――はい、《――――》」

 

「・・・ナノマシンの状況は」

 

「依然としてグリーン(正常)。現在、システムを起動させている状態です。なので、問題はないかと」

 

「・・・・・・良い気味ね。あのまま死んでくれれば私も彼も清々したでしょうに。それなのに、お前はノコノコと・・・」

 

「――――。」

 

「・・・まぁいいわ。貴方には最期まで私達のために役立って貰うわ」

 

「―――はい」

 

「彼は生易しい事を貴方に吹き込んだけど、私は違う。正直、ああいうスター気分を味わっている若者を見るのは嫌いなの。反吐が出るほど、ねぇ?」

 

「――――。」

 

 

 

 

―――やめて

 

 

「ついでに言えば、私は貴方の顔を見ることも嫌い。死ぬほど嫌いなの。私の全てを奪った奴の・・・その血が流れ、現れていると思っただけで」

 

 

―――お願い。もう・・・やめて

 

 

「だから、正直今回の話は丁度良いと思ったわ。私は得して一石二鳥・・・いえ。貴方も最悪消えるのだから・・・一石三鳥かしらね」

 

 

 

―――もう、いや

 

 

―――いやだ

 

 

 

「ナノマシンを使って強力に刷り込ませなさい。この娘の精神がどうなろうともいいわ。あの生意気な小僧を亡き者にするまでなら」

 

「はい。現状の量ではとてもではないが足りませんので、使用量を増やす事になりますが・・・」

 

「それぐらいは構いません。言ってくれれば補充はします」

 

「ありがとう御座います。直ちに取り掛かります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――もう、もうあんなことは・・・!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――任務を果たすのよ。《―――》。大切なのは、何に従う(忠を尽くす)か。貴方は、私に尽くせば良いのよ」

 

 

「―――はい――――私は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!!!!」

 

 

「・・・・・・シャル?」

 

 

「・・・い、イチ・・・カ?」

 

沈み込むように落とされていた思考の海。そこからすくい上げたのは一人の少年の手だった。

周囲の色すらも見えなくなるほどに集中し、沈んでいた意識を救われたシャルは荒々しく息を吐き全身から滝の様な汗を吹き出させていた。

背筋は冷たく、まるで恐怖で一面を塗りつぶされたかのように。

本当に海のそこに沈められていたかのように、息を大きく吐き出し。

身体中に浸透しようとしていた黒いなにかを、呼吸と共に吐き出させた。

 

「・・・大丈夫か?真っ青だぞ」

 

「―――ゴメン。ちょっと嫌な事を、ね」

 

「・・・・・・。」

 

心配というよりも不安の色を見ていた一夏は、本当に?と再度尋ねるが、あまり心配させたくないのか。強がりを言い、大丈夫。とシャルは作り笑いで答えた。

 

「・・・深呼吸して気を落ち着かせろ。まだ時間はあるんだ」

 

「うん・・・」

 

鼻と口から目一杯空気を肺へと吸い込ませる。

コンクリートとホコリのにおいが酸素と一緒に入ってくるが、今はその臭いでさえもどこか安心する。

大丈夫。あれは夢だ。

自分にそう言い聞かせ、自己暗示をするかのように考えるシャルは清清しくもモヤのかかった気分という矛盾した状態のまま、自然に。ゆっくりと最後の深呼吸を行うのだった。

 

 

 

 

「・・・・・・。」

 

『彼女、大丈夫かい?』

 

「もし無理なら麻酔銃(mk.2)で安全な場所に眠らせるさ」

 

シャルの居る場所から離れた位置で、会話する一夏とオタコンは敵の警戒をしつつ次の行動の準備を始めている。

被害を最小限に抑えられる場所。恐らくは彼女達も仕掛けて居ないか、仕掛けが破壊されているだろうという場所に彼らは校舎を眺めていた。

以前に突如急襲し一夏に襲い掛かったメタルギアRAYと戦った場所である閉鎖されたアリーナの観客席に彼らは様子を窺っていた。

 

