IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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やっと進めた、第四十二話です!

いよいよ長かったラウラ編も終わり。
あと数話ほどでAct.2も完結します!

いやぁ長かった長かった…
長すぎた所為でMGSVが発売されたよ……(遠い目)


ははは…PS4と一緒に欲しいなぁ……

カズを殴りたいなぁ…!

カズ「なんで俺!?」


という事で。

カズ「どういう事で!?」


第四十二話、お楽しみ下さい。


9/12 一部文章を修正しました。



No.42 「終演」

 

 

 

 

子供の頃。優劣を求められ、それに従い続けた。

 

常に優れよ

常に強かれ

 

呪詛のように言われ続けた言葉に抵抗感もなく従った。

 

それが正しいのだと、それが良い事なのだと

 

傍から見れば強要されるべきものではないのに、それが当たり前だと思ってしまう日々。

 

そして…

 

 

もし失敗したり、拒絶したときの絶望。

 

 

それを知ってしまったあの日

 

 

 

 

 

少女の道は変貌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が……がはっがはっ……」

 

 

「ふぅ…とり合えず一周したか?」

 

「ああ。まったく…いくら時間までならやっていいって言われたとしても、流石にこんな奴相手じゃ…なぁ?」

 

 

あの日。全てが変わった。

恐怖し、怯えた日々。

もし一度でも拒絶すればどうなるか、それを知ったあの日

全ての見方が変わってしまった。

 

周りの全てを敵と思え。誰も信じるな。

信じられるのは自分だけだ。

 

 

「あ……」

 

「別にいいだろ、ソレくらい。たかが相手がチビなだけだ。欲求には反しねぇだろ」

 

「…なんだけどなぁ……もうちょっとよぉ」

 

「ボヤくなよ。本国戻れば、好きなだけすりゃいいじゃねぇか」

 

 

そうして。やがて自分と他の者達との違いが生まれ始める。

見方、考え方、やり方。

殆どの者達が殆ど同じ方向を見ているはずなのに。彼女だけは違った。

彼女だけはただ独り。考え方も、生き方も。その全てが他の誰もと違っていった。

 

 

「かっ……?!」

 

「しないのか?なら、俺たちから始めるぜ」

 

「ああ。こっからは自由だ。適当に順番回しでしようぜ」

 

 

その所為か、彼女は独りとなった。

誰もが他者との触れ合いを始めたのに対し。彼女だけはただ独り。

誰も信じない所為で独りを選び続けてしまった。

 

誰も信じないことを、自分しか信じないことをしてしまった所為で

 

彼女は独り、奈落へと落とされてしまった。

 

 

「ッ………!!」

 

「ほんじゃ。行くぞ」

 

「おうよっ…っと」

 

 

ただ独りとなった所為で落とされた彼女は這い上がろうとしたが、そう簡単なものでもなく独りだった彼女は這い上がる事がままならなかった。

誰かに落とされ、誰かに阻まれ。誰かに恨まれ。誰かに押し付けられ。

 

 

「いやッ……!!」

 

「ッ……っしょっ!!」

 

「が…………ああ……」

 

 

そんな時。全てが変わった。

地の底を這っていた彼女に、救いの手として差し伸べられた手。

優しくも暖かい肌と温もり。

眩しい光が、彼女を再び舞い上がらせてくれた。

 

 

「っ……やっぱきっつ……」

 

「………ッ!!!!」

 

 

恩があった。感謝していた。

自分を再び舞い上がらせてくれたことに。自分を独りにしなかった事に。

たとえそれが傷の舐め合いだとしても。その時の彼女にはそれが最も喜ばしい事だった。

何度も何度も肌を摺り合った日々。

彼女が始めて、人としての幸福を手に入れた時。

彼女がやっと。独りから解放された瞬間。

 

 

時には上官として

時には人として

 

 

そして。時には姉や母のように

 

 

 

 

 

本心を語れば、唯の子供の我が侭だったのだ。

自分の光が遠ざかっていき、取られてしまったと喚いた結果

子供のように取り返したいと願い、憎んだ末

誰も信じず、ただ彼女だけを信じ、彼女だけが全てだと思った故。

 

 

彼女は、再び奈落へと落ちていってしまったのだ。

 

 

 

 

「ッ―――――」

 

「っ……おおお……」

 

「っ―――っ―――っ―――………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フン。小汚い小娘だ」

 

成す術なく弄ばれるラウラを見て一言そう吐き捨てるハンスは、いかにも醜悪な物が眼前にあるという顔の歪みようで目の前で行われている光景を眺めていた。

内心、彼は目の前の行いに隊員達を見下すような目で見ているのだが、それでは今この状況に何らかの支障がきたされる可能性がある。

そうとなっては彼が考えるこの後(・・・)の事に響いてしまうというのが実際の本心だ。

 

 

(小娘はあいつ等に任せて黙らせるのは良い。それも順調だからな。だが問題はこの後だ。連中がこの事を嗅ぎつければ軍部と国連での俺のポストが……いやだが、そのために周到に俺は後ろ盾を得たのだ。奴等の妨害がこないようにする為にな…)

 

これが千載一遇のチャンスと考えるハンスの表情は段々と口元を釣り上げ愉悦に浸った顔に変化していく。

 

(私の出世を邪魔した相手。考えられるのはキャンベル辺りだな。あのジジイは未だにくたばらんと聞くし、何より過去に何度も俺のことを邪魔してきた。

俺が立てた素晴らしい作戦も。提唱した軍備超増強計画も…全てアイツは水の泡に……!)

