IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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第三十七話です!

IS要素がキャラだけとなってきましたがお気になさらず!
一応ISですから(オイ
さて。このラウラ編。まだ少し続きますが一応終盤へと向かいつつあります。
果たして結末は、というありきたりな期待でどうかご勘弁を(汗

では対黒ウサギ部隊編は続きます。
今度はラウラがある兵器を投入したり………一体幾らの資金を持っているのでしょうかね、彼女たち。

それでは、誤字は時折ご愛嬌。
「それでも良い!」と言う方は
第三十七話、お楽しみ下さい。


No.37 「夜天の下」

 

 

銃声が鳴り響く直前のこと。

 

突然暴れだしたシャルに襲われた一夏は、彼女を物理的に押さえ込む事でMk-Ⅳに電気ショックを流させ、一時的にだが気絶させた。

電圧は低く、僅かな間だけ気絶させる程度の威力なので本人へのダメージは極めて低い。

その為、気絶するとしても一分もない筈だ。

 

 

「・・・ふうっ」

 

『なんとか、気絶してくれたようだね』

 

「ナイスプレイ、オタコン」

 

無事な状態で彼女が気絶したことに、顔色を窺って確かめた一夏はホッと胸を撫で下ろす。

突然のことだったが、彼女か無傷で無事であると言う事に変わりはない。不思議と安心感を感じ、疑問よりも優先して浮かんだ感情に戸惑いつつも、取りあえずはと近くの椅子に彼女を座らせる。

 

「よっ、と・・・」

 

『君は大丈夫かい?』

 

「俺か?特に傷は――――――頬を掠めたぐらいかな」

 

今の今まで気づいていなかったのだろう。頬には小さな一本の赤い線が引かれて、そこからは赤い鮮血が滴り、音もなく流れていた。

切られた場所を手でなぞり、漏れ出る血を拭き取るがそこからまた新たに血が流れてきてしまい、小さく舌打ちをする。

 

「―――舐めとけば直る」

 

『だといいんだけど。にしても、これは一体・・・』

 

「俺が聞きたいさ。どうしてコイツが・・・」

 

『・・・・・・。』

 

目線を落とし、彼女が倒れたときに落としたものを見る。

一本の軍用マチェットと一丁のハンドガン。

訳アリの企業の娘だというので、彼も始めは銃ぐらいは多少無理にでも納得できた。自衛、牽制、理由は様々だ。

だがマチェットはどうだろうか。たかがそれだけの理由でマチェットを持つ理由があるか?

誰だって納得できない事だ。現に彼でさえも―――

 

「・・・・・・なぁ、オタコン」

 

『・・・何』

 

「さっきのシャルの様子・・・あれ・・・まさかとは思うが―――」

 

『考えは同じさ。僕も正直半分疑ってる。けど、こんな事になるのは多分・・・』

 

「・・・・・・だけどさ―――」

 

『“愛国者達”が消えたからってその時のシステムや規範。暗黙のルールが消えたわけじゃない。時間をかけて変わるものもあれば変わらないものだってある。だから・・・』

 

「ッ・・・」

 

 

すると。二人の目の前で気を失っていたシャルが意識を取り戻したのか呟くように呻き、重く閉ざされていた目蓋を開けた。

 

「・・・あれ・・・イチカ?」

 

「・・・気が付いたか」

 

「一体・・・」

 

まだ頭がぼうっとしているのか、シャルは額に手を当てて少女らしからぬ顔を見せていた。

眉を寄せて作ったシワは流石の二人も声が出ず、そこまでなのかと思い今更ながら彼女を気絶させた事を後悔していた。

 

「・・・気分は」

 

「―――良いとはいえないカナ・・・ちょっと頭も痛いし・・・なんだか身体がだるいっていうか・・・殆どいう事を聞かないっていうか・・・」

 

「・・・・・・。」

 

今聞くべきなのだろうか。苦しい表情をする彼女に一夏は申し訳のない顔で目を逸らした。

今更戸惑うのか?と心の底で自分が自分に問いかける感じに否定する。

聞くか聞かないかは今はまだ問題ではない。今は彼女の様子に気をかけるのが優先だ、とその事を先送りにして再びシャルと向き合う。

 

「なんか・・・頭の中がほーっとする・・・何があったか・・・何があったの?」

 

「・・・お前が倒れた。急にな」

 

「・・・・・・。」

 

『・・・・・・。』

 