『残弾は?』

 

「そこまで使っていないからな。二発程度、だと思う」

 

『一応念のためにって思って持って行かせた予備の武器だし、そこまで使用していないのは当然かもね』

 

「当たり前だろ。誰が好き好んで教室内の生徒全員眠らせたりとかするっていうんだ」

 

『そんな事言ってないさ。けど、意外だよ。こんな事態でこそ、そいつの出番だっていうのに』

 

「生憎と、今はマガジンを持ってきてないからな。多分、枕の下だ」

 

今の所は大丈夫だろうと観客席の一つに一夏は腰掛ける。

少し足に疲労があったからだろうか、無意識に座ってしまい疲れを溜息と共に吐き出していた。

 

『SOCOMはどうなの?』

 

「校舎での戦闘で三つは消費したかな。お陰で残弾が心もとない」

 

『最低限の装備しか持っていかなかったからね。まさか学園内でテロを起こすなんて誰が考えるもんか』

 

「・・・といって実際マジに考えた奴が、今俺たちと対峙してるんだからな」

 

『女の恨みって恐ろしいんだね』

 

「ああ。ああいうのは特にな―――そうだ。オタコン、アイツについて調べはついたのか?」

 

『ん、ああ。そういえば言うのを忘れていたよ。今、iDROIDにデータを転送した。一応今の時点で調べがついたデータだけだけど、十分な筈だ』

 

Mk-Ⅳから転送されたというデータを確かめる為、一夏はiDROIDを起動。投影式モニターに溢れ出るように表示されたデータに目を通し、一夏は口元に手を置いた。

 

「・・・・・・。」

 

『確かにつながりはあった。けど、それがこういう理由だったとはね』

 

「・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ。出自不明。ドイツ軍には三年前から所属。階級は少佐。なったのは・・・一年前―――」

 

『しかも、当時の訓練教官を見てくれ』

 

「ッ―――」

 

『彼女は当時、君の姉である織斑千冬に訓練を受けていた。期間は三ヶ月。けど、彼女との関係はその後も帰国するまで続いていたらしい』

 

「・・・ら、しいな。しかもあの人(千冬)が特別訓練教官になった時期は・・・」

 

『ああ・・・理由は警察と軍への協力の礼という事になってるけど、その為に向こうは問題児を彼女に押し付けたらしい』

 

「それがアイツ(ラウラ)か」

 

何かを察したのか、オタコンは僅かな間に言おうとしていた言葉を飲み込むと近しい話につなげて会話を続けた。どうやら一夏のほうは勘付いていなかったのか、何の疑いもせずに彼の言葉を受け入れた。

 

『そう。しかし、予想外に彼女が力をつけたことは向こうも意外だったんだろう。色々と揉めていたけど、最終的に専用機。つまり代表候補の椅子は彼女に回ったんだ』

 

「・・・大義名分はその時に手に入れていたってことか」

 

『椅子を手に入れたのは彼女が帰国した後の事らしい』

 

「その後も付っきりでか」

 

『の、様だね。軍のサーバーにアクセスしてみたけど、殆ど付っきりで居る映像や画像が多くあったよ』

 

「・・・・・・。」

 

 

傷を埋めたいが為に彼女達はそうしたのだろう。

見当がついていた一夏は、俯いたまま自分の手を見つめていた。

 

薄々と、いや。あの時、自分が決心したときから既に分かりきっていた事だ。

彼女を巻き込みたくないとばかりに、身勝手に決別といういい訳を言った自分。その所為で彼女がどれだけ傷ついたのか。どれだけ悲しんだのか。

正直、今の彼にはその感情は果てのない地平線と同じ様に感じられた。

分かる事の出来ない、分かるわけが無い悲しみ。それを分かる、感じるというのがどれだけ浅ましい言い訳なのだろう。

恐らく。あの時、袂を分かったときから、もうその奥深さを知ることは出来なくなった。

 