 

 

自己心酔に落ちているハンスはそんな彼を象徴する、彼の保身的な性格が見える記憶を自ら紐解き、それを活力として自分の邪魔をした者達への制裁を考え始める。

しかしそれは誰もが聞けば先ず顔をゆがめるだろう計画、もしくは理論ばかりで、少し先のことを考えれば全て共通するのは結果的に彼にとって有益となる事があると言う事。

つまり、自身の利益を最優先とした自己中心的な性格が他ならぬ彼の本性だ。

 

 

 

(私の立てた、アフリカ大陸への兵器輸出による資金確保も…それによって生じた軍備を使い、新型兵器開発やメタルギアの増産、米国内の民営化した警察組織への支給(売買)…全てあの男が…あの老いぼれがぁ………!)

 

 

 

 

「…ハンス中佐………中佐?」

 

「………ッ!な、なんだ」

 

自身の私怨の中へと浸ろうとしたとき、彼の事を呼びかけた通信兵が気に掛けた様子で顔を近づけ、その気配と声にようやく彼は自分が呼ばれていたことに気づき、気まずさを顔に見せつつ浮ついた声で反応する。

 

「…ヘリの件ですが、予定通りあと十分程度で到着すると……」

 

「……いいだろう。だが急がせろ。軍も派手に動けないのだからな時間も惜しい」

 

「はっ」

 

汗を表面に滲ませつつも冷静さを装うような顔で答えるハンスに、何かあったのかと首をかしげるが、率直に何かあったのかと尋ねることも難しいであろうし、遠まわしに何かあったのかと尋ねようにも素直に答えるような態度と性格ではない。

惜しくも聞けずじまいとなったが、通信兵はそれ以上の追及はせず、ただ一言そう答えただけで彼との会話を終えてしまった。

 

 

 

「まぁいい…作戦は順調なんだ。後は本国へとアレを連れ帰れば……」

 

焦りを見せていたハンスは冷静さを少しながら取り戻し、現在作戦が上手くいっているということを思い出して気を落ち着かせる。

作戦は順調。国連の使いも居るが、そう易々と自分たちが居る場所に入れることは出来ないはずだ。

何せ、今現在ハンスたちドイツ軍が居る場所は彼らが予想した場所、つまり倉庫街で、塵儀に彼はラウラが武器装備の取り引きの為に使用した倉庫を態々選び、そこで到着するだろう輸送ヘリを待っていたのだ。

ハンスは自分たちが今、民間企業の持っている倉庫街に居ると言う事でメリルたちが迂闊には手が出せず、更には独立した警備システムが彼らに味方しているという事でかなり気を抜いており同時に問題はないだろうという不確かな安心感に浸っていた。

 

 

「民間の企業が使用する倉庫…だがここを使っている企業はAT社だ。無理にでも入れば我々の息のかかった者が奴等を蹴散らしてくれるはず…守りは完璧だ……」

 

警備システムは独立し、専用のIDなどでないとシステムが視界に入った人間全てを敵と認識。警備システムが作動し、警察や軍。果ては無人機が数分以内に来るという仕掛けが施され、迂闊に入ればまず助かる事はない。

ハンスはそこに目をつけ、予めAT社に一部嘘を織り交ぜた事情を話し、彼らを味方につけた後堂々とこの倉庫を使っていたのだ。

 

「おい。今のウチにガキの様子を見て来い。瀕死の状態で動ける筈もないが、念のためだ」

 

「はっ」

 

「……そうだ。今のウチにガキを見張ってる奴等に連絡を………」

 

まだ先ほどの妄想と焦りで頭の中が混乱しているハンスは、浅い考えで自身が持つ通信機を取り出し、意識を失い瀕死状態であろう一夏を見張っている者達へと連絡を取ろうした。

本人の小心さがここで混乱を起こしてしまい、思考が安定せずに逃げ交渉のようなものを口走ってしまったのだろう。しかも、それが半ば自分でも考えていた事であれば余計にそちらへと考えは向いてしまう。

 

それが幸運だったのか、不幸だったのかはさておいて、だ。

 

「………あ?」

 

抜けたような声でハンスは通信機の画面を見て驚く。

通信機の画面はいつの間にか回線が開かれ、通信が行われている状態だったのだ。

それも通信相手は彼が今話していたばかりの一夏を見張っていた隊員たちからで、通信が始まって既に数分。丁度ラウラに対しての仕置きの最中に行われていたようだ。

 

 

 

 

 

「……おい。どうした」

 

向こうが間違えて通信の回線を開いたままだったのだろう。それかもしくはココでの事が気になって回線だけを開いていたか。

大方そんな辺りだろうと楽観的に考えていたハンスは、何事もないと自身へ言い聞かせながら通信機のスピーカーへと喋るが、その向こう側からは応答も返事も返ってこず、ただけ沈黙だけが流れていた。

 

 

「………あ?オイ、貴様ら聞こえているのか」

 

再度呼びかける。二度目になれば焦って応答するだろうと思っていたが、矢張り向こう側からの返事は返ってこない。

通信機から離れているのか。それとも単に自分のように聞こえてないのか。

いずれにしても、彼にとっては不満のほかにならないことだ。

 

「………。」

 

試しにと思ったハンスはスピーカーに向けて自身の耳を近づけ、向こう側で見張りが何をしているのかを知ろうかと思い近づける。

一センチないし、三ミリ。そして遂には耳をスピーカーに当てた状態で向こう側の音を聞き取ろうとする。

 

 

 

 

 