苦し紛れの言葉を口にした一夏は出来るだけと思い作り笑いを見せる。

だが、シャルはまだ本調子ではないのかむせ返るような小声で笑い始めてしまう。

一体なにが可笑しいんだと、言わんばかりの一夏は彼女と目を合わせる。それが彼にとっては都合の悪いものであると気づかず。

 

「イチカは嘘が下手だね」

 

「―――ッ」

 

「だって・・・下手な人って嘘つくときは何時も目を逸らすんだよ」

 

「・・・・・・。」

 

確かに、と自分の行動に頷く。訊かれる前だが、その時既に一夏は彼女に対しその時の質問の言い訳を考えていた。真実を言おうとはせず、ただ避けて彼女の為にと自分にも嘘を言ってだ。

その時に、彼は嘘を用意したときに既に目を逸らしていた。

一度たりとも目を離さなかったシャルは、それを見逃さずに嘘をついていると察し、迷う事無くそれを突きつけたのだ。

 

「・・・シャル、俺は―――」

 

「―――それに」

 

「ッ・・・」

 

「・・・僕も嘘をついたし―――ね?」

 

しかし彼女は直後に自分も嘘をついたと言い出し、涙を流しそうな笑みを見せる顔と次々と驚くことを言われてしまった一夏は言葉を失ってしまう。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・ゴメンね、なんだかイチカが悪いように言っちゃって・・・」

 

「・・・いや。実際、嘘をついていたのは本当だ」

 

「・・・・・・。」

 

 

「・・・お互い、嘘だらけだな」

 

「・・・そうだね」

 

そう。自分も彼女も、全身を嘘で塗りたくっている。

名前も素性も経歴も、能力も。

何もかもに嘘をつけ、これが本当というものは一握りだけしかない。

手のひら程度しかない真実をそれだけで自分の真実と言えるだろうか。

 

開き直ったように笑みを見せて言う一夏の言葉に、不意を突かれたシャルは小さく笑う。

違いない。全くもってその通りだと、彼女も認めてしまった。

 

 

「けど。互いに嘘は下手だ」

 

「・・・うん」

 

だが。それはもう必要ないのだろう。

正直者とは言えないが、自分たちは嘘をつくのが下手だ。

それは互いに認めている。互いに知っている。

だから―――もう必要ない。

 

 

「―――シャル」

 

「・・・なに?」

 

「・・・俺も、話すよ。全部」

 

「・・・。」

 

「まだ勇気はでないけどさ。決心はついた。これが終わったら―――お前にも全部打ち明けるつもりだ」

 

「・・・イチカの・・・事を?」

 

「ああ。隠していたことを、全部」

 

もう要らないのだろう。

もう意味はないのだろう。

嘘という壁で、今まで自分から関わる事を断ってしまっていた自分。

壊すのも開けるのも。結局は自分のことだ。

不思議と決断できてしまった一夏は自身でも驚いている。

――違う。こうして出来るのが普通なのだろう。

ただ自分はそれを心の底で拒絶してしまっただけだ。

 

関わらせたくない。危険な目にあわせたくない。

そんな軽薄な言い訳を壁にして、自分は拒絶していただけだ。

 

だが。もうそれは要らなくなる。

こうして決断した自分が、今。その一歩を踏み出そうとしているのだから

 

 

「だから・・・それまで待っててくれ」

 

「・・・。」

 

立ち上がる一夏は、その一歩一段は簡単に踏めるものだと改めて気づいた。

今までなにを戸惑っていたのだろうと馬鹿ばかしく思い、清清しくも感じた。

深呼吸をし頭を切り替えた一夏は、その壁の破壊する為に一歩を踏み出す―――

 

 

筈だったが。それを後ろからシャルがズボンの裾を引っ張って止めてしまう。

 

 

「・・・シャル?」

 

「イチカ―――」

 

頭を抱えるような表情に再びなりつつあった彼女に、一夏は思わず振り返ってしまう。

また気分が悪くなったのだろうか。そう思い、再び彼女のもとに寄り添うが、どうにも先ほどよりも様子がよくはなかったようだ。

 

「・・・頭が・・・」

 

『・・・。』

 

「・・・大丈夫か?」

 

「イチカ・・・ごめん・・・」

 

「・・・シャル?」

 

「―――行かないで」

 

突然、まるで子供が親に一人ぼっちが嫌だと言わんばかりの表情をするシャル。

その彼女の様子に一夏はMk-Ⅳへと目を落とし、どうする?と目で尋ねていた。

 

『・・・・・・。』

 