「――――。」

 

全ての原因は他ならぬ自分。

引き金はあの時の決別。それが始まりととなり、今に至っている。

彼女を傷つけた事も。彼女(ラウラ)という存在を作ってしまったのも

他ならぬ自分だ。

 

 

「―――だからだな」

 

『・・・?』

 

「結局、全てを纏めれば根幹はひとつ。あの時、俺が決断したばかりに、この全てが始まっちまった。この騒動も。アイツも。全ては俺が原因だ」

 

『・・・・・・。』

 

「だから―――」

 

 

だから。罪は背負わなければならない。

罰は負わねばならない。

 

冷たくも迷いの無い目で決心を固めた一夏は、爛々としたかつての目を呼び覚ました。

 

画面越しからも分かる殺気に背筋を凍らせたオタコンは瞬時に理解した。いや、直感でわかってしまった。

殺める事に迷いを持たない、あの時の彼が戻ってきたと。

 

 

「・・・オタコン。ココからなら、コイツで届くよな」

 

『ッ・・・DSR-1―――』

 

マグナム弾を使用する狙撃銃。かつてはカエル兵も使っていたが、これはスネークが南米でドレビンから買ったものだ。が「安くしといてやる」と言って半ば無理矢理買わされたことはまた別の話ではある。

DSR-1に使われるマグナム弾はパラベラム弾(9mm)とは違い、一発の威力に重視した弾で対極的位置にある弾種。

狙撃銃は一撃必殺を基本としているので当然と言えば当然なのだろう。

しかし、そんなものを撃てば彼女の頭蓋骨は間違いなく砕け散るか、それで済むのかでさえも危うい。

最悪、彼女の頭は粉々になってしまう可能性だってあり得る。

 

「心配すんな。機体(白式)を通して使うから、殺しはしない」

 

『殺しはって・・・何処に撃つつもりだい?』

 

「よくて右手。最悪、両手は使えなくする」

 

『ッ・・・』

 

「ま、場合によっちゃ四肢全部は持っていかせて貰うがな」

 

『・・・容赦ないな』

 

「―――。」

 

 

オタコンの言葉に答えず、始めるぞ。と言った一夏は白式を展開しようとDSR-1を持って広い場所に移動する。狭い所で展開してもつっかえるだけだと彼の勝手な解釈があるからだろう。しかし、実際は出来るだけ狙撃ポイントから近い場所で展開しなければ、向こう(黒ウサギ)には反応でバレてしまうからだ。

狙撃ポイントから近くで白式を展開し、狙撃を行う。

ボルトアクションでマグナム弾を装填し、ロックを外した一夏は狙撃ポイントへと歩き始めた―――

 

 

「・・・ア、レ?」

 

 

「位置は・・・あそこだな」

 

 

 

 

「―――ナンデ?」

 

ゆらりと、不気味に立ち上がった少女が虚ろな目で、自分と手に持つ銃を捕らえていたと気づかずに。

 

 

「―――イチカ」

 

「ッ!シャル、大丈夫なのか?」

 

「――――ソレ」

 

「ん?これ(DSR-1)がどうかしたのか?」

 

 

 

 

「――――――ソレ・・・ドコデテニイレタノ?」

 

「・・・・・・手に入れたって・・・これは買い取ったっていうか―――」

 

『―――待って、イチカ。なにか様子が変だ』

 

「えっ?」

 

Mk-Ⅳを通して聞こえるオタコンの声に一夏は改めてシャルの表情を見る。

――確かに。先ほどと違い、虚ろで生命感がない。

普段見ていたあの美しい紫の瞳は、今は濁ってしまい他の絵の具の色が僅かに混ざり合ったかのように混沌とした色を見せていた。

 

 

「――――ソレ。ドコデウバッタ(・・・・)ノ?」

 

「奪った・・・!?何を言って―――」

 

「ソレ・・・ワタシタチ(・・・・・)ガ、ツカッテイタ銃・・・ワタシタチノモノ―――」

 