すると。向こう側からは小さく、静寂の中を唯一つの音だけが鳴り続けていた。

 

 

 

「―――――あ?」

 

小さく。リズムを乱さず。ただ規則正しく落ちていくその音。

水滴が地面に溜まった水溜りへと滴る音だけ。

その時になって彼ははじめて気づく。

 

返事が返ってくるはずがない、と。

 

 

「………………。」

 

 

 

恐怖心に駆られ、言葉を失い、身体を震わせた男は、恐る恐る倉庫の扉のほうへと顔を振り向かせる。

彼の保身的な感覚が、自身の身の守りを第一にした神経が、まるでその方向にも目があるかのように感じ取った気配が彼を振り向かせた。

 

嘘だ。そんな事あるはずがない。

現実を逃避するように思い続けるハンス。

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実と運は当に彼らを見放していた。

 

 

「ば、馬鹿……な―――」

 

 

暗闇の外だというのによく見えるのは何故だろう。

そんな事を脳裏で考え、現実から逃げようとしていた彼の目の前には。

 

 

一丁のM4カービンを構え、マガジンを扉へと引っ掛けるようにして

 

血に塗れた顔と腹を見せた青年が一人

 

怒りと信念に満ちた顔で、引き金を引いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

吼えるように、声にならないような叫びを上げて引き金を力の限り引き続けた。

 

意識は朦朧とし、身体へと入れる力のバラバラで撃ち続けるライフルを持つだけでも身体が水の様に芯まで震えてしまう。

それでも。

そんな状態でもただ一つ。彼はそれだけをするために、それだけでもしなければならないという脅迫概念に駆られ彼は一心に、ほぼ無意識に叫びと共に引き金を引き続け、目の前に居る敵という敵をなぎ払った。

 

瀕死の青年がただライフルを構え、乱射しただけだというのに。

勝利を確信し、心酔した彼らはその隙に付け込まれ、反撃する間も無く身体中に弾丸を埋め込まれ、絶命していく。

腕や腹。頭や眉間。こめかみに、首。そして心臓。

当たるところは人それぞれで当たった弾数もバラバラではある。

しかし殆ど無防備といえる状態からの奇襲という事で反応が間に合わず、中には銃を抜こうと手を伸ばしていた者も居たが、視界が歪んでいる彼の目にはどれも等しく自身の銃撃の前に倒れるだけにしか見えなかった。

 

 

 

「ッ!!」

 

その中でただ一人。ラウラも彼ら以上に無防備である状態でありかなり恐怖心に駆られていたのか赤子のように身体を小さくし頭だけを必死に守っていた。

最悪、自身も流れ弾に当たる。そして最悪は死ぬだろうと思っていた彼女に

 

 

「そのまま伏せてろ!!」

 

「………ッ!」

 

一言。彼がそう言って自身に命令したのを聞くと、有無も言わさず全身に力を入れて体を丸め、流れ弾が当たらない事を祈っていた。

やがて絶対に来るであろう弾切れまで自身が五体満足でとは行かないが生きているという事を信じ、誰でもない誰かに祈り、彼女は自身の最期を覚悟し、生きることを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朦朧とした意識

 

 

自身が生きているか死んでいるか分からない感覚

 

 

全身はまるで骨の芯だけが残ったかのように震え

 

 

身体の体温はあちら此方ぐちゃぐちゃに変温し

 

 

虚ろになった瞳の世界は何もかもが歪んで見えた。

 

 

 

「…………。」

 

 

 

もしかしたらこれが自分の最期なのかもしれない。

 

そんな事を軽々しく考え、それでもいいだろうとさえ思えてしまうほど頭の中は白く、そして何も無い様な無のように感じてしまう。

 

 

なれど。

その最期の瞬間が、あと少しで来ようとしていたとしても

これだけは最期にしておきたい。

これだけは、彼女に伝えたい。

 

その一心で彼は最後の力を振り絞り、今にも砂のように崩れそうな身体を持ち上げ、死者のように不安定な歩みで歩き始める。

 

 

「っ―――」

 

 

向かう先は唯一つ。

死屍累々とした赤く染まった地の中で、唯一澄んだ肌を見せる一人の少女の所。

まるで赤子のように、生まれた世界から目を背けるように丸くなっている少女のもとへと。

 

 

「―――――。」

 

 

意識が定まらず、視界は歪んで見えており、自身が真っ直ぐに歩いていることさえも分からない中、ふらつかせた足でその歩いた後に赤い鮮血を滴らせて道しるべにしたように、それを知らず、それを考えず。彼はただ一心に歩き、そして。

 

 

 

 

 

 

「………よう。生きてるか」

 

 

 

 

 

 

 

何事も無かったかのようにしゃがみこむと、彼は一言そう言葉を吐き、彼女へと訊ねた。

 

 

「………。」

 

 

それに対し小さく頷く少女を見て、彼は一言そうか、と答えると変わらず何事も無かったような態度で身体をふら付かせて立ち上がると本当にそれだけが目的だったかのように歩き去ろうとした。

が、それをズボンの裾を掴み、何処かへ行こうとするのを止めようとしている彼女に気づくと、重くなった首元を回し後ろへと振り返る。

 

「まって………」

 

「………。」

 

「そんな傷でどこにいくの……?」

 

「…………ッ」

 

 

澄んだ肌に僅かに差し込む月光とライトの光で照らされ、銀色の髪は一本一本が透明であるかのように広がる。

そして、赤い瞳はかつてのような濁った色でもない、涙によって潤った輝きのまま目の前にたつ彼の姿をしっかりと捉えていた。

 