当の本人も分からない事をイキナリ振りかけられてもどうにも出来ない。

カメラアイのある頭部を横に振り、返答するMk-Ⅳに一夏はどうするべきかと彼女の様子を窺う。

ついて行かせるという手もあるが、その場合には彼女も巻き添えを喰らってしまうことの考えられる。置いて行こうにも、本人がこの通り嫌がっているので元より無駄なこと。

ならば、ついて行かせるが出来るだけ安全圏の場所に隠れさせるというのはどうだろうか。

幸い、このアリーナは以前の戦闘で激しく崩壊しているところが多く、瓦礫の山はそこら中に転がっている。基盤についての不安が残るが、それが彼女の願いと自分の目的も果たせる考えだ。

考えを決めた一夏はそれを伝えようと彼女に目線を合わせた

 

「・・・・・・仕方ない。ついて来る―――」

 

 

「―――駄目」

 

「・・・?」

 

「イチカ・・・行って(・・・)―――」

 

「―――行ってって・・・お前さっき」

 

が、今度は真逆。一人で行ってくれと言い出したシャルに溜息を吐いて呆れてしまう。

ついさっきは「行かないで」と言ったのに対し、今度は「行って」と言い出す。一体どっちなんだと苛立ちが沸きそうになるが、まだ本調子かどうか分からないだけなんだろうと思い気持ちを抑える。

 

だが、それ以上に彼女の様子が先ほどよりも変であると言う事を、この時一夏は気づけなかった。

 

 

 

「ち・・・違う・・・違うの・・・イチカ」

 

「・・・・・・。」

 

 

「違う・・・違う違う違う違うチガウチガウチガウ―――」

 

 

『イチカ、彼女の様子が可笑しい。やっぱり彼女じゃなくて、彼女の()に原因があるのかも――』

 

「中―――中って・・・精神じゃなくて・・・・・・オイ。オタコン、まさか・・・!」

 

『最初は僕も精神的なものが原因だと思ったさ。けど、これで確信した。こんな事が二度も起こるなんて早々出来るモンじゃない・・・!』

 

 

 

「イケ、イクナ、イケ、イクナ、イケ、イクナ―――」

 

 

 

まるで機械が故障したかのように言葉を繰り返すシャルに、一夏は頭の隅で考えていた考えが一気に浮かび上がってしまう。それは、先ほどまで彼の中では二つに分かれてどちらが正しいか分からなかった事実(・・)。どちらかが正しいのか。どちらも正しくないのか。

答えは今、正に導き出された。

 

「シャル・・・!!」

 

 

「イチカイチカイチカイチカイチカイチカイチカイチカイチカ―――」

 

 

「オイッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――マタ、アエタ。オリムライチカ

 

 

 

「ッ・・・!!!」

 

「会えた・・・また・・・あの時・・・鉄の・・・避難所(・・・)―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――外側の避難所(アウターヘイブン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。その言葉が引き金(トリガー)となり、一発の銃声が彼らの間で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

画面越しにマズルフラッシュを見ていたオタコンは、一瞬何が起こったのか全く理解できなかった。

輝く火の光。吐き出された薬莢。回転し、一直線に飛んでいってしまう弾丸。

そして。

肉を抉る音と、それによって僅かに吹き出した血。

 

 

 

 

 

撃たれたのは一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――え」

 

 

「――――――へ?」

 

 

 

誰も分からなかった。その場にいた誰もが。何がどうなっているのか。全く分からなかった。

突然すぎる出来事に思考は停止し、目は見開き、身体の全ては心臓を除き動きを止めてしまう。

ただ一つ。その中で金属の薬莢だけは動き続け。静寂の中、地面へと落ちていった。

 

 

 

「――――シャル?」

 

 

「――――――。」

 

 

「どうし、て―――」

 

撃たれた一夏はそのまま重力に従い、地面へと崩れ落ちていく。

しかし腰の辺りが持ち堪えたのか、後ろへと倒れずに彼の身体はシャルの方へと倒れていった。血の滲んだ部分をそのままに、彼はシャルへと持たれた。

 

 

 

虚ろになっていく目。小さくなる呼吸。腹部の辺りに感じる生暖かい温もり。

そして、何度も臭った血の臭い。

全てを知り、受け入れた瞬間。

シャルの悲痛な叫びはアリーナを飛び出し、彼女が聞こえるほどのものだった。

木霊した叫びに、無情の顔をしていたラウラは口元を歪めた。

 

この上ない満面の愉悦の笑み。その片鱗を見せる彼女の心中は高まる興奮に抑えきれないものとなっていた。

 