「・・・私・・・たち―――?」

 

私たち。その言葉に一夏は心臓に何かが突き刺さるような痛みを感じた。

言葉の意味を自分が知っている。

 

―――違う。知っているが思い出したくないだけ。

本当は覚えているが、意識的に封印したのだ。思い出したくも無い、その記憶を。

その答えを。

 

 

「カエシテ・・・イチカ・・・」

 

「・・・シャル、お前は・・・!?」

 

『イチカ、彼女を止めるんだッ!』

 

「止めるって・・・眠らせるしかないか!」

 

様子が可笑しいと見たオタコンは一夏に彼女を止めるように言う。

気軽に言うな、とぼやく彼だが、同意見なのも確かだ。

今のシャルはどう見ても可笑しい。何か様子が変だ。

彼の本能が危険信号を発し、一夏は腰に刺していたもう一つの銃であるmk.2(麻酔銃)を抜かせると瞬時に照準をシャルに合わせる。

彼女には悪いがと、気分の悪さを感じられたが今はそんな事を言っている場合じゃないと彼は消音された銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「カエシテ・・・ミンナヲ・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

しかし。次の瞬間。正面に立っていたはずのシャルの姿が視界から消え失せた。

 

 

「――――ッ!?」

 

 

そして。次に気づいたときには彼の横にその姿があったのだ。

 

(速いッ――!?)

 

反射的に半歩退いた一夏は、手に持って居たmk.2を手放し重力に身を任せて倒れていく。

彼の居た場所、手にあったmk.2は次の瞬間には銃身が切り裂かれ、彼の背筋に悪寒を走らせた。

 

(麻酔銃が・・・!)

 

切り裂かれた麻酔銃の少し先。虚ろな彼女の手にもたれていたのは、かつて見たことのあるタイプのマチェットだった。

 

(アレは・・・!)

 

右手に持たれたマチェットが一夏の血管を切ろうとしたが、間一髪のタイミングで反応した彼の麻酔銃のみが餌食となり、二人の間の地面へと落ちていく。

 

「ッ・・・シャルッ!?」

 

「―――。」

 

彼女の勢いは止まらず、マチェットの刃を外側に構え左手に持っているFive-seveNを握り締め、再度一夏へと肉薄する。地面を蹴ったそのスピードは一気に間合いを突き詰め、再びマチェットの刃が届く範囲にまで近づく。

迫りくる彼女に今度は反応できたと一夏は思っていたが、動きが間に合わずまたも一方的に攻撃を受けるような流れになってしまう。

対応しようにも間合い近く、動きが素早い為に回避するほかなく、無情容赦ない攻撃を続けるシャルに一夏は退いて回避するしかない。

 

「くそっ・・・!」

 

このままではいずれやられる。いや、その前にタイムリミットが来てしまう。

回避で精一杯の中、僅かに残った余裕さで考える一夏はこの状況を打破するために隠し持っていた武器を使おうとズボンのポケットへと手を突っ込んだ。

そして、次の瞬間。そのまま手に持ったグレネード(・・・・・)を彼女に反応してもらうようにマチェットの間合いへとほうり投げた。

 

「―――ッ!」

 

(よしっ・・・!)

 

刹那。予想通り、シャルは目の前に現れたグレネードをマチェットで切り裂いた。

これが一夏の策であると、見事にはめられたと知らずにだ。

 

彼の投げたのはスモークグレネード。つまり煙幕だ。

 

しかもピンは外れて爆発寸前だったのでシャルがマチェットで切った事によってそこから大量の煙が吹き荒れた。

 

「――!?」

 

(後は――!)