この姿が、この在り方が、心の底に封印されていた彼女という本心なのだろう。

 

「………なんで」

 

「………。」

 

涙は溢れ、声は掠れ、視界は海に沈むかのごとく歪んでいく。

姿勢を保つ事が出来なくなった彼は引き込まれるように体勢を崩すと最後の力を失ったかのように地面へとへたり込む。

事実、彼にはもう体力の欠片も残っておらず全身が重々しく、視界が霞み始めていた。

自分でも何をしようとしているのか分からない。そう答える事も出来ず、僅かに気力と体力が残っていた彼女に引き込まれ、互いに定かではない意識での問答を始める。

 

今まで思い止まっていたことを、恨みつらみと共に話すべきことを彼女は大粒の涙と共に彼へと問いただした。

 

 

「なんで………ねぇ、なんで………」

 

「っ………」

 

 

「なんで……あの人を…………なんで………

 

 

 

 

 

なんであの人の前から居なくなったの!?

 

 

なんであの人から離れたの!?

 

 

なんで、あの人を拒絶したの!!?」

 

 

「………!」

 

 

「なんで……なんで!?ねぇ!!」

 

力の限り声を張り上げ、彼の服の裾を掴み問いただすラウラ。

残された全てを出し切り、守るものもない裸となった彼女は本心を曝け出し、ありのままといえる自分で彼へと必死に答えを聞く。

しかし既に相手がそれだけの体力が残っていないというのは見て明らかなこと。

目は虚ろになり、身体は段々と冷たく、軽くなっている。

それでも。

彼女はそれをどうしても聞きたかった。それは彼女が本心のみとなる前、彼に殺意を抱いていた頃から彼に問おうとしていた事だ。

それだけはどうしても彼女は知りたかった。

 

 

何故実の姉である彼女の前から姿を消したか

 

 

何故戻れると分かっていて戻らなかったか

 

 

何故、彼女との関係の全てを否定したか

 

 

それは、一夏が答えるべきことであり、同時に彼が答えようとしていた事だった。

引き込まれるように問いただされた一夏は、小さく口元を釣り上げるとそれを待っていたかのように重くなった口を開き、残された力で声を搾り出した。

 

 

 

 

 

「――――なんでだろうな」

 

 

「―――え」

 

 

 

「本当は…単なる強がり、だった……かもしれない…

 

 

けど…巻き込ませたくないって……気持ちも…ッ……あった…

 

 

それに……償って……欲しいって…思っても、いた……」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

「でも……やっぱ…………

 

 

 

守ってやりたかった」

 

 

 

「………え」

 

 

 

「いつも……守られて…ばっかで、もうっ……いやだった

 

 

でも…こうなったときに、お、れ、は………」

 

 

 

 

 

刹那。力尽きる一夏は風に吹かれた紙のように前のめりに倒れていく。

 

「ッ!!!」

 

既に限界に達し、姿勢を保つ事さえも出来なくなった身体が突然倒れていく姿に驚き、ラウラは彼を抱きこむように受け止め、これ以上彼が地面へと落ちていかないようにと支えの代わりになろうとする。

だが、受け止めた瞬間。ラウラは自分の目を疑い、同時に自身についても疑ってしまう。

 

これが本当に彼なのか。

いや、そもそも人なのか、と。

受け止めた存在が、本当に人であるのか。まるでそれを否定するかのように彼女に伸し掛かったはずの青年にラウラは思わず目で彼の全身を見てしまう。

確かに彼は人であり。彼であることには違いない。

だが問題はそこではない。

受け止めた彼が本当に人であるのかと、そう疑いたくなるような感覚と重みが彼女の全身には伸し掛かっていたのだ。

 

 

「冷たい……それに……血……!!」

 

鉄のように冷たい身体。

まるで彼の身体の中身が空っぽであるかのような軽さ。

そして。未だ出血し続けている血の塊。

彼は現在進行形で死に向かっていたのだ。

 

「お……おい!!起きろ!!しっかりしてくれ!!」

 

「……………。」

 

「………ッ!!!な、何か止血するもの……!!」

 

そう言って彼の身の回りに止血するものがないかと思い探してみるが、彼の持ち物は全て軍の車両の中で没収されており、唯一彼の持ち物と言えるのはガントレットの状態であるISただひとつだった。

それを知らないラウラは彼のポケットなどを漁っていくが目ぼしいものが無く、止血しようにもどんどん出血していくのを目の当たりにして思考が散漫に、混乱した状態へと陥っていってしまう。

何もないのならせめて彼が着ている制服をと言うべきところなのだろうが、焦りで混乱した彼女にはそこまで考えることもできず第一、仮に分かったとしても彼女にそこまでの力が残っているのかどうかが怪しいものだった。

 

 

「ない……ないの……!?」

 

流れ出る血に焦りが強くなり頭の中が段々と混乱していく。

さっきまで殺し合いをしていた相手なのに、その彼が死に瀕しているというだけでココまで焦る理由は何故だ。

別にこのまま出血多量で殺せばいいのではないか。

本来の自分なら。今までの自分なら迷い無くそう言っていたはずだ。

なのに彼女は今。その相手に対し、生かそうと必死に頭を働かせている。

実に可笑しい事なのだろう。実に可笑しいはずだ。

自分は間違いなく、彼を殺そうと思っていたはずなのにその逆を行っているのだから。

 

「……血……どうやって止まる………とまら…ない……!!」

 