 

 

 

 

『―――は・・・あはっ・・・あはははははは・・・』

 

「・・・・・・。」

 

『あっはははははははははははは!!!!死んだ死んだぁ!!あの生意気なガキが、ゴミ娘に撃たれて死んだぁ!!!』

 

しかしその近くに映し出されている投影式ディスプレイには、それ以上に堪えられなかった一人の女性の笑い声が、スピーカー越しから五月蝿いほど聞こえてきていた。

相当満足していたのだろう。一分近くはその音量を保ち笑い声を上げていた。

 

『はははははははは!!ゴミでもやれば出来るじゃない!!流石はゴミねぇ!!人を騙すのはお手の物かしら!!』

 

「・・・さて。どうかな、それは。実際(シャル)はああして泣き叫んでいる。演技ではなく・・・本当のアクシデントらしいな」

 

『どうでもいいわ、そんな事!!それよりもホラ!!さっさとあのガキのISを持ってきてらっしゃい!!あんな使えないゴミと一緒に処分なんて真っ平よ!!』

 

興奮したままで話す女性に対し、ラウラは笑みを見せてはいた。が、それは直ぐに消えていき、再び冷静な態度の彼女に戻っていく。彼女にとって、今聞こえる女性の声は五月蝿くて仕方ないのだ。

 

「・・・そういえば、貴方の目的はあの男のISの入手・・・だったな」

 

『当然よ!!篠ノ之束が製作したと言われている最新技術の塊!!それさえあれば、我が社は、いえ!私は潤うのよ!!』

 

「・・・私は、か」

 

『さぁ早くッ!!!あんなゴミはISを取ってからでいいわ!!まずはISを―――』

 

 

「・・・そうだな。精神の不安定な兵士など、戦場では不要だ。だが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――貴様はそれ以上に用済みなんだよ、ゴミ女。

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――へ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間。

スピーカー越しに激しい爆発音が聞こえ、あまりの轟音にノイズが響いてくる。向こうから聞こえる声も爆発音のせいか聞き取る事すらも出来ないほど近くだったようで、それが数秒ほど聞こえると砂嵐のような音を最後に、ノイズはピタリと止んだ。

画面には『通信強制切断』と表示され、それを確認するとラウラはふんっと鼻で息をした。

 

 

「・・・感情を処理できん奴は、ゴミだと知らんのか。阿婆擦れが」

 

 

 

『―――本社の爆発を確認。位置も予定通りです』

 

「・・・よし。仕上げにかかるぞ。スクルド(千冬)のほうはどうだ」

 

『現在、潜入したメンバーとの音信は不通。応答がありません』

 

「―――チッ、先にやられたか・・・だがまぁいい。奴は最低限の目的は果たせた―――」

 

『―――』

 

プレゼント(・・・・・)を起動させろ。奴らにトドメを刺す」

 

 

『――――――了解』

 

 

彼女は自分で自分の言葉に興奮を感じていた。

仕上げという言葉は、今の彼女にとっては最高の報酬。この上ない愉悦の快楽の元だった。

 

さぁ、最後の仕上げに取り掛かろう。

 

「お前の最期だ。イチカ。貴様という・・・障害のな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやっ・・・いやっ・・・いや、イチカぁっ!!!」

 

泣き叫びパニックに陥るシャルは、自分に抱かれる一夏の名を叫び続けていた。

死んでは駄目だ。生きてくれ。言葉には出来なかったが彼女はそう思い、必死に彼の身体を揺さぶっていたが、それが原因で彼の身体からは赤い鮮血が絞られるように落ちてくる。

呼吸は荒く、弱々しくなり身体は段々と冷たくなって意識を奪っていってしまう。

 

「お願い・・・しっかりしてッ・・・!!!」

 

だがそれでも今の彼女にはそれしかできない。それしか思いつかないほどに頭が混乱してしまっていたのだ。

大粒の涙を流し、血の気が引くような寒さを身体中に感じるがどうでもいい。

今は彼が、彼が無事であってほしい。生きていて欲しい。

何もかもがどうでもいいかのように、ただそのことだけを思い揺さぶるシャルだったが、それが余計に一夏の容態を悪化させていた。

頭を揺さぶられ、意識を奪うように血を絞り出されていく。

声を出そうとしても彼女に揺さぶられているので思うように力が入らない。

 

「――――。」

 

不味い。一夏の視界は、そういった感覚と共にぼやけていき意識も遠のいていた。

 