 

突然の煙に無情ではあったが驚いたようで、僅かにだが足の勢いを殺した。闇雲に動けば向こうのペースに填まるとわかっているからだ。

しかしその相手は煙の奥へと姿を消してしまい、何処に行ったのか。何をする気なのかさえも分からない。この間に武器を取り出すか、逃げるか。考えようは幾らでもある。

しかしその考えは考える時間があればこそのこと。

考える時間さえもなければこちらのペースは早々に崩れはしない。

 

シャルは一夏が消えた場所へと引き金を引き、弾幕を張る。

最後に見たとき、彼はDSR-1を持っているだけでSOCOMは恐らく腰に刺していた。その直後にmk.2を抜いたのでもし考えられるとするならば今のうちにSOCOMを抜くはず。

ならその前に攻撃で足を止めれば、相手は反射的に回避する。

 

その隙に再接近し、マチェットで攻撃すればいい。

 

 

 

 

「―――って思うだろうな」

 

 

「――――ッ!!」

 

それは大きな間違いだ。彼は銃を抜こうとも、逃げようともしない。

足を踏みしめ、構えを取り狙いを武器に定める。

丸腰のまま向かってきたシャルに応戦しようとしていたのだ。

 

手に持つ武器だけが戦いではない。拳こそ。体こそ人間の最大の武器だ。

 

 

「ふっ・・・!」

 

煙の中から姿を見せた瞬間を狙い、左手を伸ばす。

視界が取り戻されたばかりで周囲の状況を把握しきれていないシャルは、奇襲とも言える一夏の手に反応しきれず。彼女の右手は流されるがまま、風を切って振り上げられた。

 

「―――ッ!」

 

発勁。手のひらを使い直接的ダメージではなく怯ませたりするのが目的の攻撃方法。

しかし一夏はそれを使い彼女の腹へと当てたわけではなく、右手首へと当てた。目的はあくまでマチェットを手から離すことだ。

 

「ッ・・・!」

 

マチェットを手放されたシャルは瞬時に左手のハンドガンを構える。

武器はマチェットがなくなっただけ。まだ左手(ハンドガン)がある。冷静に機械の様に動く彼女だが、それが過ちだった。

機械的すぎたが故に一夏に行動を先読みされてしまい、すかさず右手で手首を押さえられてしまったのだ。

 

そこからはもう一夏のペースだ。武器を全て押さえられ、両手は短時間ながら使えない。

無防備となった彼女の脳は次の手段を検討していたが、時間が足りず材料も少ない。

脳裏には敗北の文字が浮かび上がった。

 

 

 

「―――やっとか・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

敗北。すなわち死。

脳裏に嫌と言うほど鮮明に表示(・・)された二文字に、なんの感情も感想ももたず。彼女は言葉の意味を受け入れた。

このまま自分は死ぬのだと。その運命を自分勝手に受け入れた。

 

 

なのに。どうして自分は生きているのだ。

 

「――――。」

 

小さく呼吸をする。恐怖はその間に消え去っていった。

いや。上書きされたと言っていいのか。

冷たくなるはずの身体に火照った熱が伝わってくる。

汗と鍛え抜かれた肉体。それが自分の身体に触れられた。

 

ニオイも、感触も。全て違っていたはず。

 

なのに。これほどまで安心したのは、何時以来なのだろう。

 

 

機械(ナノマシン)と本能に挟まれた中。シャルは矛盾した頭の中とは違い、感覚、心で感じていた。

自分を腕一杯に抱きしめる彼の暖かさを。

 

 

「―――イチ・・・か・・・」

 

「・・・だいじ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。それを直ぐ様、冷たい機械が再び意識を塗りつぶさんと頭の中を暴れまわる。

彼を殺せと、人と機械が入り混じったシャルの頭の中は酷い激痛と吐き気が襲い掛かった。

 

 

「アッ・・・があっ・・・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

「ッ!!!オタコンッ!!!」

 

『僕ッ!?』

 

マニピュレータ(電気ショック)で・・・速くッ!!」

 

『わっ、わかった!』

 

苦痛と吐き気。狂声(さけび)と悲鳴。

後悔とトラウマ。そして恐怖と快楽(・・)

 