最後のあがきとしてか、ラウラは出血が起こっている場所に対し両手で無理矢理押さえ込み手による止血を試みる。

もうなりふり構っていられない。真っ白になった頭の中で最後の足掻きのように一夏を地面へと寝かせ、両手で血のたまり場である出血個所へと手を合わせて押さえ込む。

 

 

「たのむ……止まれ…!」

 

何を考えてやっているのか。自分が何をしているのかでさえ分からないラウラはそれでも一心、彼の止血の為に溢れ出る血を押さえ込もうとする。

自分の手が赤く汚れ血に染まっていくのが分かるが、それだけ出血が止まらないという事。彼女の焦りは未だに増え続け、血が出るほど彼女は強く押さえ込む。

しかし無理に押さえ込めばそれだけ中から血が圧迫されて出血が増えてしまう。

それを混乱した頭の中で冷静に考えられない彼女は、自身が更に状態を悪化させている事に気づかず彼の身体を押さえつけていた。

 

「………ッ……だめ……とまら、ない……!」

 

自分が彼の容態を悪化させていると言う事に気づかずに続けていたラウラは次第に顔を青ざめさせていき更に頭の中が混乱していってしまう。

このままでは彼は死んでしまう。

そう考えたとき、彼女は心の中で断言した。

それだけは駄目だと。

 

「っ…しっかりして……おいッ!!」

 

止血が無駄と分かった以上、それを続けることには意味はない。

せめて意識だけはと思い、顔を叩くが意識がハッキリとせず状態が悪化しているからか反応はなく、更には呼吸でさえも彼女の耳からは聞き取れなかった。

 

「おねがい……しっかり、してくれ………!」

 

段々と冷たくなっていく身体。反応しない意識。止まらない血。

それだけで彼女の焦りは加速していき、もうどうすることも出来ないのかと遂には泣き出してしまいそうな顔になる。

自身の所為なのは確かなのだろう。だが、それでも今は彼を生かしたい一心に呼びかけようとする。

 

「たのむ……もう………!」

 

 

もう……

なんだろうか。自分でさえもその言葉の続きが分からなくなったラウラは自分でも理由の分からない事を言い出してしまい、諦めたくても諦められない。そういった思いのまま彼の出血した場所へと顔を近づけて涙を流してしまう。

もう自分でも何をしているのか。何を考えているのか分からない状況で遂には泣き出してしまう始末。

自分でももうこれから何をしでかすか分からない中

 

 

彼女は最後にひとつ。

自身である事をしようと思った。

 

 

 

「ゆるして、くれる………?」

 

 

 

それが自身での事か。それとも無意識でか。

この時の彼女にはそれすら分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不確かな意識

朦朧とした感覚

 

身体中の感覚はほとんどが途切れ途切れの状態で、分かっているのは自身が地面に身体をつけていると言う事ぐらいだった。

時間でさえも分からない状態の中、地面につけられた身体が沈んでいくかのように思えるが、それと同時に気が遠くなるのが感じられた。

これが自分の最期か。そう思った時だ。

 

石のように固まった身体に落ちた冷たい何か

 

分厚く向こうの声さえも聞こえないような扉の向こうから聞こえる。そんな感覚。

 

そして。僅かに感じられた暖かな温もりに

 

 

一夏はただそれを辿るように手を伸ばした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イチカッ…!」

 

「あ…!」

 

深夜の闇の中を唯一光る明かりを辿ってようやく着いたスネークたちは、直ぐに扉から中に入ると、其処に広がった光景に言葉を失うと共にその中心に倒れる二人の姿に思わず声を上げた。

後を追ってマドカも入ると扉の向こう側に居るメリルたちに向かいこっちだと声を掛け、彼女達を呼び込んだ。

 

「っ…これは……」

 

「全員……まさか…」

 

 

 

「………ッ!」

 

早歩きで近づいたスネークは死体の地の中で眠るように倒れている二人のもとへと寄って行くと、二人が無事なのかと確かめるために首筋へとそっと手を置いた。

 

『二人は……!?』

 

「………。」

 

神経を研ぎ澄まし、二人の首筋が脈打っているかを確かめるスネーク。

左手で少女。右手で少年へと手を置くが、二人とも弱々しい。特にそれは少年に言えることで一度は覚悟を決めた彼だったが、僅かに伝わった振動に確信を持った。

 

「スネーク……!」

 

 

「……メリル。今すぐ救急車を手配しろ。それと救護セットを。まだ生きている……!」

 

 

「っ!分かった、エド。ハンヴィーから救護セット。ジョニーは救急車。番号間違えないで」

 

「了解」

 

「あ、はいッ!!」

 

スネークの言葉に表情を明るくしたメリルはそれに浸り続けないようにと直ぐに二人に命じ行動を起こさせる。

それはメリルも同じで彼女は二人に命じると一人残ったジョナサンにそこ等中に倒れている死体について調査させ、その結果を彼に尋ねた。

 

「ジョナサン、どう?」

 

「……全員ダメですね。急所は外れてもそれ以外に当たった場所があってそこからの出血多量、もしくは直撃でやられてます」

 

「中佐も?」

 

「間近でチョッキも着てなかったんです。生きてるほうが奇跡ですよ」

 

「そう…」

 

 

 

 

『生きてるのが奇跡……か』

 

「ああ。まさに…この事だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで…兄妹だな」

 

『……かも、しれないね』

 

そういって軽く笑ったスネークの前には血溜まりに浸りながらも手を握る二人の姿が映り、それを美しくも辛いような目で、その一枚の絵になるような光景を見続けていた。

 

 

 

 