「お願い・・・お願いだよ・・・イチカぁ・・・」

 

自分が撃ってしまった。後悔が段々と頭の中に浮かび上がってくる。

自分が撃ったのだ。自分が彼を殺してしまったのだ。

自責の念が強くなっていく中、彼女はそれでもと必死に彼を揺さぶらせていた。

冷たく、人形の様にしているのは自分であると気づかずに。

 

 

『・・・・・・!?』

 

その時。Mk-Ⅳのソリトンレーダーに何か物体が反応する。

今まで気付けなかった事に驚きはしたが、問題はそこではない。

物体の大きさからして人のサイズではないのだ。熱量も大きい。何より、何かエンジン音が聞こえてくる。

 

『・・・まさか―――』

 

「・・・?」

 

 

聞こえてくるエンジン音にオタコンは覚えがあった。

特有の駆動音、強くなる風。浮いてくるのは恐らく―――

 

 

 

『ハインド・・・D・・・!!』

 

 

 

Mi-24D。通称、ハインドD型

ロシア(ソ連)が開発した、初の兵員輸送が可能な攻撃ヘリ。

長短様々なものがあるが、高い防御力と火力。そして兵員が輸送できるという長所から間も無く退役間近ながらも現役で活躍する機体だ。

 

 

「・・・目標を確認。これより攻撃開始します」

 

 

乗っているのは勿論、彼女の部下。

何処からどう現れたのか考える時間はない。

既にハインドの先端に装備されている機械砲が狙いを定めていたのだ。

 

「ッ・・・!!!」

 

『マズッ・・・!』

 

機関砲のターレットが回り、砲口からマズルフラッシュと共に砲弾が吐き出される。

毎秒何千という弾丸が雨のように発射され、瓦礫と破損のあった地面や観客席は一瞬で穴だらけになっていく。

 

本能的な危機察知が働いたシャルは一夏を抱えてフィールドと観客席との間に身を隠すが、そのセーフゾーン(安全圏)は二人が入るには全然足りない。一夏の身体を隠すことはできても、彼女の身体の一部はハインドが点灯させているライトの光に当たり影からもほぼ全身が見えている状態。つまり、殆ど身体は隠れきっていなかったのだ。

 

 

「ッ―――!!!」

 

このままではいずれは弾が当たり、雨の餌食となるのは目に見えている。今はそれまで運が味方してくれているだけだ。

それまでにどうにかしてこの場を切り抜けなければ。

意識的に考えてしまったシャルだが、冷静にもなれない彼女の頭の中は白く、何も考える事が出来ない状態だ。

パニックと突然の襲撃。混乱するのは当然のことだ。

 

『逃げろ!速くッ!!!』

 

「ッ・・・!?」

 

しかしそんな彼女に向かい、逃げろと叫ぶ声がする。

彼女達と一緒に隠れたMk-Ⅳが目の前に姿を現したのだ。

 

「きゃっ!!」

 

『このままじゃハインドの餌食だ!!僕がどうにかするから、君は速くッ・・・!!』

 

「・・・い、嫌ッ!!それだけは・・・!!」

 

『何を言っているんだッ!!?このままだったら君は死んで―――』

 

「死んでもいい!!!」

 

『ッ・・・!?』

 

 

 

「こんな事になったんなら・・・死んでしまった方がマシだよ!!!」

 

 

そもそもの原因は自分。それだけは確かだ。

混乱して真っ白になった頭の中に唯一浮かんでいた確かな事。

彼をこんな目にしてしまったのは他でもない、自分なんだと。

自責の念だけが強くなり、自殺願望だけが彼女の中で強まっていく。

理由はどうでもいい。彼を撃ったのは自分なんだ。責任()はとる必要がある。

 

 

『だっ・・・駄目だ!!死のうなんて考えちゃ―――』

 

次の瞬間。Mk-Ⅳとシャルの間に機関砲の弾が着弾する。

突然の着弾にMk-Ⅳは驚き、シャルも反射的に眼を閉じ死を覚悟した。そろそろ壁も使い物にならなくなってきただろう。先ほどから弾が掠る感覚を何度か感じた。

もうそろそろ限界だ。

 

『くそっ・・・!』

 

 

 

 

「機関砲ではラチがあかない・・・」

 

「・・・仕方ない。ミサイルを使う」

 

 

『機関砲が止まった・・・まさか!?』

 

対地ミサイル。ハインドに搭載された強力な武装で、この場で撃たれれば助かる見込みは絶対にない。

画面越しであっても伝わる危機感にオタコンは自分が安全であるというのに慌てた様子で叫んだ。

 