複雑に、それでもシンプルに吹き荒れる感情の嵐が頭の中で起こり、まるでグチャグチャにかき回されているかのような感覚が彼女の頭から始まり、全身へと行き渡っていく。

皮膚の中がミキサーで回されているか、無意識に筋肉が暴れまわっているかのように全身が四方八方に引き千切られるかの様に。命令する意思と、抑制しようとする感情がぶつかり合い、彼女の中で大混乱を起こしていた。

 

まるで脳の中身が赤子であるかのようにやたらと暴れまわるその身体を必死に彼女を押さえ込む一夏は、両腕にありったけの力を込めて身体を固定させる。

 

 

「あああ・・・あああああああ・・・ああああああああ―――!!!!!!」

 

抑制できない感情にシャルは、押さえを振り払おうと暴れ狂う。

そして一夏の首筋へと、白く澄んだ歯で噛み付いた。

 

「ッ・・・おまっ・・・犬とかじゃねぇんだっ・・・!!」

 

「ッ――――!!!!!!」

 

「ッ・・・!!」

 

目線を落とした先。噛み付きながらも悲痛に叫ぶ彼女の顔を見て、一夏はその先の言葉を詰まらせた。

苦しく叫ぶ彼女の顔は虚ろな、澄んだ瞳は小さな雫をこぼしていた。

そこから伝わる一言。

 

「助けて」といわんばかりに。

 

 

「ッ・・・オタコンッ!!!」

 

刹那。一夏の声と共に小さな相棒は、彼女へと電撃を流した。

 

「ッ――――――」

 

肌に直接伝わった電撃に神経を伝って脳へと行き渡り、流れていた機械(ナノマシン)はフリーズを起こしてしまう。同時に、脳に突然の電撃が走り彼女の意識は伝わった電撃が放電されるのと共に失われていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・。』

 

「・・・・・・フリーズしたか」

 

『フリーズしたか・・・じゃないわよ・・・どうしてくれるのよ!!人形が壊れて、あのガキも殺せなくて、ISも手に入らない!!約束が完全に違うじゃないの!!!!』

 

投影ディスプレイのモニター越しに剣幕をたてて叫ぶ女性の声に、ラウラは沈黙したままもう一つのディスプレイを見つめる。

 

「・・・なにを言うか。フリーズしたのは其方が無理矢理再起動を起こさせたからだろ。あの状態で無理矢理ナノマシンを使えば、本人の意識と衝突してバグ(暴走)が起こるのは当然の事だ」

 

『ッ・・・』

 

「それに、投与したナノマシンは投与した任人間の技術等を使って戦わせるもの。自動戦闘(オートバトル)ができるものではない。それぐらい知っていて当然の事だと思ったのだがな?」

 

『こっ・・・小娘が!!一体誰のお陰でここまでの用意が出来たと―――』

 

「思い上がるのも甚だしいな、婦人(・・)。そちらだって、私達の作戦がなければ今頃失敗していたのは明らかだ。それをあそこまで持っていけたのだぞ?寧ろ我等に感謝するべきなのではないか」

 

『ッ・・・・・・!!!』

 

 

 

 

それに。これで終わりではない。

 

不敵に呟いたラウラは目の前に映る映像に苛立ちを見せ、それを愉悦に変えようとディスプレイに浮かぶ決定(Enter)キーを静かに押す。

 

 

 

 

その直後に、心が安らぐ一発の発砲音を耳にして―――




後書き。と言う名の言い訳。

ぶっちゃけラウラ編は他の面々よりもかなり長い目です。
二人まとめてですし、もう一人関わる人物が居ますからね。

あと、ラウラがここまで外道に走っていますが、自分はラウラは嫌いではありません。
寧ろ好きなほうです(真顔)
その為の救済措置(ゲスッチ)だってキッチリと考えてるのさ!ね!副指令!!

カズ「え、俺!?」

一夏「任せた、副指令」

束「ガンバレー♪」

カズ「超絶他人事ぉぉぉぉぉぉ!?」
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