それから十分と経たずだろうか。

AT社に許可を貰った警察と救急がなだれのように到着し、一夏たち二人をそれぞれ救急車両に入れ簡易的ではあるが瀕死の一夏に対し治療を行うと、ひとまず一命を取り留めるところまで持ち直したということをスネークたちに伝え救急車の中へと姿を消していった。

 

「腕のいい医者が乗っていて幸いしたな」

 

『ああ。とり合えず持ち直したっていうんだからホッとしたよ…』

 

「だがあくまで一命をだ。アイツにとってはこれからが勝負だ」

 

『………これ、何度目だっけ……』

 

「さぁな。それに。今回は仕方のないことだ」

 

スネークがオタコンに言い返すともう一台の救急車へと目を向ける。

彼の向けた目の先にはもう一台の救急車の中で一枚の毛布に包まる少女の姿があった。

縮こまった様子で口を開かずに首を振るだけで答えているようだが、そんな光景を見て彼の相棒は不思議そうな様子でぼやいていた。

今、彼の目の先に居る彼女はほんの数時間前までは殺意と敵対心をむき出しにしていたのだ。

 

『……あれが、彼女の本当の姿なんだね』

 

「……だろうな」

 

頷いて答えるスネークにオタコンは未だ信じられないといった様子だったが、スネークにとってはつい最近にも見たことのある様な感覚、懐かしさが感じられた。

その筈なのは当然だ。

つい二年前、彼は彼女に近しき者達と戦った(・・・)

戦争の被害者であり、その所為で殻に閉じこもってしまった者達。

しかし。本心は非常に脆く、その原因たるトラウマが彼女達を殺戮へと駆り立てた。

 

 

それをドレビンはこう称していた。

『BB部隊』と

 

 

 

「…彼女もBBたちと同じなんだろう」

 

『戦争の被害者でって事?』

 

「いや。何かのトラウマが、過去の原因が切っ掛けとなり彼女達を狂気へと駆り立てた」

 

『……気づいていたのかい』

 

「肌を見た時、青たんや痣のあとが残っていた。見た目は色白だがアレはおそらく…」

 

『それが…彼女を殻に閉じ込めるもう一つの理由、か』

 

「近しい人間はもう一人アイツ(一夏)が見つけているが、こっちも酷いものだ」

 

 

戦争の被害者である子供たちを過去に何度も見てきたスネークたちだが、その中でも今回の彼女たち(・・)は特別酷いものと思えた。

なにせ、間接的であるとはいえ自分たちも少なからず関わりがある原因があるのだ。

それが今回、後回しにしてきた罰として彼らの前に現れた。

それを思うと、スネークは暗く俯いた顔でぽつりと呟いたのだ。

 

 

 

「…俺たちは、一体何のために…愛国者達を倒したんだろうな」

 

『………。』

 

 

 

そして。その言葉はオタコンにも刺さり、彼は不意に自分で言った台詞を思い出した。

 

――僕らは何をなくして、何を護ったんだろう

 

少なくとも、あの時その言葉を言った時には感じられた感覚が、今は冷たいものに思えてしまう。

そう思うと、ハルはただ黙りこんでしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ええ。あとは全てそちらで。ですがその後はこちらに引き渡してください」

 

「はい、了解しました」

 

メリルは現場に到着した警察官と話を付け、一旦はドイツ軍の遺体を日本に預けると共に後にドイツへと引き渡すように指示する。

別段、日本に渡す意味などないのだが、それにはしっかりと理由があり更には色々と情報操作もされるがとり合えずは正式に今回の事件について発表する事になった。

今回の事件がただの事故で隠すという事が出来なくなったので、それによる苦渋の決断ということらしい。

警察官や警部たちはまだ少し不服であるという顔をしていたが、それでも今回この事件が一応の形で幕引きしたと言うことに安堵していた。

 

「……ふう」

 

「メリル。中佐の情報、向こうに開示していいの?」

 

「ああ。今回の一件、色々と絡まってたけど。今回はそれでドイツ政府が手を打ったらしいわ。条件として今回のハンスたちのことを正式に表に出すってね」

 

「え?!けど、彼って…」

 

ジョニーに対し人差し指を立てて制したメリルは自慢げな顔で彼に話し、今回の事件の後始末について説明する。

 

「ええ。無論、国連の関係者であることも諸々。ただ彼女、ラウラたちについては完全に闇に葬るっていう事も付いて、だけど」

 

「……一体どういうこと?」

 

「詳しい事は後で。今は用件だけ済ませて帰るわよ。ココにアタシ達が居るってだけで気まずいんだから」

 

「スネークたちは?」

 

「彼は勝手に帰るわよ。一応、書類上私たちと彼らとは無関係だし」

 

「あ、ああ…」

 

話についていけない、というより話の意味が分からないという顔をするジョニーは首をかしげて疑問符を頭に浮かばせていたまま彼女の後を付いて行こうとする。

しかし、その直後メリルは数歩程度歩いただけでまた直ぐに足を止めてしまい、何があったのかと彼女の後ろ隣につくと同じ方向へと顔を向けた。

目を向けた先に映る光景を見た彼は納得した顔で同じように眺めていた。

 

「………。」

 

二人が見つめている先にはスネークと同じくラウラが乗る救急車が止まっているが、先ほどと違い既に後部の扉は閉じられている。

ある程度の話なども済んだようで、彼女も一応ながら病院に送られるらしい。

ただ。彼女の場合は今回の一件の事もあると言う事で何人かの警察官かSPかが随伴していくのだとかで救急車の近くではその随伴する警察官たちが打ち合わせか何かなのか会話をしている。