『逃げろッ!!今度は本当に助からないぞ!!!』

 

「えっ・・・!?」

 

『対地ミサイルだ!!当たれば君も彼も木っ端微塵に―――』

 

 

「動きが止まっている」

 

「よしっ・・・発射する―――」

 

ミサイル発射の用意は完了した。照準は合わされ、後は発射ボタンを押すだけだ。

そうすれば、後は彼女達の最期となり、このふざけた作戦は終わる―――

 

 

 

 

 

 

筈だった

 

 

 

 

《 ガクンッ 》

 

 

「ッ・・・」

 

「なんだ・・・?」

 

ボタンを押す直前。彼女達の乗るハインドは突如揺れ動いた。

何かが外れたかのように一瞬だが響いたその振動には、操縦席に座っていた二人が思わず顔を合わせるほど唐突な出来事で、何があったのかと思ってしまっていた。

そしてそれが、既に目に見えて分かることだと間を空けて知った。

 

「・・・ってオイ。操縦桿。降りてるぞ」

 

「・・・?何言ってるんだ、ずっと滞空させるようにしているぞ?」

 

「えっ・・・けど、いま私達・・・」

 

 

―――落ちているぞ?

 

 

その言葉に、二人は自分が何を言っているのか。彼女が何を言っているのか。それを漸く理解した。

飛んでいるはずの機体が落ちている。

プロペラの音も少しずつ弱々しくなっていく。

 

 

「・・・おち・・・てる?」

 

「えっ・・・なんで・・・?」

 

 

結論、彼女達の乗るハインドはプロペラ部が止まっていき浮力を失った機体は、そのまま重力に従って落ちていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な・・・ハインドが・・・」

 

 

『落ちていく・・・』

 

 

まるで内部が破壊されたかのように綺麗な状態で落ちていくハインドに、Mk-Ⅳたちは兎も角として、ラウラでさえも驚きを隠せずにいた。

彼女の目からも何も起こっていないのにハインドが急に落ちてしまったと思い見えていた。まるで時間をとめられて、その間にエンジン部に破壊工作でもされたかのようにだ。

だがそれにしても爆破された気配はなく、誰かが破壊工作を行ったという事自体、そもそも考えられなかった。

ハインドは今の今まで隠していたからだ。

 

「一体・・・」

 

 

やがて、ハインドはその巨体を地面へと叩きつけ機体内の精密機器や燃料に引火したのか、大爆発を起こした。

その前に乗っていた部下二人が脱出するのを確認したので一応は無事らしい。

だがそんな事よりも。彼女はどうしてハインドがああも簡単に落ちてしまったのかと疑問が頭から離れなかった。

まさか武器商人が、と思いはした。

が、それより先に答え方が現れたのだ。

 

 

 

 

「ヘリのプロペラ部は当たれば致命的。それだけであの巨体を飛ばしているんです。止まれば当然落ちていく・・・」

 

 

 

「ッ・・・!?」

 

 

 

「後はそこに当たるように風向きと風圧。そして距離とを計算し、感覚で調整すれば、はい簡単。正直、ブラックホークよりかは難しいですが、できないというわけではありませんし」

 

 

 

「―――馬鹿な・・・隙すら与えんかったのだぞ・・・」

 

 

 

「隙?いえ、大いに時間はありましたわ。私が助かるだろう確率と時間。それを貴方が読み間違えただけ。貴方が比較した相手が例内のものであっただけなんですから」

 

 

 

「例外・・・だとでもいうのか・・・」

 

 

 

「例外も例外。私達はいわば例外。そうでしょ?

 

 

 

 

―――ボーデヴィッヒさん」

 

 

 

きっと恐らく、彼女はこの学園のどこかに居る。それだけは確かだ。

だがそれをラウラは分からなかった。今まで一夏に気を逸らしていたせいで、慢心してしまったせいで、彼女が妨害に入ってくるなどと予想もできなかったのだ。

 

 

「貴様ぁ・・・」

 

 

 

「さて・・・それでは、反撃としゃれ込みましょう」

 

 

 

かつて使用されたスニーキングスーツを纏い、一丁の狙撃銃レミントンM700を持つ彼女はそういって、僅かだが焼け焦げてしまった金色の髪をなびかせていた。

 

 

 

 

「セシリア―――オルコット・・・!!!」

 

 

 

「―――ゲームセットにはまだ早いですわよ、一夏さん」

 

 

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