だがメリルが眺めていたのは当然彼らではない。彼女が見ていたのはその手前。

自分たちと同じく、彼女が居る救急車を見つめる一人の女性の姿。

 

「彼女、来てたんだ」

 

「元々直ぐに警察に引き渡される予定だったんだけど、彼女がどうしてもって言って武装解除したのちにね」

 

 

激戦区となった高速道路で全員確保されたクラリッサたち。結局は今回の一件での彼女達の処分について明確にわかるまでは日本の警察に引き渡されるという事になってているが、それも数時間で終わることだろうとメリルは言う。

ドイツにも事情があり、今回の彼女達への処遇についてはどうやらハンスたちよりも急いで行わなければいけないらしいく、それだけ彼女達の待遇や存在が表に出されてはいけない物だというのが分かる。

それだけ、向こうも非合法を行っている。それを察した者達の顔はなんとも言えない顔だった。

 

「…会えるの?」

 

「無理でしょうね。本人(ラウラ)が会うのを許可しない限りは」

 

「じゃあ…」

 

 

 

「………。」

 

閉じられた救急車両を見つめるクラリッサの顔は彼女をドイツ軍へと渡した時のような悲しげな表情ではなく、これが正しいのだという表れか無情に近しい顔になっていた。

これでいい。これで彼女は。

そうやって思えば正しいと聞こえるのだろうがそれでも彼女の内心では全て受け入れた、とは思っておらず当然の事ながら罪悪感を感じていた。

彼女をこうしてしまったのは、他でもない。自分なのだ、と。

そして。彼女の目の前でようやく話が終わった警部たちが近くに停めていた車に乗り込むと救急車がそれを合図にとサイレンを鳴らしエンジンを振るわせて煙を吐く。

 

「………!」

 

救急車がクリープ現象で動き始めると、それに連なり警部達が乗る車もついていくように動き出す。

さてもう行くか、などと言うように場から離れようとする彼らを見てクラリッサは「まだ」と思わず声を上げるような顔で口を開き、手を伸ばした。

しかし。

 

 

「そこまでです。大尉さん」

 

「ッ…!?」

 

彼女と車との間を遮るように一本の扇子が振り落とされ、手を伸ばしたクラリッサを行かせまいとする。

突然遮った扇子に驚きはしたが、クラリッサはその直後再度驚くことになる。

 

「貴様ッ……!」

 

「あら。私が今頃は病院で大人しく寝ているとでも思ってたんですか?」

 

「ッ………」

 

 

歪んだ顔の先には平時と変化のない「してやったり」という顔をした水色の髪を海風に揺らす少女。

更識楯無が一人扇子を口元に当てて立っていたのだ。

 

「なぜ…お前がここに…!?」

 

「さて。病院ついでに騒ぎがあると思って来たらこうなっていた…とだけ言っておきましょうか」

 

「なら何故、そうも平然としている…!?」

 

「それは秘密です。ですが、今はまだ完治していないとだけ言っておきましょうか」

 

「ッ……」

 

「ああ。ちなみに許可は取っていますよ?こう見えて…私が顔が利きますから」

 

扇子を振るい「徳高望重」と書かれた面を出すと口元を覆い隠し猫のように目を細める。

その言葉は正しいのだろう。現にこうして楯無が平然としているのにも関わらず誰一人として彼女に注意するか、つまみ出そうとする者が居ない。

まるで彼女が居るのが当たり前。もしくは彼女が居ないかのような振る舞いで彼らは平然と役割を果たしこなしている。

不自然とも言えるその空気に圧されたクラリッサは何も言い返すことも出来ず、ただそれが当たり前という雰囲気に押し潰されていった。

 

「そ・れ・よ・り。貴方こそ、こんなところに居ていいのですか?今や罪人である貴方が」

 

「ッ……」

 

「幾ら今回の一件で貴方達の存在が闇に葬られたとはいえ…今回の貴方への罪が消えたというわけではない。ドイツ政府から話は聞いていると思いますが?」

 

「それは…」

 

「いくら自分たちを無罪と主張するためとは言え自身の隊長を売り…あまつさえ向こうには出汁に使われた。恐らく、向こうはハナから貴方達との約束事を守る気など欠片もなかったでしょうね」

 

「―――。」

 

「罪状はテロへの加担、そして上官への反逆行為。いくら彼女が罪の塊で罰を喰らうとは言え仮にも彼女は貴方達の隊長。そうなる可能性は十分にあるはずです。

そして国家反逆罪…貴方達が脅しだ何だで関わったと言ってもそれだけは絶対に変わらない…最後まで貴方達はそこに居合わせた。そこで行動していたのですから」

 

「だが…」

 

言い返そうするが正論であるのには変わりない。

せめてなにか言い返す言葉がないかと頭を働かせる彼女だが、そんな都合のいい言葉は見つからず無言のような言葉は喉の奥に詰まってしまう。

やがて言葉だったはずのものは喉へと息と共に押し戻され、クラリッサの心は楯無の正論を受け入れた。

 

「…いずれにしても貴方たちが無罪放免で助かる。なんて事はこの事件に関わったときからもう無かったと分かっていた筈です。

それでも最後まで加担していた理由は…」

 

 

 

しかし。その先を楯無は言おうとせず、目を見上げて彼女を見るや先の言葉を言いかけた辺りで口を閉じ今度は口元を釣り上げた顔で微笑みを見せて言うはずであった言葉を換えた。

 

 

「……まぁ。ここでいうのは野暮ですから。語るのはいずれか…心内にしておきましょう」

 

「………。」

 

「どの道、貴方も罪を逃れるというのはできないこと。いくら貴方が同じく罪を被るといっても…それもまた然り。

彼女の罪は貴方とは比べ物にはならないのですから」

 

「――――しかし」

 

 

「………言い訳なら彼女の前か貴方たちの上官に言いなさい。尤も、貴方たちの親が生きてるがどうかし怪しいですが」

 

楯無の口から出た言葉に心へ刺さったクラリッサは苦痛に歪んだ顔で歯を強くかみ締め、語られた事実を受け入れるように拳を強く握り締めた。

握った手が爪に肉を抉られて赤い血が滴るまで。そしてその場から離れ、自身が行くべき場所へと向かうまで。

自責と自虐。

そしてこれでよかったのだという納得の中をただ彼女は声に出さず握り締めていた。

 

 

「………。」

 

それでも。と先のない言葉を延々と手に握り締めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件の終着点から少し離れた場。

大手の車の販売会社が新車を海外へと輸出したり逆に海外から輸入する為に使う大型の駐車場。普通ならそこにはその会社の商品や輸入された物だけが置かれているはずだが、そこにある車とは違う、車種が一台、周りに止まっている車を隠れ蓑にするように止まっており、中には更に不釣合いな少女が三人。

帰ってくるだろう誰かを待っていたのだ。

 

 

「………ふぁっ」

 

眠たげな顔で欠伸をした運転手は前のめりにハンドルにもたれ掛かり、待ち人を待ち続ける。しかし、その待ち人は一時間経っても戻ってこないという事で約束よりも長いじゃないか、と文句を考えつつも主の命令で発進出来ない事に不満を持って居た。

無論、主も気持ちは似たり寄ったりであるがそれにしては一時間は早過ぎると考えている。彼女にとって、一時間待つというのは別に苦とも思えるようなことではなかったのだ。

自身の得物の特性上。長時間待つ、長時間狙う、などというのはザラな事。そんな事で一々キレていては狙撃手の名が泣く。

 

 

「………。」

 

が。矢張り、彼女も早いほうがいいのだろう。

苛立ち代わりに新しく使うことになった銃を弄り、マガジンに問題がないと分かると一気に押し込み、銃をスライド。ロックを外す。

 

「………はぁ」

 

そんな姿をみて何度目だろう。

溜息と共に考える運転手ことアリスは、だらけた目で主であるセシリアの銃いじりの姿を見て思う。

そして。我慢できなくなった彼女はぼやくように口を重く開いた。

 

「………戻ってきませんね」

 

「…ええ」

 

「………。」

 

それで終わりか。

呆気なさに悲しく感じるがそれ以上にそれでいいのかという疑問も生じる。

彼女が我慢強いのは知っているが、いくら彼女でも限度というものがある。

約束していた時間はとうに過ぎ、デジタル時計もそろそろ夜明けの時間を刺していた。

ここでいうのは難だがと主に対して思う事でもいう事でもないがアリスは素になってセシリアへと進言した。

 

「……もう行きましょうよ。お嬢。いくらあの人でも体力ともありますし…第一……」

 

「私達が捕まると?」

 

「………。」

 

「あり得なくもないですが、それでは向こうのプラスにはならない。第一、本人もまだ平然としてましたし生きて帰って来るでしょうに」

 

「その確立が低いから行きましょうって言ったんですけど……はぁ……もう夜明けですね」

 

「ええ。夜明けよ。だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

化け狐遊びはここまでとしましょうか。更識さん」

 

「え…?」

 

 

刹那。セシリアの言葉に一瞬思考が停止したアリスはセシリアの側に停まっている車へと目を向けた。すると、その車の上には楯無が平然とした顔で座り込んでいたのだ。

勿論。変わらずの笑顔を振りまき、狐のように細い目で自分を見ずにいうセシリアをしっかりと捉えながら。

 

「そうね。狐の遊びもこれで終わり。ココからは、もう普通の(更識楯無)よ」

 

「……はて。何時からのことをいうのやら」

 

「ふふっ。さてと…」

 

バタンと後部座席のドアを開けると年寄りくさい声と共に車内へと堂々と入る彼女は、座席に腰を落ち着けると…

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ。病院まで」

 

「な事だと思ったわチクショー!!」

 

と汗をたらしながら笑顔でいう彼女にアリスがツッコミを入れたのだった。

 

「ったく…お嬢、どうします?」

 

「言うとおりにしなさい。それに、私達も目的地は病院です。なにせこの車には二人の死に損ないがいるのですから。

 

 

 

ねぇ、シャルロットさん?」

 

 

「………。」

 

 

「……承知しました。では、病院へと直行します」

 

無言のままの少女の返答に暗黙の了解を感じたアリスは、やれやれと漏らすと冷え切っていたエンジンを動かすためキーをまわした。

目的地は近くにあるという総合病院。

そこへと一直線に向かうため、少女達を乗せた車は人無き駐車場をあとにしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は五時。

そろそろ、夜が終わる。

 

 

 

 

「………日が昇る」

 

窓から照らす光と、吹き込む海風を一杯に吸い込むセシリアは嬉しくも悲しげな物言いで見つめる。

 

上り来る朝日は一人の少女が起こした劇場の役者全てへと降り注ぎ、その中には彼も当然ながら紛れていた。

見えるはずの無い朝日。しかし不思議と彼には見えていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ、さひ」

 

 

 

 

ただ一言。少年はそういうと再び意識を海へと落とし、深い眠りについた。

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